今週の「マガジン9」

 たとえば、ある情報を得るために、特定の人物なり、組織なりを訪れるとします。その際、こちらが相手にとって有益になるような情報を用意しておくか、否かで、相手の対応は大きく異なります。手ぶらで臨めば、会話は一方通行で、中身も通り一遍なものになるのに対し、聞く側のこちらも新たな情報を提供してあげれば、相手はこちらに関心を示し、想定していなかったことまで教えてくれるかもしれません。
 こう書くと、何やら諜報活動めいた話になってしまいますが、これは私たちが普段の生活で行っていることです。「どこどこのお店のこれが安い」なんていう話を聞けば、「あそこのお店にもいいものが売っている」と教えたくなる。情報交換の本質は変わりません。
 ひるがえって、国内で多くの反対の声が上がっているにもかかわらず、11月26日に衆議院本会議で可決された特定秘密保護法案について考えるに、同法案を通したい人には「ギブ・アンド・テイク」ではなく、「テイク」の発想しかないのではないかと思えてきます。
 国防計画、兵器開発、情報機関の作戦や情報源など重要な国家機密の漏えいを防ぐのが同法の目的のようですが、こうした法律がなかったがゆえに、過去に重大な極秘情報が暴露されたかといえば、ない。とすれば、同法を通したがっている人には、「天下国家の情報を下々の者(国民)に知らせる必要などなし」という身も蓋もない考えがあるのだろうと想像してしまうのです。
 しかし、自らのもっている情報を表に出すまいとする姿勢は、同時に、外からの新しい情報を入手することも難しくします。
 たとえば、いま多くの国民が求めていることは何か。どんな問題に困っているのか。そういう情報をキャッチするアンテナが錆びる。国民のニーズは選挙が近くなったら考えればいいくらいに思っているのかもしれませんが、そうした政権は民心からどんどん離れていきます。
 先進国はむしろ情報公開を重視する方向に進んでいるようです。11月25日付『毎日新聞』の社説「秘密保護法案を問う ツワネ原則」は、「米国では2010年、機密指定の有効性を厳格に評価する体制作りなどを定めた『過剰機密削減法』が成立した。秘密情報が増えすぎて処理能力を超えたことが逆に漏えいリスクを高めているという反省もある。また英国では3年前、秘密情報公開までの期間が30年から20年に短縮され、議会監視委員会の権限が今年から強化された」ことを指摘していました。
 情報収集はギブから始まる。だから情報公開を基本としている国に、より有益な情報が集まってくる。特定秘密保護法は民主主義の根幹を揺るがすだけでなく、日本の情報鎖国化を進め、為政者を限られた情報による誤った判断へと導いてしまうのではないか。そんな事態を私は強く危惧します。

(芳地隆之)

 

  

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