雨宮処凛がゆく!

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左から「POSSE」の今野さん、私、「もやい」の湯浅さん、
「ガテン系連帯」の池田さん、「首都圏青年ユニオン」の河添さん。
なんかみんな、パッと見全然ジャンル違うところが面白い。

 6月18日、渋谷で「生きさせろ!〜新しいネットワークの構築に向けて〜」というイベントが行われた。出演者は「もやい」の湯浅誠さん、「首都圏青年ユニオン」の河添誠さん、「POSSE」の今野晴貴さん、「ガテン系連帯」の池田一慶さん、そして私という、この5人が揃っただけで何かが起こりそうな(共謀罪で捕まりそうな?)、そんなあまりにも凄すぎるメンバーである。
 告知期間がかなり短かったのに、当日は100人のキャパの会場に150人ほどの人達が駆け付け、立ち見も出るほどの盛況ぶりとなった。その多くが若者で、こういった労働問題の集会に来るのは初めて、という人が多かったらしい。「労働問題」の集会に若者が詰めかけるという状況は、何か今のこの国を象徴しているようだ。
 私以外の4人の方々は、それぞれ第一線で活動している現場の話をしてくれた。このメンバーのほとんどは「反貧困」ネットワークにもかかわっている。この集会も「反貧困」キャンペーンの一貫として行われたのだ。

 当日の昼、私は東京地裁で行われた裁判を傍聴していた。22歳の男の子が、労災事故によって死亡した事件の裁判だ。彼は派遣労働者で、製缶工場で働いていた。この日行われた証人尋問はあまりに生々しく、派遣や請負で働く若者が現場でどれほど「軽く」扱われているか、愕然とすると同時に激しい怒りに包まれた。名前も、どこから派遣されているかもわからない派遣労働者。「外部」の労働者にあまりにも無関心な現場の正社員。集会ではその裁判にも触れつつ、話をさせて頂いた。明らかに派遣や請負だからと危険な仕事をさせられる、という話はよく聞く。命そのものまで「軽く」させられてしまっている非正規の若者たち。
 
しかし、正社員だって過労死ラインを遥かに超える超長時間労働に忙殺され、過労死秒読みだ。失業前提のフリーターと、過労死寸前の正社員。もはやこの国では安心して働けている人なんて超一部だ。プレカリアート系のMLで、そんな状態を指したこんな言葉を発見した。「カレー味のウンコか、ウンコ味のカレーか」。状況はまさにその通りである。つか、この言葉を使った人は天才だと思う。過労死か将来ホームレスかという究極の選択。「普通のカレー」はあまりにも少ない。だけど、カレー味のウンコもウンコ味のカレーも絶対に食べたくない。そして絶望的なのは、「普通のカレー」を食べられる立場は、努力なんかとは一切関係なく、もう生まれた時から既に決まっているのだ。親に資産がないと能力形成ができないという厳然たる事実を見よ。
 そんな話をすると、みんな納得してくれたようだ。フリーターに対して「頑張って正社員になればいい」とか、正社員に対して「頑張って続けろ」だとか、状況は精神論で突破できるレベルの話ではなくなっているのだ。そんな最悪の選択しかない場にいるということをまず自覚すること。そこから話を始めたい。この日、「この5人が揃ったのを見て、本当に変えていけるんだと思った」「絶対に変わらないと思ってた社会システムを変えていけると確信し、興奮した」などという熱い感想が若者たちから続々届いた。

 そしてその3日後、ホントに変わった。グッドウィルで働く派遣労働者で作るグッドウィルユニオンが、データ装備費の返還などを求めて団体交渉をしていたのだが、21日、グッドウィルは過去2年間の天引き分を返還すると発表したのだ。対象人数は80万人、総額37億円である。
 これはすごいことだ。本気でホントに動かしてしまった。小さな風穴でなく、今、労働運動がドッカンドッカンと馬鹿デカい穴を開けている。グッドウィルユニオンの委員長も「反貧困」ネットワークに参加している。20代の若者だ。彼らの取り組みが37億円のデータ装備費返還、という結果に結びつくなんて、「反撃」としてあまりにも痛快ではないか。グッドウィルユニオンはこの発表に対し、「2年の返還では不十分」と、集団訴訟も視野に入れているそうだ。ギャー!! カッコいい!! シビれる!! 「データ装備費」なんて意味不明な名目で、今まで何十万と奪われてきた人達がいる。奪われたものを奪い返して何が悪い。グッドウィルは「データ装備費」の天引きだけで年間15億もボロ儲けしているのだ。貧乏人から奪って15億だ。奪われたものを奪還せよ! グッドウィルで働いたことがある人は、今すぐグッドウィルユニオンにGO!

 そして反撃の狼煙は上がり続けている。先週一週間、なぜか「ガテン系連帯」の池田さんと集会で3回も一緒になったのだが、ガテン系連帯も団体交渉の末、「連休手当て」一人3万円、そして寮費の最大1万3000円引き下げを実現させてしまった。
 すごい。すごい。すごい。今、あらゆるところで反撃が始まっている。今、若者たちによる新しい労働運動がメチャクチャ盛り上がっている。ホントに食えないほどの低賃金で働かされる現場から、怒濤の反撃が始まっている。これってもはや一揆じゃないか? ホントに時代が変わろうとしている。これから始まることを、私はきっと、ずっと忘れないと思う。

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22日、東大で中西新太郎さんとトークしたあと、部室にて。
なぜか大根が。格差社会と若者の生きづらさについて語りました。

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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