雨宮処凛がゆく!

 2015年が始まった。

 今年は一体どんな1年になるのだろうか。なんだか年々いろんなことが良くない方向に進んでいる気がして仕方ないのだが、昨年1年での一番の収穫は、「安倍政権なんかが『女性の活躍』とか言い出したことによって、『お前にだけはそんなこと言われたくない』と様々なジャンルの女性が反発、それが大きなムーブメントになりそうなこと」である。

 もっとも大きな動きは、本サイトでも取り上げられている「怒れる女子会」だろう。私もこの間初めて参加。企画者・出演者・参加者の方々と話し、「なぜ、こんなにいろんなことを考え、動いている女性たちがお互い今まで出会えていなかったのだろう」と、出会いのきっかけを与えてくれた安倍首相に思わず感謝したくなったのだった。今年はこの動きが本格的に広まっていく1年になることを祈っている。

 さて、もうひとつ、興味深い「女性」の動きがある。それは「レッドストッキング運動」に触発されて始まった「女の平和」運動。12月25日、クリスマス。第三次安倍政権が発足した翌日、私たちは全身を「赤い服」に包み、弁護士会館に集結した。

 やってきたのは、真っ赤なワンピースと赤いタイツ、バッグ、そしてマニキュアまでをも赤一色で統一した辛淑玉さん。真っ赤な着物姿の元国立市長・上原公子さん。赤いベレー帽をかぶった教育心理学者の横湯園子さん。赤いジャケット姿の弁護士・杉浦ひとみさんなどなどそうそうたる顔ぶれ。そんな、「ただでさえ迫力ある怒れる女性たち」が真っ赤な衣装に身を包んで集結する弁護士会館に、私も真っ赤なワンピースで駆けつけた。もうこの時点で、「熱気」を通り越して「いつ引火してもおかしくない」状況である。

 さて、この日行なわれたのは、1月17日に企画しているあるアクションについての記者会見だ。その名も「集団的自衛権の行使容認反対! 戦争のできる国にしない!『女の平和』1・17ヒューマンチェーン」。

 このアクションの「言い出しっぺ」は、75歳になるという横湯園子さん。彼女とは、2012年3月11日、シカゴ大学で開催されたシンポジウムでご一緒した仲である。

 記者会見では、まず横湯さんの口から、なぜ「赤」なのかが語られた。

 それは遡ること40年前の75年、アイスランドでのこと。国際婦人年にあたるこの年、アイスランドでは女性の地位向上のために女たちが立ち上がり、家事を放棄し、大統領府前の広場を埋め尽くすという歴史的な大集会があったのだという。その時に、女たちが身につけたのがレッドストッキング。この運動は5年後、民選による初の女性大統領を誕生させ、また、86年、レーガンとゴルバチョフ米ソ両大統領による平和会談を主宰するなど大きな動きに繋がっていったのだという。 

 女性が動く時、世界が変わる。だからこそ、集団的自衛権の行使容認が閣議決定され、憲法改正を「悲願」と言い切る第三次安倍政権が発足した今、女性たちが安倍政権にレッドカードをつきつけなくては。そんな横湯さんの呼びかけに賛同した女性たちがこの日、記者会見を開いたのだ。

 アクションを思いついた横湯さんは、戦争体験者だ。そんな彼女の父親は戦争に反対し、また強制的な労働に苦しむ朝鮮の人々を支援する闘いをしてきたという。しかし、戦時中の日本でそんなことをしたらどうなるか。治安維持法で何度も逮捕された父親は、獄中で結核に侵され、29歳の若さで命を失ってしまう。横湯さんが1歳の時だった。「思想犯の未亡人」となった横湯さんの母親は、大変な苦労をして彼女を育ててくれたという。

 そんな戦争が終わって、70年。この国は平和憲法のもと、戦争をせずになんとか70年間を乗り越えてきた。しかし、今、それが根底から崩されようとしているのではないか。そんな危機感が「実際に戦争を知る人」から語られると、改めて、「今、できるだけのことをしなければ」と背筋が伸びる思いがしたのだった。

 会見では、様々な立場の女性の口から様々なことが語られた。ジェンダーや国籍といった問題もあれば、自らの祖父がニューギニアで亡くなり、お墓には砂しか入っていないと話す人もいた。いろんなテーマが語られたものの、みんなに共通していたのは、「女性の活用」と嘯く安倍政権に、女性たちがレッドカードを突きつけることの意義だった。

 そうしてこの日、「女性の活躍」の究極形とも言えるような話に衝撃を受けた。

 それは、弁護士・藤原真由美さんの話。

 安倍政権はこの年末、ひっそりとNATOに陸上自衛官を派遣することを決めたのだという。しかも、派遣されるのは女性自衛官。これも安倍政権が言うところの「女性の活躍」の一環なのだろうか。働き、産み育てるだけでなく、安全保障部門でも「活躍」を期待されるこの国の女性たち。

 これまで、女性たちの反戦運動のスローガンは「息子を戦場に行かせない」「大切な人を戦場に行かせない」というものだった。しかし、これからはその対象は娘や友人といった同性にまで広がっていくかもしれない。NATO派遣の話を聞いて、そう思った。現実は、常に私たちの想像よりも先を行っている。着々と、今、あらゆる準備が秘密裏に進められている。

 2015年、私たちの抵抗は、今まで以上に厳しいものになるかもしれない。

 だからこそ、大規模な形で安倍政権にレッドカードを突きつけよう。

 1月17日、13〜15時、何か赤いものを身につけて、ぜひ、国会前に駆けつけてほしい。もちろん女性だけでなく、男性の参加も大歓迎。

 1月17日、国会を、安倍政権への抵抗の赤で埋め尽くそう。

 詳しくはこちらで。

 もちろん私も参加します☆

記者会見前の1枚。発火寸前です。

 

  

※コメントは承認制です。
第322回 レッドストッキング〜「女の平和」1・17国会ヒューマンチェーン。の巻」 に7件のコメント

  1. magazine9 より:

    1970年にアイスランドで始まった「レッドストッキング」の運動は、1980年、世界で初の女性大統領誕生につながったのだということ、初めて知りました。なるほど「女性が動く時、世界が動く」んですね。日本でもそうなることを願いつつ、赤いものを身につけて国会前へ!

  2. とろ より:

    被害妄想というのか考えすぎというのか。
    NATOに派遣されるわけだから,凡人は送れないでしょう。あまたいる自衛官の中から女性が送られたということは,女性の地位向上に資することだと思いますよ。だいいち,この女性は,徴兵制がない現状,自らの意思で自衛隊に入ったわけですから,派遣されたことは賞賛するべきことだと思いますけどね。

    「大切な人を戦場に行かせない」・・・これ逆にとると,大切な人じゃなかったら,戦場行かされても構わないってことになるけど,いいのかな?

  3. 多賀恭一 より:

    ウーマンリブ運動、1970年代先進国で起こった女性解放運動のことだ。
    安倍総理の言動は、その言葉だけなら、ウーマンリブ運動の延長にある。
    しかし、ウーマンリブ運動は女性を幸福にしたのだろうか?
    ごく一部の、男性を拒否することを強く主張するだけの女性が主導したことに、
    致命的な問題が有ったのではないだろうか。
    今、安倍内閣の女性政策を否定する女性の意見は、ウーマンリブ運動への否定が少なくない。
    ウーマンリブ運動が間違っていたのではないが、半分に勘違いが有ったのではないか?

  4. 虹ん より:

    何かあるとビビリながら「多様性」が怖いと言う人って何かの「役割分担」のイメージなどがなかったら、自分の中が”空っぽ”になると恐れている人たちなのかな…と最近思います。「ちーちゃんはちょっと足りない」と言う最近話題の漫画を読んでその辺のジレンマみたいなのがよく捕らえられていると思いました。ところで、皆さんの赤い衣装、綺麗ですね、エネルギーが満ちて見えるので私も赤は好きですよ。

  5. うまれつきおうな より:

    女性自衛官の派遣に「ああ、やっぱり」と感じた。<女性が輝く>と聞いたときから嫌な予感はしていた。なぜなら<見栄の文化>日本(恥ではなく見栄という意見に同感する)では権利と義務のすり替えはしょっちゅうだとおもうからだ。いい例が幕末の農兵で、オッサン向け歴史本では彼らをタダ同然で戦場にかり出す(武士は報酬をもらっている)連中を、百姓に武士と同じく戦う名誉と権利を与えた先進的平等主義者、民主主義者のように称えるものばかりだ。(今年の大河ドラマが長州万歳なのは偶然か?)しかし現代の女性にこんな虚栄心をくすぐるような誤魔化しはそうは通用しないと思う。赤靴下、いい運動だと思う。

  6. トラ より:

    今、分岐点に立っている!戦前の空気を知るなら恐怖を覚えると思います。言葉尻や女性問題に矮小化した議論は意味がありません。私達の税金で私達の基本的人権が奪われつつあるのです。これ以上のブラックジョークはありません。想像力のない人々に殺されたくはありません。

  7. 高3 より:

    戦わないと守れないでしょ

    今のままではだめだから安部さんが対策してるのでは?
    領土取られてたからじゃ遅いですよ

    それに、侵略戦争できないからナチスではないですね
    選挙で選ばれた議員同士が決めあってることですからファシズムでもないですしね

    結局は消費税あげたくないから適当に理由探して叩いてるのでは?

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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