伊藤塾・明日の法律家講座レポート

2017年3月11日(土)@渋谷本校

「けんぽう手習い塾」でおなじみの伊藤真さんが主宰する、資格試験学校の伊藤塾では、
法律家・行政官を目指す塾生向けの公開講演会を定期的に実施しています。
弁護士、裁判官、ジャーナリスト、NGO活動家など
さまざまな分野で活躍中の人を講師に招いて行われている
「明日の法律家講座」を、随時レポートしていきます。
なお、この講演会は、一般にも無料で公開されています。

【講師】
熊澤美帆 氏
(弁護士、東京千代田法律事務所所属、元伊藤塾塾生)

●講師の主なプロフィール:
2008年12月、伊藤塾受講開始(27期)。2011年、横浜国立大学経済学部卒。2013年、東京大学法科大学院修了。2015年に弁護士登録(東京弁護士会)、東京千代田法律事務所入所。現在は「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN)」事務局次長、国分寺まつり出店拒否問題弁護団、同性婚人権救済弁護団、築地市場移転問題弁護団等所属。

はじめに

 2011年3月11日の東日本大震災から丸6年が経ちました。いま、福島では原発事故による避難区域が次々と解除され、被災者への住宅支援も打ち切られています。あの日を境に、生活が180度変わってしまった人たちに対し、法律家はどのようにサポートできるのでしょうか。
 本日の講演では、学生時代から福島支援に携わっていらっしゃる熊澤美帆先生に、2つの具体的な事案を例に人権保障の現場における人々の思いや葛藤などについても、お話しいただきました。

6年目の3月11日を迎えて

 私は今、「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN)」の事務局次長を務めております。SAFLAN(サフラン)とは、2011年7月に若手弁護士を中心に設立した団体で、同じように小さな子どもたちを持つ世代として、政府の避難指示区域外の人たちへの法的支援をしたいという思いから始まりました。避難指示区域外の人たちへの支援は全くといっていいほどありませんでしたので、その気持ちに賛同して、私は法科大学院生のときから活動にかかわっています。
 2016年11月22日、大きな地震があった日、私は郡山を訪れていました。「あの日の地震のことを思い出した」、「子どもが恐がって学校に行けなかった」と口々に語る人たちを見て、私はハッとしました。3月11日の震災というと、どうしても原発や放射線の問題を考えがちですが、あの日、福島の方々はまず地震や津波から自分たちの身を守らなければならないという非常事態の中にいたのだと気づいたからです。そこに、突然原発が爆発したというニュースが飛び込んできたのです。
 この6年、さまざまな情報が錯綜する中、家族で避難したり、子どもだけ避難させたり、高齢の家族のために福島に留まったり、食べ物に気をつけたり、外に出ないよう屋内に留まったり。色々なことを考え、様々な努力をして、一つひとつ「選択」しながら、みなさん過ごしてきました。
 いま私は「選択」という言葉を使いましたが、誰も自ら希望して選んでいるわけではありません。本当は普通の生活を送りたいのに、不自由な生活を余儀なくされてきたのです。放射線が人の健康に及ぼす危険等について、科学的に十分には解明されていませんが、何か危険があるかもしれないならば、人々は多方面で被ばくを避ける必要があります。
 「被ばくを避ける権利」「避難をする権利」「避難をしないで留まる権利」は、それぞれの人が自分の人生を選択する権利として、憲法第13条(基本的人権の尊重)や第25条(生存権)で当然に認められるべきものです。
 どの「選択」が正しいというのではなく、一つひとつの「選択」がそれぞれ尊重されるようにあって欲しいと思います。国として、避難をしたいと思った人がきちんと避難先を確保でき、避難を継続できるような制度を整えて欲しいです。しかし、現実には逆の方向に動いています。

推し進められる国の帰還政策の裏で

 国は今月(2017年3月)までに、帰還困難区域以外の避難指示区域をすべて解除するとしています。経済産業省のホームページに現在の避難指示区域の概念図が掲載されていますが、この避難指示区域というのは政府が決めた地域であって、この他にも線量が高い地域はたくさんあります。
 区域外避難者(いわゆる自主避難者)への住宅の無償提供も終了します。東電の賠償も完全なものではない中での無償提供の終了です。例えば母子避難で二重生活を送っている家庭などは、経済的な理由から避難を継続できなくなってしまいます。住宅問題等の電話相談を受けていると、現時点で住む家が見つかっていない人がたくさんいます。おそらく4月から住居の明け渡し訴訟がたくさん起きてくると思うので、そういった面でも法律家として出来ることはたくさんあります。
 6年経つと、小学1年生だった子も中学生になります。福島から避難して、親戚や友人ともバラバラになって、ようやく避難先で新たなつながりを作れたという頃に、この住宅無償提供終了によって、また転校しなければならない子どもたちが出てきます。また新たな環境で暮らしていかなくてはいけないのです。
 避難者へのいじめの問題もクローズアップされていますが、子どもの問題というより大人に責任があると思います。私が思うに、避難者への想像が足りないのではないでしょうか。その背景には、国の政策としてみんなを福島へ帰し、「避難者」をゼロにしたいという意向があるように思えます。

国分寺まつり出店拒否問題とは

 二つ目の事案として、国分寺まつり出店拒否問題についてお話しします。これは、都立武蔵国分寺公園で年に一度開催されるお祭りにおいて、憲法9条の改正反対や反原発、脱原発を訴える団体が、内容が政治的であることを理由として出店を拒否されたというものです。
 国分寺まつりは毎年4~5万人が参加する大きなお祭りで、さまざまな団体が出店しており、例えば原爆についての展示等もあります。今回出店拒否された人たちも、2013年までは何の問題もなく出店し、写真展や食糧問題に関する展示などを行なっていました。しかし、2014年になって突然出店の申請が拒否されたのです。その後、2015年、2016年も出店が出来ていません。
 出店拒否の背景には、2013年の国分寺市議会における議員の発言があります。「補助金支出の対象であるイベントに特定の思想に偏った団体を参加させるべきではない」という議員の発言に対して、副市長がその方向性で検討する旨を答弁し、翌年から参加を拒まれるようになりました。
 この出店拒否の法的問題として、憲法21条1項(表現の自由)、憲法14条1項(法の下の平等)などに抵触することが挙げられます。そもそも政治というのは、国民みんなで議論して、意見をたたかわせ、みんなで社会をよりよく変えていこうというのが大前提です。よって、「政治活動の自由」は憲法上重要な権利として保障されており、その活動を規制するのは極めて例外的なときに限られています。
 また、地方自治法244条2項では、公園など公の施設の利用を拒否するには「正当な理由」が必要だと規定しています。本来、公園など公の施設は表現の場として広く開かれなければならず、利用の規制は非常に限定した場合に限られています。これらを明示した最高裁の判例もあるのに、政治的な内容を理由に出店を拒否されるのはとてもおかしなことです。

自分たちの表現の場を返して欲しい

 2015年12月、出店を拒否された人たちは弁護士会に対して人権救済の申立てを行いました。2016年8月、弁護士会から、主催である国分寺まつり実行委員会及び後援の国分寺市に対して「政治的な意味合いを持つとの理由で団体の参加を拒否したことは表現の自由を侵害しており、今後参加を拒むことの無いように」という趣旨の要望書が出ました。しかし、国分寺市はこの要望書を受領した翌日付で、2016年開催の国分寺まつりへの出店拒否通知を出したのです。申立人らは国分寺市及び実行委員会宛に再検討を求める要望書を出しましたが、結局この年も出店が認められませんでした。
 弁護士会が出した要望書には、国分寺市自体が人権侵害をしているということが明確に記載されています。それにも拘わらず、市は「国分寺まつり実行委員会の判断を尊重してきていて、この考え方に変わりはない」と繰り返し述べており、この姿勢は2017年2月時点で変わっていません。実行委員会の人と直接話をしたくても、事務局は国分寺市役所内にあり、「市を通して下さい」と門前払いです。やむを得ず2017年3月10日に再度の人権救済申立てを行いました。
 申立人の人たちが一貫して言うのは「私たちは、おかしいと思うことをきちんと主張できる表現の場が欲しいだけ。自分たちの表現の場を返して欲しい」ということです。例えば、自分たちで反原発に関するイベントを行っても参加してくれるのは、もともと興味がある人がほとんどだそうです。しかし、大きなお祭りに出店すると、今まで関心を持っていなかった人たちが展示を見て問題を知ってくれます。さらに議論することで、今まで自分たちが考えていなかったことを発見できます。そのため、彼らは国分寺まつりへの出店を一つの集大成として、毎月勉強会を開き、どうやったら分かりやすく伝えられるかを考え、みんなで展示を作っていたそうです。
 今まで何の問題もなく認められていた権利を奪い、不当に出店拒否することは許されるものではありません。おかしいと思うことをおかしいと言える場をつくる、そのこと自体が人権保障になります。

人権保障のために弁護士ができること

 人権保障の為に弁護士ができることは何でしょうか。まず法律の専門家としては、訴訟等を通じて直接的に依頼者の権利を守ることができます。人権侵害の主張を法律的に構成することも重要な役割です。
 代理人(代弁者)としての側面からは、当事者の代わりになって話せる、活動が出来るというのは弁護士に許された大きな特権です。原発事故によって県外避難している方々から「これまで家族にも友人にも誰にも話せなかった」と言われることがありますが、顔が分かると近所の人に後ろ指さされたり、子どもがいじめられたりするという恐怖から、言いたくても声をあげられないという人も少なくありません。そういった方々の代弁者として、当事者の代わりに声をあげることも弁護士としての大きな役割です。
 いま法律家を目指している方々には、専門家としての知識を身につけると同時に、色々な人たちの経験を聞いて学んで欲しいと思います。法律家になる前に、どこでどういう風に困っている人がいて、法律家として彼らに何ができるだろう、自分には何ができるだろうと考えて欲しいと思います。

 

  

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