雨宮処凛がゆく!

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10月12日の「オールニートニッポン」。左から私、
ガテン系連帯の池田さん、社民党党首の福島みずほさん、
「今日、ホームレスになった」著者の増田さん。

 気がつけば、新聞もテレビもまったく見ていなくて、世の中で何が起こっているのかまったくわからない。こんな状況に最近、よく陥る。そしてそれが私の「過労」のバロメーターだ。日々の仕事に追われて、世の中のことにまったく疎くなる。この間なんか福田内閣についてコメント取材を受けたものの、実態が全然わからず、コメントを求めてきた記者の方にどんな状況かを聞いて答えている始末だ。

 普段、過労死、過労自殺の取材をしていると、過労には気をつけるようになる。が、最近、限度を超え気味だ。10月の講演、イベント予定だけでさっき数えてみたら16回あった。2日に一回は人前で喋ってるという計算だ。都内だけではないので、移動時間や宿泊もある。で、連載が7本。このマガジン9条と、webちくまの「反撃タイムズ プレカリアートは闘うぞ」、「社会新報」の「かりんと直言」(社民党のサイトで読めます)、ビッグイシューの「世界の当事者になる」、「群像」の「プレカリアートの憂鬱」、「創」の「ドキュメント・雨宮☆革命」、そして週刊金曜日の書評委員。単純計算でも、週に一度「マガジン9条」と「社会新報」の〆切があり、ビッグイシューが月に2回、それ以外は月に一回なので、月に13、4回の〆切があり、こっちも講演などと同じく2日に一度の〆切状態だ。もちろん、それ以外にも連載ではない原稿の〆切が月に複数ある。その上、書き下ろしを数冊抱えているものの、こっちはまったくもって手がつけられない状態で、実は全然書いてないの。キャハ☆

 過労自殺などの取材を通して知ったことのひとつに、「本当に過労状態の人は世の中から切り離されている」ということがある。仕事に忙殺されている人は、たぶん「ホワイトカラーエグゼンプション」も知らなければ、それを舛添が「家族だんらん法」と言い換えようとしたことも知らない。その上、首相が安倍から福田に変わったことも知らないなんて人がいても私は驚かない。なぜなら、私自身もほとんどテレビで「首相になってからの動く福田」を目撃していないからだ。ただ単に家にいないだけなのだが、多くの人が帰っても寝るだけ、という生活をしている中で、どうやって世の中のことを知ったり、その上世の中に怒ったり、世の中を変えようなんて余力があるだろう。こういう状態を経験すると、「フリーターがデモで権利を主張」なんてニュースの断片を耳にしただけでヒステリックに怒る過労正社員層の切実な気持ちも少しは理解できる。彼らにとっては、非正社員は「自分より楽をしている」と思えるのだろう。

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プレカリアート—デジタル日雇い世代の不安な生き方
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 でも、そんな足の引っ張りあいはやめよう、と訴え続けなければならない。だって正社員が死ぬほど働かなきゃいけないのって、今の正社員の座から転がり落ちたら何の保障もない非正規雇用になるのが怖いって気持ちも絶対あるでしょ? で、企業って、そういうとこ絶対利用してるでしょ? 身近なリストラとかで、脅迫されてるでしょ? だけど、「何の保障もない非正社員の生活」が正社員層の過労の原動力になってしまうなんてあまりにも悲しい。少なくとも、どっちも幸せじゃない。スケープゴートを作っても結局誰も救われない。

 そんなことを思って書いたのが10月9日、洋泉社新書として発売された「プレカリアート デジタル日雇い世代の不安な生き方」だ。まえがきが「カレー味のうんこか、うんこ味のカレーか」。過労死前提の正社員か、何の保障もない非正社員か、という意味だ。この本では、ネットカフェ生活者の聞き取り調査をした「釜ヶ崎支援機構」の貴重な資料を引用させて頂き、ネットカフェ難民が生まれる構図、非正規雇用者がホームレスになるまでに荒稼ぎする「貧困ビジネス」(人材派遣会社、サラ金、敷金・礼金なし物件など)などの構図を明らかにしたつもりだ。また、ゲストハウス取材もし、若者による反撃の数々も紹介した。特に気に入っているのは「超世代座談会」と銘打たれた座談会。私、「希望は、戦争」の赤木智弘さん、就職氷河期世代の息子も持つ団塊世代の女性、そして同じく氷河期世代だけど正社員になった女性、そして夢を追うフリーターという、激論にならないはずがないメンツで「実存」をかけてバトっている。全員、「かけがえのない何か」を巡ってバトる本気モードの座談会。そして巻末には東京都知事・石原慎太郎氏との対談も収録。ぜひ読んでほしい。
 また、この少し前に発売された「雨宮処凛のオールニートニッポン」だが、高橋源一郎さんに「平成の『革命家』が戦後を丸ごと総括する」という書評を書いて頂いた。こちらもぜひ。

 ということで、過労の中でも自著の宣伝をきっちりこなし、この原稿も終わりに近付いた。そんな私の足元で、うちの猫(ぱぴちゃんとつくし)が「遊べ」「おやつよこせ」「猫トイレの掃除しろ」と更に私を寝かせない方向で抗議行動をしている・・・。

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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