伊藤塾・明日の法律家講座レポート

2014年10月25日@渋谷校

「けんぽう手習い塾」でおなじみの伊藤真さんが主宰する、資格試験学校の伊藤塾では、
法律家・行政官を目指す塾生向けの公開講演会を定期的に実施しています。
弁護士、裁判官、ジャーナリスト、NGO活動家など
さまざまな分野で活躍中の人を講師に招いて行われている
「明日の法律家講座」を、随時レポートしていきます。
なおこの講演会は、一般にも無料で公開されています。

【講師】
白川敬裕 氏
(弁護士、「原・白川法律事務所」パートナー弁護士、元裁判官)

●講師プロフィール
1975年福岡県北九州市生まれ。東京大学法学部卒。大学在学中に司法試験に合格し、24歳で裁判官に任官。2003年には弁護士に転身。現在の仕事は中小企業の総合的法律援助の他、医療やメンタルヘルス、起業支援、著作権、相続・親族関係、交通事故、借地借家など幅広く手がけている。2011年にNPO法人日本融合医療研究会の理事に就任。主な著書に『会社の健康リスク対策は万全か』『憲法がヤバい』『本物の勉強法』など。

はじめに

 若くして裁判官を退職し、それまでの経験を活かして弁護士になった白川敬裕さん。ところが勤めた弁護士事務所の事情で、パートナー(経営者)の立場に立たされます。そこでは給与がゼロになるなど、厳しい立場に追い込まれました。しかし、そのとき白川さんを支えたのは、さまざまな勉強を通して培った力と、人間関係でした。「裁判官も弁護士も、どちらもやりがいのある仕事です」と語る白川弁護士から、自らの歩んだ道のりを通して、法律家という仕事の実像についてお話しいただきました。

裁判官になった理由

 私の経歴を見た方は、なぜ裁判官になったのか、そしてなぜやめたのかと疑問に思うかもしれません。そもそも私は学生時代、裁判官にも弁護士にもなりたかったわけではないのです。きっかけは、司法試験が日本で一番難しい試験だと言われていたので、そこに挑戦してやろうという気持ちでした。山登りをする人が、エベレストに登りたいと思う気持ちに通じるかもしれません。それで、大学1年のときから勉強を始めました。
 しかし勉強中に、裁判官になるのもよいなと思った出来事がありました。法廷の傍聴に行ったとき、そのときの裁判官の方が、自分の言葉で直接被告人に語りかけて、諭すように聞かせていたのです。裁判官のイメージは、自分の感情を出さず、書いてあることしかしゃべらないようなものだったので、その姿を見て驚きました。裁判官がとても格好よく見えたのです。
 ただ、最終的に裁判官になろうと決めた理由は消去法でした。弁護士は自営業なので、自分で営業して稼がないとやっていけません。でも私は人見知りですし、飲み会がとても苦手です。そもそも体質的にお酒が飲めません。こんな自分は、弁護士としてはとてもやっていけないのではないかと思っていました。そこで大学4年のときに司法試験に受かると、裁判官になることにしたのです。

裁判官の実情とやりがい

 3年間の裁判官時代は、刑事裁判と民事裁判の両方を経験し、その間、令状発布、個人破産、少年審判などを担当しました。千葉に赴任した1年目。その刑事部で私がついた裁判長が非常に素晴らしい方でした。その方は、「裁判官は法律に書いていないことは、信念に従って何でもやってよい」とおっしゃる方でした。その言葉を聞いて、私がやったことの一つに被害者に敬称をつけたということがあります。裁判ではふつう、被害者の名前は呼び捨てです。しかし、呼び捨ては何かおかしいと感じたので、「さん」付けにしてはどうでしょうかと提案してみました。裁判長は「ではやってみよう」と同意して実施することになったのです。
 また、2年目には4ヶ月間にわたり、大手通信会社で研修し、海外出張にも参加しました。そのあと山形へ転勤になりました。山形では仕事に余裕を持ってやっていました。1年間いましたが、周りの皆さんにも本当に良くしていただきました。
 ちなみに、裁判官という職業の利点の一つには、経済的な安定が保証されている中で、やりがいのある仕事に没頭できるということがあります。このような仕事は他になかなかないのではないでしょうか。

裁判官をやめた理由

 ではなぜ裁判官を3年でやめたのでしょうか。私は裁判所に絶望してやめたわけではありません。理由は2つあります。裁判官は、短い期間で転勤をくり返すのが常なのですが、それが家族への負担になりました。
 もう一つの理由としては、当時はちょうど司法制度改革をやろうという時期でした。その後、弁護士の大幅な増員が予定されていたのです。私が司法試験を受けた頃、司法試験の合格者は毎年700人程度でしたが、今はだいたい2000人くらいになっています。それを考えると、このまま時間が経ってしまうと、あとで弁護士になりたいと思っても就職先もなくなるだろうし、早い方がよいのではと思いました。というのは、私は自分の性格上、とても顧客開拓のための営業などできないと思っていたので、昔の恩師に相談をして、弁護士事務所を紹介してもらいました。

弁護士の実情とやりがい

 当初は、弁護士事務所から給与をもらいながら、一方で個人の仕事もこなしていました。とはいえ、初めはお客さんがついているわけではありませんから、刑事事件の国選弁護人や、弁護士会が主催する法律相談をやっていました。
 ところが、そうこうするうちに事務所の突発的な事情によって急きょ、パートナー(経営者)に就任することになってしまいました。パートナーと言えば聞こえはよいのですが、給与はゼロになり、事務所の経費を負担するなど、自分の仕事だけで稼がなくてはいけなくなったのです。今でこそ、中小企業の経営者から相談を受ける顧問業務が中心になっていますが、収入が厳しく困った時期もありました。
 そんなとき私の身を助けたのは勉強でした。勉強には、自己の実力を高める効用だけでなく、他者との関係を築く効用もあります。私は必要に迫られ、右も左もわからなかった事務所運営のため、マネジメントを学ぶセミナーを受けるようになっていましたが、そこで中小企業の経営者の知り合いやクリニックを経営するお医者さんの知り合いが増えました。やがて、そういう人たちが、私が困っているときに仕事を依頼してくれたり、経営者仲間を紹介してくれるなど、助けてくれるようになったのです。セミナーを受講する時は、自分のお客さんを開拓しようとはまったく考えていなかったので、これは意外な展開でした。現在の私の弁護士業務は、「勉強」によって築かれた人間関係によって支えられています。

裁判官と弁護士の仕事の違い

 裁判官と弁護士の仕事の最大の違いは、裁判官は、整理されてあがってくる案件を担当すればよいのですが、弁護士は依頼者からまずどんな話なのかを聞く所から始まります。もちろん依頼者は法律用語などを知っているわけではないので、話を聞きながら、法律のどの問題に当てはまるのかを考える必要があります。
 そして弁護士は、顧客満足度が重要です。単に裁判に勝てばよいというものではありません。裁判で勝ったとしても、勝つのが当たり前と思っている方もいますし、負けてもここまでやってくれたからと満足して、次も依頼してくれる方もいます。そのような意味で、依頼者の気持ちを汲むことは本当に大切です。そこで、わかりやすく説明する力もとても大切になってきます。
 最後になりますが、弁護士が目指すべき仕事は、目の前の人を助けることです。それが、私にとっては中小企業の経営者であり、医師でした。目の前の人を助けるための技術が法律です。みなさんも、これから法律を上手に使って、目の前の人を助けられる人材になっていただきたいと思います。

 

  

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