雨宮処凛がゆく!

 8月の国会で、山本太郎議員が6つの質問主意書を提出した。

 「柏崎刈羽原発再稼働に関する質問主意書」

 「東京電力が第三者機関として用いる分析会社の正当性に関する質問主意書」

 「環太平洋パートナーシップ(TPP)協定及び日米並行協議に関する質問主意書」

 「地域別最低賃金に関する質問主意書」

 「生活保護制度に関する質問主意書」

 「生活困窮者自立支援法に関する質問主意書」

 質問主意書の数は、国会議員の中で山本議員がダントツトップ。さっそく始動しまくっていて心強い限りなのだが、この6通のうち、3通の質問主意書作りに関わらせてもらった。

 最低賃金と生活保護、生活困窮者自立支援法についての3つだ。

 で、この質問主意書は8月6日に提出され、13日に内閣の答弁書が来たのだが、私的には大ヒットとなる答弁があり、「質問主意書って、なんか面白い!」「運動に使える!」と思ったので、そんなことを今回は書きたい。

 ちなみに質問主意書とは、国会議員が内閣に対して質問する際の文書。内閣の見解をただすものというか、まぁ一言で言うと「このことどうなってんの? どう考えてんの?」といちゃもんをつけるもの(だと思う・・・、たぶん)。で、内閣はこのいちゃもんにたいして答弁しなくてはいけないのである。

 で、何がヒットだったのかというと、それは「最低賃金」に関する質問。

 最低賃金については、「政府は『人たるに値する年収』ってだいたいいくらくらいって考えてんの?」「国連の社会権規約委員会から日本の最賃低すぎるって勧告受けてんだけど、どう思ってんの?」というような質問をしたのだが、3つ目に、ある「合意」についての質問をしたのだ。

 それは2010年6月、政府と産業界代表、労働界代表の中でなされた合意についての質問。「雇用戦略対話」の中でこの時、最低賃金について2020年までに「できる限り早期に全国最低800円を目指し、景気状況に配慮しつつ、全国平均1000円を目指す」という合意が成立しているのだ。

 これに対し、この目標を政府は今も掲げているのか、掲げていない場合、政府として新たな目標やタイムスケジュールを設定しているのか、と問うたわけである。

 で、この質問、ちょっとした「賭け」だった。なぜならこの合意がなされた2010年は民主党政権。「政権変わったので知りません!」と言われてしまったらアウトである。実際、6月にある団体が厚生労働省交渉に於いてこの合意について問うたところ、「政権が変わったこともあるし、合意の扱いがどうなるかは私たちは知りません」という答えが返ってきていたのだ。

 しかし、答弁書では、以下のような答えが返ってきた。

 「御指摘の雇用戦略対話会合においてされた最低賃金引上げに関する目標の合意については、その後、合意の当事者である政府、労働界及び産業界の代表等の間で、見直されていないところである」。

 おお! この合意、バッチリ生きていたのである!

 答弁書は、以下のように続く。

 「政府としては、最低賃金を引き上げていく環境整備のためにも、平成25年6月14日に閣議決定した『経済財政運営と改革の基本方針』及び『日本再興戦略』に基づき、企業の収益を向上させ、それが雇用の拡大や賃金の上昇をもたらすような好循環を生み出すよう、努めてまいりたい」

 なんだか最後の方は「賃金上がるかどうかは結局企業の収益次第なんですけどねー」的な言い回しだが、この答弁に、私はなんだか感動した。なぜなら、最低賃金の引き上げは反貧困運動などがずっと求めてきたことだからだ。が、実際は、最賃は微々たる額しか上がっていない。しかし、今度から「最賃上げろ」と要求する際に、「こういう合意があるんだから、2020年までには1000円にしなくゃいけないのだ!」と堂々と主張できるのである。この答弁書によって、そのお墨付きを頂いたようなものなのだ!

 ちなみに2020年までに全国平均1000円となるためには、毎年36円ずつ最低賃金がアップしていかなければならない。しかし、今月発表された最賃引き上げ額の目安は全国平均で14円。全然足りないのである。

 安倍政権はデフレ脱却のためにインフレ政策をとり、既に物価は上昇し始めている。また、政権は6月に閣議決定した成長戦略に、「最低賃金の引き上げに努める」と明記している。14円という額が妥当だとはとても思えない。

 そんな「妥当と言えない」根拠のひとつを、私たちは山本議員の質問主意書によって得たというわけである。

 なんか、質問主意書って、面白い。

 今回、その作成を手伝わせてもらい、返ってきた答弁書を読み、「これってむちゃくちゃ運動に使えるツールじゃん!」と確信した。答弁書を読み解いていくと、また次に質問すべきことが次々と浮かんでくる。ひとつひとつは地味な作業だ。だけどこの経験を通して、私にとって「国会」は随分身近なものになった。

 ちなみに山本議員の質問主意書と答弁書の解説は、「質問主意SHOW!」という動画にまとめられる。おそらく近々「新党 今はひとり」のサイトなどで公開されるはずだ。私も出演しているのでぜひ見てほしい。

 とにかく、山本太郎という一人の議員の誕生によって、「ど素人がみんなで一から国会の仕組みを勉強していく」という環境が整いつつある。これってものすごい地殻変動ではないだろうか。

 今後も、国会に様々な声を届けるための橋渡しをしたい。

 そう考えると、無性にワクワクしてくるのだ。

 またまた山本太郎議員と。議員会館で「質問主意SHOW!」の収録。
「ちょっとHな話」というのは内容とまったく関係ありません笑。

 

  

※コメントは承認制です。
第271回 質問主意書って面白い!!
の巻
」 に5件のコメント

  1. magazine9 より:

    国会が身近なものになった、という雨宮さんですが、
    その体験をこうして読んでいるだけでも、
    ちょっと国会が、政治家が身近な存在に感じられそう。
    国会は決して「遠い場所」ではなく、私たちの「代表」が、
    私たちの生活にも直結するさまざまな問題を討議する場所。
    そんな当たり前のことを、再認識させられます。

  2. 牛丸修 より:

    「ちょっとHな話」って「ちょっとハッピーな話」っていうこlとだよ。勘違いしないでね。

  3. 花田花美 より:

    プライバシーを暴く報道に負けないで

     適齢期に結婚した後、子供を授かり、家族円満順風満帆な人々はすばらしいですが、みんながみんなそうなれるわけではありません。多くの人は家庭に多少の問題を抱えています。離婚等、他人に触れられたくないプライバシーもあるでしょう。
     山本太郎議員のプライバシーを暴き出す品性下劣な報道に疑問を感じます。私は、同世代の参院候補が原発問題等をしっかり勉強しながら自分の言葉で有権者に熱意をもって伝えていく姿勢を支持していました。それは報道があった後も変わりません。プライベートがどうであれ、政治家は政治の仕事をきちんとやってくれればそれで良いと思います。まだ始まったばかり、今後の仕事に期待します。逆境を火に注ぐオイルに変えて、最後まで走り抜けてほしいです!
     雨宮さんがこの連載などを通して、政治家の仕事に着目し、その業績をわかりやすく生き生きと多くの人に伝えることは、バッシング報道の迎え撃ちになると思います。

  4. 虹ん より:

    雨宮さん元気ですね、私はしっかり夏バテしてます。(夏の暑さに耐えて涼しくなってから来る反動を本当の夏バテと言う説があります)
    >「ど素人がみんなで一から国会の仕組みを勉強していく」という環境が整いつつある…
    とても良いですね!私もど素人だから是非学びたいです、そもそも政治に「プロ」なんてないですよ、「人の心」を学んでまとめるのは一生勉強です。(笑)

  5. 遊佐貞明 より:

    山本太郎さん、雨宮処凜さん、楽しみにしています。

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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