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2011-01-26up

スタッフYが、沖縄・高江に行ってきました。

撮影/細谷忠彦

 先週末、沖縄本島北部の国頭郡東村にある高江に行ってきました。ヘリパッド建設をめぐる高江の問題については、これまでマガジン9でもお伝えしてきましたが、
http://www.magazine9.jp/realpeace/04/index1.php
http://www.magazine9.jp/realpeace/04/index2.php

 昨年12月に沖縄防衛局が約10ヵ月ぶりに工事を再開したり、その翌日には米軍ヘリによって地元住民が座り込みをするテントが被害を受けたりするなど、昨年末から緊迫した状況が続いています。今月11日早朝にも、沖縄防衛局が派遣した作業員によって測量や整地作業が行なわれました。

地元住民を押し退けるために
突然建てられた「仮設フェンス」

 1月21日午後、ヘリパッド建設に反対する地元住民が座り込みを続けるテントを訪ねると、「ご苦労様」の声と共に迎えてくれました。昼間は仕事がある地元住民に代わり、支援者の方たちが座り込みをしているのだといいます。そのなかの1人で、昨年12月から約1ヵ月間、この場所でテントと車の中での生活を続ける沖縄平和運動センターの山城博治事務局長は、「やっぱり、人間は布団の上で寝ないと、疲れがとれないんですよね」と苦笑いしながらも、ここ1ヵ月間の高江をめぐる状況について説明してくれました。

 昨年12月22日の早朝、沖縄防衛局は100人近くの作業員を動員して、ヘリパッド建設予定地の近くに高さ約2メートルの仮設フェンスを設置。住民が通れなくしたうえで、工事用の重機や砂利を搬入したといいます。沖縄防衛局の“だまし討ち”の行為はもちろん許せるものではありませんが、山城さんたちがさらに問題にしているのは仮設フェンスの設置場所でした。

「仮設フェンスが設置されたのは県道です。県の許可もないのに国が勝手にフェンスを設置するなんて、法律違反もいいところですよ」

内側から見た仮設フェンス前の山城さん。右後ろの木の山は、防衛局職員らが入れなくするために積み上げられたもの。

 私はちょうど2年前にも高江を訪れました。そのときは、ヘリパッド建設予定地と一般道を隔てる金網があるところまで自由に歩いて行けましたが、今では、その数十メートル手前に、県道を遮断するような形で仮設フェンスが設置されています。地元住民をとにかくヘリパッド建設予定地から遠ざけようとするための仮設フェンスなのでしょうか。
 ただし、この仮設フェンスの設置は、一方では「意外な効果」をもたらしました。

 「設置された仮設フェンスには、防衛局の職員や建設作業員が出入りするドアや、人がやっと通れるぐらいの狭い隙間があるのですが、私たちはそこの前にバリケード代わりの車と木の束を置きました。それらをどかさないと中には入れません。だから防衛局の職員も建設作業員も、仮設フェンスを作ったことで、結果的には自分たちが現場に入りにくくなってしまったんですよ(笑)」(山城さん)

 実際、私も案内してもらって仮設フェンスの内側に入ってみましたが、山城さんたちが塞いだ場所以外では、テント裏側の狭いスペースを通るのが仮設フェンス内に入る近道。でも、テント裏のそのスペースは、大人一人がやっと歩ける程度の数十センチの幅しかなく、そのすぐ横は深さ10メートル以上あるかと思われる谷です。ここを大勢の作業員が通るのはとても無理。沖縄防衛局も、自分たちが強行して仮設フェンスを設置したことが、こんな結果になるとは思いもしなかったことでしょう。

表面上は「進展なし」に見えても、
危機が強まる高江

 私が沖縄を訪れた20日には北澤俊美防衛大臣が、高江を訪れた21日には枝野幸男内閣官房長官(兼沖縄・北方担当相)が、それぞれ来沖。今週のマガジン9の岡留さんのコラムでも指摘されていますが、「辺野古新基地建設を計画通りに進める」代わりに「沖縄の基地負担軽減を図り、県民の理解を求めたい」と言う政府首脳に対して、「(県知事選で)日米合意の見直しと県外移設を県民に約束した」と仲井真知事が応える、いつもの「すれ違いのセレモニー」が繰り返されました。

 そのため、今回の政府首脳の来沖は、普天間や辺野古をはじめとする沖縄の基地問題については事実上「進展なし」のように報じるメディアもありますが、前出の山城さんは「特に高江に関して危機が強まっている」と言います。

辺野古ビーチの米軍基地と一般の用地を隔てる境界線。写真左側が米軍基地側。

 「政府首脳は今回沖縄に来て、沖縄の負担軽減を盛んに言っています。でも、SACO合意(注)による負担軽減案のうちの一つが、沖縄北部訓練場の半分以上を返還する代わりに高江地域周辺に新たなヘリパッドをつくることです。今回沖縄を訪れた政府首脳は、SACO合意の遂行をやたらと言っていますが、それは、裏を返せば高江のヘリパッド建設を進めるということなんです」

(注)SACO合意 在日米軍基地の約74%が集中する沖縄県の負担を軽減するために、基地や施設の返還、訓練の移転や騒音軽減などについて、日米政府が1996年に合意した「沖縄施設・区域特別行動委員会」最終報告のこと。合意内容が実現すれば、県内米軍基地の約21%が削減されるが、今でもほとんど実現していない。

 そして、「北部訓練場の一部返還=高江のヘリパッド建設」を「負担軽減」の一環としてアピールしたうえで、政府は辺野古への基地建設へとつなげるのではないか、とも言います。
 山城さんは「(政府首脳が沖縄から帰ったあとの)週明けに高江で作業が始まるのではないか」と警戒していましたが、幸いにも今のところ動きはないようです……
と、原稿締め切りの昨日(1/25)の段階で書きましたが何と本日、大きな動きがありました。詳しくはこちらをご覧ください。

次々に来沖した菅政権の閣僚のうち
辺野古や高江を訪れたのは……

 高江から那覇市内に戻る途中、私は辺野古に寄りました。基地建設反対を訴える人たちが座り込みを続けるテントの入り口には、座り込みを始めてからの日数「2468日」と書かれた札がかけられています。ちょうど私が着いたとき、東京から観光客の一団30人ほどがテントを訪れていました。座り込みを続ける団体の方が、辺野古についての状況を説明していたのですが、最後に言った一言が印象的でした。

テント前で辺野古をめぐる状況について説明を聞く人たち。

 「基地建設を押し進めようとした自公政権もダメですが、民主党政権はもっとダメ。自公政権は私たちにぶつかってきましたが、民主政権は、ここにも来ないし、何も言ってきません」

 今年に入ってから、菅総理を筆頭に次々と閣僚が沖縄を訪れていますが、基地建設に反対する稲嶺進名護市長に会いに来ることも、辺野古の海を見に来ることもありませんでした。

 21日に沖縄入りした枝野官房長官は、普天間視察や仲井真知事との会談のほか、平和祈念公園も訪れましたが、辺野古には寄ることもなく、そそくさと帰京。23日夕方、私はテレビの大相撲中継を見ていたのですが、表彰式の際、内閣総理大臣杯のトロフィーを菅首相の代理として横綱白鵬に渡す枝野氏の姿が映し出されました。官房長官の沖縄訪問日程が強行軍になった理由の一つが、これだったとは思いたくはありませんが……。

 辺野古の海岸には米軍基地と一般の用地を隔てるために設置された有刺鉄線があり、全国から集まった人たちによる基地反対のメッセージが書かれた布などが巻きつけられています。一時期、それらのメッセージ等が全て撤去されたと聞きましたが、今回訪れてみると、以前のようにたくさんのメッセージが巻きつけられていました。

米軍基地「キャンプシュワブ」と一般の土地を隔てる有刺鉄線。向こう側が米軍基地。

 その有刺鉄線の向こう側では、建設作業員が重機を使って整地作業をしています。その姿を見ていると、高江で聞いた山城さんのある話が思い出されました。

 「ヘリパッド建設のために基地内で作業するのは地元の建設会社の従業員です。当然、私たちも知った顔がたくさんいます。反対する私たちの前で、彼らは目を伏せて工事現場に入っていきます。でも、工事を強行する国や作業を請け負う会社が悪いだけであって、私たちは末端で働く彼らを恨む気はないんですよ」

 辺野古でも、基地建設の推進・反対をめぐって地元の人たちが対立する構造があります。基地や安全保障の問題に関しては、ともすると国家レベルの話題が語られがちです。
 今回、ほんの短い時間でしたが、高江と辺野古を訪れたことで、基地問題を考える際には、米軍基地という存在が引き起こす地元住民の対立についても常に心に留め置く必要があることを改めて思い知らされました。

重機によって整地作業が行なわれていた。

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