雨宮処凛がゆく!

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「反貧困ネットワーク」記者会見の模様。
左から宇都宮弁護士、「もやい」の湯浅誠氏、
「首都圏青年ユニオン」の河添誠氏。後ろに私。

 6月6日、弁護士会館にて、「反貧困キャンペーン」の記者会見をしてきた。
 3月24日、「もうガマンできない!広がる貧困 〜人間らしい生活と労働の保障を求める3.24東京集会」という集会が開催され、私も実行委員の一人だったのだが(いったいいくつの運動の実行委員をやってるんだ?)、この実行委員の人々で「反貧困ネットワーク」を作ろうという動きがあり、その記者会見が行われたのだ。
「反貧困ネットワーク」の顔ぶれがすごい。代表は「全国クレジット・サラ金・商工ローンの金利引下げを求める全国連絡会」代表幹事、「全国ヤミ金融対策会議」代表幹事である弁護士の宇都宮健児氏。事務局長には、「自立生活サポートセンター・もやい」の湯浅誠氏。会員には、シングルマザー団体、働く女性の全国センター、派遣労働ネットワーク、東京精神医療人権センター、フリーター労組、グッドウィルユニオン、首都圏青年ユニオン、生活保護裁判を支える会、ホームレス総合相談ネットワーク、障害者団体などなどが並ぶ。この動きの背景にあるのは、それぞれの分野の問題の根に「貧困」がある、という問題意識だ。
 そして現在、貧困状態に追いやられている人の上には、借金の問題と(非正規など)労働の問題、福祉の問題(生活保護申請の水際作戦など)が複合的に襲いかかっているという現実がある。労働問題だけを解決しても救えない。逆に借金だけ解決しても、非正規雇用やシングルマザーなどであれば、ふとしたことからまた多重債務に陥るような構造が既にできあがっている。だからこそ、それぞれの分野で活動しているプロフェッショナルたちが「反貧困」を合い言葉に大同団結したのだ。

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「反貧困」のマーク。おたまじゃくしみたいな
キャラクターには「ヒンキーくん」という名前がついています。

 7月1日には、社会文化会館にて「もうガマンできない!広がる貧困 〜人間らしい暮らしを求めてつながろう」と題する集会を開き、終了後デモに繰り出す予定だ。第1部では「作られた対立を超えて」というテーマで、年金生活者と生活保護受給者、正規労働者と非正規労働者、給食費を払えない家庭と学校教師などなど、当事者からの発言が行われる予定となっている。「作られた対立を超えて」というのは、要するに正社員がフリーターをバッシングしたり、非正規雇用者が生活保護受給者をバッシングしたりと下への発散が強まる中、その対立を超えていこうという主旨だ。現在、生活保護基準以下で働くワーキングプアが話題となっているが、ワーキングプアが「自分たちは働いているのに生活保護より低いとは何事だ」と生活保護受給者をバッシングすれば、「生活保護費が高すぎるのだ」と引き下げられる要因になりかねない。求めるべきはまず、生保引き下げではなく最低賃金の引き上げだ。「作られた対立」の構図にハマると、結果的には自分の首を絞めることになる。1日の集会にはぜひ参加してほしい。

 さて、そんな記者会見の翌々日はネットラジオ「雨宮処凛のオールニートニッポン」公開生放送。「フリーターの希望は『戦争』か?」というタイトルで、「31歳フリーター、希望は、戦争」の赤木智弘さんと、「フリーターズフリー」を創刊した杉田俊介さんとトークライヴ。立ち見が出るほどの超満員の観客の中で行われたトークライヴは、ネットラジオで生中継された。こちらから聴けるので、聴いてほしい。ちなみに今回、印象的だったのは、赤木さんの希望する戦争は、「宇宙人が攻めてくる」ような戦争でもいいという発言だ。常々、彼の希望する「戦争」の「実態のなさ」について考えていたのだが、宇宙人もOKというところに何か救いを感じた。また、本番で喧嘩になったらどうしようと心配していた赤木さんと杉田さんは微妙に意気投合しているように見え、かなりお互い理解が進んだのではないかと思う。
 全員75年生まれの私たちは、自らのフリーター経験から、フリーター問題にそれぞれの立場でアプローチしている。3人とも、自らの不安定な経験から、社会や政治について考えざるを得なくなった。フリーターを階級として、構造的に生み出されたものとして、そしてネオリベラリズムの問題としてとらえざるを得なくなった。思想が先行したのではなく、自らの生活体験から始まった政治への疑問。今後、2人が「オールニートニッポン」での出会いを経て、どう変化していくのか、していかないのか、非常に楽しみである。

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「オールニートニッポン フリーターの希望は『戦争』か?」
より。お客さんからの質問を真剣に聞き、
考え中の赤木智弘さんと杉田俊介さん。

 そしてその翌日、プレカリアート関係の小さな集まりに参加した。深夜まで若者たちと語り合い、やはり「希望は、戦争」の話題になった時、誰かが言った。「なんで『希望は革命』じゃないんだろう?」。別の誰かが言う。「革命って、なんとなく無理っぽいんだよね」「むしろ戦争は『無理』ではない」「そうそう、すごいリアリティがある」「だって戦争、明らかに近付いてるもん。国民投票法とか憲法改正とか」「リアリティがあるからこそ『希望は、戦争』って言葉にドキッとしたんだよね」。酔っぱらった頭で話を聞きながら、10年前と比べて、本当に「戦争」が近くなっていることを、実感として、はっきりと感じた。今さら何を言っているのかと突っ込まれそうだが、頭ではなく、「実感」として、初めてそれを感じたのだから仕方ない。それは、自分がなぜここまで「希望は、戦争」という言葉にひっかかっていたか、明確にわかった瞬間でもあった(ホント今さらって感じだけど、私の中では大きなことだったのだ)。
 リアリティのない、なんとなく無理っぽい「革命」と、全然無理じゃない、むしろ放っておいたらすぐそこまで近付いてきそうな「戦争」。深夜まで、私たちはそんな話をした。

※6月18日、午後6時30分より渋谷FORUM8、661号室にて、イベント 「生きさせろ!」を開催します。出演は私、池田一慶さん(ガテン系連帯)、河添誠さん(首都圏青年ユニオン)、今野晴貴さん(NPO法人POSSE)、湯浅誠さん(NPO法人もやい)というオールスター揃い! 詳細はこちらで

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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