雨宮処凛がゆく!

嘘つきの人の顔です。

 「オリンピックはいらない!」
 10月20日、東京・渋谷にそんなコールが響きわたった。
 この日行なわれたのは、「お・こ・と・わ・り 2020年東京オリンピック返上デモ」。
 ご存知の通り、首相自らが国際オリンピック委員会の総会で「汚染水は完全にコントロールされている」などの大嘘をのたまい、開催地が日本に決定したという2020年のオリンピック。
 この決定は、日本政府だけでなく、世界がこの国の原発事故による汚染の隠蔽に総力を挙げようという方向に向かおうとしているようでゾッとしたのだが、とにかく、このままいけば7年後には東京でオリンピックが開催されるのである。
「だけどオリンピックでいろいろ盛り上がるし、いいことじゃん!」
 そんな意見の人も多いだろう。

雨の中、デモに出発!

 その気持ちも、もちろんわかる。私自身もいわゆる「平時」だったら「別にいいのでは」とスルーしていたかもしれない。
 しかし、オリンピックに莫大な税金を使うのであれば、まずは被災地の復興や原発事故の収束、そして補償などにお金を使うべきではないのだろうか。東京がオリンピックに盛り上がれば盛り上がるほど、被災地が「置き去り」にされていくという構図は、火を見るよりも明らかだ。
 と、そんなふうに一人悶々としていたところに飛び込んできたのがこのデモ情報である。
 これは行くしかない! と20日正午、渋谷に向かった。
 この日はあいにくの雨。集合場所に着くと、土砂降りの中、たくさんの人たちがプラカードを掲げてデモ出発を待っていた。
 「迷惑施設に3000億円? フザケルナ」「五輪予算で子ども避難を!」「五輪返上してそのお金を原発被災者へ」「東京五輪どころじゃないことに気づかぬ振りはやめようよ!」
 そうして先頭のサウンドカーの横断幕には「ビンボー人を町から追い出すオリンピックやめよう!」
 そう、被災地置き去りの問題だけでなく、オリンピックなど「世界からたくさんの人が日本に来る」時に、必ずされることがある。それは「野宿者の排除」だ。「景観」などを理由に、彼らは街から徹底的に排除される。そんな危機感があるのだろう、この日は野宿者らしき人の姿もデモ隊の中にちらほら見えた。
 渋谷を出発したデモ隊は、コールを上げながら青山方面に進む。
 「セシウムだだ漏れ オリンピック」「公園なくすな オリンピック」「野鳥の敵だ オリンピック」(葛西臨海公園の野鳥がくる場所がオリンピックの競技場として再開発されるらしく、野鳥が来る場所がなくなる)「誰のためなの オリンピック」「金持ち儲かる オリンピック」「税金使うな オリンピック」「野宿者追い出し オリンピック」「被災地ドン引き オリンピック」「汚染水放置の オリンピック」「被曝をごまかし オリンピック」「選手にパワハラ オリンピック」「バリアフリーは今やれ パラリンピック」「団地を壊すな オリンピック」
 こうしてざっとコールを並べただけでも、そのバリエーションに驚きだ。環境保護の視点もあれば、被曝隠しの問題もあり、税金無駄使い系もある。なんだかいちゃもんのつけようが無限にあるではないか。今、こうしてコールを書き起こしてみて、改めて「オリンピックはなぜ今、東京で開催される必要があるのか」という謎が更に深くなった。

このマーク、いい。

 また、この日のデモでは、オリンピックによる再開発によって壊される建物がたくさんあることを知った。
 例えばオリンピックスタジアムに隣接するアパートの取り壊しが一方的に決められているというし、国連大学そばの「こどもの城」も再開発でなくなる予定なのだという。
 「子どもの夢」を強調するオリンピックが、再開発のために「こどもの城」を潰すという皮肉。
 ではこのオリンピックについて、国会議員の反応はどうなのかというと、15日の東京五輪とパラリンピックの成功に向けて政府に努力を求めた国会決議の採択で、ただ一人反対したのは山本太郎議員。
 「汚染水問題など、お金を使うところに使わず、はりぼての復興のために五輪をやろうとしている。うそまでついて招致したのは罪だ」と述べている(東京新聞 2013/10/19)。
 これを読んでいる人の中には、なんとなく「オリンピック、いいじゃん☆」と思っている人も少なくないと思う。
 これらの状況を鑑みて改めてどう思うか、ぜひ、意見を聞かせてほしい。
 というか、「オリンピック反対」とか言うと「なんにでも反対する人」的レッテルを思い切りはられてしまう予感が満載だが(もう既にそう見られている可能性も高いわけだが)、3・11以降、私は決めたのだ。ちょっとでも「嫌だな」「おかしいな」と思ったら、ちゃんと声を上げておくこと。それを自分に厳しく課したのだ。原発が爆発した瞬間のあの後悔を、もう2度と味わいたくない。だから私は、デモに参加して「オリンピックいらない!」と声を上げた。
 こうして意思表明し続けていくことが、たぶん、重要なのだと思う。

デモ中。

 

  

※コメントは承認制です。
第276回 「オリンピックはおことわり」デモ。の巻」 に5件のコメント

  1. magazine9 より:

    東京オリンピック、あなたは賛成? 反対? もちろん両論あると思いますが、招致演説における安倍首相の明らかな「嘘」がそのまま放置されていることは、やっぱり納得いきません。「反対票を投じた国会議員がたった1人だった」ことにも、どうにも違和感を覚えるのですが。ちなみに文中にある、オリンピック開催に伴う「野宿者排除」については、先日『週刊SPA!』に、「すでに始まっている」との指摘が掲載されていました。ご一読ください。

  2. 高梨徹 より:

    制御する、コントロール、という言葉は定性的な言葉ではなく定量的な言葉でございます。
    一定のレベル以下なら制御されているのです。
    あなた達がどれだけ騒ごうとも言葉の定義は変わらないのです。

    じゃあ制御されていないものは何だ?ですけど、それは中国のPM2.5です。
    あなた方はまずあの制御されていないものに文句を言うべきではないでしょうか。

  3. ピースメーカー より:

    >こうして意思表明し続けていくことが、たぶん、重要なのだと思う。
    もっと重要なのは、雨宮さんの意思表明が一般的な日本国民の多くを共感させられるのかどうかだと思います。
    雨宮さんに対して、「なんにでも反対する人」的レッテルを思い切りはりつけるのがごく一握りの人々ならば問題は少ないでしょうが、思いつきはりつけないまでも、一般人が雨宮さんの意見表明を聞いて、「ああ、なんにでも反対する人なんだな…」と見做すのが大半でしたら、その意見表明はただの騒音(ノイズ)にしかすぎないでしょう。
    まずは、福島県民の安積咲さんのブログから、「私たちは、武器でも鎧でもない」という記事を紹介します。
    http://blog.goo.ne.jp/asakasaku/e/0ce5c4e884bcd497051c7cd2045a9735
    「何度でも言うが、私の、私に共感を抱いてくれた人たちの声は、どんな主張であれどその誰かを補強するための鎧でもなければ、叩きたい誰かを攻撃するための武器でもない。」
    人間性の本質を突いた、鋭い指摘だと私は思います。
    このような意思表明をする安積咲さんに、雨宮さんは共感させられる意思表明ができるのでしょうか?
    もし、共感させられる意思表明ができるとの確信がおありならば、雨宮さんの意思表明は私だけでなく、数多くの人々に共感を抱かせるものであると思います。

  4. 花田花美 より:

    複数か所から高濃度汚染水がじゃぶじゃぶ漏れていても、一定のレベル以下ならコントロールされている・・・
    よくもそんな屁理屈を思いついたものですね・・・。
    その官僚的頭の良さに脱帽です。
    きっと原発容認派はこういうテクニックを使って、普通の人たちをだまして危険な原発を動かしてきたのですね。

    東電、汚染水流出認める 3号機の湯気 周辺高い放射線量
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/condition/list/CK2013072702000166.html

  5. 15万人の避難者を尻目に五輪?はないですよ。ならば7年計画を具体的に示してからにして欲しい。復興予算もデタラメに使い信じることできません。放射能汚染水は事故後から海水を汚染していたし(港湾内のアイナメが証人ならぬ証魚)コントロールされていないのは周知の事実。ウソをついてまで五輪を誘致したいその理由はなんでしょう?そのウソに騙されたふりをしたオリンピック協会は?オリンピック経済効果期待のみなさん、言葉も大事ですが、その言葉の裏付けとなる行動にもっと目を向けてはいかがでしょうか?

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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