伊藤塾・明日の法律家講座レポート

2012年7月7日@渋谷校

「けんぽう手習い塾」でおなじみの伊藤真さんが主宰する、資格試験学校の伊藤塾では、
法律家・行政官を目指す塾生向けの公開講演会を定期的に実施しています。
弁護士、裁判官、ジャーナリスト、NGO活動家など
さまざまな分野で活躍中の人を講師に招いて行われている
「明日の法律家講座」を、随時レポートしていきます。
なおこの講演会は、一般にも無料で公開されています。

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講演者:堀 鉄平 氏
(弁護士法人Martial ARTS 代表弁護士)

講師プロフィール:
弁護士、格闘家。1999年中央大学法学部法律学科卒業。弁護士法人Martial Arts 代表パートナー。2004年10月に弁護士登録後、3年間の勤務弁護士時代を経て東京都港区にて独立開業し、現在は60社を超える企業の顧問を務める。また、総合格闘技の試合にも出場し、2008年3月より前田日明主催「THE OUTSIDER」(*日本全国の「不良」たちが集結してケンカ最強を決める総合格闘技イベント)に継続参戦中。2011年5月(株)RINGSとプロ契約。その他、不動産業、スポーツジム、IT会社を経営する経営者でもある。著書に『格闘家弁護士が教える反撃の技術』(かんき出版)、『弁護士開業・業務マニュアル』(日本法令)、『弁護士営業・経営マニュアル』(日本法令)など。

弁護士事務所の経営者と格闘家という、2つの異なる顔を持つ堀弁護士は、「厳しい今の社会状況の中、必要とされるのは依頼者のために、ともに闘っていく気概のある弁護士」だと言い切ります。今回は、堀弁護士が独立開業し、現在の「闘う弁護士」ブランドを確立するまで、どのようなことを考え、実践していったのかをお話しいただきました。昼は弁護士業、夜は激しいトレーニングを行い、週末は試合を行うという異色の弁護士が、誰と、そして何のために闘うのかについて熱く語りました。

■「闘う弁護士」事務所を経営して

 私は伊藤塾で勉強させてもらって、平成14年に司法試験に合格しました。2ヶ所の弁護士事務所に所属して、国選弁護人や労働問題などを担当したあと、平成19年に独立しました。現在は六本木のオフィスで、8人の弁護士を擁する弁護士事務所を経営しています。オフィスの名前「マーシャルアーツ」は、格闘技全般を意味しています。だからといってうちの事務所のスタッフは格闘技をしないといけないということではなくて、「弁護士として依頼者のために闘う」ということです。事務所開設にあたって大きかったのは、「闘う弁護士」ブランドを確立できたことです。格闘技に参戦してから、いつの間にか「闘う弁護士」と呼ばれるようになりました。「依頼者のために闘う弁護士」というイメージは強みになります。私はブランディングは重要だと思っているので、事務所の名前を「マーシャルアーツ」に変えました。それによって「闘う弁護士事務所」というイメージが広まり、仕事が増えたという実感があります。「堀鉄平事務所」では、ここまで仕事は増えていなかったと思っています。もちろん格闘技をやっているというだけではまったく意味がないので、依頼者のためにきちんと仕事をしていこうという中身の部分が大前提ではありますが。

■「闘う弁護士」になるには?

 私が考える闘う弁護士像を紹介します。「闘う弁護士」の反対語として、「お任せ弁護士」と呼んでいますが、自分が引き受けた事件の解決を、裁判所に委ねてしまうような弁護士のことです。具体的に言うと、冷めた感じの人ですね。「判例が絶対です」と、闘う前に決めてしまうような人は、うちの事務所にはいりません。不可能だと証明されるまでは、可能性があるわけです。そのために折れない精神力を持ち、緻密な戦略を立てて、あくまで依頼者の利益を守る。そのために闘っていこうという姿勢が重要です。もちろん、依頼者の気持ちを無視して、弁護士だけが熱くなるというのは問題外です。そこで「闘う弁護士」の定義としては、「熱い人、しかし冷静な人」ということを挙げておきます。
 闘う弁護士になるためには、さまざまな力が必要です。幅広い法律知識やリサーチ力、論理的な思考能力や文章力は必須です。そして依頼者の満足度を充足させることも必要です。これには、経営者的な感覚が求められます。私から見ると、これまでの弁護士は得てしてこの要素を重視してこなかったように思います。「判例でダメです」と言っても依頼者は満足しませんから、その場合どのような代替案を提案できるのかということが重要です。
 そうした弁護士の力を磨くためには、もちろん勉強や、ある程度の数の事件をこなして経験値を上げていくことも重要ですが、私はそれに加えて弁護士業務以外でも、アンテナを張って社会経験をしていくということが大事だと思っています。 

 例えば私自身、こんな経験がありました。私は格闘技の試合で、目の周りの骨を何度も折っていますが、初めて手術する時はすごく不安でした。その時病院で「クリニカルパス」という、今後どうなっていくのかという治療や検査の予定表を医師より渡され、先が見えて安心したんです。弁護士に初めて依頼するお客さんも、こういう気持ちなんだなと思いました。そこで弁護士の仕事も、今後の進行についてわかりやすく紙にして渡したらいいんじゃないかと考え実行したら、依頼者から大変好評をいただきました。こんなふうに、単に自分が手術の予定表を見てよかった、というだけで終わらせないということが大事になってきます。

 私が大事にしている「絶対に折れない精神力」というのは、言い換えると、超ポジティブシンキングです。怪我をして災難だなと思って落ち込むのか、「クリニカルパス」を参考にして、仕事に活かすのかで大きく差が出てきます。起こったことは仕方がないと、前向きに切り替える気の持ち方が大事なんですね。 ただし、失敗を反省せずに同じ過ちを繰り返すことは避けなければなりません。私はよく自分が負けた試合のDVDを見直して、同じ失敗をしないように敗因を分析しています。それは、司法試験の受験時代も落ちた答案を何度も見直していましたから、同じことをしているんですね。自分の負けた試合とか、失敗した答案とか本当は見るのは嫌です。でもその失敗と向き合って、ポジティブに活かしていくことが次につながるのだと思っています。後悔はしないが、反省はする。

■なぜ弁護士をやるのか?

 私は司法試験には5回目で受かりましたが、受験時代は苦しかった経験があります。最後の2年は図書館での自習が中心で、毎朝、図書館が開く前から並んで、夜の12時まで勉強していました。何のためにこんなことをやっているのかと思ったこともあります。なぜ自分は弁護士になりたいのかがブレてしまうと、勉強にも力が入らなくなる。それは受験だけではなく、資格を取った後の就職の際にも大事になってくるので、そこを明らかにしておくことは大切です。
 私の場合は、なぜ弁護士をやるのかという理由も、なぜ格闘技をやるのかという理由も共通しています。格闘技はリングには一度上がったら逃げられないし、一人で闘わないといけません。大怪我をするかもしれないし、下手すると命を落とすかもしれない。でも、自分よりキャリアが長かったり、体の大きい相手に勝てたら、すごくアドレナリンが出るんです。この年になってそれが味わえるというのはなかなかないことなので、やめられない。大怪我すると、もう二度とやりたくないと思うんですけど、治ったらまたやりたくなってしまいます。
 弁護士も、資格があればたった一人で大企業とか国を相手に闘えるんです。普通は相手にされないですよね。これは格闘家以上にすごいことです。格闘技では、例えば私がトップレベルの選手と闘いたいと言っても、試合を組んでもらえません。でも、弁護士は国家とか、どれだけ大きな企業が相手でも闘える。これは面白いですよ。逆に言うと、1年目でも20年目でも、弁護士であれば立場は同じなので、「1年目だからできません」などと言って甘えてしまう姿勢ではダメだと思います。
 去年、司法研修所で修習を終えた修習生で弁護士事務所に就職できていない人が400人ほどになったそうです。競争が激しい時代になっていることは確かです。そうは言っても、内定をいくつももらっている人は必ずいます。繁盛している事務所もある。それには理由があるわけです。
 だから法曹全体の人数が増えたら自分は弁護士として生きて行けないんじゃないかと思う必要はまったくありません。学歴や司法試験の成績はあまり関係なくて、先ほど言ったような弁護士としての素養や、闘う姿勢、折れない精神力という部分が大事なのかなと思っています。今はそれができなくても、雇った後にそういう力が発揮できるかどうかということを経営者は見ています。
 みなさんも、そういったところを参考に、折れない精神力を持って挑んでください。

(構成・写真/高橋真樹)

 

  

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