注目!安保法制違憲訴訟

 「安保法制違憲訴訟の会」の共同代表を務め、マガ9でもおなじみの塾長こと伊藤真弁護士によると、「訴訟のゴールは、立憲主義と国民主権の回復。そのために違憲の安保法制を廃止させることが必要。また憲法を守ることが、国会議員の最大のコンプライアンス(法令遵守)だ。その当たり前のことを、この国に根付かせなければならない」と、この訴訟の意義を語っています。
 裁判の原告としては、戦争被害者や体験者、基地や原発の周辺住民などをはじめ、広く国民に参加してもらうことを想定し、申し立て費用や弁護士費用の負担を無償として、気軽に参加できるようにする予定とのこと。
 この裁判の意義や原告への呼びかけなど、広く市民に知ってもらいたいと考え、マガジン9でも随時、安保違憲訴訟の動きについて、寄稿をいただきながら紹介していきます。

隣人として
崔 善愛
(安保法制違憲訴訟原告)

 わたしが安保法制違憲訴訟の原告になろうと決意をしたのは、この身にせまる命の危機感からです。考えたくもありませんが、もし「有事」となれば、日本国籍を持たない者は、どの国のパスポートを持っているか、ということが命とりになるかもしれません。だからこそ、「永遠に戦争を放棄する」という一文は、何より重く、尊く、わたしにとって切実な命の保障を意味するものです。
 もし、朝鮮半島あるいは中国との「有事」となれば、在日コリアンに対して「北か南か」など、親の思想やルーツを調査されるかもしれません。冷戦はいまも在日を分断しています。どんなにこの土地に愛着を持っていようと、「反日」か「親日か」とレッテルを貼られます。すでに日本の戦争責任問題に言及する良心的な日本人への「パージ」もひどく、「おまえも朝鮮人か」などと攻撃されています。小林多喜二も横浜事件も、過去ではなくなっています。

 朝日新聞が、旧日本軍慰安婦の被害を紙面で取り上げれば、「殺す」などと脅迫され、週刊誌はそれを正当化するかのごとく、朝日新聞「売国奴」「捏造」などという見出しを出します。電車、銀行、美容院、病院などで読まれるごく一般の週刊誌の表紙に、「売国奴」「国賊」などという時代錯誤の戦中用語が踊り、それが日常的な風景となった異様な社会にわたしたちは生きています。
 週刊「文春」「新潮」の嫌韓・嫌中キャンペーンも、「ナチスに学べば」発言の麻生太郎氏も、子孫に日本の負の歴史は伝えたくない安倍晋三首相も、わたしにとっては、米国で人種差別発言をくりかえすトランプ氏となんら変わりありません。
 ソ連、中国、北朝鮮は、日本にとって理解しがたい悪の枢軸、という目線は「冷戦」そのものです。もはやそこに住むひとびとの悲しみも喜びも消されているようです。

わたしは 敵国人となってしまうのか

 真珠湾攻撃をうけた米国は、1942年、在米日系人約12万人に対し、財産を取り上げ、砂漠や寒冷地などの荒野へ強制収容しました。収容命令は、たとえ米国の国籍や市民権を持っていても、米国生まれであっても、少しでも日系の血が入っていれば、収容対象となり、日本人の血が32分の1以下で日系社会と関係ないことが証明されないかぎり、逃れられなかったというのです。
 ひるがえって日本で「有事」となったとき、在日コリアン他外国人200万人以上が、「日本人ではない」というだけで敵視され、まさか収容されないだろうか、あるいはそれぞれの国籍国に「強制送還」されないだろうか。いまの政権をみていると、おそろしい「妄想」がつぎつぎにわたしを苦しめます。
 「日本のこころを大切に」「日本の伝統や文化を重んじる」「ニッポン・がんばれ」というコールが声高に響けば響くほど、日本人ではないわたし(たち)は、ここに居てもいいのだろうか、という気がしてきます。

 自民党結党以来、その「党是」とは、現憲法を変え、明治憲法に戻すことにあるようです。なにより「天皇を元首とする」と明確に自民党改憲草案に書かれています。
 ということは、「主権在民」すら、危ういのでしょうか。
 教育基本法、周辺事態、盗聴法、マイナンバー、あげればきりがありませんが、国家が国民を縛るような法案が、つぎつぎと施行されてしまいました。いま、われわれの手には何がのこっているのでしょう。

平和と戦争は双子のようなもの

 戦後の東アジア、とりわけ日韓の緊張関係は、約60年前の「朝鮮戦争」をぬきに考えられません。日本にとって朝鮮戦争は単に「特需」で「良かった」という出来ごとでしょうか。

 1950年6月25日、朝鮮戦争が始まり、米ソの東西冷戦によって「日本再軍備論」が日米双方で高まり、その結果、自衛隊の前身「警察予備隊」が発足します。当時日本はまだアメリカ占領下、しかし朝鮮戦争のただ中、サンフランシスコ講和会議が行われ、独立を果たし祝賀ムードに沸いた日本。しかしその後も現在に至るまで、軍事的に米国の支配下にあることは沖縄のみなさんが最もよく知るところです。独立とはいったい何でしょうか。あの「沖縄密約」ひとつあげても、日米政府間の闇は底知れず深く、「国家機密」という名で、わたしたちは真実を知ることすら封じられています。
 朝鮮戦争で朝鮮の「市民」は300万人以上の死者を出し、多くの難民が出ました。わたしの父も、その難民のひとりです。
 ひとつの国が、かつては侵略され、そこから解放されるや戦争となり、同じ民族が銃を向けあった傷は、いまも深く人々を切り裂いています。その朝鮮戦争時、沖縄から多数の戦闘機が飛び、わたしの出身地・北九州市小倉の砂津港には、米兵の死体が多数運ばれ、その死臭が町にただよっていたという証言を聞いたことがあります。

 多くの死者を出した朝鮮戦争、いまも休戦状態にある朝鮮半島。その戦争のための兵器を日本は製造し、戦時「特需」は5年間で総額16億1900万ドルに達し、この国は焼け野原から「復興」したのです。隣の国の戦争の犠牲によって「復興」したことを、「特需」という言葉でくくってよいものでしょうか。この歴史、その歴史認識の延長線上に、今回の安保法制施行もあるのではないでしょうか。「平和と戦争は双子のようなもの」です。
 隣の国で血が流れていたとき、平和憲法を獲得した日本、その意味をもう一度、考えてみてください。ふたたび朝鮮戦争が起こる前に…。

 この訴訟は、わたしたちの、「政府の行為によってふたたび戦争の惨禍が起こることのないようにすることをここに決意」したものです。

 参議院選挙と東京都 知事選挙の候補者選びのまっただ中ですが(※)、わたしは「有権者」ではありません。
 しかし、「国民」であろうがなかろうが、そんなことをいっている場合ではないと自分にいいきかせています。なんとしても、この安保法制違憲訴訟を勝ち抜きましょう。
 日本が、わたしたちが、アジアの戦争ではなく平和をつくりだすために。

(※この原稿は2016年6月28日に執筆されたものです)

参考文献:『日系アメリカ人 強制収容から戦後補償へ』岡部一明著(岩波ブックレット) 『山川 日本戦後史』老川慶喜著(山川出版社)

崔 善愛(チェ・ソンエ)ピアニスト。北九州市出身、愛知県立芸大大学院修了後、米国インディアナ州立大学大学院へ3年間留学。留学の際、外国人登録書の指紋押捺拒否を理由に再入国不許可となり、14年間永住資格をはく奪された。1999年、国会参議院法務委員会で意見陳述。特別永住資格を取り戻した。著書に『自分の国を問いつづけて――ある指紋押捺拒否の波紋』(岩波ブックレット)、『父とショパン』(影書房)、『ショパン~花束の中に隠された大砲』(岩波ジュニア新書)、『十字架のある風景』(いのちのことば社)。CDに『ZAL』(ショパン作品集)、「Piano,my Identity」がある。現在、恵泉女学園大学非常勤講師、日本ペンクラブ会員。

プロフィール写真/山本宗補

 

  

※コメントは承認制です。
隣人として 〜崔 善愛(安保法制違憲訴訟原告)」 に1件のコメント

  1. 鳴井 勝敏 より:

    >「日本のこころを大切に」「日本の伝統や文化を重んじる」「ニッポン・がんばれ」というコールが声高に響けば響くほど、日本人ではないわたし(たち)は、ここに居てもいいのだろうか、という気がしてきます。
    そんな辛い思いをさせているとは。私は韓国法曹界視察に参加しました。中国スタディツアーにも参加しました。そこで学んだことは、国の対立がイコール国民の対立ではない、といことであリます。寄稿文を読んで触れ合うことの意義を改めて感じました。                  >「国民」であろうがなかろうが、そんなことをいっている場合ではないと自分にいいきかせています。なんとしても、この安保法制違憲訴訟を勝ち抜きましょう。日本が、わたしたちが、アジアの戦争ではなく平和をつくりだすために。
     本当にそう思います。 チエ・ソンエさん寄稿文ありがとうございました。一緒に頑張りましょう。

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