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週間つぶやき日記

第二十一回

081105up

10月31日(金)

訴える 顔さえ見えず 秋の風

 散歩にはとてもいい季節になりました。色づき始めた銀杏の街路樹の下を、秋風に吹かれながら歩いていると、犬を連れた人たちとよくすれちがいます。犬たちも、気持ちよさそうです。

 散歩の途中、街角で急にある種のポスターを見かけるようになったのは、1ヵ月ほど前からです。選挙を意識した、政党や政治家(候補者)のポスターです。ニコニコと笑っている人たちが、街のあちこちに出現しました。
 何度もそれらのポスターを見ていて、私は思いました。ああ、麻生さんが解散に踏み切れないのは当然だなあ、と。
 多分、いま解散総選挙ということになったら、自民党は大敗するだろうというのが、私の実感です。 それはどうしてでしょうか?
 自民党の組織は、足腰が完全に弱っている、と感じるからです。

 選挙目当てのポスターの数では、公明党と共産党の圧倒的勝利です。とにかくこの2党のポスターがやたら目につきます。
 太田昭宏公明党代表が、街のいたるところからニコニコと微笑みかけてきます。赤や青一色の中に星印の白抜きがあり、その白地の中に妙なコピーが書かれているポスターも、よく見ると、公明党の宣伝ポスターです。いや、その枚数のスゴイこと。
 志位和夫共産党委員長だって、負けちゃいません。ふっくら笑顔が路地の奥にまで浸透中です。分かりやすいアピールを掲げた共産党ポスターも、同じほど目立ちます。
 しかしこのところ、小沢一郎民主党代表のちょっと怖い笑顔(?)も、かなり進出してきましたし、福島瑞穂社民党党首の笑顔ポスターだって、前よりはよっぽど目につくようになりました。各党、懸命に頑張っている様子です。
 ところがどうしたことか、自民党のポスターは街角ではほとんど見当たらない。ところどころで、この選挙区に立候補予定の自民党議員のポスターは目にしますが、かわいそうなくらい少ない。麻生首相の顔写真入り自民党ポスターなんか、もうレアモノです。

 私が住んでいる辺りは、かつて、地元の町内会や自治会、神社の氏子会などがフル回転して選挙活動に邁進していたような地域です。むろん、地元のボスみたいな方たちが、自民党の集票マシンとして活動していたのでしょう。しかし、そのシステムはすでに、完全に崩壊しているみたいです。
 マンションが建ち並び、新しい住宅団地ができ、それに伴う“新住民”の流入によって、旧来の集票システムは機能できなくなってしまったというわけです。
 それらの新しい人々を、自民党はまったく引き付けることができなかった。さらに、旧来の高齢の自民党支持者たちが、例の後期高齢者医療制度や年金問題などで、すっかり自民党離れを起こし、選挙活動なんかにソッポを向いています。
 旧来の支持者を失い、新しい人たちを取り込めない。だから、自民党は地域での活動スタッフを失い、ポスターを貼り回る人手さえなくしてしまった。これは、この地域に特有の現象ではないように思えます。
 共産党や公明党のような組織政党とは少しニュアンスの違う意味での“組織政党”であったはずの自民党が、地元のボスたちの高齢化と組織離れ、そして支持基盤であった利益誘導型組織の崩壊で、とうとう追いつめられた…。

 最近の自民党独自の世論調査によれば、いま解散総選挙をした場合、自民党は過半数どころか200議席にも遠く届かない、という結果が出たということです。
 支持率が下がり、地域での活動スタッフも激減し、さらに世論調査の結果がこんな具合では、麻生さん、とても解散になんか踏み切れないでしょう。
 昨日(30日)、麻生首相は「政局よりも政策」というスローガンを掲げて、緊急経済対策を発表しました。これで人気回復といきたいのでしょうが、野党に限らずマスコミ各社も、総じてこの対策案には批判的のようです。どうも、麻生さんの思惑通りにはいきそうもありません。

 結局、長年の政権与党としての地位にあぐらをかいたまま、組織をないがしろにし、選挙活動を創価学会に頼るようになってしまったツケが、ポスター貼りの人間さえも確保できないという惨状を、自らの党にもたらしてしまったわけです。

 これが、私が街の散歩から感じた“政治”です。
 あなたのところでは、いかがですか?

11月3日(月)

論文と ともに去りゆく 幕僚長

 それにしても、次々に問題が噴出してきます。麻生首相も少々気の毒です。自分のことで精一杯なのに、政府部内からトラブルが続出では、どうしていいのか分からない…。

 今回のトラブルは、田母神俊雄・自衛隊航空幕僚長の政府見解無視の論文問題です。名古屋高裁の憲法判断について、「そんなの関係ねえ」という発言をして有名になった人です。
 この人が、アパグループというところが主催する「真の近現代史懸賞論文」というものに応募し、最優秀賞を受賞したことから、問題が発生しました。田母神氏の論文「日本は侵略国家であったか」が、政府見解と180度違う歴史観で書かれていたことが判明したからです。つまり、“文民統制”からの逸脱ではないかと問題視されたわけです。
 (ちなみに、このアパグループというのは、2006~07年に大きな社会問題となった耐震偽装事件で、その系列のホテルやマンションに疑惑が生じた企業です。さらに、現会長の元谷外志雄氏が、安倍晋三元首相の後援会「安晋会」の副会長であり有力な後援者であることは有名です。つまり思想的には安倍さんに近く、今回の論文の著者・田母神氏とも考え方が近いということでしょう)。

 田母神氏の論文は、ネットですぐに検索できました。A4用紙で8枚半(400字詰め原稿用紙22枚弱)の、とても短いものでした。これで賞金300万円とは、アパグループも太っ腹ではありますが、それはさておき、中身はどうか。

 とても短いものですが、残念ながら、途中で読むのに厭きてしまいました。
 なにしろ、新しい発見や知見がほとんどないといっていい。これまでの保守系論壇で語られてきたことを、田母神氏なりにまとめてみた、という類の文章でした。これが最優秀賞だというのは、かなりの驚きです。
 ご本人もそれは意識していたらしく、3日夜の記者会見で「論文の中身が、既刊の本や雑誌からの引用ばかりではないか」と問われて、おおよそ次のように答えていました。
 「これまで読んできたものを参考に、自分なりの意見をまとめた。現職なので、歴史そのものを深く分析する時間はなかった」
 つまり、彼の主張の裏付けとなる根拠は、ほとんどが他人の書いた文章に負ったものだということを、自ら認めているわけです。歴史資料の検証を自分ではしていないのですから、その意見の信頼性には疑問符が付きます。

<日本軍に対し蒋介石国民党は頻繁にテロ行為を繰り返す。邦人に対する大規模な暴行、惨殺事件も繰り返し発生する。>
<これに対し日本政府は辛抱強く和平を追求するが、その都度蒋介石に裏切られるのである。>
 と書いていますが、こういった事実を裏付ける資料には言及していません。“歴史的事実”を断定的に書くならば、資料にあたり、事実をひとつずつ拾い上げ、それらの断片を組み合わせながら真実へ到達しなければなりません。そんなことは、論文記述の大前提でしょう。そういう姿勢がここには欠落しています。
(もっとも、たった9千字ほどの文章では、とてもそこまでは踏み込めないでしょうが)。

<日本は 第2次大戦前から5族協和を唱え、大和、朝鮮、漢、満州、蒙古の各民族が入り交じって仲良く暮らすことを夢に描いていた。>
 ここでも、かつての満州や朝鮮半島支配に於ける日本のスローガンが、まったくの検証なしに、あたかも“歴史的真実”であるかのように記述されています。“夢の裏側”で、いったい何が行われたのかには触れずに…。

 歴史的事実の検証がきちんと行われていないのですから、例えば自らの著書『盧溝橋事件の研究』(東大出版会)を引用された歴史学者の秦郁彦氏も、次のように怒るのです。

<論文は子引き・孫引きのつぎはぎで、事実誤認だらけだ。論文では私の著書『盧溝橋事件の研究』も引用元として紹介されているが、引用された部分は私の著書を引くまでもなく明らかなデータだけ。私が明らかにした事件の1発目の銃弾は(中国の)第29軍の兵士が撃ったという見解には触れもせず、「事件は中国共産党の謀略だ」などと書かれると、まるで私がそうした主張をしているかのように誤解される。非常に不愉快だ。>(朝日新聞)

 保守派の論客として知られる秦氏にさえ、このように事実誤認を指摘され、不愉快だとまで言われた論文が、なぜ、最優秀賞に選ばれたのか。
 そこには「現職自衛隊幹部の論文」というファクターが大きく作用しているのではないでしょうか。つまり、自衛隊の現職幹部がこのような歴史観を持っているということを、国民に知らしめる。それこそが狙いだったのではないか、ということです。
 ある人々の願望を、現職幹部の口を借りて語らせたい、という意識がこの論文を選んだ側(審査委員長・渡部昇一氏)になかったかどうか。旧日本軍を美化することによって、自衛隊を“国軍に昇格”させる道筋に繋げたいという想いが、この授賞の隠れた理由のひとつではなかったかどうか…。

 田母神氏は幕僚長を更迭され、突如、定年退職という名目で自衛隊を去りました。しかしもちろん、それで問題が解決したわけではありません。田母神氏は、呼ばれれば国会参考人招致に応じる意向だといいます。
 国会での、真相に迫る議論を望みたいのですが…。

11月4日(火)

CHANGEする
世界の中で わが国は?

 これを書いている時点では、まだ投票は開始されていません。 アメリカ大統領選挙のことです。

 直近のギャロップ社の世論調査を筆頭に、ニューヨークタイムス、ウォールストリートジャーナル、ワシントンポスト、CBS他のTVネットワークなどなど、どの調査でも7~10%ほどの差で、オバマ候補の優勢が伝えられています。
 ブラッドリー効果(調査では黒人候補支持と言明しながら、実際には白人候補に投票するという行為)なども囁かれていますが、このままでいけば、アメリカ初の「黒人大統領誕生」は、まず間違いないことのようです。

 大統領選の陰に隠れて、ほとんど報道されていませんが、同時に行われる上下院の選挙もとても重要です。実はここでも、民主党の優勢が伝えられているのです。
 現在、下院は235対199(欠員1)で、民主党が圧倒。上院では、51対48(欠員1)で拮抗しています。 しかし、今回の選挙では、もっと大きな差で、民主党が勝利するのではないかと予想されています。その大きな原因は、ブッシュ大統領にあります。それほどに、ブッシュ大統領の人気は低迷しているのです。
 マケイン候補が、いかに自分はブッシュ大統領とは違うかをアピールせざるを得なかったように、いまや“ブッシュ印”は触れてはいけない負のマークとなっているようです。

 日本時間の明日(5日)にならなければ、大統領選も上下院選もその帰趨は分かりませんが、もし言われているように両選挙で民主党が勝てば、やはりアメリカの政治は大きく変わるでしょう。
 問題は、日本の政治がそれに対応できるかどうかです。

 実は、自民党内部には、米民主党に強いコネクションを持つ人物があまり見当たらないと言われています。特に、麻生首相が任命した“お友達”と言われる閣僚たちは、ほとんどが共和党保守派に親近感を持つ人ばかりで、米民主党とのつながりのなさが指摘されているのです。これでは、CHANGEのアメリカに対応することはできないでしょう。
 しきりに“日米同盟の絆の強さ”を言い立てる人ばかりが目立つ麻生内閣です。しかしその内実は、“共和党自民党同盟”というものの別名だったのです。
 アメリカは、民主党政権になれば、これまで以上に中国やロシア、そしてアジア諸国重視の政策に舵を切るでしょう。これまででさえ、北朝鮮政策に見るように、アメリカは日本の頭越しにことを運ぶという、日本軽視とも取れる政策を行ってきました。しかし今回の変革後は、それ以上の劇的な政策転換が行われるという見方が強いようです。
 なにしろ官僚組織を含めて、ホワイトハウスの行政府がそっくり入れ替わってしまうのですから、劇的政策転換が起こるのは必然です。ここが、日本型の官僚依存の政府と、まったく違うところなのです。

 その時、日本はどうするのでしょうか。
 世界において、アメリカという一国最強体制がほぼ崩れ去ったいま、そのアメリカとの距離をどう取り、世界とどう向き合っていくかが、日本政治に切実に問われている課題なのです。その意味では、確かに「政局よりも政策」です。
 しかし、どこからもその明確な答えが聞こえてこきません。
 いささか不安を覚えるのです。

(鈴木 耕)
目覚めたら、戦争。

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