雨宮処凛がゆく!

デモでは横断幕を持たせて頂きました。宇都宮健児さんも参加!

 「最低賃金1500円上げろ!」「パートなめんな!」「委託なめんな!」「安倍晋三から子どもを守れ!」「安倍晋三から介護を守れ!」「安倍晋三から保育士守れ!」
 
 3月9日、東京・銀座の街にそんな言葉がこだました。この日行われていたのは「パートなめんな!  最低賃金1500円デモ」。
 デモ隊から突き出されたプラカードには「どこでもだれでも1500円」「貧困なくせ」「中小企業に税金まわせ」「なくせブラック企業」などなど。
 冷たい雨が降りしきる中、集まったのは実に400人。デモの途中、先頭を進むサウンドカーの上で、「生協で配送の仕事をパートでしている」という女性がマイクを握り、言った。
 「学校に子どもを通わせる資金をどうしても用意できず、進学を諦めさせたことがあります」
 5年以上前のことだというが、彼女はその時、融資を申し込んだ金融機関の人に言われた言葉がどうしても忘れられないという。

 「『お客様のお望みの金額はお客様の年収では返済できないし、たとえお客様の親御さんの年金を担保としても、お望みの半分も融資できない』という言葉です。私はその時、パートという身分は社会的な信用を得られないのだと本当に悔しく、親として情けなく、不愉快な思いでいっぱいになりました。確かに安い給料で当時の雇用契約は1年という不安定な身分でしたが、私は仕事に誇りを持って働いていました。が、金融機関の人の言葉に誇りと尊厳を傷つけられ、私は社会的に信用のない人間なのだと気づかされました」

 その後、彼女は労働組合を通じて会社と交渉。2年前に「定年まで働き続けられる」という無期雇用を見事勝ち取ったのだという。が、現場では慢性的な人手不足が続いており、賃金もなかなか上がらない。
 女性は続けた。

 「私の親は最近、年金が下がって生活が苦しくなる一方だと愚痴をこぼしていました。今の政府は“アベノミクス三本の矢”でデフレから脱却しつつあるし景気も回復しつつあると胸を張っているけれど、私たちの暮らしの実情を見て言っているのだろうかと思います。税金は上がる、物価はどんどん上がる。お金は羽根が生えたように出ていってしまいます。本当に景気が良くなっているのなら、なぜ私たちの賃金は上がっていかないのでしょうか?」

 デモ隊から、「そうだ!」と声が上がる。

 「働けど働けど我が暮らし楽にならずというのが実情です。暮らしがこんなに厳しく大変なのに、来年また消費税が上がります。誰もが健康で文化的な生活を営む権利、誰もが等しく教育を受ける権利があるはずです。最低賃金を上げることは、命を繋ぐことに等しいほど大事です。生活をしていく上で、最低賃金1500円は必要です。私たちの切なる声に耳を傾けてください。
 2016年3月9日、貧困と格差解消のために、最低賃金1500円に引き上げることを求めます」

 「SEALDsスタイル」(サウンドカーの上でのスピーチ)で、女性は時に言葉に詰まりながら、切々と自分の境遇を訴えた。それはどれも生活実感に根ざした言葉で、説得力に溢れていた。そして私は、いわゆる「パートのおばちゃん」(なんだか失礼な言い方、すみません)のスピーチを、初めて聞いたことに気がついた。
 子どもを育てながら働き、子どもの学費を心配し、日々の生活費のやり繰りや時間のやり繰りに気を揉み、消費税増税を不安に思いながら働く女性たち。介護をしている人も多いだろう。おそらくこの国のどの層よりも、「生活」や「家計」について、実情を熟知している人たちだ。「女性の活躍」などと嘯く安倍首相がおそらくまったく知らない「普通の生活」を、日々送っている女性たち。そんな女性たちが、「パートなめんな!」「時給1500円に!」と声を上げ始めたのだ。

雨の中、続々と集まる人々。

パートで働く女性のスピーチ。本当に感動的でした!!

 ちなみにこの日のデモの主催は生協労連。生協で働く人たちの労働組合だが、組合員の7割が非正規だという。従来から非正規雇用の問題に取り組み、最低賃金の引き上げを求めて活動してきたそうだが、そんな人々が衝撃を受けたのが昨年9月、「最低賃金1500円」を求めて登場した若者たちのグループ「AEQUITAS」。彼らの運動に刺激され、このたび労働組合として「1500円」を掲げてこのデモを開催したということである。
 これは、非常に画期的なことではないだろうか。3・11後に始まった様々な運動から、日々運動は「進化」を続けているわけだが、従来から運動をしてきた労働組合が「若者たちの運動」に触発され、より広い層に訴えかけていく言葉や方法を獲得していこうとしているのだ。そしてそれはこのデモで、成功していた。

 ちなみにこの日、微笑ましかったのはなんと言ってもコーラーだ。
 「最低賃金1500円上げろ!」「上げろ!」などのリズミカルなコールが続くのだが、それを「パートのおばちゃん」たちがやるのである(男性もいた)。彼ら彼女らは「AEQUITASっぽいコール」をするため、AEQUITASのデモ動画などを見て、夜を徹してコールの練習をしたという。「シュプレヒコールではないコールをするのは初めて」ということだったが、努力の甲斐あり、「AEQUITASっぽいコール」はなかなか板についていた。時々詰まったりするのも愛嬌だ。

 デモの後半では、生協の委託会社で正社員として働く男性もスピーチ。業務の中身は生協職員と変わらないどころか「多いくらい」かもしれないのに、賃金や待遇で格差がある。生協の場合は定期昇給などがあるが、委託会社の場合は入社1年目でも10年目でも賃金はほぼ変わらない。男性は、マイクを握って、一層声を張り上げた。

 「安倍さん、あなたは同一労働同一賃金と言いますが、私のこの状況を正してくれるのですか。この日本社会では委託、請負、子会社、派遣など様々な事業者、労働者間の契約が複雑に絡み合い、雇用形態や雇用先の違いによって賃金、労働条件に大幅な格差が生まれています。銀行の窓口で働いている人のほとんどは、銀行が作る子会社から派遣される派遣労働者です。安倍さん、労働者派遣法はあなたの手によって大幅に改悪され、派遣労働者は生涯派遣で働かされることになりました。残業代ゼロ、解雇自由化を狙っているあなたが、同一労働同一賃金など、笑わせないでください。非正規や子会社、委託先で劣悪な労働条件で働くすべての労働者に謝ってください」

 「2016年3月9日、私は全国一律1500円の最低賃金を求めます」

 男性がスピーチを終えると、「委託をなめんな!」「パートなめんな!」「契約なめんな!」「派遣なめんな!」というコールが銀座の街に響き渡った。デモには、AEQUITASの若者たちも参加していた。
 
 この日から遡ること一週間前、Twitter上では「保育園落ちたの私だ」のハッシュタグが作られ、3月5日には「保育園落ちたの私だ」と書かれたプラカードを持った人々が国会前に集まった。そしてデモと同じ日には、保育制度の充実を求める3万筆近い署名が塩崎厚労相に手渡された。
 「一億総活躍」「すべての女性が輝く社会」。そんな言葉が強調されればされるほど、女性たちの「フザけんな!」「バカにすんな!」という声は大きくなっている。「最低賃金で働くの私だ」。Twitter上にはそんなハッシュタグも登場している。
 現在、最低賃金は全国平均で798円。1日8時間、月に20日働いたとして12万7680円。全国最低の最賃は沖縄、高知の693円で、この額で同じ時間働くと11万880円。これで暮らしていけるのだろうか。
 ちなみに今や働く人の4割を占めるようになった非正規雇用の人々の平均年収は168万円だが、非正規女性に限ると143万円。また、非正規の7割を女性が占めている。そんなこの国の貧困ラインは122万円ほど。貧困ラインと年収ベースで20万円しか変わらないのが非正規女性の置かれている立場なのだ。
 時給1500円。これは「法外な要求」だろうか。私にはとてもそうは思えない。なぜなら、この額で「フルタイム労働者の所定内労働時間1860時間」働いても、年収は279万円。時給1500円でも年収300万円にすら届かないのだ。

 貧困大国であり、格差大国でもあるアメリカでは、ここ数年、ファストフード労働者などによる「Fight for $15」(「時給を15ドルに!」)運動が拡大し、実際に成果を上げている。ウォルマートやマクドナルドなどで働く人々が大々的なストライキを展開し、サンフランシスコ市、シアトル市、ロサンゼルス市などで最低賃金を15ドルに段階的に引き上げていくことが決定したのだ。 
 この運動が多くの層の共感を得た背景には、ウォルマートやマクドナルドなどの経営者が莫大な報酬を得ながらも、現場労働者は最低賃金レベルで働いているという鮮やかな対比がある。そして今、そのコントラストはこの国でもより露骨になっている。「時給1500円」は、行き過ぎた格差や行き過ぎた資本主義に対する真っ当な抵抗だと思うのだ(この運動について詳しく知りたい方は、『世界』2016年2月号 高須裕彦「15ドルを求めてたたかう」を読んでほしい)。 
 
 去年の春以降、私たちは安保法制反対を巡って、様々な「等身大の言葉」を聞いてきた。デモで、国会前で、また繁華街の街宣で、特に若者たちの言葉に胸を打たれてきた。
 そして3月9日、私は、パートや委託で働く、この国を支える人々の叫びを聞いた。
 そうして、「消費者」と「サービス提供者」しかいない世界で生きているような錯覚に多くの人が陥っているこの「社会」のいびつさに、改めて愕然とした。働くという主体はなぜかいつも置き去りにされていて、消費者になった途端に尊大に振るまい、完璧なサービスを受けられなければクレームをつけるような、そんな意地悪な社会。労働者不在の社会では、長らく「時給を上げろ」「もっと働きやすくしろ」なんて言葉は最大のタブーとされ、多くの人がおかしいと思いながらも口をつぐんできた。
 だけど、言っていいのだ。言うべきなのだ。なぜなら、私たちは消費者である前に人間だし、働いているし、それぞれ子育てや介護をしているし、病気だってするし働けない時期もある。そんな当たり前のことが理解されないから、それなのに「活躍」とかトンチンカンなこと言われるから、今、みんな声を上げ始めているのだ。

 「パートなめんな!」。そう声を上げた労働組合のデモ。Twitterではこのデモを「サンダース現象」とコメントしている人もいた。
 ここでも新しい何かが、歴史的な何かが、確実に始まっている。

 

  

※コメントは承認制です。
第369回真打ち登場!? 「パートのおばちゃん」たちも「最低賃金1500円」を求めて声を上げ始めた!!の巻」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    言葉遊びのような政治家のでたらめに対して、声を上げ始めた「普通の」人たち。いま、デモは特別なものではなく、意思表示の手段のひとつとして広がりつつあります。これほどさまざまなテーマで、多くの人たちが街頭に出て声を上げざるを得ないほど、いまの社会の仕組みは行き詰まりに来ているのだと感じます。そして、動き出すことで、たとえ少しずつでも何かが変わっていくはずです。

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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