雨宮処凛がゆく!

 安倍さん、あなたのおかげで、私は改めて憲法の大切さや立憲主義の大切さを知りました。そしてたくさんの人たちの「本気」と出会えました。この国を少しでもマシな方向に変えていきたい、そんなふうに思う人たちと繋がり、また、韓国や台湾、香港などアジアの人たちと、改めて「反戦」というテーマでの連帯を深めました。それだけではありません。フランスでも「SoLiDa」(自由と民主主義のアジア連帯)が結成され、「アベ政治を許さない」と声を上げています。
 私たちは、この数カ月、必死で学び、議論し、その果てに、「安倍晋三が一番脅威」という結論に達しました。この国に、世界中に、反戦の思いを持ち、民主主義を真摯に問い、仕事や学校やバイトや家事、子育てをやりくりしながら身銭を切って動いている人がこれほどたくさんいると知ることができたことは、私に大きな勇気を与えてくれました。この力は、近い将来、あなたにとってとてつもない「脅威」となるでしょう。安倍さん、全国の人たちをこれほどまでに立ち上がらせてくれて、本当にありがとう!

 というような感謝状を安倍さんに送りたいくらい、私は安倍さんに、「感謝」している。もちろん、最大限の皮肉を込めてだ。
 この原稿を書いているのは、9月14日深夜。
 強行採決が近いらしい、ということが言われている。
 今日の夜、国会前をまた多くの人が埋め尽くした。それはあまりにも美しい光景で、そこで叫ばれている言葉のすべては「本気」で現実と格闘するもので、あまりの熱気に何度も泣きそうになった。
 先週末の12日、13日には渋谷で「ONE PEACE FEST」が開催され、多くの人が駆けつけた。このフェスには三宅洋平氏や喜納昌吉氏、山本太郎氏などが出演。私もスピーチさせて頂いた。11日にも、国会正門前でお話させて頂いた。上野千鶴子さんや山口二郎さんのスピーチのあとに壇上に上ったのは、創価大学有志の会(安全保障関連法案に反対する創価大学・創価女子短期大学関係者 有志の会)の佐野潤一郎さん。「今日はこれだけ言いたくて来た」という佐野さんは、マイクを手にすると、叫んだ。
 「公明党よ、平和の党に戻れ!」
 国会正門前に、大きな拍手の音が響いた。

 この夏、いろんなところで、いろんな話をして、いろんな人の話を聞いた。もちろん、テーマは「戦争法案」。様々な角度からこの法案を考え、戦争について、考えた。
 戦争について考えることは、生きることや死ぬこと、そして世界のことを考えることだったのだと、改めて知った。膨大で、だけど誠実な言葉の洪水の中で過ごした夏。2015年、戦後70年の夏を、私はきっと、一生忘れないと思う。
 とうとう若者たちが立ち上がった夏。民主主義を全身で問い返した夏。「戦争」を、たぶん今まで生きてきた中で一番身近に感じ、考えた夏。
 山本太郎議員の質問作りにかかわらせて頂いたことで、改めて、12年前に始まったイラク戦争の検証が自分の中で始まった。戦後70年、ともすると「日本の夏の風物詩」となってしまいそうな「あの戦争」について、一から勉強をし直すことを決めた。沖縄のこと。アジアのこと。加害のこと。被害のこと。戦争犯罪について。ジュネーブ条約をはじとする国際条約。憲法。本当に本当に、毎日いろんなことを考えて、「自分は何も知らないのだ」ということを、改めて突きつけられた。

 そうしてもうひとつ、改めて気づいたのは、平和も民主主義も、デモができたり声を上げられる自由も、ただ黙っていて自動的に得られるものではないのだ、ということだ。
 平和の定義は難しいし、貧困や自殺、生きづらさの問題とかかわっている身からすると、今の日本が決して「平和」とは言えないと思っているけれど、少なくとも戦後の日本は70年間、「戦争を回避する」努力を積み重ねてきたのだ。このことに、今、本気で向き合っている。
 そうしてもうひとつ守り続けてきたのは、「直接民主主義を行使する自由」。
 戦後、多くの人たちの闘いの中でなんとか失われずに今日まで生きてきた権利だ。
 
 06年、自分がデモを主催する側となった時以来、私はその「デモをする権利」を先人から受け継いだのだと思ってやってきた。だからこそ、とにかくこの権利を使っていこうと思い、あえてデモをしていた節がある。「デモとか疲れるし、やんなくてもいいんじゃないの?」的な意見が会議で出た時も、いつも「いや、デモしたい!」と言い続けてきた一人だ。
 なぜなら、「今ある権利」は、使っていないとなくなってしまうことがあるからだ。だからこそ、「デモをする権利」を、時に「こんなことやっても疲れるだけかも」と思いながらも使ってきた。そうすることで、嫌でも自分や自分の周りの人たちに、「デモ」「路上での意思表示」に関するノウハウが、これ以上ないくらいにしっかりとついた。
 「今まで、迷惑とか言われながらもデモやってきて良かった!」
 心からそう思ったのは、3・11の後だ。

 そうして「デモのノウハウ」は、権利とともに多くの人に引き継がれ、今回、「戦争法案」を受けて高校生にまで広まった。
 今、私にはあまり不安はない。
 もちろん、強行採決への不安はあるが、もしそうなったとしても、私たちはこの数カ月でトンデモないくらいにパワーアップしたからだ。
 何よりも大きなことは、自分より年下の人たちの中に、心から信頼できる人がたくさんいるということだ。
 これほどに心強い状態が、未だかつてあっただろうか。
 高校生までもが、デモをする時代。
 それは最悪の状況なのかもしれないけれど、でも、私たちは声を上げる方法を、そして自分の思いを人に伝える方法を、もう知っているのだ。それをしっかりと自分の中で血肉化しているのだ。
 あとはこれを、広めるだけだ。
 これからできることはたくさんある。変える方法を、その術を、私たちは既に存分に知っている。誰もやったことがないやり方で、世界を変えられるかもしれない方法。
 
 これ以上の希望を、私は他に知らない。

国会に押し寄せる人々

 

  

※コメントは承認制です。
第350回 希望だけがある。の巻」 に5件のコメント

  1. magazine9 より:

    署名やデモ、学習会、国会傍聴、自分たちの権利について考え、発信するいろいろな手段が身近なものになってきています。今まで政治の話をしなかった友人や家族、同僚と、デモや安保法制が話題にのぼることも増えました。政治を他人事やタブーとする雰囲気が、3・11以降少しずつですが変わってきているように思います。そしてあらためて、憲法第12条「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」の文言に、自由と権利を守ってこれから先の世代へ伝えていくことが、いま私たちに求められている役目じゃないかと、その重みを感じています。

  2. Katsuyo Zengaffinen より:

    スイスから出来る事はカンパする事、署名をする事。頑張って。

  3. MT より:

    非常に共感する文章です。8/30の国会前集会に参加した時私は、同じ思いの人がこんなにも沢山居るのだととても心強かったのです。その場の熱気と法案への怒りを目の当たりにして「もしかしたら変われるかもしれない」と思いました。安倍首相は究極の反面教師なのかも知れませんね。

  4. 野々村尚史 より:

    山本太郎氏が一人で牛歩をした。山本議員は当然牛歩で法案成立を防げないことははっきり認識しているはずだ。彼の牛歩は、テレビに出まくっている国会議員の無内容な話よりはるかに意味がある。彼の牛歩戦術を冷笑する人は、自分の生の意味をつかみ取ることはできないと思う。結果がすべてだというなら、大抵の人の人生は無意味だ。自分の先祖の名前が、歴史に刻まれているという人は極僅かだろう。アメリカでも、ブッシュの軍事行動に一人で反対したバーバラ・リー氏や、太平洋戦争に反対した議員も殆ど人々に記憶されていない。本当は山本氏や、バーバラ・リー氏の様な非凡な人を記録するのが優れた歴史家のはずだが、ケネディやオバマの様なはるかに凡庸な人にばかり現代人の注意が向けられているから、後世の人にとって20・21世紀の歴史は参照される価値のない不毛なものだろう。

  5. 多賀恭一 より:

    安保法案が通ったことで中国の侵略的行為は制限され、その結果、日中間の武力衝突が回避され、安倍総理念願の憲法9条改悪は不可能になった。
    また、法解釈についても、国会周辺での大規模デモが国際的に報道されたため、アメリカから東南アジア以外への派兵要求はでなくなるだろう。
    法案成立こそ阻止できなかったが、国会前デモは最大限の効果を上げたということだ。

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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