雨宮処凛がゆく!

 前回の原稿で「蟹工船を読んだ」と書いたら、知らない人から「蟹工船を読んだとは、偉い」というようなメールが届いた。しかも、たくさんの人から。なぜ? ある特定の小説を読んだことで、同時に複数の人から誉められる、という経験は初めてだ。謎は深まるばかりだ。何か「蟹工船を読んだ人を発見したら誉める」というグループなどがこの世に存在するのだろうか? それとも秘密結社? と、蟹工船を巡って、不思議な体験をしている。人に誉められることに飢えている人は、自身のブログなどで「蟹工船を読んだ」と書くといいかもしれない。きっとある日、あなたのメールに「誉め言葉」が届くはずだ。って、なんかこれって都市伝説っぽいな。

 さて、「反貧困ネットワーク」が3月29日に「反貧困フェスタ」を開催する。その準備にみんな追われているようだ(あまり役に立ってない副代表)。私もその日、フェスタに出演する予定。ちなみにその日の夕方の飛行機でタヒチに発つ。タヒチって、なんだかもっとも私にとって「遠い国」な気がするが(ちなみに近いのはやっぱイラクとか北朝鮮)、ピースボートにタヒチから乗船するのだ。こんなことでもなければ、一生降り立たない国だろう。それ以外に絶対に行かないと思われるのは、ハワイとかグアムだ。トロピカル系は遠い。
 「反貧困ネットワーク」もそうだが、「反貧困たすけあいネットワーク」も発足され、この国には小さなセーフティネットが出来つつある。そして私にとってもっとも大きなセーフティネットとの出会いは「もやい」だった。NPO自立生活サポートセンター・もやい。湯浅誠さんが事務局長をつとめるこのNPOとの出会いは、私に絶大な「安心」を与えてくれた。90年代から野宿者支援をしているもやいのもとに、ネットカフェで生活する若者たちからSOSの連絡が入り始めたのが03年頃だという。以後、中高年の野宿者だけでなく、生活に困窮した若者たちの支援にも取り組んでいる。
 もやいの取り組みは、あまりにも画期的だ。例えば、世の中には「住所がないと生活保護が受けられない」「若いと生活保護が受けられない」などという嘘の情報がはびこり、意外とみんな信じていたりする。しかし、もやいは法律の知識を駆使しまくり、野宿者や若者の生活保護の申請に協力してくれる。湯浅さんが生活保護の申請の同行した件数は1000件を超えるというからすごい。東大法学部の頭脳を、困窮してしまった人々に惜しみなくフル活用しているのだ。

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去年の5月、フリーターユニオン福岡のデモで掲げられた
プラカード。「餓死嫌」って、切実だ・・・。

 そんなもやいに出会って、思った。ああ、これで私が一文無しになっても自殺しなくて済む、と。同時に周りの人々で困った人がいたらもやいの存在を教えることで助けられる、と思った。これはものすごい希望だ。
 なぜなら、私のもとには日々、読者の人たちや周りの人からメールが来る。そのメールの中には、所持金が数百円になったとか、バイトをクビになってお金が底を尽きて、もう年も年だし雇ってくれるところもない、自分のような人間は生きている価値もないから今から死ぬだとか、現在ネットカフェ生活だとか、旦那に家を追い出されそうで行く場所もお金もないので死のうと思うだとか、逼迫した事情を抱える人もいる。些細なきっかけで困窮してしまった人は、「死ぬしかない」と思いつめている。もやいに出会うまで、私はどうしていいのかわからなかった。くだらない精神論なんて意味がない。だけど、どう対応していいのかわからない。そんな中、幾人かの周りの人を失った。お金に困っている人が多かった。うつ病で働けなくなりバイトはクビ、正社員だったらクビになったりせず、休業補償があるかもしれないが、フリーターだとその時点で収入が途絶え、家賃を滞納し、電気やガスや水道も止まる。本人も周りもどうしていいのかわからない。そんな中、自ら命を絶ってしまう。私自身、その途中までまったく同じ状況に幾度か陥ったことがあるからわかる。働けない自分を責め、所持金も残りわずか、もう精神的に完全に追い詰められているので「死ぬしかない」と思ってしまうのだ。しかし、私の場合、最終的には頼れる親がいた。いない場合や頼れない場合はどうだろう。

 だけど、今は「もやい」もあれば「反貧困たすけあいネットワーク」もある。たすけあいネットワークはできたばかりだが、この1年で、実際にもやいをかなりな数の人に紹介してきた。先にあったような読者の人からのメールや、周りの人が困り果てた時。すると不思議なことに、もやいの話をしただけで「持ち直す」人が多いのだ。もちろん、実際にもやいに連絡した人もいる。が、「こういうNPOがある。全然死ななくていい。手立てはいくらでもある。私の紹介と言ってもらえばいい」と言うだけで、「そんな人たちがいると知ったら安心した。ホントに困った時にそこに行けばいいと思ったら、もう少し頑張れる気がする」という感じで、実際に連絡することの方が少ないのだ。なんだか「精神的なセーフティネット」にもなっていて、存在を知るだけでみんな安心するのである。
 誰も助けてくれず、何の手立てもないと思うと絶望するが、実は手立てがあると知ると、持ちなおせたりする。生活保護については賛否があるが、うつ病などで働けなくなり収入が途絶えた時、他に使える手がないのだから仕方ない。
 そんなふうに今、もやいやたすけあいネットワークの紹介ができて、誰かが安心した顔を見せるたびに、ふと思い出す。もっと早く知っていたら、「死にたい」と訴えていた人たちを死なせずに済んだかもしれないのに、と。これだけの「情報」を知っているかどうかだけで、生死が分かれてしまうなんて、絶対におかしい。「たった3ヵ月の生活保護」とかで、救える命はたくさんあったと思うのだ。

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※「もやい」のサイトにリンクしています。

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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