この人に聞きたい

自分で食べるものは、自分たちでつくろう

編集部
 先ほどお話のあった『自主独立農民という仕事』は、1960年代ごろから有機農業に取り組み、「木次乳業」を創業して日本初のパスチャライズ(低温殺菌)牛乳を世に送り出した佐藤忠吉さんの一代記ですね。


 これから日本の農業がどうなるのかというのにはとても興味があって。それは日本がどうなるのかということなので、農業の本はもう1冊くらい書きたいなとも思っています。たぶんこの問題での師匠である、結城登美雄さん(注)の聞き書きになると思います。
 やっぱり、このままいくと農業はやる人がいなくなる。今農業に従事してる人はどんどん年をとっていくわけだし、若い人がどうそこに参入していけるのかですよね。例えば都会で仕事をする中で鬱になっちゃった人や、仕事の見つからない人が、何か自然や農業に絡んだ形で自分が納得できる道を見つけられないかな、ということを考えています。
 これって、平和問題にも深くかかわってくることでしょう。「日本は先進工業国なんだから、先端工業だけやってりゃいいじゃないか」なんてことをテレビで言ってたりするけど、とんでもない話ですよ。 食べるものがなくなるというのは、他の国に首根っこを押さえられることでもあるんだから。

(注)結城登美雄さん…民俗研究家。住民を主体にした地域づくりの手法「地元学」を提唱し、宮城県を中心に東北各地で地域おこしの活動を行っている。『山に暮らす海に生きる』(無明舎出版)、『地元学からの出発』(農村漁村文化協会)などの著書がある。

編集部
 食べるものがなければ、それを求めて争いをせざるを得なくなる可能性もある。安全保障という意味でも、自分たちの食べるものを自分たちで作るというのは、とても重要ですよね。


 だから、それをやれる条件をどうつくるかということです。今、農業をやってる人の中でも、農協を離脱して直売所で生産物を売るとか、都市のお客さんに直送で売るということをし始めてる人が増えてますよね。そういう仕組みをもっともっとつくっていかないと。
 丸森にも野菜の直送販売をしている人がいるんだけど、その人は以前は横浜で仕事をしていたので、そのときの仕事関係の知り合いや仲間のネットワークにも支えられているみたい。結城さんが紹介しているいわゆるCSA(Community Sapported Agriculture =地域に支えられた農業)ですね。そういうものをどうつくるかだと思います。
 今も、丸森や由布院、能登の七尾との交流みたいなことをずいぶんやってるんですけど、いずれは全国各地の生産物で「これはいい」というものを東京で紹介していけたらいいなあ、と。

編集部
 それは楽しそう!


 私、女性誌なんかでよくやってる、「お取り寄せ」とかはあんまり好きじゃないんですよ。「お金があるからおいしいものを食べよう」みたいな感じでしょう。そうじゃなくて、自分が信用できる友達がすすめるもの、「いいよ」と言ってくれるものを、自分も食べたいしみんなにも食べてもらいたい。自分が食べるものは、自分が作るか信用してる人に作ってもらう。その関係が基本だと思うんです。

固定ページ: 1 2 3 4

 

  

※コメントは承認制です。
森まゆみさんに聞いた(その2)里山で畑をやりながら考えたこと」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    「自分に身近な問題」に、粘り強く、
    丁寧に取り組んできた森さんならではの視点。
    直接にはつながらないように思えても、
    まずは身近なところを変えていこうとする力が、
    結果的には「大きな問題」をも動かしていくのでしょう。
    森さん、ありがとうございました!

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

各界で活躍中のいろいろな人に、9条のことや改憲について どう考えているかを、聞いています。

最新10title : この人に聞きたい

Featuring Top 10/109 of この人に聞きたい

マガ9のコンテンツ

カテゴリー