伊藤塾・明日の法律家講座レポート

2017年1月14日(土)@渋谷本校

「けんぽう手習い塾」でおなじみの伊藤真さんが主宰する、資格試験学校の伊藤塾では、
法律家・行政官を目指す塾生向けの公開講演会を定期的に実施しています。
弁護士、裁判官、ジャーナリスト、NGO活動家など
さまざまな分野で活躍中の人を講師に招いて行われている
「明日の法律家講座」を、随時レポートしていきます。
なお、この講演会は、一般にも無料で公開されています。

【講師】
元榮 太一郎 氏
(参議院議員(千葉県選挙区)、「弁護士法人法律事務所オーセンス」代表弁護士、「弁護士ドットコム株式会社」代表取締役社長兼CEO、弁護士、元伊藤塾塾生)

●講師の主なプロフィール:
1999年、司法試験合格。2001年、弁護士登録(第二東京弁護士会)、アンダーソン・毛利法律事務所入所。2005年、法律事務所オーセンスを設立。弁護士ドットコム株式会社を設立するとともに、日本最大級の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」の運営を開始。 2014年、弁護士ドットコム株式会社が弁護士として運営する会社では初めて東証マザーズ上場する。2016年の第24回参議院議員通常選挙にて初当選(千葉県選挙区)。 国政では、予算委員会、法務委員会の各委員、自民党司法制度調査会幹事等を務める。

はじめに

 日常生活の中で起きる些細なトラブルに弁護士が無料で相談に乗ってくれる。そんな便利なサービスを展開する弁護士ドットコム株式会社が、2014年に東証マザーズに上場されました。同社の創業者であり、代表取締役社長を務めるのが元榮太一郎先生です。
 弁護士・起業家・政治家の3つの顔をもつ元榮先生ですが、その華やかな経歴の裏には、原体験に基づく一つの信念と、決して楽とはいえない試行錯誤の日々がありました。
 今回の講演では、起業から上場までの創業ヒストリーや、40歳の節目に政治の世界に飛び込んだきっかけ、今後取り組むべき課題などについてお話しいただきました。

専門家をもっと身近にするために

 人々の役に立つはずの専門家が全く身近な存在となっていない。そうした現状を前に、インターネットを使って弁護士や税理士など様々な専門家を身近な存在にしたいと思い、私は2005年に弁護士ドットコム株式会社を設立しました。
 弁護士ドットコムは、ヤフーニュースやスマートニュースなどを通じて徐々にアクセス数が伸び、現在、月間サイト訪問者数は970万人を超えています。
 サイト内で一番人気があるのは「みんなの法律相談」というQ&Aコンテンツです。ヤフー知恵袋の法律版のようなもので、90%以上の質問に、1時間以内に弁護士の回答がつきます。また、「弁護士検索」も人気です。食べログの弁護士版のようなイメージで、1万人以上の登録弁護士の中から、プロフィールなどを元に自分に合った弁護士を検索し、問い合わせることができます。インターネットを通じて困っている人と弁護士を繋ぐプラットフォームとして機能しています。

時代は「駆けつけ弁護」

 かつては、弁護士というのは事務所に行かないと会えない存在で、貫禄と信頼感はあるものの、フットワークが軽いというイメージはありませんでした。
 しかし、徐々に弁護士の先生方の動きが変わって来たと感じています。具体的な事例として、年明け早々の1月2日夜9時過ぎに、歌舞伎町の「ぼったくりバー」で法外な料金を請求された人が、弁護士ドットコムで歌舞伎町近くの法律事務所に務める弁護士を探し当て連絡したところ、その弁護士が駆けつけて即時に示談交渉してくれたというケースがありました。
 まさに「訪問弁護」の事例です。訪問介護、訪問看護のように、そろそろ「訪問弁護」があっても良いのではないかと思っていた矢先の出来事でした。むしろ時代は、問題が起きたら直ちに出動してくれる「駆けつけ弁護」ではないでしょうか。弁護士の人数がかつての2倍以上に増えたいま、弁護士の在り方も少しずつ変わってきています。

創業ヒストリー ~3つの原体験から

 さて、私が起業したきっかけは、3つの原体験にあります。
 1つ目は、大学時代の交通事故です。二十歳の頃、バイトで貯めたお金をはたいて中古車を買ったところ、買った2週間後に物損事故を起こしてしまいました。「事故さえ起こさなければ大丈夫!」と任意保険未加入だった私は、プロの交渉人を相手に自分で示談交渉をしなければなりませんでした。足下を見られたのか「全面的にあなたが悪いのだから損害金全額支払え」と50万円も請求され途方に暮れてしまった私は、母親の勧めで弁護士会に相談に行きました。対応してくれた弁護士の先生に「確かにあなたが悪いが、この事故の場合は過失割合が7:3なので全額支払う必要はない」と教えてもらい、そのとおりに先方に伝えると、あっさりと請求額が7割に減額されたのです。
 このとき、私は「困っている人の力になれる弁護士ってすごい。自分も弁護士になりたい」と思うと同時に、「弁護士がもっと身近な存在になればいいのにな」と思いました。
 2つ目の原体験は、勤務弁護士時代にインターネット系上場企業のM&A案件に携り、「ベンチャー」の勢いに触れたことです。このとき、ネットの無限の可能性を感じるとともに、起業に興味が出てきました。
 そして、3つ目の原体験が、アイデアの発案です。「弁護士×起業×インターネット」で何か起業できないかと考えながらネットサーフィンをしていたところ、引越比較サイトをみて「これだ!」と思いました。無料で弁護士に相談出来ればいいな、困った人と弁護士をつなぐ場をつくりたい! と一つ目の原体験で抱いた思いが、ふつふつと蘇ってきたのです。
 起業を思い立ってから1週間後には、在籍していた事務所に退職の意思を伝えました。当時、四大法律事務所に入所して辞める人なんていなかったので、非常に驚かれましたが、退路を断つ気持ちで独立しました。

事件は社会のありようを反映する

 2008年6月8日、17人が殺傷された秋葉原の通り魔事件が起きました。この事件を起こした加藤智大死刑囚は、池田小事件が起きた「6月8日」という日付にかなりこだわっていたようです。最高裁で死刑が確定しました。彼については、さまざまな報道がなされ、何が真実なのか分からないほどですが、一つだけ言えるのは、経済構造改革により、非正規労働者の増加など日本社会が大きく変わり、一度失敗すると再起できないような社会になっていく中で、彼は追いつめられていった。それは確かなようです。事件はそのときどきの社会のありようを反映します。
 先日、19人の障がい者の方が殺害された相模原の事件現場である津久井やまゆり園へ、この事件について寄稿してもらった作家の雨宮処凛さんらと一緒に花を手向けてきました。まだ裁判も始まっておらず、何も分かりませんが、私がこれまで取材してきた事件の中でも、最も衝撃的であり、これまでの事件とは一線を画すものだと考えています。自己責任とか、生産性とか言っている今の日本社会のありように、とても深くかかわる事件ではないでしょうか。

8年の赤字を乗り越え、上場へ

 「思い」だけで独立した私は、かなり苦労しました。当時の私は、インターネットといえばヤフーニュースをたまに見る程度。経営の知識は皆無でした。資金は、大急ぎで貯めた200万円と銀行から借りた300万円の計500万円でした。とにかく本を読み漁り、周りの人たちに協力してもらいながらどうにか会社設立までこぎつけたものの、なかなか軌道に乗りません。みるみる軍資金は減っていき、とうとう貯金が底をつきました。
 会社を軌道に乗せるには時間がかかりそうだということに気付いた私は、腹をくくり、法律事務所を開業して弁護士業にも励むことにしました。弁護士ドットコムをメディアに取り上げてもらったこともあり、開業後約2年で50社ほどの顧問契約をいただく事ができました。
 私は、経営が厳しい中でも、弁護士ドットコムが日の目を見る時が絶対に来ると信じていました。なぜなら、弁護士が待っていればお客さんが来るという時代は変わり、弁護士の方から動いていかなければいけない時代が来ると確信していたからです。また、他人にあまり知られたくないという性質から、法律相談はインターネットとの親和性が高いということも確信していました。
 少しずつ時代が変わり、2012年、弁護士ドットコムニュースの立ち上げをきっかけに、初めて月間訪問者数が100万人を超えました。配信開始から2カ月後にヤフーニュースへの掲載をスタートさせたことで一気に訪問者が増えました。これを機に初めて外部株主にも入っていただき、2年後の2014年12月に弁護士として初めて会社を上場することができました。

新規事業は「リーガル×IT」

 今後は「税理士ドットコム」や企業法務のネットサービス「ビジネスロイヤーズ」など、弁護士に限らず様々な専門家を人々の身近にするために力を注いでいきます。また、各専門家に対しても、マーケティング支援に加え業務支援サービスなどを充実させていきます。
 新規事業としては、リーガルテック事業の拡大にも力を入れています。いま一推しの新サービスが「クラウドサイン」です。これは、すべてウェブ上で契約を行うという完全ペーパーレス化のサービスです。大企業では既にスタートしていて、約4万5千通の契約書がこのサービスで締結されています。
 今後人工知能が活躍する時代が到来するかと思いますが、メディカルとリーガルは情報が体系化されているので、人工知能との親和性が高いといわれています。そこで、社内にリーガルテックラボを新設し、人工知能関連技術による法律サービスなどを本格的に研究しています。
 このような話をすると、「弁護士はいらなくなるのではないか?」と質問されることがありますが、私は、むしろ弁護士の仕事の効率が向上し、対応可能案件数が増加することで、市場規模の拡大に繋がると思っています。判例検索や定型的な業務等に割いていた時間を、依頼者への説明や相談へと回せるようになります。また、現在は相談料の高さゆえに弁護士への相談を経済的に諦めている人が多いですが、弁護士の手間が少なくなることで一件あたりの金額をおさえることが出来るのではないかと思います。

政治家としての課題

 1989年にベルリンの壁が崩壊したとき、偶然にも私は父の転勤でドイツにいました。当時中学生だった私は、修学旅行で崩壊直後のベルリンの壁を見に行くことができました。西側のきらびやかで豪華な街並みと、東側のモノクロでスラムのような街並み。政治体制の違いだけでこんなに国民生活が異なるのだなと驚きました。同時に、いずれ政治家になり、世の中の枠組みやルールをよりよく変えていきたいと思うようになりました。
 しかしながら「地盤・看板・鞄」のいずれも持っていなかった私は、どうやったら政治家になれるのかも分からなかったので、政治家への思いは頭の片隅に置きました。弁護士になり、起業し、上場させ、ようやく一人前になったところで40歳の節目を迎えました。直感的に目指すなら今だなと思い、周りの人たちに政治家になりたいという思いを伝えていると、昨年の夏、有り難いご縁に恵まれ、とんとん拍子で出馬が決まり当選することが出来ました。
 政治家として私が取り組んでいくべき課題、今自分に求められていることは、まずは弁護士業や弁護士ドットコムの法律相談などの経験から、人々の声をくみ取り、国政に届けていくことだと思っています。続いて、上場を経験した国会議員は極めて少ないので、起業家、経営者としての経験を活かし、中小企業やベンチャー企業への支援を充実させ、新しい産業や地域産業が活躍できるような社会づくりをしたいと思っています。
 そして最後に、その場所に身を置いて佇んでいると、やりたいことが内からたぎってくるというのが私の性分ですので、実務をこなしながらやりたいことが出てきたときに、それもプラスアルファで取り組んでいきたいと思います。
 最後になりましたが、法曹という職の活かし方はたくさんあります。是非、本日の話をご自身の法曹人生に活かして頂けると幸いです。

 

  

※コメントは承認制です。
弁護士界のフロントランナーから株式上場そして参議院議員へ~起業10年の軌跡とこれから
元榮 太一郎 氏
」 に1件のコメント

  1. 田中充子 より:

    これからも、お仕事がんばって下さい❤
    すごい中身の詰まった経歴ですね✨
    同じ歳とは思えないです✨
    元榮先生が、参議院選挙に出馬され、当選され、私も楽しい人生になりました😊
    これからも、がんばって下さい😊

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