雨宮処凛がゆく!

 7月10日、マガジン9「この人に聞きたい」にも登場している重信メイさんに会った。

 映画『革命の子どもたち』の上映後トークに呼んで頂いたのだ。

 メイさんには、10年以上前、東京拘置所で会っていた。当時、よど号グループの子どもに付き添って訪れた拘置所の待ち合い室にメイさんがいたのだ。しかし、小心者だったので声をかけることはなかった。2001年、東京拘置所にはよど号グループの田中義三氏や日本赤軍の重信房子氏がいて、ちょうどその年に赤軍派と日本赤軍の娘たちが日本に「帰国」していた。「政治の季節」の子どもたちが続々と日本の土を初めて踏んだ21世紀はじめ。

 あれから、13年。メイさんといろんな話をした。ちょうどイスラエルによるガザ攻撃が始まった頃だった。対談後、新大久保で遅くまで語らった。レバノンが激しい攻撃に晒された80年代の話も聞いた。昨日までそこにあった街が一夜にして破壊され、多くの命が失われたという。その中には、メイさんの知人もいた。対談の翌日、メイさんはレバノンに帰国した。そしてこの原稿を書いている今、イスラエルはガザに侵攻している。増え続ける死者や怪我人の報道を前に、ただただ怒りと絶望の中にいる。

 そんなメイさんと会った5日後、ある数字が発表された。それは日本の「貧困率」だ。国民生活基礎調査に基づいて発表された日本の貧困率は12年時点で16.1%。前回調査(09年)より0.1ポイントの悪化である。また、17歳以下の子どもの貧困率は16.3%と前回調査より0.6ポイントも悪化し、過去最悪を更新。更にひとり親家庭の貧困率も54.6%と3.8ポイントも悪化した。

 貧困問題が注目されて既に10年近く。ワーキングプアや子どもの貧困、非正規雇用、高齢貧困世帯やシングルマザーなどへの対策が叫ばれてきたわけだが、結局、09年から12年までの3年間で「改善」の兆しが見えたものは残念ながらなく、貧困は拡大の一途を辿っていることがわかったのであった。

 考えてみれば、今挙げた中で具体的な対策がとられたものは昨年「子どもの貧困対策法」が成立したことくらい。これ自体は「貧困の連鎖」を断ち切る第一歩として非常に喜ばしいことだが、この法律には貧困率削減のための数値目標などは盛り込まれていない。「○○年までに貧困率を○%に」といった目標は、子どもの貧困だけでなく、全世代の貧困に対してすみやかに設定されるべきである。

 さて、貧困率は国民生活基礎調査の結果をもとにして発表されたのであるが、この調査結果を読んでいて、気づいたことがある。それは「可処分所得の中央値」がこの10年以上、下がり続けているということだ。というとわかりづらいので、ざっくり言うと「収入」がこの10年以上、下がり続けていると理解してもらえばいい。ちなみに中央値とは、所得が一番ある人から一番低い人まで順番に並べたちょうど真ん中にあたる数字。取得の「平均」とは違うので注意してほしい。

 例えば12年の中央値は244万円。この半分の122万円以下の収入しかない人が「貧困」とされるのだが(これが貧困率で、この数字が12年で16.1%)、97年の中央値は297万円。なんと15年で53万円も「中央値」が下がっているのだ。

 そんなことを示すように、「生活が苦しい」と答えた世帯は01年で51.4%なのに対し、12年で59.9%。特に母子世帯、児童のいる世帯で「苦しい」と答える人が多い。

 また、貯蓄ゼロ世帯は16.0%と、貧困率と重なる数字となっている。

 3年ぶりに発表されたデータによって、改めて、貧困の深刻さがわかる結果となったのだった。

 さて、そんな7月は、最低賃金の審議会が開かれるシーズンでもある。

 貧困問題の解決策にはさまざまな社会保障の充実や住宅政策、学費の問題などがあるわけだが、もっとも手っ取り早いのは「最低賃金を上げること」である。

 はからずも、現在は「人手不足」が叫ばれている。これについては有効求人倍率などより「雇用の質」そのものがもっと問われるべきだと思うが、ある意味で久々に訪れた「働く人がNOと言いやすい状況」である。この流れを最大限利用して、なんとか最低賃金アップに繋げる運動を作れないものか、模索している。

 

  

※コメントは承認制です。
第303回 貧困率、発表される。の巻」 に4件のコメント

  1. magazine9 より:

    ここしばらく、「好景気」という言葉を耳にする一方で、拡大し続ける「貧困」。ちなみに、09年時点での日本の貧困率16.0%は、いわゆる先進国の中でも非常に高い部類に属します。もはやまぎれもない「格差社会」になってしまった日本は、どこへ向かうのか? 誰にとっても他人事ではありません。

  2. 子供の貧困率も大事だけど、重信メイさんから話が真っすぐに繋げられないところがイタいな。ここ察するに立場がはっきり2つに割れてて書きにくいんでしょ。こういう場合はメイさんのお母さんの房子さんじゃないけども、女性的直感で動いちゃっていいと思いますよ。ウダウダ理屈をこねるのは、男にまかせておけばいいw

  3. 多賀恭一 より:

    安倍内閣はデフレ退治を標榜し、マスコミはデフレを罪と断じているが、
    経済学を知るものは、インフレの方が低所得層の生活を苦しめることを知っている。
    大衆が大企業の手先であるマスコミの嘘から自由となり、正しい言葉に耳を傾ける日が来るまで、
    大衆は大衆自身の愚かさによって苦しめられるのだ。

  4. Yoshihiko Kaneko より:

    安倍はアベノミクスが成功していると思いこんでいるようだ
    元気な野党を育てるべき
    橋下徹の演説には共感する

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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