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2010-10-27up

マガ9レビュー

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.158

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月に囚われた男

2009年米国/ダンカン・ジョーンズ監督

 1976年に製作されたニコラス・ローグ監督『地球に落ちて来た男』で、地球に墜落する宇宙人を演じたデヴィッド・ボウイは、その妖艶な容姿で観る者に鮮烈な印象を残した。その「地球に落ちて来た男」の息子が監督したのが『月に囚われた男』である。私の期待は膨らむ一方だった。見終わって、それは十分に満たされた。

 本作の舞台は月面である。人類は月の内部に新たなエネルギー源、ヘリウム3を発見した。「ルナ」というエネルギー会社が3年間のサイクルで作業員1人を月に派遣し、ヘリウム3の掘削ならびに地球への輸送を行っている。

 主人公の作業員、サムは宇宙ステーション内で体を鍛え、模型をつくって時間をつぶす。テレビ電話を通して家族と会話をするのが何よりの楽しみだ。3年間の孤独と閉塞感を和らげてくれるのは、人工知能を搭載したロボット「ガーディ」である。「ガーディ」は『2001年宇宙の旅』に登場する「ハル」を連想させるが、「ハル」よりも人間に対してフレンドリーで、義理人情も通じるようだ。

 サムは地球への帰還を2週間後に控えていた。ところが、月面での作業中に事故に遭い、意識を失ってしまう。診療室で目覚めてからは、これまでの孤独と閉塞感が、一気に不条理と混乱に取って代わられ、物語はヒートアップする。

 その先に見えてくるのは「ルナ」の深謀遠慮な戦略だ。人間とは何か? 記憶とは何か? 根源的な問いを発せざるをえないような結末が待っている。ストーリーを明かすのは憚られるので、ここでは緊張感に満ちた密室劇のようだとのみ申しておこう。

 この映画、ハリウッドの派手なエンターテイメントに比べれば、かなりの低予算で製作できたのではないだろうか。費用対効果は抜群である。しかも、お金をかけていないことがエクスキューズになるようなシーンはひとつもない。中高年にはある種の懐かしさを、若い世代には逆に新しさを感じさせる優れたSF映画である。

(芳地隆之)

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