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2013-06-26up

マガ9スポーツコラム

No.040

民主化とグローバル化とスポーツの祭典

 先般行われた日本代表がブラジルでのサッカーワールドカップ出場を決めたホームでのオーストラリア戦。終了直前の本田圭佑選手のPKによって1対1の引き分けに持ち込んだ試合に見るべきものはほとんどなかった。年配の選手が多く、足が止まりがちなオーストラリア選手を日本代表は圧倒すべきなのに、相手に付き合っているように見える。解説者はよく「試合は内容より結果がすべて」というが、私は、こんな試合でW杯出場を決めるくらいであれば、むしろ0対1で負けてW杯出場にもっと苦労した方が、長い目で見れば日本代表にとってプラスになるのではないかとさえ思った。

 ブラジルで開かれているサッカーのコンフェデレーションズ杯での対ブラジル戦は日本代表にとって、来年にW杯を控える選手にはよい結果(0対3)だったのではないか。自分たちの実力のほどを見せつけられた選手は逆に開き直って、次のイタリア戦では派手な打ち合い(3対4)を演じた。メキシコ戦(1対2)は現在の日本代表の世界ランキングを正しく反映した試合だった。

 長々と書いてしまったが、今回のテーマはサッカー日本代表の話ではない。コンフェデレーションズ杯の会場の外で起こっていたデモについてである。汚職や公共料金値上げに反対するデモは、若者たちが中心となって勢いを増し、W杯開催を反対する訴えも上がった。

 サッカー大国でのその声を日本のメディアは驚きをもって伝えた。ましてや2016年にはリオデジャネイロでのオリンピック開催も控えている。大丈夫か、ブラジルは? というところだろう。

 そうした懸念の根底には、私たち(とくに60代以上の日本人)の東京オリンピックにおける幸せな体験があるような気がする。高度経済成長に乗って、GDP成長率がどんどん伸び、国民の生活は、程度の差こそあれ、昨日より明日の方が豊かになると確実に信じていた時代。私の母は、当時1歳半の私をおぶって、甲州街道を走るアベベや円谷幸吉らマラソン選手を興奮して見ていたという。私の父はチェコの体操選手、チャスラフスカに魅了されたそうだ。

 だが、あれから約半世紀を経た現在、グローバル化の進行によって国民経済の発展の様相は当時とは異なっている。新興国の成長率が年率2ケタを記録し、国民の生活を底上げはするものの、その恩恵を受ける層と受けない層の差の方が目立ってしまうのである。

 リオデジャネイロ五輪の次の候補地として手を上げているトルコのイスタンブールでも、反政府デモが連日勢いを増している。東京へのオリンピック招致を目指す関係者は内心しめたと思っているのでないだろうか。猪瀬都知事のイスラム侮辱発言の劣勢を挽回できるチャンスだと(もちろんもう言葉にはしないだろうが)。

 ただ、私はイスタンブールでのデモがIOC(国際オリンピック委員会)のオリンピック開催候補地の選定に深刻な影響を及ぼすことは少ないと考えている。デモは国民がものを言える民主化の証というとらえ方もできるからだ。

 たとえば1989年のソウル五輪開催の決定がなされたのは、その8年前。民主化を求める活動家や学生を韓国軍が弾圧した光州事件の翌年にあたる。

 IOCは五輪開催を通して、その国に民主化のプレッシャーをかけているといっては、うがちすぎる見方になるだろうか。

 私はリオの次の五輪開催地はイスタンブールが相応しいと思っている。これまでイスラム圏でオリンピックが開催されたことがないこと、イスタンブールが東西文化の融合を象徴する都市たりうること、経済発展が国内の民主化を促していることなどが主な理由だが、ついでにいえば、時差に悩まされつつ、異国の風景や文化をテレビで見ながら、日本の選手の活躍を応援するのが五輪の楽しみ方になっているのである。

(芳地隆之)

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