雨宮処凛がゆく!

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7月5日の札幌デモ。この後、4人が不当逮捕。

 嗚呼、久々に下界の空気だ。文明の香りだ。しかも肉や魚もある。電気もある。そして室内で布団で寝れるしお風呂もある!

 と、キャンプから帰ってきて、やたらと些細なことに感動している。

 7月6日から9日まで、私は洞爺湖から20キロの豊浦森林公園でキャンプ生活をしていた。この連載の60回でも書いたように、「もうひとつの世界」を掴みに行くためだ。G8主導で作られるのではない、もうひとつの、自分たちで作り上げる世界。そこはやたらと居心地が良く、二十四時間運動漬けで、自分たちで全部運営するという、限りなく「自由」な空間だった。

 自由。そう、この「自由」すぎる発想に私は驚いたのだ。G8に反対する。反対してデモや抗議行動をするだけでなく、本当に「もうひとつの世界」を勝手に作り上げてしまう。そんなキャンプの構想を聞いた時、「自由」って、ここまで広く見積もっていいんだと、ここまで領域を広げて考えていいのだと、後ろから頭を殴られた気がした。海外ではここ数年、G8が行われるたびにその近くで活動家たちによってキャンプが行われているという。

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7月7日の「森林浴」デモ。気持ちよかったです。

 かくして、本当に「もうひとつの世界」、オルタナティブ・ヴィレッジは、突如として北海道の片隅に出現した。ゲートをくぐるとその先に広がる広大なキャンプ場。炊事場では共同炊事が行われ、医療や託児についてもみんなで合意を得て運営する。ハラスメントや差別がもし起こってしまった場合にかけ込める「セイファースペース」も準備されている。デモへの弾圧があった翌日の6日、バスで札幌から続々と日本人、外国人がキャンプに入り、思い思いの場所にテントを張り、不思議な世界が作られていった。山谷から持ち込まれた炊き出し用の大きな鍋。野宿の活動家と支援者、そしてキャンプ参加者たちで作られる御飯。食事はビーガンという、肉や魚、卵なんかも一切使わない料理。ベジタリアンの人も食べられるようにという配慮だ。世界各国から集まった、G8に反対する世界中の活動家が、草の上に座り、炊き込み御飯を食べる。あり得ない光景に、それだけでワクワクする。

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みんなでカレー。

 キャンプ中は、毎日デモとミーティングが行われた。最初、ワーキンググループから出された案は、なんと連日朝8時から午後4時まで、22キロのデモ! キャンプ場から出発し、洞爺湖から6キロの道の駅とようらまでのコースだ。いくら「趣味・デモ」の私でも、3日連続22キロデモはキツすぎる・・・。キャンプ初日の6日は、G8初日の行動についてどうするかが話し合われ、議論は朝4時まで続いた。私は午前2時頃に寝たのだが、それはそれは貴重な経験だった。国も運動のやり方も戦術も、それぞれの国の「自由度」も違う人たちが丁寧に合意を形成していく、その過程に立ち会えたことはあまりにも刺激的な体験だったのだ。安易に多数決に流れず、一人一人の意見が尊重される場所。そんな超民主主義は、「合理的」じゃないし時間がかかる。だけど、こっちの世界で切り捨てられてしまうような声が尊重される話し合いの場所に、「もうひとつの世界」は確かに出現していたのだった。議論に疲れ気味の人もいたが、多くは、「デモクラシーのABCに立ち会っている」と、この場にいることに興奮していた。言葉も通じず、誰かの意見に賛成の場合のジャスチャーも違う人たちが、そうして少しずつお互いを理解していく。そんな瞬間に立ち会えたことは、あまりに貴重だ。

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9日、最終日デモにて警官コスプレが出動!
本物と間違える警官続出。大活躍でした。

 結局、私は7日の7キロデモと、最終日の6キロデモに参加。7日は雨が降り、テントが浸水した人たちが集会所に押し寄せたりと「難民キャンプ」っぽいことになっていたが、そんな中、デモ出発。海沿いの道を歩き、山の中のトンネルをくぐる初めての森林デモで、数年分のマイナスイオンを取り込んだのだった。人もあまりいない豊浦の道に、突如として現れた太鼓、ピアニカ、ラッパなどを演奏しながら歩くデモ隊。G8の8人の顔写真を使ったパペット。たまに住民に出会うと思いきり手を振ってアピールする。犬は初めて目にするデモに驚いてとりあえず吠えてくる。山の中に現れた、いろんな国の言葉の横断幕を持ったいろんな国から来たデモ隊は、そうして「G8反対」「勝手に8人で世界を決めるな!」「4人の仲間を返せ!」「捕まえるんだったらあの8人を逮捕しろ!」などと叫んだのだった。

 最終日のデモでは、洞爺湖畔が解散地。湖の向こうにうっすらと見えるウインザーホテルを前に、8人のパペットが破壊され、みんなに踏まれ、滅茶苦茶に壊されたのだった。一方、有志4人が洞爺湖のスワンボートに乗り、スワンデモも開催。無事逮捕者もなく、現地行動を終えたのだった。

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ウィンザーホテルの見える場所で、パペットが破壊される。

 ああ、まだ帰ってきてちょっとしか経ってないのに、あのキャンプの日々が懐かしい。本当に、本当に行ってよかった。あの4日間、私たちは資本主義とか金持ちの世話に一切ならず、自分たちで生きていた。どっかの企業に提供された有料の「自由」ではなく、自分たちで作った自由。普段、お金を払って様々なサービスを提供されることに慣れている私たちからすると、不便なことはもちろん多い。だけど、文句があるなら自分でやればいいのだ。そんなキャンプの場を準備してくれたワーキンググループの人たち、そして今回出会えた様々な国の人たちに、心からありがとうと言いたい。つか、来年のG8もわざわざキャンプしに行きたいくらいだ・・・。せっかくテントも寝袋も買ったんだし。あの「自由」の味を一度味わってしまったら、なかなかありきたりの「自由」では満足できないもん。

 7日から9日までのデモなどの様子は、G8メディアネットワークで。私もちょろちょろ写ってます。

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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