雨宮処凛がゆく!

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この日のために準備されたプラカードたち。

 12月1日夕方、表参道を歩いていた人々は幸運だ。なぜなら、歴史的な瞬間を目撃できたからだ。歴史的瞬間とは、「反戦と抵抗の祭〈フェスタ〉」のサウンドデモ! 今年はなんと2台のサウンドカーが登場し、400人の魑魅魍魎が歌い踊りがなり叫びまくる百鬼夜行なデモ隊が出没、表参道を大混乱に陥れたのだから。

 ああ、今思い出しても鳥肌モノだ。先頭を走るサウンドカーにはバンドの生演奏。何バンドもが交替で路上を走るバンドカーの上で路上ライヴ! 爆音を轟かすバンドカーの後ろには第一デモ隊。第一デモ隊のデモコーラーは私。トラメガで喉が嗄れるまで叫びまくる。で、その後ろに続くのは2台目のDJカー。「国家を揺らせ」と垂れ幕がかかったDJカーで爆音で音楽をかけまくるDJと、その後ろで踊りまくるデモ隊。そして第2デモ隊のデモコーラー。名付けて「路上で抗議して生きのびる」サウンドトラック弐台式デモ! デモのビラには「東京イズバーニング! みんな大騒ぎ&大暴れ! 金持ち役人警察の手から街路をとりもどせ!消費すればするほど生は貧しくなる! 殺すな、やられるな! ぼくらこんどはあとへひかない! 会社の会議つまらない! 空気は読みものじゃなくて呼吸するもの! 体毛で冬をしのげないのは行政の責任! おれとおまえとノーフューチャー! 生の肯定に承認などいらない! 禁止することを禁止する!」。そして最後に「路上パーティーへようこそ!」。

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「貧」マークと。

 みんなが手にするプラカード・横断幕には「貧者に対する攻撃を許すな!」「だれのいうこともきかないよ」「怒」「貧」「好きな場所で寝させろ!」「もう働かないぞ!」「反戦」「死刑執行するな!」「貧富拡大NO!」「LOHAS?糞食らえ!」「命を商品化するな!」「YOUがCANしたいならDOしちゃいなYO」「いらないものが多すぎる!」「米軍出ていけ!」「はたらかないぞ!」「働かせろ!」「政権交替」「戦争より恋がしたい」。そうしてデモ隊にはためく「フリーター全般労組」の旗や「氷河期世代ユニオン」ののぼり。赤や黒の大きな旗。

 午後4時すぎ、千駄ヶ谷区民会館を出発したデモ隊は叫びまくる。「戦争に動員されないぞ! 」「仕事がないからって軍隊に入らないぞ!」「俺たちは人間だぞ!」「奴隷じゃないぞ!」「モノじゃないぞ! 」「我々はワーキングプアだぞ!」「年収200万以下だぞ!」「住むとこないぞ! 」「食うものないぞ! 」「着るものないぞ! 」「金寄越せ!」「メシ食わせろ!」「着るもの寄越せ!」「住むとこ寄越せ!」。デモコールを私が叫ぶと、みんなが大声で叫んでくれる。そうしてこの日のために用意したアシスタントデモコーラー、ニート・初男(年収ゼロ円)がいきなり自作のラップを歌い出す。「SAY-HO(生保)〜 生活保護! SAY-HO(生保)〜 生活保護! 同情するなら金をくれ! SAY-HO(生保)〜 生活保護! 」。

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「金ヲヨコセ」と書いてあります。

 そうして初男のアドリブに合わせ、いくつもの素晴らしい楽曲が誕生したのだが、残念なことに忘れてしまった。覚えている一部を再現しよう。「メシ食わせろ! 」「メシ食わせろ! 」「たまには肉も!」「たまには魚も! 」「たまには野菜! 」「回転寿司も! 」、と、こんな感じの曲がデモ中にはなぜか沢山誕生するのだ。そうしてコーラー用トラメガが「こわれ者の祭典」代表・月乃光司さんに渡ると月乃さんは街頭の表参道を歩く人たちに叫ぶ。「俺に500万寄越せ!俺に100万寄越せ!俺に1万円寄越せ! 俺に1000円貸せ! 500円貸してくれ! 新潟までの交通費貸してくれ!(月乃さんはこの日わざわざ新潟から上京)俺に50円くれ! 10円くれ! くれ! くれ! くれ! 」。みんなで表参道を歩く人々に絶叫しながら物乞い。恐るべき貧乏人パワー。

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写真がブレブレだけど叫ぶ私。イン表参道。

 そうして私たちはクリスマスのイルミネーションがきらめく表参道で「金寄越せ! 」「年越せねーぞ! 」「正月用の餅くれ! 」と叫びまくる。笑い者になってるのか街頭から手を振ってくれる人々。コンビニやマックを見つけるたびに、恒例の「時給を上げろ」コールを繰り返し、ハーゲンダッツ前では「ハーゲンダッツはガリガリ君と同じ値段にしろ!」と無理難題を押し付け、表参道のきらびやかさにいい加減うんざりしてくると「ルイ・ヴィトンは出ていけ! 」「表参道を全部100円ショップにしろ!」と叫び、高級スーパーを見つけると「食い物寄越せ!」と叫びまくる。もちろん「戦争反対」も随所にちりばめる。

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同じく。

 そうしてデモ後半、私たちは路上で思いきり叫んだ。この日一番盛り上がったデモコールだ。「貧乏人は黙って野たれ死にしないぞ!」「貧乏人は黙って餓死しないぞ!」「貧乏人は黙って過労死しないぞ!」「もう誰も餓死させないぞ! 」「もう誰も過労死させないぞ!」「もう誰も自殺させないぞ! 」「競争なんかしないぞ! 」「戦争なんか行かないぞ! 」「戦争なんか行かないで家で寝てるぞ! 」「人を蹴落とさないぞ!」「みんなで生きのびるぞ! 」「みんなで生きのびる道を見つけるぞ! 」「みんなが生きられる社会を作るぞ! 」「貧乏人はみんなで生きのびるぞ! 」「俺たちはここにいるぞ! 」「生きてるぞ! 」「バカにすんな! 」「無視すんな! 」「俺たちの訴えを無視すんな!」「生きてるぞ! 」「生きさせろ! 」

 デモに出発する頃には明るかった空が、すっかり暗くなっていた。前に見えるのは警察車両の赤いランプの点滅。サウンドカーの轟音。みんなの上気した顔。サウンドカーが千駄ヶ谷区民会館前に辿りつき、みんな飛び上がりながら歓声を上げる。外は寒いのに、全身汗だくで、叫びすぎて喉がガラガラだ。

 そうして私たちの「生きのびる」ためのお祭りは終わったのだった。もちろん、一人の逮捕者も出さずに。

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デモ終了後、月乃さん(左)やニート・初男(真ん中)たちと。

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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