雨宮処凛がゆく!

 怒濤のゴールデンウィークだった。

 4月30日には早稲田大学で開催されたシンポジウム「戦争と学生」に出演。5月1日は「自由と生存のメーデー2016」に参加、司会をした。3日の憲法記念日には福島で講演させて頂き、4日は神戸でイラク支援を続ける高遠菜穂子さんとトーク。5日は元自衛官の泥憲和さんと姫路の憲法集会で対談し、6日には大阪で「戦争のリアルと貧困のリアル」と題した集会で、再び高遠さんと対談した。また、8日には阿佐ヶ谷ロフトで開催された「漆黒のブラック企業『アリさんマークの引越社』の真実」のイベントに出演した。

 おおむね晴天に恵まれたゴールデンウィーク。多くの人がバーベキューをしたり観光に出かけたりと楽しげに過ごしているっぽい中、戦争や貧困の話ばかりし、高遠さんの持参したイラクのあまりにも悲惨な映像に言葉を失いながらも、やはり充実した日々だった。一緒になんとか変えていこうという志を共にする人がたくさんいること。そんなことを改めて確認できた。

 さて、そんなゴールデンウィーク直前、「少年サンデー」という漫画雑誌で新連載が始まったことをご存知だろうか。
 タイトルは「あおざくら 防衛大学校物語」。

 物語は、3・11の光景から始まる。
 「3・11 その時、国は動いた。市民を守るために。災害派遣、領土防衛、テロ問題、国際援助活動。この物語は国の防衛を志した、若者たちの青春の物語」
 そしてページをめくると見開きでタイトルと主人公の顔がドーンとあり、こんな文章が躍る。
 「防衛大学校 それは、自衛隊幹部養成のための士官学校。日本一厳しい大学校で若き防人のヒナ達が、魂燃やす」
 
 そうしてシーンは高校の進路指導室に移る。主人公は高校生の近藤勇美(このネーミング・・・)。勇美の前に座る先生は残念そうな顔で言う。
 「お前の頭なら早慶狙えるんだがなー。どうしてもダメか?」
 その言葉に、勇美は答えるのだ。
 「勉強したいのは山々ですが あいにく自営業のウチには・・・学費がありません・・・」
 先生は奨学金についても触れるものの、「学費を返すあてなんて・・・むしろ、若干でも家に入れたいくらいなのに」と勇美少年。勉強ができて親思いの「非の打ち所のない」少年である。

 そんな勇美少年は親がやっている食堂の手伝いもよくする好青年だ。ある日、一人で店番していると3人の男がやってくる。「進路決めた?」と勇美に問う彼らは、「防大なんか、向いてそうだけどなぁ!」とさり気なく勧めたりもする。もちろん、彼らは自衛隊。しかもその中の一人はもともと子どもの頃から知っていた「桂木さん」だったのだ。が、逞しく成長した姿にそうとは気づかなかった勇美。
 「東北の震災とか大活躍で、ちょくちょくTV写っててよー、立派になって」。そんなふうに語る父の言葉に、「桂木さん」へのリスペクトは大きくなっていく。高校を出て自衛隊に入り、誰かのために目的を持っている桂木さん。自分はずっと勉強をして、この先何をするのだろう。
 「何かでっかいことをしてやりたいって・・・誰かのために・・・そして自分のために・・・」

 そんな時、都市開発で来年には店をたたむことを知らされる。少しはお金が入るものの、店の借金にあてるのでほとんど残らない。進学は絶望的。幼馴染みの女の子には「一家心中」を心配される始末だ。そこで先生が持ってきたのが防衛大の資料。「桂木さん」が言っていた大学だ。学べる内容は国際関係学、安全保障学、航空宇宙工学、防衛学など。偏差値60以上を超える難関大学だが、「ここは受験料・入学金・学費が全て・・・0。入学した段階で、特別職国家公務員の身分となり毎月手当がもらえる」。
 その言葉に勇美は「タダで大学入れてお金が貰えるの!?」「いくら!?」と身を乗り出す。
 「月十一万一千八百円、手取りで九万一千円くらいかな。夏冬ボーナスが年額三十五万二千円か・・・」
 勇美は決意する。「これは・・・なんとしても受かってやる!!」
 そうして第1話にて勇美は防衛大に晴れて合格。
 「それじゃ・・・お国のために、励んできます。なんてな」と家を出るところで1話は終わる。

 さて、ここまで読んで、どう思っただろうか。
 安保法制を受け、多くの人が問題としてきた「経済的徴兵制」。それが全国のコンビニで売られている漫画雑誌にて、これほどライトに描かれているのである。誤解がないように言っておくが、防衛大や自衛隊が悪いと言っているのではまったくない。この漫画を批判するつもりもない。が、安保法制が成立し、施行され、奨学金に苦しむ大学生の存在が社会問題となり、そんな「奨学金を返済できない」人々を防衛省でインターンさせたらどうかという話が文科省の有識者会議で出て、「奨学金をエサに若者を軍隊に勧誘するアメリカと同じじゃないか」という批判を浴びたなどという経緯がある中で、このようなとてもよくできた漫画が雑誌の巻頭50ページを独占して連載をスタートさせているという現実に、なんだかクラクラしているのである。

 少年サンデーは、多くの中学生や高校生が読んでいる。全国、どこのコンビニでも売っている。「経済的徴兵制」なんて言葉を知らない若者も、少年サンデーは知っている。その影響力は、SEALDsや学者の人々をもってしてもおそらく太刀打ちできないだろう。
 第1話のラストでは、防衛大内でのいじめを予感させるようなシーンも盛り込まれている。
 この漫画がどんなふうに展開していくのか、注目していきたいと思っている。

 

  

※コメントは承認制です。
第376回「学費がタダでお金が貰える!?」〜ライトな経済的徴兵制を描く『あおざくら 防衛大学校物語』〜の巻」 に7件のコメント

  1. magazine9 より:

    どういう意図で、この漫画の新連載が始まったのかはわかりませんが、何とも言えない不安を覚えます。巻頭50ページという力の入れようも気になります。知らず知らずのうちに、「お国のため」を美化する社会の雰囲気がつくられていった戦前。軍国主義の宣伝に漫画が使われた時代のことが、思わず頭をよぎりました。TVや漫画などマスメディアが発信する情報のあり方に、もっと注意を向ける必要があるかもしれません。

  2. AS より:

    少年サンデーは、「ファントム無頼」を連載してたこともあります。
    ファントムとはもちろんF-4ファントム戦闘機のこと。
    舞台は空自百里基地、第305飛行隊。

  3. Masayuki Kida より:

    自衛隊はかねてよりあまりに日陰の身に甘んじすぎてきた。国防とか安全保障とかの問題を、中学生高校生くらいから「考えるヒント」を与える漫画の連載は必ずしもネガティブにのみとらえるべきではないと思う。これは安全保障に限らず、外交や内政問題でも同じ。漫画で世論喚起はあってよい。「クニミツの政(まつり)」とか「沈黙の艦隊」「ジャポニカの歩き方」など良作はたくさんある。

  4. Atsushi Saitou より:

    劇場版名探偵コナンが実質自衛隊宣伝アニメ映画になった事も関連があるのだろうか?
    防衛省と小学館の蜜月関係?

  5. moriemon より:

    優秀な若者が生活苦から防衛大学校へ行く。ほとんど戦前ですね。勉強を続けたい優秀な若者なら、国や自治体が学費を免除する、これが先進国の常識であり将来への投資です。若者が生活苦で学べなくなり軍隊に入らざるをえないような国は典型的な“後進国”です。

  6. asa より:

    かつてのアメリカにしても、多くの若者が自らの意志でアメリカ軍に入隊することについては、かまわないものの、これがベトナム戦争で、サイゴン市内の飲み屋や売春宿にプライベートで出入りする分には構わないものの、中国がこれを逆手に取って、大量の麻薬をタダ同然の値段で横流しをして、これに手を出してしまったがために、麻薬中毒となり、戦線を離れて生きて帰国することが出来たのは良かったものの、麻薬に手を出したことが忘れられず、麻薬依存症となり、家族もまた共依存状態となり、これがフードスタンプ受給者になってしまった、なんていうことになれば、中国にしてみれば、大日本帝国軍性奴隷制度の前科を悪用して、アヘン戦争の前科がある英国の猿真似をしたというのも真実に近いのではないかと見破れば、さすがに、日本にしてみれば褒められたものではないこちょは当たり前のことですが、韓国がフランスをロールモデルとすれば、この戦前の日本をナチスドイツに置き換えれば、ドイツやイタリアにしても、これと同じことを繰り返せば、容赦なく、コケにされたところで、反論の余地はどこにもないことは、日本にとっても当たり前のことですよね。
    ましてやアメリカにしてみれば、イギリスにしても、これを逆手に取られれば、容赦なく一億総懺悔と同様のことになるのは、誰が見ても明らかなことだし、反論の余地はどこにもないことは、アメリカにせよ、イギリスにせよ、日本にとっても当たり前のことだということにこそ、くれぐれも留意すべきことであることは言うまでもありませんね。

  7. ぷぷぷ より:

    「この漫画がどんなふうに展開していくのか、注目していきたいと思っている。」

    その後、どうなったか注目されましたでしょうか?

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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