雨宮処凛がゆく!

 4月1日、新しい年度が始まるこの時期、原発事故で避難指示が出ている地域にも様々な動きがあった。

 1日には福島県の富岡町での避難指示が解除。その前日の3月31日には浪江町、飯館村、川俣町で帰還困難区域を除いて避難指示が解除。対象となるのは3万2000人。1日には浪江町で、JR常磐線が6年ぶりに運転を再開した。

 本来であれば、喜ばしいことである。が、年度を区切ったその日から、避難指示が出ていた地域が「安全」になるのか、疑問を持つ人は多いはずだ。

 「週刊金曜日」(3月31日号)には、グリーンピース・ジャパンの鈴木かずえ氏による「避難指示解除の飯館村、恐るべき推定生涯被爆線量 住民の『帰らない権利』奪うな」という記事が掲載されている。

 この記事では、避難指示解除を受けてグリーンピースが生涯被曝量を推定した結果が公表されている。なぜ、グリーンピースがこのような調査をしたのか。それは「国はこの推定をしていないためだ」。まずこの事実からして驚愕ではないか。戻ったら生涯どれくらい被曝するかの推定もせずに、国は「大丈夫だから戻れ」と言っているのである。「被曝も自己責任」と言っているに等しい。

 さて、調査結果はと言うと、今年3月31日から70年間の累積線量は、もっとも多いケースで183ミリシーベルト。民家での数字である。

 「なお、これには事故直後の莫大な被曝量、今後の除染による放射線量の増減、森林からの放射能による再汚染、吸入や食品からの内部被曝は入っていない」

 また、調査した民家の中にはこれまで3回の除染を行なったものの、毎時3.3マイクロシーベルトが計測された場所もあった。この値は、放射線管理区域の基準(毎時0.6マイクロシーベルト)の5倍にもなる。問題なのは、「こうした被曝リスクについて、住民には一切説明されていないこと」。

 それだけではない。

 「避難指示解除後1年で賠償も打ち切られる。賠償が打ち切られれば、帰りたくなくても帰らざるをえない村民もいるだろう。政府は、村民の放射線管理区域に相当する地域に帰らない権利まで奪ってはならない」

 避難指示が解除され、帰還への圧力が強められているのは避難が強制されていた地域に住む人々だけではない。年度末の3月31日には、自主避難をしている人たちへの唯一の支援策だった住宅の無償提供も打ち切られた。福島県によると、県内外へ自主避難しているのは約1万2000世帯。自主避難している人の8割が4月以降も避難を続ける意向だというが、家賃負担は重くのしかかる。このままでは「避難を続けたいのに帰らざるを得ない」人も今後増えていくだろう。

 避難を続けたい人がいるのに、支援を打ち切る。生涯被爆線量の推定もせず、住民への帰還を促す。その背景に浮かび上がるのは、「原発事故をなかったことにしたい」という国の思惑だ。2020年に迫ったオリンピックのために、「もう問題ないですよ。安全ですよ。ほら、みんな元通りの生活をしています」と言いたいがために。避難した人、しない人、そのどちらにも手厚い支援がなされるべきなのに、「復興」を世界にアピールするためのオリンピックの方が優先されているという転倒。

 そんなこんなについて考えていた4月1日、福島の若者たちが出演する演劇を観た。

 タイトルは『U235の少年たち』。

 U235とは、ウラン鉱石だ。戦時中、福島県の石川町では、原爆開発のためにウラン鉱石の採掘が行われていた。その作業に動員されていたのは、福島の中学生たち。終戦の年の4月から8月15日まで、石掘りに動員させられた。演劇はその当時の様子と、原発事故後、除染作業をする現代から構成される。

 戦時中も、原発事故後も、スコップでひたすら土を掘り続ける人々。戦時中は、ウラン鉱石を掘って「新型爆弾」を作り、お国に貢献するために。そして原発事故後は、放射能が降り注いだ大地から汚染を取り除き、「復興」に貢献するために。

 演じるのは、この春から高校に進むという女の子をはじめとした若者が中心だ。作・演出の大野沙亜耶さんは、震災の時、19歳。福島出身ではないものの、震災後に活動を始めたNPO「はっぴーあいらんど☆ネットワーク」と交流があったようで、「同世代の子たちと共に作った舞台」だという。舞台では、3・11後の様々な葛藤が語られるシーンもある。

 小学生で3・11を迎えたという女の子は、あの日以来、「県産の牛乳を飲むな」など、日常生活のこまごまとしたことに口うるさくなった母親が嫌になったことを語り、その他にも、放射能について語れない空気や避難した子どもへのいじめなどの問題が舞台上で語られる。

 印象的だったのは、「前を向いて復興しろ」という空気への強い反発だ。本当は大丈夫じゃないのに、「大丈夫」と言わなきゃいけない。そうして「大丈夫」と言っているうちに、問題はないことにされていく。だから「大丈夫」なんて言っちゃいけない。でも。だけど。福島で生きる若者たちの葛藤が、台詞だけでなく、力強いダンスでも表現される。放射性廃棄物を入れる真っ黒なフレコンバッグの前で、叫び、踊る若者たち。彼らの身体や息づかいの狭間から、あの日までの「福島」が、幾度も顔をのぞかせる。そして、奪われたものの大きさも。

 戦争のために、ウラン鉱石を掘らされた戦時中の若者たちと、国策である原子力政策の犠牲にされた福島。その両方を演じる福島の若者たち。

 『U235の少年たち』は、昨年福島で上演され、東京公演は4月1日、2日の2日間だけだった。

 ぜひ、全国で、そして海外で上演してほしい。

 福島で生きる若者たちの今を伝えること。そしてそこから、私たちが考え、語り合うこと。震災、原発事故の「風化」が進む中、若者たちの迫力に圧倒されながら、「この6年」について、改めて思いを馳せたのだった。

 

  

※コメントは承認制です。
第411回避難指示解除、住宅無償提供打ち切り、そして福島の若者たちによる『U235の少年たち』の巻」 に4件のコメント

  1. magazine9 より:

    「国は私たちを見捨てた」という区域外避難者の言葉が何度も浮かんできました。3・11から6年、本当の意味での「復興」は、まだ見えません。
    コラムにもあるように、国際環境NGOであるグリーンピース・ジャパンが、福島県飯舘村で放射線調査を実施しました。その報告書『遠い日常:福島・飯舘村の民家における放射線の状況と潜在的生涯被ばく線量』のPDFが、サイトからダウンロードできます。

  2. PUNKチェベ より:

    日本政府の対応は問題外だが、グリーンピースの調査というのも、「70年で183mSvというと年平均2.6mSv程度であり、全日本人の平均1mSvと比べて格段に多い値ではない」と思われる危険性がありそうだ。放射性物質は時間経過とともに指数関数的に減るものなので、今と70年後では年間被曝量は4倍ほども違うはず。 早期帰還ほど危険性が高いのに、政府の態度は無責任極まる。

  3. James Hopkins「反戦ネットワーク(2002/08)」賛同 より:

    シリア情勢続報:
    ”シリアにおけるガス攻撃”について”RT”の関連記事から
    “Rebel warehouse with chem weapons hits by Syrian airstrike in Idlib — Russia MOD”4Apr.2017/RT
    によると、
    シリアのイドリブ”ガス攻撃”とされるものは、反政府派武装勢力が化学兵器製造および保管倉庫としていた施設がシリア軍による空爆で破壊されたことによって発生したものとされている(ロシア国防省報道官イゴル・コナシェンコフ)。またイドリブで製造されていた化学兵器と同じものがアレッポを占領していた武装勢力戦闘員によっても使用されていたとのこと。昨年12月中のアレッポ解放作戦時にロシア軍専門工兵部隊によってその兵器サンプルが押収されている。
    ときにシリアのイドリブで製造された化学兵器はイラク領内に輸送され”ISIL/ISIS”の戦闘部隊によって使用されているとのこと。このことはこれまでにイラク政府ならびに国際調査機関の両者によって確認されているとのこと。

  4. James Hopkins「反戦ネットワーク(2002/08)」賛同 より:

    シリア/イラク情勢について:
    この4日に生じたシリア・イドリブでの”ガス攻撃”とされるものについてだが、これについてはダマスカス発信の詳細報道として、つぎの記事がある。
    “Jumping to conclusion;something is not adding up in Idlib chemical weapons attack” 4Apr.2017/AWN(Damascus,Syria)
    この記事によると、イドリブのKhan Sheikoun(カーン・シェイコン)のミサイル工場をシリア軍が空爆したとのこと。”AMN”取材担当者へのシリア軍当局からの通告によれば、空爆作戦時においてシリア軍はこのミサイル工場に化学兵器関連物質が貯蔵されていたかどうかについては不明であったとのこと。また空爆作戦にはロシア製戦闘機”Su-22″が使用されたが、Su-22搭載仕様の爆撃弾には化学兵器弾頭は装填できないと説明報告されているとのこと。
    また、アレッポ解放以後、いわゆる”ホワイトヘルメット”はアルカイダ系テロリスト戦闘団と作戦指令部を共有していることが知られるようになったが、現地住民や複数の戦闘部隊、またクルド人民兵戦闘員をあわせた皆すべてが、イドリブ、ハマ、アレッポの各地で作戦を展開するテロリスト戦闘グループがこれまでの間に化学兵器を使用してきたことを公言主張しているとのこと。
    一方で、シリア共和国政府軍がわは、この”ガス攻撃への関与断定”への応答として、北部ハマ地方に展開中のシリア軍部隊は化学兵器の使用を否定し、わが軍は”化学兵器を使用しないし、したこともない、これまでにおいても、またこれからにおいても”としている。
    記事のなかでは、また、先週”マジュダル”と”カッターブ”の地から250名ほどの子どもたちがアルカイダ・テロリストによって誘拐拉致されたことが知られており、現地情報によると、直近の化学兵器”ガス攻撃”による死者の多くがこのマジュダルとカッターブから誘拐された子どもたちであると指摘されているとのこと。
    ときにイドリブは、さきの”アレッポ解放作戦”終結後、シリア政府軍がわへの降伏武装解除を拒否したテロリスト武装勢力戦闘員らが集団移送された土地である。

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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