雨宮処凛がゆく!

デモ出発前!

 「税金は金持ちから取れ!」「税金は大企業から取れ!」「税金はトヨタから取れ!」「税金はソフトバンクから取れ!」「貧乏人は取り返すぞ!」「金持ちから取り返すぞ!」

 11月23日、勤労感謝の日。夕暮れの新宿にそんな叫び声が響き渡った。

 この日開催されたのは「反富裕デモ」。「反貧困」ではなく、「反富裕」。スローガンは「金持ちから取り返せ!」だ。

 実はこの言葉を巡っては紆余曲折がある。

 それは今年4月のこと。フリーター労組主催の「自由と生存のメーデー」の準備をしていた頃のことだ。会議のために事務所に行くと、メーデーのために描いた横断幕には大きく「反富裕」と書かれていた。その下には、「AGAINST THE RICH」。何気なくその写真をTwitterにアップすると、まったく予想もしていなかった展開になった。非難が殺到したのだ。

 その多くが「そんなふうに金持ちに嫉妬している奴らがいるから経済成長しないのだ」「努力もせずに怠けて富裕層を恨むなんてお門違いだ」「反富裕とか言う前に、自らが少しでも金持ちになれるように努力しろ」というような内容。

 Twitterに溢れるヒステリックとも言える言葉を見た時、軽い目眩を覚えた。今年の4月と言えば、消費税が5%から8%に引き上げられた時期。そのことがリアルに生活に打撃を与え始めていた頃、しかし人々は「アベノミクス」をおそらくまだ信じていたのである。この20年で大嘘になった「頑張れば報われる」という言葉が、アベノミクスによって再びリアリティを取り戻すのでは、景気回復の「トリクルダウン」がきっとくるのでは、という儚い期待を持つ層にとって、「反富裕」という言葉は、それらに思い切り水を差すものだっただろうことは想像に難くない。だからこそ、「怒り」は「反富裕」と書かれた横断幕をアップした私に向けられた。

「金持ちから取り返せ」!

 あれから、7ヶ月。

 「反富裕デモ」を開催するにあたっての告知やデモ中のTweetで、またまた私は「反富裕」という言葉を多くTwitterにアップした。が、驚くことに、今回はその言葉に対する批判は私の見る限り、ほとんどなかった。逆に「反富裕」に賛同してくれる人がびっくりするほど多かったのだ。

 一体、なぜ?

 そう思い、今年の4月から11月にかけてあったことを振り返ってみた。増税による景気の低迷。実質賃金の低下。また、有効求人倍率は22年ぶりの高水準と言われたものの、内実は非正規ばかりという実態がバレバレにもなった。実際、安倍政権になってから、正社員は31万人減り、非正規社員は129万人増えている(労働力調査 2014年7〜9月期平均)。そうしてトドメに来たのが11月17日に発表されたGDPのマイナス成長だ。これによって、アベノミクスの幻想は木っ端みじんに吹き飛んだ。安倍政権はこの事態を受けて解散を宣言。700億円かけて総選挙が行なわれることに多くの疑問の声が上がっている。

 そんな時に開催された「反富裕デモ」。「消費増税反対」と「派遣法改悪反対」を掲げ、「金持ちから取り返せ!」と叫ぶデモには、参加した私も驚くほどに、「そうだそうだ!」と激励の声が街頭から、そしてネット上から投げかけられた。

 化けの皮が、完全に剥がれたのだ。アベノミクスをすがるように信じてみたかった人たちの気持ちも痛いほどわかる。だけど、「社会保障にあてる」と言って5%から8%に引き上げられた増税分は、実際に社会保障費にあてられたのはわずか1割だけ。あとは法人税減税で相殺されただけだ。

 そうしてこの日のデモで、衝撃的な数字を知った。安倍政権になってから、5億円以上の純金融資産を持つ「超富裕層」の資産は、なんと29兆円も増えているというのだ(野村総研調査より)。
 また、11月23日の東京新聞では、13年時点、日本で100万ドル(現時点では1億1800万円)以上の資産を持つ富裕層は前年から42万人増え、その資産総額は127兆円も増えて総額652兆円に膨張したことが報じられた。
 私たちが「富裕」という時に思い浮かべるのは、年収700万のサラリーマンなどではない。少なくとも純金融資産1億円以上の富裕層だ。

 「我々は99%だ」というプラカードを掲げ、ウォール街の公園を格差に反対する人々が占拠したのは3年前の秋。あの運動が瞬時にして世界中に広がったのは、今、世界中で同じようなことが起きているからだ。
 世界の富の半分を、1%の超富裕層が持っているということを多くの人が知っている。アメリカでは、資産20億円以上の上位0.1%が国全体の富の20%を所有しているという。

 翻って日本では、2010年の時点で資産1億円以上を持つ1.8%の富裕層が全体の2割を超える資産を所有していると言われる。現在は上位の独占がより露骨になっているはずだ。

 そんなこの国で起きていることは何か。

 増税によって庶民の生活は圧迫され、実質賃金は上がらず、そんな人々に政府は「残業代ゼロ」まで強要しようとしている。そうして「生涯不安定雇用」を促進する派遣法改悪や国家戦略特区で「解雇し放題」を目指すという、他人の人生を「実験台」にして丸ごと台無しにするようなことを進めようとしている。
 そんな人々が「信を問う」という選挙が近づいている。面白い話だ。

 「反富裕」。7ヶ月前までは抵抗感を持たれたこの言葉が、今、人々に受け入れられるようになっている。
 もう騙されないぞ。そんな声が、今、私にはあちこちから聞こえている。

プラカードたち

 

  

※コメントは承認制です。
第317回 「反富裕」。金持ちから取り返せ! の巻」 に6件のコメント

  1. magazine9 より:

    努力不足を責めるのは簡単ですが、頑張れば報われるためには、それを支える社会の仕組みも必要です。4月から11月という短い間に「反富裕」への共感が強くなるほど、生活への危機感が高まっているということではないでしょうか。選挙費用に700億円といわれる一方、昨年から3年かけて削減されている生活保護費も700億円。一体、だれのための政治・経済なのでしょうか。この状況に意思表示ができる最大のチャンス、選挙までもうすぐです。

  2. 中条 真 より:

    この国の構造的不平等の中から生み出される富を享受しているのは、アベノミクスを礼賛する株の投資家たちだ。ツイッター上で「反富裕」のスローガンが「狂っている」などと批判しているのも主にこの連中で、ルサンチマンだなどと騒いでいる投資家もいる。株で儲けた金で慈善活動をしていると自慢している投資家などは、社会的地位を金で購っているだけではないかと批判してやると、突然キレてその拝金主義者らしい下品さを露わにした。「努力」などという抽象的な価値観念で正当化するしかない競争社会の格差と差別構造に対する闘いとして、「反富裕」を全面的に支持します。

  3. うまれつきおうな より:

    反富裕とはうまいこと言うなあ、とは思うが一つ気になることがある。それはゲーム、勝負事と聞いたとき欧米人は1人の勝者と多数の敗者を想像するが日本人は1人の敗者から多数の勝者(?)が罰として搾取する生贄イジメ型を想像する人が多いのでは?ということだ。つまり今回手の平を返し怒っている人は「自分は99%だ」と怒っているのでなく「自分を敗者扱いするとはなにごとか」「生贄は他の奴にしろ」という身勝手で傲慢な理由で怒っているだけで連帯、共生なんて全く考えてないのではないだろうか。無論どんな理由でも今度の選挙で反自民に投票してくれればそれでよし、と割り切っておられるならこんな拙文は余計なお世話だろうが「ついに民衆が目覚めた!」とか思っているなら後で落胆するのではないかと心配してしまう。

  4. 多賀恭一 より:

    税金を金持ちから取るのは当然。
    ただし、
    税金の使い道を、国民の見ている前で、金持ちに監視させる必要がある。
     
    この二つを両方とも手に入れる時、
    日本は世界で最も偉大な国になれる。

  5. 炊飯器 より:

    能力があって稼いでるのは別にいいですし、運良く株で儲ける人もいるし、
    それはそれでいいんですが、雨宮さんなどの今回の主張も正しいんです。
    うまく双方のバランスをどう取ればいいのかわからない。

    安倍総理のアベノミクスと消費税増税などで、激安食料品スーパーの値段が税込で、10~15円程上がっています。激安セールのカップラーメンを探すのにも苦労です。
    ネットの画像で、アベノミクスの例えでシャンパンタワーで一番上にワインを注いでも、
    一番上だけが、かさが大きくなり、下に降りて行かないというのが今の状況でしょう。

    コンビニも食い合いで、潰れたり新しくできたり、「最底辺の作業員の仕事」も募集が見られなくなりました。

  6. おぽ より:

    ものすごく共感して、さらっと読んでしまった。
    今回の解散もデキレースの解散がみえみえ。

    円安にして、株価を上げて景気がよくなったでしょとか…

    貿易赤字の悪い円安。
    輸入品は値上げ値上げの庶民を圧迫。

    小泉がやらかした、派遣法改正。
    残業際0??

    残業代0といえば、民主党の若い議員が「そんなにすばらしい制度なら公務員から実施してみては?」
    の問いかけに、イヤイヤとんでもないと答える姿が…

    今回の選挙は、いつも以上に考えて投票します。
    そろそろ、国民の声に耳を傾けてくれる政治化が現れて欲しいです。

    この記事を読んで少し、ほっとしました。
    ほっとしたというのは、私も含めて皆感じていることは間違っていないのかなという事です。

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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