ニッポンの社長インタビュー

独自の理想を掲げて挑戦を続ける「ニッポンの社長」たちを紹介するコーナー。第3回は、想田和弘監督の「観察映画」作品『選挙2』、沖縄・高江や普天間で基地問題と向き合う人々を追った『標的の村』(三上智恵監督)、名張ぶどう酒事件を題材にした『約束』(齊藤潤一監督)など、話題作を次々世に送り出している映画配給宣伝会社「東風」の代表・木下繁貴さん。会社を立ち上げたきっかけ、作品に対する思いなどをお聞きしました。

木下繁貴さん
合同会社 東風代表

木下繁貴(きのした・しげき) 長崎県出身、1975年生まれ。大学中退後に日本映画学校に入学。卒業後、フリーの映像制作を経て、映画やCMの製作会社で配給宣伝業務を経験。2009年3月に映画配給宣伝会社・合同会社東風を設立、代表を務める。

●独立のきっかけは『遭難フリーター』

───「東風」は、映画の配給宣伝会社ということですが、映画の配給って、具体的にはどんなことをされているのでしょう?

 出来上がった映画作品を映画館で上映するまでに発生する作業全般ですね。制作者や劇場とやりとりしながら、どこの映画館で上映するかを決めて、公開までに必要な宣伝材料――予告編とか前売り券、ポスターなど――を制作する。さらに、どうやったらお客さんに来てもらえるかを、宣伝の面も含めながら考えて、最終的には全国の映画館で上映してもらえるよう働きかけていく、といったことになります。

───会社の設立は2009年、今から4年前ですね。

 もともとは、CMや映画を制作する会社の配給宣伝部にいたんです。そこで2009年の3月に公開予定だった『遭難フリーター』という映画の配給を担当していて…。

───キヤノンなどで日雇い労働者として働いていた岩淵弘樹さんが、自ら主演・監督を務めた映画ですね。「マガ9」でも、雨宮処凛さんが紹介してくれていました。

『遭難フリーター』より。(c)2007.W-TV OFFICE

 そうです。ところが、その公開に向けた準備をしていたときに、映画の中で使われている映像の使用をめぐって、NHKとの間でトラブルが起きたんですね。あるNHKのディレクターが映っている部分について「撮影の許諾をしていない」「映画館で公開されるとは聞いていない」と、2回にわたって内容証明郵便が送られてきて…。
 でも、弁護士に相談してもこちらに何ら非はないという結論になりましたし、僕たちは当然、抵抗するつもりでいたんです。ところが、当時の会社の上司から「NHKに逆らってくれるな」とストップがかかってしまって。問題部分の映像をカットするか、公開そのものを中止するか、もしくは会社を出て自分たちで勝手に公開するかどれかにしてくれと言われたので、「じゃあ勝手にやります」と、一緒に仕事をしていた仲間3人と一緒に会社を離れて、立ち上げたのが「東風」なんです。

───それはまた急ですね!

 映画の公開予定日の2週間前から会社設立の準備を始めて、法務局から設立が認められたのは公開の4日前くらいでした。でも、それでその『遭難フリーター』が大ヒットした、というのならかっこよかったんですけど、…びっくりするくらいお客さん、入りませんでしたねえ(笑)。申し訳ないくらいでした。

───でも、わざわざ作品をカットなしで上映するために会社を設立したというのは、やっぱり『遭難フリーター』という映画に惚れ込んでおられたからですか?

 それもありますが、まずは「映画を映画館で公開する」という表現を守らなくてどうするんだ、という思いがありましたね。こちら側に非がまったくないのは明らかなのだから、そのことはちゃんと主張しなくちゃだめだろう、と。会社から選択を迫られた時点で、公開中止とか一部カットとかいう選択肢は私の中にはなかったですし、そのままで公開するには自分たちで会社をつくるしかない。「じゃあつくるか」と、ほとんど即決でしたね。

───ちなみに、NHKとはその後どうなったんですか。

 東風を立ち上げた後、メディア関係に詳しい弁護士数人の連名で、こちらの言い分を書いた内容証明郵便を公開日の前日着で出したのですが、すぐ返事が来ました。「上映を差し止めるなんてつもりはない」といった内容でしたね。NHKには限らないのですが、大きな企業などにはやはり「圧力をかけたらすぐに屈するだろう」という感覚があるような気がします。

◆「正直にやること」で築いてきた信頼関係

───にしても、そんなに急に会社を辞めて、自分で会社を立ち上げてというのは、不安も大きかったのではないですか?

 もちろん、私自身も当時まだ30代の前半で、貯金も全然なかったし、親に借金を頼み込んでそれを資本金にして、という状況でしたから、不安はものすごくありました。ただ、もともといた会社でも、私たちは社員ではなくていわゆる「偽装請負」みたいな形だったんです。社員としての身分保障はなくて、でもその会社の仕事を社員のような形で受けてやっている、という…。映画などの制作会社ではよくあることで、そこの会社のスタッフは請負が多かったです。それもあって、もともと「独立を考えようか」という話はしていたんです。
 だから、「東風」を立ち上げたときには、代表の私以下、スタッフ3人も全員正社員という形でした。社会保険にもちゃんと加入して。偽装請負って、いまだに映画関連の業界ではよくある話ですし、それ自体を否定はしないけど、やっぱり仕事をする上で本来あってはいけない形だと思うんです。だから、そうではなくてちゃんと、みんながなんとか安心して働ける形でやっていこう、と。もちろん全然お金はなかったし、ほとんど無理矢理、やせ我慢でしたけどね。社員にちゃんとごはんを食べさせていけるんだろうか、と不安だらけでした(笑)。

───第一作目の『遭難フリーター』はお客さんが全然入らなかったとのことですが、とはいえその後も、たくさんの作品の配給・宣伝を担当してこられていますよね。そうした作品とはどうやって出会われるものなんですか?

 こちらから「配給させてください」ということもありますが、だいたいはどなたかからの紹介ですね。特にドキュメンタリーだと、個人の作り手の方が配給してくれるところを探していたりするので、そういう方をいろんな形で紹介してもらって。そうした人と人との関係があるからやってこられたのだと思います。

───そうやって紹介してくれる方がいるというのは、「東風さんに任せれば大丈夫」という信頼関係があるからこそだと思うのですが、そうした信頼をどうやって築いてきたのでしょう?

 「正直にやること」しかないと思います。映画の配給宣伝って本質的に、すごく特殊な業態なんです。本来なら、制作者が映画をつくって映画館がそれを上映する、それで済む話なのに、わざわざその間を取り持つわけですから。なんでこんなにお金がかかるのかとか、それ以前に業務の内容そのものとか、ブラックボックスのようになってしまっている部分が多いんです。
 僕たちはそれを、なんとかちゃんと説明して、製作者に対して公開していこうと努力してきたつもりなんです。予算上のことも、ちゃんと明細を出して制作者に見せますし、お金が儲かってないことも(笑)ちゃんと見せる。そういうところを信頼して、任せてもらっているのかなと思いますね。

◆僕らが「守るべきもの」は作品と作り手だけ

───これまで配給されてきた中には、いわゆる社会的なテーマを扱ったものなど、賛否両論が巻き起こるような作品も少なからずあります。「この作品を配給しよう」と決める、その基準はなんですか?

 基本的には社内合議制なんですが、「これが基準」というものは特にないんですよね。
 たとえば、今年の夏に公開されたドキュメンタリーの『標的の村』。実は最初にお話を聞いたときは、ちょっとスケジュール的に難しいなという感じだったんです。でも、その話を持ってきてくれた方が、試写を見たその日の真夜中に電話をかけてきて、「これはやらんとアカン!! 今すぐ見て!」と延々熱く語るんです。正直「あー、困ったな…。」と思いながら聞いていたんですけど(笑)。
 その後、DVDが届いたので夜、家で見てみました。「確かにいい作品だな」とか考えていたら、今度は夜中の1時過ぎに、やっぱりDVDを持って帰っていた別のスタッフから電話がかかってきて「木下さん、この作品やらないと人間じゃないですよ!!」と(笑)。それで「わかった、やろう」ということになったという…。

『標的の村』より。(C)琉球朝日放送

 もちろん会社は維持していかなくてはならないので、作品によっては利益の面を重視して引き受けるものもあります。でも逆に、予算もない、お客さんもなかなか入りづらそうだと思う作品でも、「これを公開しないでどうするんだ」と思える作品については、経済的には自分たちが損することを分かっていてもやる。そこの部分は大切にしていこうと思っています。

───『標的の村』のときも、那覇地裁などが裁判所敷地内で撮影された映像不使用を求めてくるなどのトラブルがあったそうですが、特にドキュメンタリーの場合は、テーマによってはそうした妨害というか、横槍が入ることも多いのでは? 

 確かに、いろいろあります。僕らはとにかく、公開したいと思った作品をきちんと映画館で公開して、観客にちゃんと見てもらいたい。それを邪魔する要素は、さまざまな手段を使ってなんとかしていく、ということですね。もちろん、個人のプライバシーなどについての配慮は当然必要だと思うし、そこはすごく悩むこともありますが…。
 もちろん、まったく譲ってもかまわない、そこを変えても作品の内容に全然影響はない部分というのはありますから、それについてまで意固地になるわけではありません。でも、作品の根幹を揺るがすような変更を迫られた場合、表現の自由を奪うようなことが行われた場合は屈する必要はないと思っています。
 特に、私たちの会社はどこかから資本金を受けているわけではないし、何のしがらみもありません。守るべきものは作品と作り手しかないので、「闘いやすい」んです。社員もみんなまだ若いので、怖いもの知らずのところもあるんでしょうが(笑)。

───あと、公開にこぎつけても、今度はお客さんから批判を受けることもあるのでは?

 うーん。あんまり右とか左とかって分けるのは好きじゃないですけど、うちはけっこう、左派系のドキュメンタリー会社だと思われがちなんです。私自身も個人的には、どちらかといえば社会運動のようなことに肩入れするほうではあるんですが…でも、たとえば2011年に公開した『平成ジレンマ』は、戸塚ヨットスクールの戸塚宏さんのドキュメンタリーです。「左」の人にしたら忌み嫌う対象だったでしょうね。僕自身も、映画を見たときに、戸塚さんの価値観には共感できなかったんだけど、映画をつくっている人たちの考え――戸塚宏を単なる「悪人」として描いていない――のは共感できるところがあるな、と思って公開を決めました。そんなふうに、「右」と「左」、どちらからも怒られるような作品もよく配給していますね。
 あと最近、一番批判を受けたのは『311』でしょうか。

───森達也さんや綿井健陽さんらが、3・11直後の被災地を「取材する様子」を追ったドキュメンタリーですね。遺体にカメラを向けて被災者に怒鳴りつけられる取材者の姿が映し出されているなど、賛否両論を巻き起こした作品でした。

 ある意味、本来は「見せちゃいけないもの」だけで構成されているような映画です。社内でも配給することに賛否はありましたし、公開後には「震災を食い物にするのか」といった非難の電話もありました。今まで一緒に仕事をしてきた作り手の方からも「なんでこんな作品を公開するんだ」と怒られましたね。
 でも、僕は試写を見せてもらって、公開すべきだと思ったので…あれは、いわば「ドキュメンタリーをつくることの業」についてのドキュメンタリーなんですよね。その視点はとても大事だと思ったし、単純に作品としても面白い。結果として、公開した意味はあったと思っています。

◆映画を見て受けた衝撃や感動を、お客さんと共有したい

───そうしたいろんなトラブルや批判もある中、仕事に向かう原動力は何でしょうか。

 映画が好きというのもありますけど、僕たちに「配給してほしい」と言ってくれるドキュメンタリーの作り手たちがいるわけですよね。それに対して逃げられないという思いがまずあります。…というとネガティブに聞こえるかもしれませんが、その「逃げられない」状況を意識することで自分たちを駆り立てているところがあるんだと思います。
 あと、当然ですがお客さんがたくさん劇場に見に来てくれるとすごく嬉しい。一種の快感ですね。それをまた味わいたくて、この仕事をやっているのかもしれません。 

───今後、こんな映画にかかわっていきたい、という夢はありますか。

 「こんな映画」というジャンルがあるわけではないんですけど…いつも考えているのは、私たちがその映画を見て受けた感動や衝撃をお客さんと共有したいということ。そして、映画を見る前と見た後で、世界が何か少し違って見えるような、お客さんにそう思ってもらえるような作品を送り出していきたいなと思っています。
 映画って、周りの人と共有できるじゃないですか。1人でネットやテレビで見るんじゃなく、誰かと一緒に見て、考える。それによって得られるものが必ずあるはずだし、僕も映画ってそれがいいなと思ってずっとこの業界に身を置いているので。

───作品によっては、自主上映会開催の呼びかけなどもされていますね。

 そうですね。何らかの社会問題をテーマにした映画であっても、僕たちはもちろん「そのテーマだから」扱うということはありません。そうではなく、作品自体の価値を見て配給を決めるわけですが、一方でその公開を、うまく「使って」もらいたいなという思いもあるんです。たとえば、以前に配給した『死刑弁護人』という映画は、死刑廃止運動のイベントで上映されたりもしましたが、そんなふうに、世論を盛り上げたり、コミュニティの中で共有したりする一助として利用してもらいたい。それによって映画自体の話題づくりにもなって、より多くの人に見に来てもらえることにもつながるし、うまく互いにとっていい形をつくりながら、社会を変えるための手助けができたらいいなと思っています。

『死刑弁護人』より。(C)東海テレビ放送

───映画を通じて、社会を変える?

 私たち自身が直接社会を変えるなんてことはできないかもしれません。でも、周りにいる制作者や監督も含めた、東風という「場」をなんとか維持して、映画というコンテンツを提供し続けていくこと。それが、自主上映会の場なども含めた何らかのコミュニティが生まれるきっかけになってほしい。そして、そこからほんの少しでも社会がいい方向に向かっていってくれれば。そんなふうに考えています。

(構成・仲藤里美 写真・塚田壽子)

東風配給による近日公開作品

『ペコロスの母に会いに行く』(森崎東監督)
2013年11月16日より全国ロードショー

『祭の馬』(松林要樹監督)
12月シアターイメージフォーラムにて公開、ほか全国順次

 

  

※コメントは承認制です。
「見る前と後とで、世界が違って見えた」
そんな映画を世に送り出したい
」 に3件のコメント

  1. magazine9 より:

    あわただしい日々の合間、楽しみの一つが時間をつくって映画館に向かうこと。ひとりでも、誰かと一緒でも、大きなスクリーンの前で過ごす時間の贅沢さは、ちょっと他には代えられません。そして、「見てよかったなあ」と思わせてくれる映画を次々届けてくれる配給会社の一つが「東風」。これからも面白い、そして世に議論を巻き起こす映画の配給、期待しています!

  2. 山下太郎 より:

    木下さんは「絶対に逃げないひと」だそうで、他人からそう言われるひとってやっぱすげーなーっておもいますよね、、

  3. 森 健一 より より:

    「標的の村」は上映会してよかったです。安里屋ユンタを排除される車の中から唄う女性の姿は松元ヒロさんを通じて全国に伝えられました。

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