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2012-04-11up

小田原発!「エネ経会議」経済もエネルギーも、中央集権型システムからの転換が求められています。

鈴木悌介(すずき・ていすけ)1955年、神奈川県小田原市の鈴廣かまぼこの次男として生まれる。上智大学経済学部卒業後、アメリカにかまぼこ、すり身を普及させるため、現地法人の立ち上げと経営にあたる。91年に帰国し家業の経営に参画。00~01年小田原箱根商工会議所青年部会長、03年日本商工会議所青年部会長、2009年第3回ローカルサミット実行委員長などを歴任。現在、小田原箱根商工会議所副会頭、場所文化フォーラム会員など。

マスメディアで伝えられる経済界の意見というと「原発がないと電気代が上がり、国内産業は空洞化する」という後ろ向きの話ばかりです。しかし、個々の経営者の考えは必ずしもそうではありません。3月20日、全国の中小企業経営者で脱原発を目指す『エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議』(エネ経会議)が発足しました。飯田哲也さん(ISEP)や河野太郎衆議院議員をアドバイザーに、地域でエネルギーの自立に向けた勉強会やイベントの開催、調査研究などを計画しています。世話役代表は、神奈川県小田原市の鈴廣かまぼこ副社長・鈴木悌介さん(56歳)。企業側からの脱原発を宣言した背景と、今後のエネルギーのあり方について伺いました。

どんな商売でも、生活の安全がなければ成り立たない

——経営者の方々から脱原発の声があがったということで、注目を集めています。エネ経会議は、どのように発足したのでしょうか。

 原発の危険性については、震災以前からずっと気になっていました。万が一の事故の甚大さと、使用済み核燃料の処理が未解決というエネルギーとしての問題点はもとより、地方にある原発の電力によって便利な都市生活が営まれる構図そのものがいびつだと思います。今になってみれば、もっと早くから声を上げなかったことに忸怩たる思いです。
 震災後しばらく続いた自粛ムードに加えて、福島の原発事故で地元の小田原や箱根も大きな影響を受けました。ホテルや旅館、おみやげ店は軒並み開店休業。地元の名産の足柄茶からも放射性物質が検出されました。このとき、つくづく思ったのです。どんな商売でも、生活の安全がなければ成り立たない。安心して町を歩けて、水を飲めて、深呼吸ができてはじめて消費が行われて経済がまわると。
 私たち中小企業の経営者は、地域とともに生き、地域を活動の中心として、地域経済の一翼を担っています。小さな存在ですが、商売人として責任があります。次の世代が住みたいと思うふるさとを残すために、原発がなくても安心して暮らせる社会をつくらなくてはなりません。
 今年1月から全国をまわって経営者仲間に声をかけると、みんな同じように考えていました。かつて私が日本商工会議所青年部の会長を務めていたときの仲間たちです。最初は120社ほどでスタートの予定でしたが、仲間同士のネットワークでどんどん広がり、400社近くの経営者がメンバーに加わり、現在も増え続けています。

——新聞やテレビでは、経済界は原発推進一色かのように伝えられています。あれは大企業の意見であって、中小企業は違うということなのでしょうか?

 大企業、中小企業とわけることはあまり重要ではありません。私たちは誰かと敵対するつもりはないし、意見の異なる人を説得しようとも思っていません。いわゆる反原発運動ではなく、原発がないほうが健全な暮らしができるという実例を示し、豊かな地域経済をつくることが目的です。商売人として、自分の仕事で、自分たちが暮らす地域の安心・安全を守りたいのです。
 エネ経会議を具体化する前、日本商工会議所に話をしに行っているんですよ。マスメディアでは色々報じられていますが、日本商工会議所も原発の危険性は感じていますし、私たちの行動を否定はしませんでした。

なにはともあれ「顔の見える関係」をつくる

——設立総会では、アドバイザーである衆議院議員の河野太郎さんが「経済からエネルギーを考えるからおかしくなる」と、これまでのエネルギー政策を批判していました。エネ経会議は、その逆で「エネルギーから経済を考える」ですが、これからの経済はどうあるべきでしょうか。

 「経済」の語源は中国古典に登場する「経世済民」という言葉です。単なるお金のやりとりではなく、世の中をよくしていく営み全般を指します。これからは、経済を本来の姿に近づけていかなくてはなりません。
 経営者の仲間同士で以前からよく話していたのは、「最近、お金がおかしくなっていないか?」ということです。もともとお金は、人と人をつなぐ道具だったはずなのに、お金をたくさん持つことが目的になり、お金というものさしでしか、価値を量れなくなってきてしまった。お金=幸せという偏った価値観が社会を覆ってしまった。
 少し前まで、地方の経済発展は“ミニ東京化”することだと考えられてきました。地方の人たちには、どこか“東京コンプレックス”があり、東京のように便利な消費経済を追い求めていたのです。
 でも、日本は地域ごとに文化があるから魅力的なわけです。私は10年ほどアメリカでビジネスをしていましたが、客観的に見て土地土地に豊かな自然があり、人々の個性がある日本は貴重な存在です。目指すべきはミニ東京ではなく、各地の魅力を磨いて地域経済を回すことです。

――地域経済の盛り上がりが、都市と地方のいびつな関係から脱する機会になるといいですね。

 3・11は、いざという時に中央集権型のシステムは役立たないことを示しました。私たちの仲間で、被災した気仙沼市のクリーニング店の経営者は「災害対策本部には支援物資を送らないで欲しい」と言っていました。1つでも数が足りないとすべて配らないからです。普通に考えたら、数が足りなければ1つを2つに分ければいいじゃないですか。でも、そんな融通はきかない。電力の問題も同じで、国や電力会社を中心とした中央集権型のエネルギー供給は、一見効率がいい反面、有事には脆弱なものだということが露呈しました。
 この現状を変えるには、新しい社会経済システムに転換しなければなりません。キーワードは「顔の見える関係」です。
 震災後の3月末、私たちは小田原市、箱根町、そして箱根の旅館組合のご協力を受け、箱根の旅館・ホテル700室に被災者を受け入れようと、小田原市からバスを出す計画を立てました。しかし、実際に来られたのはわずか30人ほど。個別に知り合いがいる人か、過去に箱根に来たことのある人だけでした。いくら受け入れる体制があっても、行ったことのない、知っている人のいないところには行きたいと思えないんですね。改めて「顔の見える関係」がいかに重要か思い知らされました。知っている仲間さえいれば、新しいアクションを起こすことができますからね。

――たとえば、どんなアクションでしょう?

 実は、顔の見える関係の大切さは、3・11よりずっと前から感じていました。10年ほど前に、経営者や学識経験者、法律家、金融機関、官僚などの仲間で『場所文化フォーラム』という勉強会を立ち上げ、東京・丸の内に『とかちの…』と『にっぽんの…』というレストランを作りました。儲けのためではなく、人と人をつなぐための店です。ここでは、全国の仲間から届く食材やご馳走を提供し、その土地の食文化を味わうことができます。
 経営母体は、仲間同士で出資した合同会社(LLC)で、オペレーションは有限責任事業組合(LLP)が行っています。株式会社よりゆるやかな組織です。出資者には株式配当の代わりに店の食事券を配るんですよ。各々が仲間を連れて店に来ることで出会いが広がっていきますから。
 そこから生まれたのが、『ローカルサミット』です。日本中で町づくりに取り組んでいる人たちが集い、その土地の文化を味わいながら、侃々諤々の議論を交わす場なのですが、2008年の北海道洞爺湖サミットと同じ年に、『とかちの…』で出会った帯広の仲間と始めました。これまで北海道帯広市、愛媛県宇和島市、小田原市、富山県南砺市で計4回開催していて、今年は9月に鹿児島県阿久根市で開催します。毎回150人~300人集まります。ローカルサミットをきっかけに、地域からの自主的なまちづくりは確実に始まっています。各地でのプロジェクトには、地元の金融機関も参画してくれるようになってきました。
 エネルギー作りも、顔を知っている仲間がいれば方向転換ができるはずです。自分たちの地域特性を活かしたエネルギーをつくり、自給する。そうした活動が各地で同時多発的に起きれば、小さくても確かな地域経済の循環が生まれます。

エネルギー問題を“普通の商習慣”に戻そう

——“顔の見える電力”をつくるというわけですね。それには、やはり再生可能エネルギーが相応しいのでしょうか。

 日本は、地域にマッチした再生可能エネルギーの技術をすでに持っています。小田原は資源の宝庫で、昔、実際に小水力発電をやっていました。今は「小田原電力」とも言うべき官民一体となった太陽光発電を皮切りに、様々な再生可能エネルギーでのまちづくりに取り組み始めています。島根県浜田市でも風力発電事業が進んでいますし、ほかにも各地で新しい取り組みが始まっており、そこでは中小企業の技術が使われるケースも少なくありません。
 残念ながら、中小企業は技術を実用レベルまで持ち上げる資金力と、事業化する横のつながりが不足していますが、仮に、これまで原発に使われてきた財政的・人的サポートを受けられるようになれば、あっという間に実用システムができるでしょう。
 こうした話は、特に目新しくはなく、いろんな方がおっしゃっています。言ってみれば、エネルギー問題も“普通の商習慣”に戻そうというシンプルなことなのです。普通の商売は、大企業も中小企業も協力あるいは競争して商品を作り、販売していますよね。電力だって、顔の見える関係を大切にしながら、まっとうな取り引きをすればいいじゃないですか。
 国はアジア諸国への原発輸出を進めていますが、輸出すべきは原発ではなく、持続可能なエネルギーによる持続可能なまちづくりのモデルです。実現すれば、国家の安全保障にもつながるでしょう。

私たちの体は常に自然とつながっている

――エネルギーも経済も、大きく方向転換する時期に来ているのですね。でも、経営者の立場での脱原発宣言は、少なからずリスクもあると思いますが…。

 もちろん、そうです。私たちは会社を成長させ、社員の生活を守らなければなりません。中小零細である私たちの会社がこんな声を上げることは、商売上のリスクがあるかも知れません。だけど、今は腹をくくってやらねばならないときなのです。
 それは、私自身が食品を扱う会社の経営者であることも関係しているかもしれません。「食」という字は、人を良くすると書きますよね。食べ物にはすべて命があり、人間は食べ物の命を使って生きています。英語のことわざで You are what you eat. といいますが、あなたはあなたが食べたものでできているのです。それを商売にしている私たちは、食べものの命をお客様の命に移していく。その一点で存在を許されています。
 エネ経会議の設立総会の朝、いつもより早く目が覚めたので家の屋上に出て、海を眺めながら思いました。人間の体の内と外を分けるものってなんだろう? 私たちの体は、空気を吸って水を飲み、食べ物を食べて作られている。内と外を分けているのは意識だけで、実際には常に自然と体はつながっている。自然を汚す原発を維持するのは、私たちの体を汚すことと同じなんだと。おかしいなと思うことは、声をあげていかなければなりません。大切な地域を、できるだけきれいなかたちで残すのが、地域で生まれ、暮らして、仕事をしている私たちの責任です。
 今後の具体的な行動計画は、4月末をメドにまとめますが、再生可能エネルギーに関する勉強会やシンポジウム、映画の上映などを検討しています。全国のメンバーの取り組みを集約したプラットホームとなり、再生可能エネルギーや新しい経済についての情報を発信していきます。
 中小企業の経営者は、経済全体から見たら小さい存在ですが、小さいからこそ顔の見える関係で連携することができます。理論だけでなく、実践すること。各地で結果を示して、確実に前に進みたいと思います。

(構成/越膳綾子・撮影/塚田壽子)

「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」では
現在、仲間になってくれる会員募集中です!

「安全よりも利益優先」のイメージが強い「経済界」ですが、
実際にはその中にもさまざまな考え方の人たちがいる。
当然といえば当然のその事実に、力づけられる思いがしました。
中央と地方との「いびつな関係」は、
原発の問題を突き詰めていくと必ず行き当たるものでもありますが、
「中央集権型ではない、顔の見える関係を」という鈴木さんの提案は、
そこを変えていくヒントをくれている気がします。
「エネ経会議」の動き、今後も注目していきたいと思います。
鈴木さん、ありがとうございました!

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