雨宮処凛がゆく!

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「アキハバラ解放デモ」。あまりにもマヌケすぎる絵・・・。
かつて日本にこれほどくだらない「解放区」が出現したことが
あっただろうか?

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 6月27日、総評会館にて、福島みずほさんと私の共著「ワーキングプアの反撃」(七つ森書館)の出版記念イベントが行われた。この本は福島さんと私が主に若者の雇用問題について語り合った本だ。ワーキングプアや若者の生きづらさ、右傾化、憲法、過労死、過労自殺、女性が働くということ、またプレカリアートの反撃、福島さんも参加した「自由と生存のメーデー」などなど、テーマも多岐にわたっているので是非読んでほしい。帯の言葉は「生きづらいのも、貧乏なのも、けっしてあなたのせいではない」。今、私が一番伝えたいメッセージである。これ一冊読めば、今の格差、貧困問題が「自然に」作られたものではないことがつくづくわかると思う。

 出版記念イベントでは、噂の「グッドウィルユニオン」委員長、フリーター労組などなどからのアピールがあり、現場の貴重な話を聞かせてくれて、大盛況に終わった。

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福島みずほさんと。

 さて、その3日後、30日は「アキハバラ解放デモ」!! 「群像」の連載「プレカリアートの憂鬱」(「群像」7月号)で書かせて頂いた「革命的非モテ同盟」が、「革命的オタク主義者同盟」「革命的萌え主義者同盟」と「三派系全学連」を結成、アキバを解放するというデモをブチ上げるのだから、これは行かなければならない! (しかも私は賛同人)

 ちなみに「革命的非モテ同盟」とは「クリスマス・バレンタイン・ホワイトデー」を「三大白色テロル」と名付け、「恋愛至上主義、恋愛資本主義」粉砕を掲げ「万国のフラレタリアよ団結せよ」と呼びかけている。また、「革命的オタク主義者同盟」とは、秋葉原のオタクによる解放を主張、「革命的萌え主義者同盟」とは、「萌え」による人類解放を訴えているという。そんな彼らが「オタク、萌え、非モテがアキバを占拠する! 」「アキハバラを解放しカルチェラタンにしよう!」「オタクの力で革命を起こそう!」と呼びかけたのだ。

 そうして当日、デモの集合場所に行った瞬間、目の前には、あまりにもあり得ない世界が広がっていた。「萌」「革オタ同」などと書かれた色とりどりのヘルメットにサングラスにタオルという若者たちと、スターウォーズ、マリオ、悟空、軍服、メイド、ハルヒ、女装、ガンダム、ウルトラマンなどなどが勢ぞろいしているのだ。その数、ざっと300人。目の前の光景は、完全に脳の許容範囲を超えていた。この人たちは一体、何をしようとしているのだ?
「革萌同」の胸には「表現規制絶対阻止!」というゼッケン。デモ前には「我々はぁッ、表現規制、『萌え』規制に反対しぃッ!」とヘルメット姿でアジる。そうだ。このデモは憲法21条「表現の自由」を賭けた闘いでもあるのだ。なんとか自分なりにそう理解しようと思って辺りを見渡すと、プラカードにデカデカと書かれた言葉は「ハルヒ 七夕に会おう!」「ヨドバシカメラは新宿へ帰れ!」「京急は走ルンですを導入するな!! かぶりつきヲタシートを復活させろ!」などなど、まったくもって統一見解どころか問題意識の共有すらされていないっぽいところが素晴らしすぎる。そうしてワケのわからないデモ隊は、大音量でアニソンを流しながら出発!! 響き渡る「アキバ、解放!」「闘争、勝利!」というヘルメット部隊のかけ声。人気のアニソンがかかると、全員がその場で完璧な振り付けで踊り狂う。土地柄、沿道も同類なので大喜びでデモ隊にどんどん加わってくるオタクたち。沸き上がる「アキバ」コール! オタクパワー、恐るべし!! だけど「インターナショナル」には無反応!!

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デモ後の「総括」。「革非同」「革萌同」「革オタ同」、
みんな演説が素晴らしく上手いところが笑えます。

 そうして1時間のデモは終わった。デモ隊はなんと400人以上に膨れ上がっていた。とにかくこの日、アキハバラはオタクたちによって「解放」された。本当にオタク、萌え、非モテがアキバを占拠したのだ。主張が「ヲタシート復活」とかでも、とにかく「オタクのオタクによるオタクのためのデモ」が日本で初めて行われたことの意味はあまりにも大きい。今後もこの「三派系全学連」からは目が離せない。ワケのわからない奴らが堂々とのさばって世の中を乱し、騒ぐというのは今、もっともしなければいけないことだからだ。みんなも意味わかんないデモをして騒ごう!! (この日のデモの様子はこちらに素晴らしい写真、動画がありました)

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「〈反貧困〉キャンペーン」の集会は、私も呼びかけ人の一人として参加。

 そしてその翌日、社会文化会館にて「もうガマンできない! 広がる貧困 人間らしい暮らしを求めてつながろう」という「反貧困」集会が行われた。なんと参加者630人。「無年金」の方、生活保護を受けてる方、学校給食費を払えない家庭と学校教師、過労死遺族、非正規雇用者などなど、当事者から過酷な実態が語られる。その後はデモに出発だ。「シュプレヒコール」担当の私は「ニート軍団」と「生きさせろ!」「銀行は金を配れ!」と叫ぶ。「アイドルはIT社長とばっか結婚すんじゃねー! フリーター、ニートとも付き合え!」と無理難題を叫ぶニートたち。2日連続でまったく毛色の違うデモに参加し、充実した週末だったのでした。(反貧困デモはこちらで動画が観れます)

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反貧困デモ出発前、ニート軍団と。

 って、この連載改めて読み直してみても思うけど、なんか私って、毎日デモとか集会とか、遊んでばっかいるみたいだな・・・。だけど、私は一生遊んで暮らすぞ!! 過酷な「労働」で過労死しそうになったり鬱病になっている皆さん、こんな人間もとりあえず生きられているのだから、無理して働いて死なないようにしましょう。(特にアキバデモの動画を見たら、何もかもどうでもよくなるはず)

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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