この人に聞きたい

なにはともあれ「顔の見える関係」をつくる

編集部 設立総会では、アドバイザーである衆議院議員の河野太郎さんが「経済からエネルギーを考えるからおかしくなる」と、これまでのエネルギー政策を批判していました。エネ経会議は、その逆で「エネルギーから経済を考える」ですが、これからの経済はどうあるべきでしょうか。

鈴木 「経済」の語源は中国古典に登場する「経世済民」という言葉です。単なるお金のやりとりではなく、世の中をよくしていく営み全般を指します。これからは、経済を本来の姿に近づけていかなくてはなりません。
 経営者の仲間同士で以前からよく話していたのは、「最近、お金がおかしくなっていないか?」ということです。もともとお金は、人と人をつなぐ道具だったはずなのに、お金をたくさん持つことが目的になり、お金というものさしでしか、価値を量れなくなってきてしまった。お金=幸せという偏った価値観が社会を覆ってしまった。
 少し前まで、地方の経済発展は“ミニ東京化”することだと考えられてきました。地方の人たちには、どこか“東京コンプレックス”があり、東京のように便利な消費経済を追い求めていたのです。
 でも、日本は地域ごとに文化があるから魅力的なわけです。私は10年ほどアメリカでビジネスをしていましたが、客観的に見て土地土地に豊かな自然があり、人々の個性がある日本は貴重な存在です。目指すべきはミニ東京ではなく、各地の魅力を磨いて地域経済を回すことです。

編集部 地域経済の盛り上がりが、都市と地方のいびつな関係から脱する機会になるといいですね。

鈴木 3・11は、いざという時に中央集権型のシステムは役立たないことを示しました。私たちの仲間で、被災した気仙沼市のクリーニング店の経営者は「災害対策本部には支援物資を送らないで欲しい」と言っていました。1つでも数が足りないとすべて配らないからです。普通に考えたら、数が足りなければ1つを2つに分ければいいじゃないですか。でも、そんな融通はきかない。電力の問題も同じで、国や電力会社を中心とした中央集権型のエネルギー供給は、一見効率がいい反面、有事には脆弱なものだということが露呈しました。
 この現状を変えるには、新しい社会経済システムに転換しなければなりません。キーワードは「顔の見える関係」です。
 震災後の3月末、私たちは小田原市、箱根町、そして箱根の旅館組合のご協力を受け、箱根の旅館・ホテル700室に被災者を受け入れようと、小田原市からバスを出す計画を立てました。しかし、実際に来られたのはわずか30人ほど。個別に知り合いがいる人か、過去に箱根に来たことのある人だけでした。いくら受け入れる体制があっても、行ったことのない、知っている人のいないところには行きたいと思えないんですね。改めて「顔の見える関係」がいかに重要か思い知らされました。知っている仲間さえいれば、新しいアクションを起こすことができますからね。

編集部 たとえば、どんなアクションでしょう?

鈴木  実は、顔の見える関係の大切さは、3・11よりずっと前から感じていました。10年ほど前に、経営者や学識経験者、法律家、金融機関、官僚などの仲間で『場所文化フォーラム』という勉強会を立ち上げ、東京・丸の内に『とかちの…』と『にっぽんの…』というレストランを作りました。儲けのためではなく、人と人をつなぐための店です。ここでは、全国の仲間から届く食材やご馳走を提供し、その土地の食文化を味わうことができます。
 経営母体は、仲間同士で出資した合同会社(LLC)で、オペレーションは有限責任事業組合(LLP)が行っています。株式会社よりゆるやかな組織です。出資者には株式配当の代わりに店の食事券を配るんですよ。各々が仲間を連れて店に来ることで出会いが広がっていきますから。
 そこから生まれたのが、『ローカルサミット』です。日本中で町づくりに取り組んでいる人たちが集い、その土地の文化を味わいながら、侃々諤々の議論を交わす場なのですが、2008年の北海道洞爺湖サミットと同じ年に、『とかちの…』で出会った帯広の仲間と始めました。これまで北海道帯広市、愛媛県宇和島市、小田原市、富山県南砺市で計4回開催していて、今年は9月に鹿児島県阿久根市で開催します。毎回150人~300人集まります。ローカルサミットをきっかけに、地域からの自主的なまちづくりは確実に始まっています。各地でのプロジェクトには、地元の金融機関も参画してくれるようになってきました。
 エネルギー作りも、顔を知っている仲間がいれば方向転換ができるはずです。自分たちの地域特性を活かしたエネルギーをつくり、自給する。そうした活動が各地で同時多発的に起きれば、小さくても確かな地域経済の循環が生まれます。

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