雨宮処凛がゆく!

 この原稿が公開される頃には、すでに成立していると思われるカジノ法案。

 この法案に、あなたは賛成だろうか? それとも反対だろうか?

 賛成意見としては、「経済効果」などが挙げられるのだろう。が、私はある冊子を読んだことによって、この法案に明確に反対の立場となった。それはNPO法人ビッグイシュー基金が発行している『疑似カジノ化している日本 ギャンブル依存症はどういうかたちの社会問題か?』(2015年8月)と『ギャンブル依存症からの生還 回復者12人の記録』(2016年8月)。

 ビッグイシューとは、ホームレスの自立を支援するため、ホームレス状態の人が街頭で販売している雑誌である。このビッグイシューで私は2006年から連載をはじめ、今も「雨宮処凛の活動日誌」を月に一度、連載している。

 そんなビッグイシューがなぜ、ギャンブル依存症問題に取り組んでいるのかと言えば、他ならぬビッグイシュー販売者をはじめ、ホームレス状態の人々の中に、ギャンブル依存症と見られる人が多い、という理由だ。また、ホームレスの人の自立を支援する際、ギャンブルなどの依存症が最後まで高い壁となってしまうという。ホームレスの人々と日々関わっているビッグイシュー界隈の現場の人々から浮かび上がったのが、「ギャンブル依存症」という問題なのである。

 さて、それではギャンブルと依存症を巡る実態について、基本的なところから紹介したい。引用するのは、『ギャンブル依存症からの生還 回復者12人からの記録』の「はじめに 人とギャンブル」という文章だ。著者は精神科医の帚木蓬生氏。

 まず、パチンコ、スロットが全国津々浦々まで店舗展開しているこの国だが、一体どれくらいの数の店があるのだろう。

 実態はと言えば、「コンビニのローソンよりも多く、全国に1万2000館あります。ギャンブルの機器の台数では、世界720万台の3分の2が日本に集中しています。朝は10時から夜も10時まで開店していて、冷蔵庫つきのロッカーや託児所を備えているホールも珍しくありません。ATMの設置もほぼいきわたっています。窮極の至便性と安楽性が実現されているのが、パチンコ/スロットなのです」

 世界のギャンブル機器の3分の2が日本に集中しているとは、驚きの数字である。では、そんなこの国でギャンブル依存症になっている人はどのくらいいるのだろうか。

「日本のギャンブル障害の有病率は、厚生労働省助成の研究班による調査で明らかにされました。2008年の調査で5.6%(男性9.6%、女性1.6%)、2013年の調査で4.8%(男性8.7%、女性1.8%)です。この結果から厚労省は2014年8月、国内の有病者数は536万人と発表しました。ちょうど北海道の人口と同じです。
 この有病率は、イギリスの0.5%、スペインの0.3%、スイスの0.8%、スウェーデンの0.6%、カナダの0.5%、米国の0.42%と比較すると桁違いの高さです。アジアでもマカオが1.8%、シンガポールが2.2%にとどまっています」

 海外と比較しても、ダントツに高い依存症率。この冊子にはそんなギャンブル依存症となった12名の体験談が掲載されているのだが、あまりにも壮絶だ。一読すれば「カジノ解禁」なんて悪い冗談にしか思えないのだが、このたび、2年前に廃案となったカジノ法案が再び登場した。なんとかできないものか…。

 そう思っていたところ、日頃から貧困問題で質問してくれたり、また質問作りに協力したりという共闘関係の山本太郎参議院議員が、所属する内閣委員会でカジノ法案について質問をするという話を聞きつけた。これは、この2冊を読んでもらい、質問に使ってもらわなくては! ということで、ビッグイシュー基金の冊子を大推薦したというわけである。

 質問当日の12月8日、私は内閣委員会を傍聴した。

 議員立法なので、傍聴席のすぐ近くにこの法案を提出した議員たちが居並んでいる。自民党の細田博之議員や日本維新の会の松浪健太議員、また、すぐ近くには菅義偉官房長官もいるではないか。

 そんな居並ぶ議員たちに、山本太郎議員は最初の質問として、「カジノでの思い出」を聞く。しかも「一番儲けた時」と「一番負けた時」。

 質問に、居並ぶ議員たちは順番に答えていくのだが、ほとんどの議員の、「カジノはあまり経験がない」という答えに思わず椅子からずり落ちそうになった。じゃあなんで議員立法までしてカジノを作りたいの? 思わずそう突っ込みたくなるのは私だけではないだろう。しかも細田議員に至っては、別に誰も聞いてないのに「自分はゲーム依存」とちょっと誇らしげに言ったりとか、カジノ経験があるという人も「儲からないことはわかってる」「負ける」とか、カジノにロクな思い出はないようである。

 さらに日本維新の会の小沢鋭仁議員に至っては、「カジノをするという話があまり好きでない」などと、「じゃあなんでここにいるの?」というような自己矛盾発言。が、言ってることとやってることが違うというのは永田町ではよくあることなので誰も気にしない。

 で、これに対する菅官房長官の答えと言えば、ラスベガスと韓国で遊んだことがあるという。

 「ラスベガスは私一回しか行っていないんですけれども、行った時に、カジノのその賭博ということじゃなくて、ああ、アメリカという、その奥の深さというんですかね、そういうのに非常に感動したことを覚えています」

 ラスベガスに「アメリカの奥深さを見て感動する菅官房長官」。なんだか菅氏の答弁を聞いて、「昭和のオッサン的な感動だなー」と遠い目になった。ちなみに私はカジノという場所のセンスがどうにもこうにも苦手であるのだが、最近、いい比喩を思いついた。なんだかあの空間って、アメリカ次期大統領トランプ氏っぽいではないか。80年代とかの絶妙のダサさとでもいうような。

 さて、そんな菅官房長官に山本議員は「ビッグイシューを知ってますか?」と聞いたのだが、「よく知りません」という答え。そうか、普通に東京で生活してたらどこかの駅で絶対目にするわけだが、電車に乗ることなんてそもそもないもんな、と妙に納得したのだった。

 そうして山本議員は、『ギャンブル依存症からの生還』から実例を紹介しつつ、質問を進める。

 20代男性、Bさん。高校生で初めてパチンコをし、パチンコにお金を使うために万引きをするようになる。専門学校に入った後は消費者金融に手を出すようになり、親や友達からも借金を繰り返す。その果てに、コンビニ強盗で逮捕。

 40代女性、Eさんは育児ノイローゼがきっかけでパチンコにハマり、そのうちにボーナスや貯金、子どもの学資保険にも手をつける。それだけでは飽き足らず、生命保険を解約し、婚約指輪を質に入れ、実家の仏壇からお金を盗み、パチンコにつぎ込んでしまう。

 また、別の40代女性は消費者金融で借金をしながらパチンコを続けるも、そのうちそれでは間に合わなくなり、パートの合間に売春をしながらそのお金でパチンコを続けるようになる。

 それ以外にも、自殺を考え、遮断機をくぐって線路に入った人の話や、ギャンブルで借金が3000万円にまで膨らんでしまった人の話、会社のお金1500万円を横領してしまった人の話など、衝撃的な実例が続く。ここに登場した人々は、それぞれ回復施設に繋がり、「生還」した人々だ。しかし、それは非常に「恵まれた」ケースと言えるだろう。

 山本議員は、ギャンブル依存が「脳の機能変化」によって引き起こされるという専門家の意見を引用しつつ、カジノ解禁の危険性に迫っていく。そしてこの日、衝撃だったのは、政府参考人として登場した、警察の人の答弁だった。山本議員が「ギャンブルに特化した犯罪件数」を尋ねると、その数は、2015年だけで1702件。いわゆる刑法犯の犯罪動機のうち「賭博・パチンコをするための金欲しさ」の件数を総合したものだという。

 もうひとつ、悲しい数字もあった。それは毎年のように夏になると報道される、「パチンコ屋の駐車場の車に子どもを放置し、熱中症で死亡させてしまった」という事件。山本議員の事務所で一紙の新聞で確認したところ、07年以降、この手の事件は報道されただけで73件あるのだという。

 「だらしない親だ」「親は何をやってるんだ」で済まされる話ではない。これこそが、依存症の怖いところなのである。いけないとわかっているのにどうしても止められない。この国では未だに依存症に対し、「意志の力でなんとかなる」と精神論でブッタ斬る人が少なくないが、それでも止められないのが依存症なのである。いや、私自身も少し前まではよくわかっていなかった。そんな私が認識を改めたのは田代まさし氏が2度目の逮捕となった際。依存症に詳しい人は、言った。

 「意志が弱い」とか「ダメな奴だ」とかそんなことを言う人がいるが、それこそが依存症の症状であり怖さなのだ、と。本人がどんなに意志の力でやめようと思っても、コントロールできないのが依存症。ダメだとか弱いとか甘えているとか、そういう問題ではないのだ、と。

 質問の最後に、山本議員は政府として、ギャンブル依存症に対する具体的な取り組みやフォローがあるかを尋ねた。答えはというと、公的に運営されているものはゼロ。数少ない民間団体に頼り切っている状態だ。

 推定536万人と言われるギャンブル依存症。今でさえ、公的な取り組みはないに等しく、世界一ギャンブル機器の多い国でギャンブルは野放しにされ、当事者の多くはそれが病気だということもわからず苦しみ、周りを巻き込みながら人生を破綻させているのに、なぜ今、カジノ解禁なのか。

 ちなみにカジノ法案の質疑の前に、カジノで106億8000万円を失った大王製紙三代目・井川意高氏の『熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録』(双葉社)も読んだ。依存症の恐ろしさが、当事者の臨場感溢れる描写でよくわかる。

 最後に。別になくても不便じゃないし生活に支障なんかないのに、「経済効果」のために「一部の人(家族含め)が絶対不幸になる政策」を推し進めるのって、もう止めにしませんか?

 この国が進もうとする方向は、いつもなんだかズレている。

 

  

※コメントは承認制です。
第398回カジノ法案とギャンブル依存症。の巻」 に9件のコメント

  1. magazine9 より:

    本当に…「いつもなんだかズレて」いる気がします。この山本議員の国会での指摘は、東京新聞でも「死に物狂い 泣きながらパチンコ ギャンブル依存症の体験談」というタイトルで取り上げられています。駅前にパチンコ店が軒を連ねるような状況を放置して、「自己責任だ」と言ってみたところで何も解決しません。こうした日本での深刻なギャンブル依存症への理解もないまま、カジノ法案を通してしまうことに、議員は鈍感すぎるのではないでしょうか。コラムで紹介されているビッグイシュー基金の冊子は、無料(送料のみ負担)で手に入ります。お問い合わせは、冊子名のリンク先まで。

  2. 樋口 隆史 より:

    本当に、余計なことする前にやることあるだろ、この国の悲劇のひとつは支配層が市井の人々の生活についてまったく理解出来ていないし、また学ぼうともしていないことです。なんとなくカジノ法案に賛成した議員の皆さんの中からも、依存症になってしまう方も何名か出てくると思います。そうなってからやっと公的に救済する仕組みを慌てて作り出すのでしょうか。

  3. ろばの子 より:

    「いつもなんだかずれている」というより「いつも酷(むご)くて、とことんずれまくっている」気がします。。。山本議員のような議員がもう少し出るように、我われ有権者がしっかりしないといけないですね。「文七元結」のお久みたいな娘を出してはいけない! 

  4. PUNKちぇべ より:

    円安誘導、オリンピック、万博ときて、今度はカジノですか…。あぶく銭を欲しがる経済界に忖度し過ぎでしょう。国家百年の計とは言わないまでも、もう少しパースペクティブがないものか? 科学者や技術者を過度に優遇するようになった(らしい)北朝鮮の方が、まだ先を見据えていると感じます。

  5. 鳴井 勝敏 より:

     歌舞伎の世界に近づきつつある国会。家業となりつつある国会議員。世襲議員が増え、政治志望者が政治に魅力を失ってしまった。そのツケは一般市民が負う。          統治機構の役割は何か。議員は何のために統治機構に身を置いているのか。羅針盤が壊れてしまって様な国会である。しかし、この構造からの脱出は、主権者の一票しかない。

  6. ハザマ より:

    でもさ、自分からギャンブル場行くやつ仕方ないんじゃないですか?
    半分は自業自得ですよ。
    甘すぎ。

    • 東條健司 より:

      私は12月15日から毎日、「亡国の法案 カジノやめよ」「自民と維新は カジノやめよ」というA3のボードをリュックにいれて、パチンコ屋の前で
      1日1時間ほど立っています。反応があります。今日で1月12日になります。1人で自由な空いた時間に欠かさずやっています。

      • kumataro より:

        カジノよりパチンコや公営ギャンブルの方が悪質。
        カジノ反対の方々は、並行して、現行のギャンブルに対する取締りの見直しを叫ばなければならない。
        なぜなら、今、苦しんでいる依存症の原因は、「パチンコ」「公営ギャンブル」なのだから。

  7. kumataro より:

    カジノを先につくり、ギャンブルに非日常性を持たせた国だから、日本よりも依存症がはるかに少ない。逆に、日本はパチスロに公営ギャンブル(宝くじ、toto、競艇、競馬等々)と、日常空間でギャンブルが可能であるがために依存症が多いのではないでしょうか。

    日本では、公営ギャンブル(宝くじ、toto、競艇、競馬等々)が多く、それらに日常的に触れる機会が多いから、「一攫千金」という思考を持ちやすくなるのでは。更に言うと、そうした思考が身につきやすいことにより、パチスロという、より身近で危険なギャンブルに手を出すようになるのではないでしょうか。

    日本の一番の問題は、ギャンブルというものが、非常に少額で行なうことが可能であり、日常の生活空間に侵食し、「持たざるもの」を搾取するためのものではないでしょうか。

    翻って、カジノはどうか。私的イメージでは、「お金持ち」の娯楽です。もちろん、お金が無い人でも、やる人はいるでしょう。
    しかし、雨宮氏が挙げているように、カジノがある国のギャンブル依存症率は低いです。これは、「カジノ」が非日常空間であるためではないでしょうか。そのため、日本の公営ギャンブル、パチスロとは違い、たいていの人にとっては、日常と線引きして遊ぶことが可能なのではないでしょうか。

    ギャンブル依存症は問題です。しかし、依存症とカジノ法案を結びつけて、反対するよりも、むしろ、カジノ法案を利用して、「ギャンブル」は非日常のものであり、「一攫千金」をするものではないという思考を広めることはできないのでしょうか。

    また、依存症に対して問題意識があるのならば、現状のパチスロ・公営ギャンブルを日常から切り離す努力を先にしていただければと思います。

    追記
    尚、私は、宝くじ含め第三者が胴元となるギャンブルは一切しません。なぜなら、そのような「一攫千金」思考こそが、ギャンブルに限らず、人を破滅に導くものだからです。
    (胴元がいる時点で、どう考えても、賭け金の6割以上は徴収されるわけですから、胴元が存在するギャンブルに取り組むこと事態が不可解でしょうがありません。)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

最新10title : 雨宮処凛がゆく!

Featuring Top 10/273 of 雨宮処凛がゆく!

マガ9のコンテンツ

カテゴリー