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週間つぶやき日記

第二十三回

081119up

11月15日(土)

リーダーが不在の世界 危機深し

 リーダーはあやまってはいけない。しかし、もしあやまってあやまったらあやまらなくてはならない。

 何のことやら?
 漢字を当てはめてみればよく分かる。

 リーダーは誤ってはいけない。しかし、もし過って誤ったら謝らなくてはならない。

 つまり、指導者たるもの、過ちを犯してはならないが、もし間違えてしまったら、きちんと謝罪しなくてはならない、ということだ。(つくづく日本語は難しいと思う。ね、麻生さん)
 ところが、最近の世界の指導者には、こんな当たり前のことが通用しない。

 アメリカのブッシュ大統領、いまだにアメリカが世界を支配できる唯一の超大国だと思い込んでいるらしい。14日から始まった世界20の国と地域(G20)による緊急金融サミットで、ブッシュ大統領はこう発言した。
 「金融システムへの過度な政府の介入は、自由な市場の発展に悪影響を及ぼす」
 むろんこれは、「行き過ぎた金融システムの暴走に一定の歯止めをかけなければ、世界金融危機は抑えられない」とするEU各国の意向に反対するアメリカの立場を鮮明にしたものだ。
 イラク戦争をめぐって、アメリカに反対の立場をとったシラク大統領時代にこじれた米仏関係を改善し、親米路線に舵を切ったサルコジ仏大統領も、これにはさすがに呆れ顔だったという。
 いかに退陣間際とはいえ、もはやブッシュ大統領には普通の常識さえ期待できそうにない。

 今回の100年に1度ともいわれる世界金融危機は、なにがきっかけで始まったのか。
 直接の引き金は、むろん、サブプライムローンの破綻であった。これは、金融工学とかいわれるほとんど理解不能な数学上の理論(というよりリクツ)に依拠した、金融亡者たちの跋扈によるものであったことは明らかだ。
 そしてその裏に、アメリカの無謀で無意味な戦争があったこともまた、隠しようのない事実なのだ。

 アメリカは、膨大な戦費を「金が金を生むシステム」で賄おうとした。それが彼らのいう“新自由主義”だった。これを“カジノ資本主義”と評する人たちもいる。まさにその通り。この自由とは、“バクチをする自由”にすぎなかったのだ。
 負けないバクチなどあり得ない。いずれそんなバクチ・システムは、破綻せざるを得なくなることを、金を操っていた連中でさえ薄々感づいていたのである。
 けれど、回りだした車を停めることはできなかった。何かにぶち当たって車が破損するまで、まるで回転車の中のハツカネズミのように、漕ぎ続けるしかなかった。
 ほんとうは世界中が気づいていたはずだった。しかし、金が金を生み続けている間は、知っていながら誰もそれを口にしなかった。口に出してアメリカを諌めるリーダーが、少なくとも先進国には存在しなかったのだ。

 ブッシュ大統領は、ついにひと言も「我が国の政策が間違っていた」とは言わなかった。だからもちろん、「すまなかった」との謝罪など、口にするはずもなかった。

 間違いを認めないリーダーほど、始末に悪い人間はいない。その典型がブッシュ大統領だった。
 世界中を“百年に一度の危機”に陥れる原因を作っておきながら、それでもなお「過度な介入は悪影響を及ぼす」などと言い募る。金融システムを“新自由主義”の名の下に野放しにして、ハゲタカどもにいいように食い荒らされながら、なおも彼らの弁護に回る。むろん、それが自分の利益にもなるからだ。
 誤爆を繰り返し、数万人の人々の命を奪いながら、いまだに戦争を止めようとしない。

 アメリカでは、1929年の世界大恐慌の際、有効な手を打てなかったばかりか誤った保護主義に走って恐慌を悪化させたとして、当時のハーバート・フーヴァー大統領が、史上最低の大統領だといわれてきたのだが、ブッシュ現大統領は恐慌を止めるどころか、言うも愚かな戦争を繰り返すことによって、フーヴァー以下の最低大統領の烙印を捺されているのである。支持率も20%を下回るというアメリカ史上最低を記録している。

 オバマ新大統領は、この状況をどう変えるのだろうか。いや、変えることができるのだろうか。
 それは、09年1月以降に明らかになる。

11月17日(月)

具体策なきサミットの空回り

 一昨日、リーダー不在について書いた。では、日本ではどうなのだろう。
 残念ながら、このところの「定額給付金」「田母神発言」「金融危機」等々、どれをとっても、リーダーの不在は際立っている。

 麻生首相は、G20の緊急金融サミットについて16日、
 「これは歴史に残る会議だったと、後世、評されることになるだろう」と語った。
 日本の提案が各国に受け入れられた、という成果を強調したかったようだ。けれど、共同首脳宣言の中身を詳細に見てみても、何が“成果”なのか、トンと分からない。金融危機回避のための具体的な対策が、ほとんど盛り込まれていないのだ。
 たしかに、「各国が共同して危機打開に努める。そのためには、連携してすべての金融システムに厳しい規制を行う」と宣言している。だが繰り返すが、そのための“具体策”はほとんど示されず、抽象的な文言の羅列である。
 私なりに整理すれば以下のようになる。

金融安定に向けてのあらゆる追加措置
即効的な内需拡大のための財政施策
IMF・世界銀行への資金注入
各国金融当局の連携強化
すべての金融市場への適切な規制
各国とも保護主義的政策はとらない

 これまで言われてきたような項目が並んでいるだけ。具体的といえるのは、IMF・世界銀行への資金注入くらい(ただしこれも、きちんとした時期や数字が明示されているわけではない)。
 あとは抽象的な努力目標。これでは市場も反応しにくい。現に、週明けの東京株式市場では、株価は乱高下するだけで、終値は60円ほどの上昇に留まった。
 ただひとつ注目すべきは「保護主義の拒否」だろう。すなわち、アメリカが内向きになって自国の利益にのみ走り、他国との経済上の協調路線を否定すれば、金融危機の深化はさらに進む。それは、1929年の大恐慌の際のフーヴァー大統領の政策が、如実に示していることだ。この項目は、明らかにアメリカのわがままに釘を刺したものだろう。
 その意味では、麻生首相の言うように「後世に残る歴史的意義」があった会議かもしれない。
 その意義とは、「アメリカの一極超大国時代の終わり」が、世界中に明らかにされたことである。
 しかし、今回の金融サミットで“百年に一度の危機”が回避できるとは、とうてい思えない。

11月18日(火)

後世にどんな名を残すおつもりか

 麻生首相は、彼のお望みどおり「後世にその名を残す政治家」になるだろう。だがそれは、「自民党政権を終わらせた最後の自民党総裁」としての名前である可能性がきわめて高い。
 最近の麻生首相をめぐって報道された事例を挙げてみる。

  • 解散総選挙をめぐっての発言が二転三転。
  • 「後期高齢者医療制度の抜本的見直し」を言明したが、すぐに「できる範囲での手直し」にトーンダウン。
  • 「田母神発言」には、何の具体的な指示もできず「あれは防衛省の問題」と責任回避。シビリアン・コントロールへの不安は解消されず。
  • 迷走を続ける「給付金」には、政府内でも異論続出。閣内不一致が露わになった。
  • そもそも「定額減税」がいつの間に「給付金」になったのか、まったく説明がない。
  • 収拾がつかず、ついに「給付金」を地方へ丸投げ。地方首長からはブーイングの嵐。あの石原都知事や橋下府知事にさえ「天下の愚策」とこき下ろされる始末。
  • その「バラマキ給付金」にすら、世論も65%が反対。ほとんどの国民が「選挙対策」としか見ていないらしい。
  • 「給付金」とセットで言明した「3年後の消費税アップ」は、すぐに「その時の景気動向を見て」と訂正。
  • 庶民派をアピールするために“自民党学生部会”の若者たちと渋谷の居酒屋パフォーマンス。だが、予定時間を切り上げて、帝国ホテルのバーへ移動。
  • 頻繁なホテルのバー通いを記者会見で質問されて、逆ギレ。「オレがお前に聞いてんだ、答えろよ!」と、質問した記者に対し、アンちゃん風に凄んでみせた。ほとんど子どものケンカ。
  • あげくの果てに、漢字の“読み間違い”を連発。(ただし、「頻繁=ひんぱん」を「繁雑=はんざつ」と読んだのは、単なる読み間違いとは言えない。意味がまったく違う)
  • グラグラと日替わりでブレる首相発言。そのせいか、支持率は右肩下がり。11月17日発表のANN系列の世論調査では、遂に危険水域とされる30%を割り込んだ。

 肝心の政策がグラグラと揺れ、受け狙いの妙なパフォーマンスが、メディアにおちょくられるだけという逆効果。
 これでは、自民党議員たちが期待した“選挙の顔”になどなれるわけもない。いま解散総選挙をやっても、勝ち目はほとんどないということが、マスコミのみか自民党独自の調査でも判明した。
 そろそろ“麻生おろし”の話題も永田町あたりではささやかれ始めているという。しかし、後釜が見当たらない。もはや自民党は、八方塞り状態なのだ。

 とにかく、1日でも長く総理の座に座り続けること。それしか、いまの麻生首相の頭の中にはないようだ。「政局よりも政策」というのが麻生首相のキャッチフレーズだったが、こうも政策がブレっぱなしでは、側近たちもどうしていいか分からない。
 周りでは“解散”という言葉は禁句になっているという。負け戦はなるべく先送りしたい、というのが自民党の本音になりつつある。さすがの公明党も早期解散を諦めたようだ。
 “給付金”を早くバラ撒いて、それを吸い上げて選挙資金の足しに、なんてことを言うどこかの党の幹部もいるという。
 給付金は早くても年度末、つまり来年の3月がギリギリだろう。なぜなら、給付金支給のための法律を盛り込んだ第2次補正予算案が成立しない限り、支給できないからだ。
 第2次補正予算をめぐっては、17日に急遽、自民民主の党首会談が開かれたが物別れ。2次補正がいつ成立するかなんて、もはや誰にも分からない状況に陥った。
 こうなった以上、3月以前の選挙はもう考えられない、ということになる。細田自民党幹事長もそう明言した。

 ただ、この間の自公連立政権の政策のふらつきについて、公明党と支持母体である創価学会との間が、かなりギクシャクし始めたという情報もある。
 これだけわけ分からない方向に麻生さんがブレているに、それに公明党が引きづられっぱなしであることに、創価学会側の不満がそうとうに溜まってきているというのだ。だから、公明党は支持者の不満を抑えるため、早期解散の方向にもう一度、舵を切り直さざるを得なくなる可能性もある。

 「選挙を先伸ばしして野党側の立候補予定者たちを兵糧攻めにし、もう資金が続かないと悲鳴を上げさせるのが、いちばんの選挙対策だ」などと、メチャクチャなことを言い始めている与党幹部もいる。どの政治家の言葉にも、国民のことを考える真の政治は見当たらない。
 与野党ともに、出たとこ勝負の行き当たりばったり、その場しのぎの政治ショー。

 要するに永田町近辺では、麻生首相も含めてほぼ全員が、“どうしていいのか分からん症候群”に陥ってしまっているのだ。
 結局、いちばん“政局”を作ってしまったのは、「政局よりも政策」が口癖だった当の麻生首相だったということになる。
 彼こそが、“どうしていいのか分からん症候群”の発症源なのだから。
 麻生首相では、もう選挙は勝てない。自民党の多くの議員たちはそう感じ始めている。

 もしかすると、投げ出し首相3代目の襲名披露日は近いのかもしれない。

(鈴木 耕)
目覚めたら、戦争。

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