雨宮処凛がゆく!

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9月14日、「オールニートニッポンSUPER」にて。
左から「POSSE」の今野さん、「素人の乱」の松本さん、
私、「もやい」の湯浅さん、「フリーターズフリー」の杉田さん。

 「安倍は一人で再チャレンジしろ!」とは今年の「自由と生存のメーデー プレカリアートの反攻」のデモで叫ばれたコールだが、参院選惨敗後、たぶん生まれて初めて「再チャレンジ」の機会が巡ってきた彼は、とっとと逃げた。
 やたらと若者には「再チャレンジ」を強要し、「再チャレンジの機会があるのにしない奴はダメ人間でそういう人が生きるも死ぬも『自己責任』なので放置」というようなスタンスをとっていたくせに、自分のこととなると話は別のようだ。
 それにしても、どこまでも意味不明な人だった。就任直後から発する言葉のすべてが意味をなさず、消費税だっけ? 「逃げず、逃げ込まず」とか、抽象的という表現を通り越して、「お前、人の話聞いてんのか? 」というフレーズのオンパレード。「何か言ってるようで何も言ってない」言葉を喋らせたらこの人の右に出る者はそうそういないはずだ。「TVチャンピオン」なんかで「何か言ってるようで何も言ってない選手権」とかあったら、間違いなくブッちぎりで優勝だろう。
 そして最後の最後に一世一代の大空回りを披露してくれた。連発される「テロとの闘い」。あそこまで空疎な言葉を聞いたことが、いまだかつてあっただろうか? そうですか、そんなにアメリカとの約束が大切なら、いっそのこと御自分でインド洋にでも行って頂ければ・・・と思ったのは私だけではないだろう。
 だって、日本に生きる人の大多数はそれどころではないのでは?

  OECD調査では、日本の貧困率は先進国で第2位。貧困率は15・3%。日本の貧困者、数にして1800万人。厚生労働省調査では、非正規雇用層の8割が月収20万円以下。もちろん、非正規雇用である限り、昇給することもなければボーナスもない上、仕事を続けられるという保障もない。以上、「痛みを伴う構造改革」の結果だ。
 で、自民党は自分でブチ壊しておいて「再チャレンジしろ」と言うわけだが、再チャレンジの予算は07年度で総額1720億円。が、この予算、一体どこに行ってるんだ?ドブにでも捨てているのだろうか。大きな問題は、「このお金は本人たちにはビタ一文渡さない」ことである(湯浅誠『貧困襲来』より)。例えばネットカフェ難民の例を見てみよう。彼が「再チャレンジ」したいと思う。安定した仕事につき、アパートにも住みたい。が、日雇い派遣の日々から月給仕事に移行するのは至難の技だ。日雇いで日払いのお金で文字通り「その日暮らし」の人には、安定した仕事に就こうと思っても最初の給料日まで暮らせるお金がない。だからこそ、一度日雇い派遣の生活に陥ってしまうとなかなか抜けだせない。そこにワンクッション入れるための「生活保障」(この場合、最初の給料が出るまでの生活費など)がまず必要なわけだが、1720億円のうち、そういった当事者が必要としている支援に使われるお金は一円もない。そこまで行ってしまった人間は「再チャレンジの資格もない」ということなのだろうか。もっとも困っている人は最初から排除されている。お金と体力に余裕のある人にしか道は開かれていない。

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  以下、同じく「貧困襲来」から引用しよう。
「生活保障を外しながらの『再チャレンジ』は、いわば安全ネットなしの綱渡りだ。失敗したら最後、地面にたたきつけられる。大バクチだ。普通はできない。しかしこの普通にはできないことを『やれ』と言うこと、それが今の『再チャレンジ』だ。安倍政権は『何度でもチャレンジできるようにするのが再チャレンジ支援だ』と言っている。それは言外に『再チャレンジしないヤツは、保護するに値しない』というメッセージを含んでいる。とにかく自己責任論が大好きだから、安全ネットなしの綱渡りでも、やらなければ『おまえが悪い』と片づけられる。進むも地獄、退くも地獄」
 同じようなことはシングルマザーの就業支援策でもやられている。現在発売中の『群像』10月号「プレカリアートの憂鬱」に詳しく書いたのでそちらも参照して欲しいが、シングルマザーに対する「母子家庭高等技能訓練促進費事業」では、高度な技能の訓練を2年以上受ける場合、最後の3分の1の期間だけお金をくれるという制度がある。が、一体その2年間、どうやって食べていけばいいんだ? そう突っ込んだ人への厚生労働省の返答は「母子福祉資金から640万借金しろ」ということだった。640万って・・・。
 で、「再チャレンジ」ってどうなるの?

 最近、ある人と話してショックを受けた。「企業から見ると30歳過ぎたフリーターは障害者と同じ」と言うのだ。「だから助成金などが必要」ということなのだが、しばらくはどうにもならない不快な気持ちが拭えなかった。また、最近、齋藤貴男さんと対談し、ロストジェネレーションの話になった。齋藤さんに、今の政治は「ロストジェネレーション以降の非正規雇用層が野垂れ死ぬことを前提としている」という指摘を受け、まさにその通りだと思いながら、この政治の流れに対して激しい怒りが湧いてきた。
 政治的に「野垂れ死ぬことが前提とされた」世代や層がいていいはずがない。再チャレンジなんて欺瞞以外の何者でもない。

 ということで、21日、新宿紀伊国屋ホールで反撃! 逆襲! 反逆! な決起集会だ! 各団体で反撃の狼煙を上げる新しい労働/生存運動のリーダーたちが大集結! そして素人の乱も! 小熊英二さんも! 私も! 歴史的瞬間に、立ち会ってくれ!!

※「生きさせろ! 集会」の詳細はこちら

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群像 2007年 10月号
¥ 920 (税込)
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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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