伊藤塾・明日の法律家講座レポート

2015年10月24日@東京校

「けんぽう手習い塾」でおなじみの伊藤真さんが主宰する、資格試験学校の伊藤塾では、
法律家・行政官を目指す塾生向けの公開講演会を定期的に実施しています。
弁護士、裁判官、ジャーナリスト、NGO活動家など
さまざまな分野で活躍中の人を講師に招いて行われている
「明日の法律家講座」を、随時レポートしていきます。
なおこの講演会は、一般にも無料で公開されています。

【講師】
大川和宏 氏
(東京理科大学 応用物理学科 教授)

●講師の主なプロフィール:
1959年栃木県生まれ。1985年東京大学大学院理学系研究科 相関理化学専攻修士課程修了。卒業後、約10年間松下電器産業株式会社(現パナソニック)中央研究所にて勤務。1992年東京大学で博士(理学)号を取得。1996年~1998年ドイツ国ブレーメン大学物理学科で教授(終身)として教鞭をとる。青色LED発明者の中村修二氏と科学技術振興機構などで共同研究を行う他、404特許訴訟における技術的根拠の証明にも協力している。

 2014年、青色発光ダイオード(以下、青色LED)の発明と実用化の貢献が認められ、赤崎勇先生、天野浩先生、中村修二先生の3名がノーベル物理学賞を受賞しました。
 今回は、中村先生の友人であり、共同研究者である大川和宏先生に、青色LEDの今後の可能性や、研究人生の中で大切にしていること等について、お話しいただきました。

ノーベル賞受賞に輝いた理由

 法曹を目指す皆さんですから、青色LEDと聞いてまず思い浮かぶのは、青色LED訴訟(404特許訴訟)のことでしょうか? 特許権をめぐり中村氏と日亜化学との訴訟は、第一審において200億円の損害賠償を認められたことが大きな話題となりましたが、原告中村氏の訴訟代理人を務めたのが升永英俊弁護士です。私も裁判にあたっては、中村氏の共同研究者として、升永先生にいろいろと技術的なお話をさせていただきましたが、升永先生の熱意と質問の鋭さ、また理系の分野にもかかわらずその理解力の高さには驚嘆したものです。升永先生は、現在一人一票の運動や裁判においても、伊藤真弁護士と熱心に取り組まれておられることから、今回、こちらでお話をさせていただくこととなりました。

 2014年、青色LEDの開発が認められ、3名の日本人科学者がノーベル物理学賞を受賞しました。私は、受賞者の友人として、また共同研究者の1人として、授賞式に出席しました。ノーベル賞の式典に呼べるのは、伴侶以外に14名までと決まっているそうです。私の研究人生にとっても貴重な機会となりました。
 さて、LED自体は100年ほど前に誕生していますが、なぜ今回青色LEDの開発がノーベル物理学賞を受賞できたのでしょうか。
 それは、受賞した3名の科学者が、世界で初めて青色LEDを連続的に安定して発光させることに成功し高性能化を達成したからです。LEDは、ろうそく、白熱電球、蛍光灯に続き、第4世代の明かりだと言われています。赤色、黄色、緑色のLEDは早くから開発されましたが、青色は開発が遅れていました。青く光らせることが出来ても、非常に光が弱く普及するには至りませんでした。しかし1993年に、中村先生が現在の高輝度青色LEDを開発しました。
 LEDが世界に注目される最大の理由は、エネルギー効率にあります。ノーベル財団のホームページに図が掲載されていますが、オイルランプが0.1ルーメンパーワット(発光効率の単位)であるのに対し、白熱電球は16、蛍光灯は70、LEDは300です。つまり、白熱電球や蛍光灯などと比べて、LEDは圧倒的にエネルギー効率が良いのです。
 エネルギー効率が良いことから、LEDは地球温暖化対策に貢献できないかと期待されています。近年、大型の台風や土砂災害などが日本でも大きな問題となっています。気温の上昇とともに当然海水の温度も上がりますが、海の温度が1度上がるということは、1度のエネルギーが海に蓄えられるということです。熱量で計算すると、海に蓄えられた1度のエネルギーというのは、広島型原爆の900億発分、台風でいえば570万個分と同じ大きさです。海水温が27度以上になると、水が蒸発し台風が発生します。いま、海水温が1度上昇しただけで「100年に1回クラスの台風」がくると言われていますが、2081年〜2100年には今より気温が5度上昇すると予測されていますので、「数千年に1回クラスの台風」に頻繁に見舞われることになるのです。他にも、25〜28度で生きている珊瑚が海水温の上昇で死滅する、北極が完全に凍らないなどのニュースは、皆さんも耳にしたことがあるでしょう。
 日本は電力消費量が世界3位である一方、CO2排出量は世界5位です。電力消費量の割に、CO2排出の比率が低いのは、エネルギー効率が良いからです。個人レベルに換算すると、日本人1人あたりの電力消費量やCO2排出量は決して誇れるものではありませんが、日本のエネルギー技術は世界でもトップクラスです。その技術を地球温暖化対策に役立てるべく研究を進めています。

1%の可能性から生まれた青色LED

 青色LEDの材料の候補は、SiC(炭化ケイ素)、GaN(窒化ガリウム)、ZnSe(セレン化亜鉛)の3種類ありました。科学者の99%はZnSeを有力候補だと考え、ZnSeを中心に青色LEDの研究を進めました。そんな中、中村先生は、誰もが見向きもしなかったGaNに懸けたのです。GaNというのは欠陥だらけの半導体です。欠陥があると結晶は光りませんので、このボロボロのGaNが光るなんて誰も夢にも思わなかった。ここが運命の分かれ道でした。後に、中村先生は、世界に先駆けて実用的な高輝度の青色LEDを開発し、製品化に貢献しました。
 いま、青色LEDは日常の中に浸透しています。例えば、信号機にLEDを利用することで、これまでの80〜90%もの節電が可能になりました。また、夜の日本を衛星写真で映すと太平洋や日本海がキラキラと青く光ってみえるのですが、何が光っているか分かりますか? 実は、イカ釣り漁船です。イカは、青色の光しか見えないのでイカ釣り漁船では、前から青色の光を使っていたのですね。この光を、LEDにすればエネルギーの大節約ができるでしょう。LEDは水につけても大丈夫なので、こういうところにも活用できるのです。
 また、植物の光合成には赤色と青色が有用です。例えば、太陽光は地表面にしか届きませんが、LED照明を使えば同じ場所で何層でも栽培できます。無農薬野菜・果物を天候等に左右されず安定的に供給することが可能になります。
 青色LEDを発明した中村先生ですが、今では「青色はダメだ!」と言っています。人間は、青色の光は活動時間だと認識しており、刺激されて覚醒してしまうそうです。なので夜中に青色LEDを見ると、目が冴えて睡眠の妨げになってしまいます。そこで、中村先生は「LEDで安らぎの照明を作ろう!」と紫色に注目しています。紫色LEDから作られたLED照明は、高価ですが、演色性の高いハロゲンに代わる光源として注目されています。

科学の力で地球を救おう

 明かりの歴史は、薪、ロウソク、ランプ、電球と続き、その60年後に蛍光灯が発明され、またその60年後にLED照明が発明されました。60年周期で予期しない技術革新が起きています。
 そして、これからはLEDの時代が来ると言われています。先にお話しした通り、LEDは電球の10分の1、蛍光灯2分の1の節電ができます。寿命で言えば、電球の寿命が1000時間であるのに対し、LEDは40000時間と長持ちします。故障知らずで、窒化物を使っているので低毒性で環境に優しく、さらに低温。消費電力が少なく耐久性が高いLEDの発明によって、エネルギーの抜本的対策になるでしょう。
 私たちが使うエネルギーの割合では、照明が世界消費電力の19%を占めています。これらを全てLEDで賄えば、540基の原子力発電所相当分のエネルギーが節約できます。そもそも現在の世界には540基も原発はないので、脱原発の世界が実現できるのです。
 人工光合成の研究も進んでいます。水と二酸化炭素に光エネルギーを加えることで人工光合成を実現させ、二酸化炭素をエネルギーに代えることが出来るのです。まだ研究途中ではありますが、いま植物と同等以上のエネルギー変換効率が達成できています。
 持続可能な燃料として、植物やミドリムシ、廃油からの燃料で飛行機を飛ばそうとしています。その中に、人工光合成でつくった二酸化炭素からの燃料も入れることができれば、二酸化炭素の循環がさらに充実していきます。
 発明は実際に利用してもらわないと意味がないですから、受け入れ可能な価格で新しい技術を提供できるように研究しなくてはいけません。「科学の力で地球を救おう!」と研究を続けていきます。

自分の特徴を伸ばして、社会で役割を果たそう

 私は、研究人生を通じて、研究に必要な執念、努力、才能とは何かを知ることができました。私自身、子どもの頃はとりわけ勉強ができたわけでもありませんし、勉強が好きだったわけでもありません。だから大学への進学も考えていませんでしたし、工業高校に進学して地元の工場で働きたいと思っていました。しかし、高校時代に数学のおもしろさに目覚め、理数系の問題が解けるようになってきた頃から、自分の新しい可能性を考えるようになりました。
 研究活動でもいつも心がけていることは「チャレンジ」です。とにかくやってみること。そして、自分の特徴を見つけてそれを活かすことです。自分の特徴というのは、他の人にはない才能だったり、好奇心だったりします。友人よりちょっと足が速いとか、手先が器用だとか、絵が上手だとか。社会において役に立つということは、そういった、他の人にはない、あなたの特徴を活かすということです。
 私たちの周りには、家族、会社、学会、国、世界など、様々なレベルでコミュニティが存在しますが、そのどのコミュニティにおいても、自分の特徴を活かすことで自分の役割を果たすことができると思います。だから、人より自分が優れているところを分析し、伸ばしていくことが大切です。
 何もかもが上手くできる必要はありません。自分が出来ないところや苦手なところについては、それらを得意とする友だちを見つければいい。そして、やってもらったところは、自分の得意なことでお返しができればいいのです。テイク&テイクはダメ。ギブ&ギブでは長続きしない。やはりギブ&テイクでないといけません。
 自分の特徴を活かしながら、 社会の中で自分の役割を果たしていってください。

 

  

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