B級記者どん・わんたろうが「ちょっと吠えてみました」

 関東で「強制停電」が始まった。電力の供給量が足りないのだから仕方ない、と言われればその通りなのだが、今ひとつ釈然としない。だって、あまりに一方的ですもの。前日の夜に告げられて、いきなり朝から電車ストップだもの。何とか他の手段を取れなかったのか、残念な気持ちになる。
 なんて書くと「被災地の苦労を考えて、このくらい我慢しろ」という声が聞こえてきそうだが、それとは別次元の話だと思う。こんな時だからこそ、直接大きな被害を受けなかった地域では、可能な限り通常の生活を送れることが大切だ。
 首都圏でも地震の翌日から、スーパーやコンビニの食品棚は空になり、ガソリンスタンドには行列が出来ている。間引き運転で超混雑した電車の中はギスギスしているし、スーパーでは買い占めする客が目立つ。みんな、自分を守ることを優先しだしているのだ。余裕がなくなれば、人のことなんて二の次になる。被災地を応援しようというせっかくの機運が、しぼんでしまわないだろうか。
 その意味で、大阪府知事の橋下徹さんが「関西において過度な節電は必要ありません」と述べ、節電のための「自粛」を求めない姿勢を示したことには賛同する。むしろイベントを予定通り開き、そこで義援金を集めた方が被災地のためになるとの理屈は、もっともだ。
 反対に、蓮舫さんの節電啓発担当大臣なる肩書には、なんなんだよ、と脱力してしまった。「国難の時期」だから温水便座のスイッチを切っておけなんて、大きなお世話である。そんなこと政府に言われなくたって、みんな出来る限り節電しようと思っている。前回書いた「地デジ」と同じ流れで、すぐに「国民運動」なんて言い出し、従わない人をはじき飛ばさんばかりの発想、とても危ない。今に始まるよ、あの企業・あの個人が電気をムダに使っているから何とかしろ、という密告が。こういう時期だからこそ、私たちはどうしたらいいのか、自由に意見を出し合える雰囲気が大切なのに。
 と思っていたら、マスコミも強制停電に加担してきた。初日の14日、朝日新聞の天声人語。「悲しみの中で避難生活を強いられている数十万の方々を思い、取るに足らぬ不便は喜んで引き受けたい」。被災者を持ち出して、停電に反対する奴は非国民だと言わんばかりの論調である。でも、違うぞ。今は一言にとどめるけれど、強制停電はあくまで原子力発電による「人災」の帰結であって、この記事は論理をすり替えている。政府と一体になって「欲しがりません勝つまでは」と煽っているように感じられ、何とも後味が悪い。
 で、ここからが今回の本題。マスコミの被災地での取材手法について、今すぐ考慮すべきことを記す。
 その一。被災地のヘリコプター取材は、絶対に「代表取材」にするべきだ。テレビ・新聞が会社ごとにバラバラに取材するのではなく、代表のカメラと記者が取材し、それを各社に配信するという方法である。
 ヘリの音はかなりうるさいから、捜索や救助・救援活動の妨げになる。それが会社ごとに何機も飛んでくる。同じ現場で、数機が列になってぐるぐる回っていることもある。すでに発生から5日が経っているとはいえ、助けを求めるかすかな声をかき消してしまうかもしれない。復旧作業をしている人に、危険を知らせる指示が届かなくなるかもしれない。だから、これは一般に言う取材規制とは異なる。
 マスコミの取材ヘリの弊害は災害のたびに指摘されてきたことだが、今回も顧みられていないようだ。しかも、助けを求めている人に対し、見ているだけで何もしない。孤立した病院・学校の屋上やグラウンドで、必死になってSOSの文字を掲げているのに、テレビ・新聞の各社が順番に映像だけ撮って帰っていく。どんなに被災者を落胆させただろうか。
 代表取材にして余ったヘリは、救援・復興活動に参加する。マスコミ各社のヘリ操縦士には自衛隊出身者もいるから、役に立つこと間違いない。社会貢献として高く評価されるだろう。
 その二。被災者の避難所も、代表取材にするとか手法に配慮するよう強く求めたい。
 災害の発生直後は被災者の皆さんも気が張っているから、まだいい。でも、避難生活が長引くにつれ、体調も精神状態も悪くなるばかりだ。ただでさえ落ち着いて過ごせず、プライバシーも保てない避難所に、見ず知らずの記者やカメラマンが土足で入り込む。新聞・テレビの会社ごとに長時間、同じことを聞かれ、就寝や食事のような場面まで写真や映像に撮られる。阪神・淡路大震災の時も問題になったかと記憶しているが、被災者にとっては相当なストレスになっていく。
 新聞社やテレビ局によっては、今回、全国から100人規模の取材陣が現地入りしているようだ。若い記者が多く、率直なところ、この機会を利用して本社にアピールしたいと意気込む輩も少なくない。かつて私の周囲にも、何かと言うと阪神・淡路大震災の被災地取材での「特ダネ」を自慢する奴がいた。
 普段の報道規制には反対するが、取材対象の健康にかかわる時は別だ。国民と被災者の双方から望まれているのは、業界内でだけ通用する特ダネ(競争)ではない。被災者の状況や気持ちを、無理なく丁寧に伝えてほしいのだ。各社が分担することで、声が届きにくい小規模な避難所にも取材の手が回る利点もある。
 代表取材以外に良い方法があるならそれでも構わないが、被災者のことを真摯に考えて、早急に実行に移してほしい。もちろん、そこにフリージャーナリストが参加できることや、代表取材で得られたデータに誰でもアクセスできることは、当然の前提である。

 

  

※コメントは承認制です。
第40回 被災地の取材手法で
今すぐ考慮すべきこと
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    被災地の状況を伝えることはもちろん重要ですが、
    センセーショナルな映像だけを何度も何度も流したり、
    立ちつくす被災者からコメントを取ったりと、
    何のための、誰のための報道なのか? と思う場面もしばしば。
    緊急の事態だけに、本当に有用な、意義ある報道を望みます。

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どん・わんたろう

どん・わんたろう:約20年間、現場一筋で幅広いジャンルを地道に取材し、「B級記者」を自認する。 派手なスクープや社内の出世には縁がないが、どんな原稿にも、きっちり気持ちを込めるのを身上にしている。関心のあるテーマは、憲法を中心に、基地問題や地方自治、冤罪など。 「犬になること」にあこがれ、ペンネームは仲良しだった犬の名にちなむ。「しごと」募集中。

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