雨宮処凛がゆく!

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宮本みち子さんと。

 「過労」問題を書いたのちの週、思いきりこの連載を休んでしまった・・・。ということで、2週間ぶりだ。2週間、いろいろあった。いろんな場所に行った。大阪に3回。京都では「反戦デモ」もしてきた。この連載の12回目で書いた『9条改憲阻止集会。爺さんたちの「本気」と書いて「マジ」』関係の集会だ(と思う)。反戦爺さんたちは更に開き直る方向で「反戦老人」なんて横断幕まで作ってデモ行進していた。その上自分たち「爺さん世代」の運動をまとめたDVDまで作ったそうで、一枚頂いた。まだ見ていないが、タイトルを見て再び笑いのツボを刺激された。そのタイトルとは「We 命尽きるまで」。ナチュラルなのか狙ってるのか、ここまでくるとわからない。

 さて、この2週間で会えて嬉しかった人。それは社会学者の宮本みち子さん。「BIG ISSUE」で対談させて頂いたのだ。宮本みち子さんは、私が今関わっているプレカリアートや若者のホームレス化の問題に対して、いち早く警鐘を鳴らしていた人である。2002年に出版された『若者が〈社会的弱者〉に転落する』は、あまりにも「今」を予言していてぞっとするほどだ。宮本さんは欧米諸国の80年代の若者の深刻な就職難、そしてその背景にある労働市場の悪化などをあげ、予言している。

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若者が〈社会的弱者〉に転落する
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「おそらく、全般的にはこれまでのように長期に安定した生活基盤をもたない若者が増加し、欧米諸国と同様に、少数の恵まれたグループの対極に、貧困化の避けられないより大きなグループが生まれるのではないか。これが、著者の仮説である」
 仮説で終わって欲しかったこのことが今現実になっていることは、よほど鈍い人間でない限り、身に沁みてわかるはずだ。

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松下プラズマで偽装請負で働いていた吉岡力さん。
偽装請負を告発し、現在、裁判中です。

 さて、この本によると「若者世代の没落」は、「成熟社会がはらむ危機」であり、欧米ではかなり前から議論され、様々な取り組みも行われてきたという。が、日本ではまだ「甘えている」系の自己責任バッシングが幅をきかせ、先進国に共通する問題だという認識すらない。いい年をした大人までもが現実に対しての認識が甘く、あまりにも無知なのは悲しいばかりだ。そして若者バッシングをしている年代の人々に限って、「企業福祉」に守られまくっている。日本は「家族福祉」と「企業福祉」しかないようなものなのだから、企業に入れなかった若者は親に頼るしかない。それが年長世代の正社員層にとっては「甘え」に見えるらしいが、その当人こそがもっとも「会社」という福祉に守られていることには気づいていない。風邪をひいてもクビにならず、社会保険があり、失業手当ても出るという特権階級。よく若者バッシングするオヤジなどが「じゃあ努力して正社員になれ」などと言うが、団塊ジュニア世代が新卒から正社員へ、という道はどうやら不可能である、と85年に予言されている。以下、宮本さんの本からの引用。
「一九八五年経済企画庁総合計画報告『21世紀のサラリーマン: 社会:激動する労働市場』では、日本型雇用慣行が危機にあることを述べ、西暦二〇〇〇年には、団塊の世代が部課長になれる割合は半減し、団塊二世のすべての新規卒業者が正規の就業員として採用されることは不可能になると予想していた。」
 それだけではない。阿部真大氏の「働きすぎる若者たち一『自分探し』の果てに」(生活人新書)にも、85年の報告書のことが載っている。「彼らをアルバイトなどの流動雇用形態の労働力として、言い変えれば労働力需給調整の緩衝帯(バッファ)として活用すれば、親にあたる団塊世代の雇用は維持できる、と述べていた」と、高原基彰氏の「発見」が紹介されているのだ。

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働きすぎる若者たち一『自分探し』の果てに
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 つまり、85年、今から22年前から、この状況は「予想」されていたということだ。しかし、この国を動かしている人たちは圧倒的に頭が悪いのか、本気で本当に、そのことに対してまったくもって何もしてこなかった。85年と言えば、思いきり団塊ジュニアで75年生まれの私は10歳。10歳の頃から、親世代の雇用を守るために犠牲にしようということで見捨てられていたのである。それなのに、現在のフリーターは親世代から「だらしない」などとバッシングされているという転倒。こういうことを、非正規雇用層の若者たちは知り始めている。自分たちの状況がなぜこんなにも苦しいのか、切実にその原因が知りたいからだ。しかし、若者バッシングする方は、何のデータも裏付けもなく、バブルの頃に自分の脳内で作られた「自由なフリーター」のイメージを強固に信じているからまったく話が通じない。まずはその辺の摺り合わせからしたいと思うのだ。この辺のことを詳しく知りたいという方は私の「プレカリアート」(洋泉社新書)、そして12月1日に発売される「BIG ISSUE」を読んで欲しい。

 さて、そんな背景があって、本当に「若者のホームレス化」が始まっている。そして今日、日テレで11月18日に放送される「激論! ネットカフェ難民」の収録をしてきた。13時25分からなので、是非見て、一緒に考えてほしい。防げたはずの若者のホームレス化に対して、今、私たちは何をすべきかを。

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チャンピオンベルトを持たせてもらった!
内藤さん、なんと過去には日雇い派遣で働いていたそうで、
番組でもその話で盛り上がりました。

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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