雨宮処凛がゆく!

 7月15日、衆院特別委員会で安保関連法案が強行採決された。
 その瞬間を、私は国会内で迎えた。直前に傍聴券が入手できたのだ。しかし、待合室には傍聴希望者が溢れ、中に入ることは叶わず、待合室の専用テレビで数十人とともに中継を見守った。採決の瞬間、近くにいた2人の女性が「ああ」と呻きながら涙を流した。

 この日の国会前には、怒りが渦巻いていた。猛暑の炎天下、多くの人が座り込みを続け、18時半から開催された国会前大集会には、なんと10万人が押し寄せた。もちろん私も参加した。
 いろんな思いが胸をよぎった。だけど、国会内という特殊な場所でその瞬間を迎えたせいか、私には腹が立ってしょうがないことがあった。それはこの強行採決を可能にした圧倒的な「数の力」だ。
 
 連日のように座り込みが続けられ、全国で反対デモが開催されているのに、そんなものはまったく関係ないとばかりに強行された採決。
 2013年12月6日、特定秘密保護法が可決・成立した瞬間を思い出した。あの時、私は参議院本会議の傍聴席にいた。国会の周りには1万人を超える人々が集まり、デモ隊が続々と押し寄せ、「反対」の声が国会周辺を揺るがしていた。当然、それはすべての議員に聞こえていた。なのにあの日、秘密保護法はあまりにもあっさりと可決・成立した。
 あの時、3日間連続で国会を傍聴して打ちのめされたのは、やはり圧倒的な「数の力」だ。与党の数があれだけ揃っていれば、どんなことだってできるのだ。その事実の前に、途方もない無力感が襲ってきた。その時も、思った。この状況を、自民党に投票した人はどう思っているのだろう、と。15日の強行採決の瞬間も、まったく同じことを思った。腹が立ってしょうがなかったのは、そのことだ。

 安倍政権の支持率は、ここに来て急落している。朝日新聞が18・19日に行なった緊急世論調査では支持率37%、不支持率46%。衆院での強行採決に対し「よくない」と答えたのは69%。憲法解釈を変えて安保関連法案の整備を進めていることについて「適切でない」は74%。また、安倍内閣支持者の中でも法案に反対するのは24%という結果が出た。
 熟慮に熟慮を重ねて自民党に投票した人に、私は何かを言う気はない。しかし、この数年、選挙のたびに割り切れなさを感じてきたのも事実だ。例えば12年末、民主党から自民党への政権交代が起きた時、「民主党へのお仕置きとして自民に入れた」人って、ものすごくたくさんいるように思うのだ。或いは、ガス抜きとして。しかし、それが回り回って今、「戦争法案」と言われるような法案を強行採決させる事態になっているわけである。

 「なんかよくわかんないけど選挙に行け行け言われるし、民主党ダメだったし、とりあえず自民にでも入れとくか」――そんな投票行動をする人を、私はもっとも怖いと思う。もっとも無責任だと思う。だけど恐ろしいことに、そんな人って少なくないように思うのだ。実際に、そういった台詞を耳にしたことは一度や二度ではない。 
 お仕置きやガス抜きや条件反射的思考ではなく、自らの投票行動の先に、その三段階くらい先にどんなことが起こり得るのか――。本当に熟慮を重ねなければ、この国の民主主義の機能不全と政治の劣化はより加速していくだけだ。今の状況が、選挙結果によって合法的に作られているということ。このことを、私たちはもっともっと議論すべきできないだろうか。

 一方で、直接民主主義の行使は至るところで力を増している。18日には「アベ政治を許さない」と全国で多くの人がアピールし、抗議の声は広まるばかりだ。私自身は19日、長野県松本の集会・デモに参加した。「本気でとめる! 戦争法案」と銘打たれた集会・デモには800人が参加。
 デモ前の集会では、「戦争法案反対」という趣旨に賛同して「歌わせてほしい」とギター片手にやってきた中学2年生が飛び入りで自作の曲を披露。「じゃんけん」というタイトルの曲の歌詞の由来を聞くと、「武器や武力じゃなくて、グー・チョキ・パーの3つで争いが解決されるようになればいいのに」というメッセージが込められているとのことだった。そんな少年をはじめとして、いろいろな人が様々な形で戦争法案反対をアピールした。
 ちなみにこの日は、私とともにゲストスピーカーとして戦場ジャーナリストの安田純平氏も登壇予定だったのだが、ご存知のように「シリアで消息不明か」と報道されている状況。この原稿を書いている今も続報はなく、無事を祈ることしかできないでいる。。。

 さて、衆院での強行採決後も、多くの人が廃案に向けて様々なアクションを起こしているわけだが、最近、「結構簡単にできそうで効果的」な行動を発見した。それは地域の自民党・公明党支部に質問してみること。以下、ホントに質問に行った人たちの動画があるので参考に☆

「戦争法案で自民党・公明党事務所に質問に行こう」

 できることは、まだまだたくさんある。何よりも、世論はどんどん高まっている。怒りを持つ人たちの数は、確実に増えているのだ。
 衆院委員会で強行採決がなされた15日は、東京だけでなく、大阪や札幌、京都、広島、長崎、沖縄などでも抗議行動が行なわれた。

 今、私たちは全身で、民主主義を取り戻そうとしているのだと思う。安保法制は、今からでも止められる。歴史的な闘いは、この夏、日本全土を揺らすだろう。


 7月27日、『14歳からわかる戦争のリアル』(河出書房新社)が出版されます(都内書店には25日に並ぶ予定)!
 集団的自衛権ってなに? 戦争の民営化ってなに? 「戦争ができる国」って、どういうこと? イラク、アフガン、太平洋戦争――。“戦場”を経験した人たち、それぞれのリアル。おそらく、日本で一番わかりやすい「戦争」の本。
 太平洋戦争を経験した金子兜太氏・赤木春恵氏、イラク帰還兵ロス・カプーティ氏、戦場ボランティア・高遠菜穂子氏、紛争解決請負人・伊勢崎賢治氏、韓国兵役拒否亡命者・イ・イェダ氏、元自衛隊員・泥憲和氏、戦場出稼ぎ労働を体験取材した安田純平氏が登場。

 

  

※コメントは承認制です。
第344回 強行採決に思う。の巻」 に3件のコメント

  1. magazine9 より:

    世論調査でもようやく支持が落下。しかし、こうした数字でしか市民の想いを伝える機会はないのでしょうか。紹介されている動画を観ても、党支部が地域の人に開かれている印象はとてももてません。政治との遠い距離、「なんだかよくわからないけど」で選挙に行く気持ちも、わからなくもないなと思ってしまいました。3・11以降、「民主主義ってなんだ?」とイヤでも考えさせられる機会が多くなり、市民同士での対話の機会も増えて、ようやく政治との距離が近づいてきたように思います。政治家も、そして私たちも、これを起点に変わっていければと思います。

  2. L より:

     第二次世界大戦でイギリスのチャーチル首相は、英本土がドイツの猛攻を受ける中、演説でその状況を”their finest hour”と表現しました。今、我々は民主主義対ファシズムの全てを賭けた厳しい戦いをしているが、後世の人たちは”俺たちもそんなすごい戦いに参加したかった、ご先祖様が羨ましい、あれは彼らの最良の時だった”と羨むだろうという趣旨でした。ジョンブルならではの強がりユーモアなのですが、大日本帝国を力づくで取り戻そうとしている安倍政権に対してはこの気持ちで行こうと思っています。

  3. 鈴木孝雄 より:

    年金暮らしの独居老人でして、わたしは。カンパも 儘ならず ごめんなさいね。
    少しおカネが、残ったら ちょっとづつ、雨宮処凛氏の本を買っています。古書ではなく、新刊を買うことにしています。共著も含めて、だいぶ読みました。

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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