伊藤塾・明日の法律家講座レポート

2013年10月12日@渋谷校

「けんぽう手習い塾」でおなじみの伊藤真さんが主宰する、資格試験学校の伊藤塾では、
法律家・行政官を目指す塾生向けの公開講演会を定期的に実施しています。
弁護士、裁判官、ジャーナリスト、NGO活動家など
さまざまな分野で活躍中の人を講師に招いて行われている
「明日の法律家講座」を、随時レポートしていきます。
なおこの講演会は、一般にも無料で公開されています。

講演者:猿田佐世氏
(新外交イニシアティブ(ND)事務局長・日本及び米国ニューヨーク州弁護士、元伊藤塾塾生)

講師プロフィール:
 早稲田大学法学部卒業後、タンザニア難民キャンプでのNGO活動などを経て、2002年に日本で弁護士登録。国際人権問題等の弁護士業務を行う。2008年、コロンビア大学ロースクールにて法学修士号取得。2009年、米国NY州弁護士登録。2012年、アメリカン大学国際関係学部にて国際政治・国際紛争解決学修士号取得。大学学部時代から現在までアムネスティ、ヒューマン・ライツ・ウォッチ等の国際人権団体で活動。2009年、ワシントンDCに移った後、日本の声を米国政府・議会・メディアに伝える活動を開始。この活動に基づいて、2013年、シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」を設立。

 米国での日本の扱いは小さく、米国では限られた情報の中で、少数の人々によって対日政策が決定されています。しかし、日本の多くの問題に米国は大きな影響力を及ぼしています。十分な情報を伝え、十分な議論がなされた上での外交の実現、そのためには何が必要なのでしょうか?
 猿田さんは、米国にはほとんど知られていない日本の声を外交に反映させるために、ワシントンDCをベースに活動されてきました。そしてその経験を活かし、2013年にはシンクタンク「新外交イニシアティブ(ND/New Diplomacy Initiative)」を設立。今回は、従来とは違ったチャンネルを通じて、諸問題について国境を越えて解決していく挑戦の意義についてお話しいただきました。その一部を抜粋して紹介します。

■外交問題とは?

 「外交」というと、一般的には米軍基地問題やTPPなどをテーマに、外交官が交渉をして決定していくイメージがあるかと思います。私は、大学時代から国際的な人権NGOに関わってきましたが、そんな自分でも「外交」は身近ではありませんでした。しかし、ワシントンに留学した際の様々な体験から、「外交」が、一般的にイメージされているものよりも広範な分野に影響を与えるということに改めて気がつきました。
 例えば、原発を含むエネルギー問題や郵政民営化、憲法改正、弁護士増員といった政策は、通常は日本の国内問題として取り扱われ、一見外交とは関係がないように見えますが、その政策選択の方向付けをしているのは日本の私たちだけではありません。直接・間接に米国から日本に対する要望が出されており、それが日本での政策決定に大きな影響を与えてきました。米国からの要望の届き方には様々な形がありますが、例えば、毎年米政府から出されていた「対日年次改革要望書」には、米国からの日本に対する要望が事細かに書かれています。民間の米シンクタンクからの日本に関する報告書、例えば、いわゆる「アーミテージ・ナイレポート」といったものも大変大きな影響力を持ちます。これらの米国発表の対日要求に従って日本の政策が決められることも少なくありません。

■日米間のギャップを埋めたい

 ワシントンは人口約60万人の小さな町で、政治に関わる人が米国中はもちろん、世界各国から集まります。当時、私は留学生でしたが、まさに目の前で政治や外交が行われていることを日々実感していました。世界中からいろいろな政治家が訪問しては、さまざまな議論をし、講演をし、政策発表をしては帰っていきました。
 ワシントンで発表されることは、大きな声となって日本に影響を与えます。私はこれを、ワシントンの「拡声器効果」と呼んでいますが、例えば、石原都知事(当時)が「尖閣諸島を東京都が購入します」と発表したのもワシントンでした。
 ワシントンとのパイプを持っている人であれば、自らワシントンに来てその声を米国につたえ、また、「拡声器効果」を使って日本に大きな影響を与えることができます。しかし、そのパイプを持っていなければ、米国に声を運び、また、「拡声器効果」を利用することもできません。
 私はそのパイプの偏りが問題であると日々感じていましたが、特に、それを象徴するのが沖縄の基地問題についてのワシントンにおける議論状況でした。2009年8月に民主党への政権交代が起きたとき、鳩山政権は沖縄の普天間基地を沖縄県外に移転するとの方向性を打ち出しましたが、当時、私はワシントンに住んでおり、その反応を米国側から見るという面白い体験をしました。当時はワシントンにいる日本人の間でも、基地問題は日々議論になり、それに関するさまざまなシンポジウムがワシントンのあちらこちらで開かれていました。しかしそこでの議論は、日米同盟の強化のためにどうやったら県内に基地を移設できるかといったベクトルしかなかったのです。
 こういったシンポジウムには、米国および日本の政府関係者や政府に影響力をもつ研究者などが登壇します。多くのスピーカーが日本からも来て話をしていきましたが、沖縄の人々が基地の被害に苦しんでいるという話や、政権与党の立場である県外移転・国外移転についての主張がワシントンで聞かれることはほぼ皆無でした。一国の総理大臣の主張、政権与党の主張が全く届かない街、ワシントン。私は、このギャップを何とかせねばならないと思いました。
 

■伝えるパイプの欠如

 日本からも、大使館、あるいは、支店や駐在員を置く大企業、大手メディアなど、米国に声を運ぶパイプを持っている組織はあります。でもその関心の外にある声はそのパイプでは運ばれません。また、関係性ができあがってしまっているので、新たに何かが加わる余地がありません。
 民主党は、自らの外交のパイプを持っていなかったこともあり、失敗しました。ウィキリークスでも外務省・大使館が民主党政権に非協力的(反対)であったことが明らかにされましたが、私も、ワシントンの日本大使館の職員が米議会関係者に対して「民主党政権に対し、米国の議員から辺野古案(県内移設)にすべきだと主張してほしい」と訴えていたと聞きました。民主党政権は、ワシントンに事務所も駐在員も存在せず、米国に声を伝える術を持っていませんでした。

 このように限られた人たちが外交を担っており、その人たちの意見しか外交に届かないというのが現状です。日米外交の担い手は、日本側だけでなく米国側でも限られています。また、日本の国際的な影響力の低下とともに日本の存在感が低下し、米国における日本専門家が少なくなっているため、米側の担い手はさらに減少し続けています。
 では、幅広い声を日米外交に届けるためにはどうしたらいいでしょうか?

■「伝わらない声」を伝える

 多くの国会議員などが、自分の声を伝えるべくワシントンを訪問しますが、誰に会ったらいいのか、どうしたら米メディアにアクセスできるのか分からないまま帰国します。交渉すべき相手は誰なのか、連携して共に働ける仲間は誰なのか、情報の分析と共に、その相手への働きかけのパイプが必要です。私はこの間、多くの国会議員、地方自治体、学者等のワシントンでのロビーイングを支えながら、米議員との面談、米議会内の集会の開催、米メディア対象の記者会見の設定、新聞への意見広告掲載など多岐にわたる活動を行ってきました。
 パイプを持たない人々の声を届けてアメリカの政策形成に影響を与えるためには、米政府や議員、あるいは政策シンクタンクなど様々な人たちのところへ足を運んで、こちらの訴えに耳を傾けてもらうことが必要です。しかし、例えば沖縄の基地問題について関心のある人を探しても、米国にはほとんどいません。そこで、どのように関心を持ってもらうか、米国の文脈に問題を置き換え、また、ロビーイング相手が何に関心を持っているか、念入りな調査が必要になります。
 環境問題に関心のある議員には、基地がもたらす環境汚染について、女性の人権に興味のある議員には米兵の起こす強姦等の事件をメインに据えて米軍基地の問題を訴えます。他方、「小さな政府」を標榜し、在外米軍基地に対する米政府の財政支出が多すぎると批判しているティーパーティ(茶会派)のようなグループには、海外基地に対する過大な財政支出を訴えます。このようなことを繰り返すうちに、自らの関心に引きつけながら、沖縄の問題に耳を貸してくれる人が増えていきます。そのうち、米議会で質問したり、自らの議会質問を作る際に事前に質問内容についてこちらに問い合わせたりしてくれる議員も出てきました。
 こういった活動をする時に重要なのは、「テーマ」でつながること。そうすれば、カウンターパートとの連携もできます。また、直接会い、きちんと情報を伝えていくことが大変重要です。私がそのような活動をはじめると、米国に自らの声を運びたいと考える日本の方々から声が徐々にかかるようになり、頻繁に訪米団を企画し、また自らロビーイングを行うようになりました。

■新外交イニシアティブ(New Diplomacy Initiative/ND)を設立

 2013年8月、これらの活動を拡充すべく、シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」を設立しました。NDは、政府間外交、議員外交、知識人外交、民間経済外交、市民社会外交などマルチトラックによる「新しい外交(= New Diplomacy)」の推進をその趣旨とし、国境を越えて情報収集・発信・政策提言を行います。そして、提言した政策の実現のため、国内はもとより、各国における政府、議会、大学、シンクタンク、NGO、マスメディアなどへ直接働きかけていきます。日本の諸問題の解決のため、また、日米を含むアジア・太平洋地域の平和構築のために、各国に存在する様々な声や多様な価値観を国境を越えて運びながら、豊かな外交関係の構築に尽力していきたいと考えています。
 国内での活動も充実させ、シンポジウム、研究会、出版活動なども行っていきます。こうした企画へのご参加や、会員になっていただく、あるいは、ご寄付等でご支援・ご協力を頂ければ大変幸いです。

「新外交イニシアティブ(ND)」
情報発信と政策提言を通じて、日米および東アジア地域において、外交・政治の現場に新たに多様な声を吹き込むシンクタンク。猿田佐世さんは事務局長。理事には、鳥越俊太郎(ジャーナリスト)、藤原帰一(東京大学教授)、マイク・モチヅキ(ジョージ・ワシントン大学教授)、山口二郎(北海道大学教授)、柳澤協二(元内閣官房副長官補、元防衛省防衛研究所所長、元防衛庁官房長)の5氏が名を連ねる。会員、寄付、ボランティアなどを募集中。詳しくはWEBサイトへ

 

  

※コメントは承認制です。
外交に声なき声を届けて
~シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」の取り組み~

猿田佐世氏
」 に1件のコメント

  1. 花田花美 より:

    実際に外交にたずさわって活動している人の話はためになります。ありがとうございます。
    でも、アメリカ議会、議員はアメリカの国益を優先に考えると思うので、
    アメリカ議会にはたらきかけることが、どれだけ効果があるのかわかりません。
    日本の政治家はTPPを推進したり、集団的自衛権を認めようとしたり、
    日本の国益よりもアメリカの国益を優先して便宜をはたらく人(安倍さんなど)が多いですが、
    アメリカの議員が日本の問題をちゃんと考えてくれるようになるのか疑問です。
    でも、最初からあきらめて何もしないのがいちばんいけないことかもしれません。
    道がなければつくればいい、ということでしょう。

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