雨宮処凛がゆく!

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8月27日の「ツイッターデモ」にて。

 民主党の代表選が終わった。

 というか、気がついたら勝手に始まっていてあっという間に終わった印象だ。

 代表に選ばれたのは野田佳彦氏だが、代表選の話が浮上してから終わるまで、一貫してずっと気になっていたことがある。それは今後の日本を考える上で決して外せない「原発」問題に関しての言及が想像以上に少なかったことだ。

 例外として、今まで菅元首相の「脱原発」に引いていた海江田氏が突然「40年以内に原発ゼロ」などと言い始めていて驚いたが、例えば今回代表に選ばれた野田氏は代表選当日の演説で、私の見た限りでは一度も「これから原発をどうするか」について触れなかったように思う。この一点だけ見ても、なんだか随分この国に住む人の感覚とはかけ離れたところで代表選が始まり、そして終わったという印象は拭えない。

 さて、そんな野田氏と言えば「増税」という言葉が浮かぶが、とりあえずもう決まってしまったのである。無理矢理期待してみると、今回の代表選でも「中間層の没落」問題に何度か触れていたことに注目したい。例えば出馬会見で、野田氏は以下のように述べている。

 「『国民の生活が第一』という民主党の理念は、中間層の厚みを増していく政治だ。だんだんと格差が拡大し、中間層からこぼれた人がはい上がって来られない状態が続いている」(朝日新聞2011/8/27)

 また、週刊金曜日8月26日号の編集長後記には、野田氏のブログから以下のような文章が引用されている。

 「子どもの貧困は発展途上国や敗戦直後の日本の社会問題ではなく、極めて今日的な問題だと認識しなければなりません。だからこそ、『子ども手当』や『高校の無償化』は断じてバラマキではなく、必要な投資だととらえるべきです」

 ほうほう。これだけ見ると思わず期待値が上がってしまいそうになるが、野田氏の本気度はこれから拝見させて頂くこととしよう。

 さて、代表選は終わったが、気になるのはやはり「5人連続で短命政権」という現象である。新しい首相が誕生するたびに極端に支持率が上がり、あとはひたすら下がり続けるという状況がずっと続いている。そして支持率がある程度低下するたびに、まるでガス抜きのように「やめろ」という世論が形成され、明確なビジョンもないままに「次の誰か」「新しい誰か」が待望される。そうしてその「誰か」が現れた時、瞬間的には高い支持率を叩きだすものの、あとはまったく同じシナリオ。これがもう5人連続で続いているのである。

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カッコいいパンクスさんたち。

 もちろん、短命政権には様々な理由があるわけだが、それを補完してきたうっすらとした気分のような「世論」が少し、不気味でもあるのだ。

 そんな「短命政権」と「それを無意識に下支えする世論」という現象について、何か明確に名指す言葉が必要ではないかと今、考えている。しかし、一言で言い表せるような言葉はなかなか見つからない。きっとこれを名指すことができたら、「1年ごとに首相が変わり、残るのは政治不信ばかり」というような状況をほんの少し、打破することができる気がするのだ。誰か頭のいい人、発明してくれないだろうか・・・。

 さて、そんな代表選の10日ほど前の8月17日、福島の子どもたちが衆議院第一議員会館を訪れ、原子力災害対策本部や文部科学省の担当者などの「偉い大人」たちに直接、自分たちの思いを伝えるという集会が開催された。

 私はこの日、帰省していて集会に行くことはできなかったのだが、のちにこの日手渡された手紙を入手。そこには「わたしはふつうの子供を産めますか? 何さいまで生きられますか?」「いつになったらほうしゃのうは、なくなりますか?」「僕は、大人になれますか?」といった切実な声が綴られていたのだが、もっとも胸を打たれた手紙の一部を紹介したい。福島県に住む13歳の女の子が書いた手紙だ。以下である。

 「福島の子供たちがプールにも入れず、マスクをして登下校をしているこの状況を安全だと言い張る政府に私はとても疑問を感じます。今まで法律で決まっていた数値を何十倍にも引き上げて、それが安全だと言われても、私には信じられません。そんなやり方は私たち中学生の間でも通用しないでしょう。福島県民よりもお金のほうが大切なのですか。

 大人が勝手につくった原発で、なぜ、福島の子供たちが被曝しなくてはならないのか、なぜ、こんなつらい目にあわなくてはいけないのか、これほどの事故が起きても、どうしてまだ原発再開を目指すのか、私にはまったくわかりません。

 このような状況で総理大臣が替わっても、良い国がつくれるとは思いません」

 この作文を書いた女の子は、6月に転校して友達ともバラバラになったのだという。同じ学校では、その前後に何人もの友達がやはり転校していったのだという。そんな彼女は手紙で、こう訴えている。

 「私たちが学校の友達とみんなで一緒に安全な場所に避難できるよう、真剣に考えて下さい。そしてみんなが避難している間に、学校も田畑も森も山も川も、福島県全域を徹底的にきれいにする計画をたてて、それを実行して下さい。

 私の友達を、仲間たちを、絶対に誰ひとり傷つけないでください。

 私たちが将来、本当に安心して暮らせるように、今できる最大限の努力をしてください」

 さて、こんな福島の子どもたちの声に、野田氏はどう答えるのか。

 ちなみに野田氏の原発に対するスタンスは、朝日新聞8/27夕刊の「公約骨子」によると「安全性を確認した原発の活用で電力の安定供給を確保」というもの。

 これから、じっくり注目したい。

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でんこちゃんが呟くプラカード。

 

  

※コメントは承認制です。
第201回 代表選、終わる。の巻」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    まさに「気が付いたら終わっていた」代表選。
    野田新首相の誕生となりましたが、
    これでまた政権への支持率はにわかに上昇…なのでしょうか?
    原発の問題について、被災地復興について、そして貧困問題について…
    山積みの課題に新政権がどう向き合っていくのか。
    きっちりと見て、考えて、声をあげていかなくてはなりません。

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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