風塵だより

 むかし『暴走特急』という映画があった。スティーブン・セガール主演の、まあそれなりのアクション。これは映画だから楽しんで観ていられるが、このところの安倍首相の“暴走”ぶりは、とても笑って見過す、というわけにはいかない。ヤバすぎる。

 ぼくは、ふたつのファイルを作っている。あの2011年3月から始めた習慣だ。最初は「原発」だけだった。さまざまな原発関連情報を、新聞、雑誌や、ネットのプリントアウト、あるいは書籍のコピー、知人友人のジャーナリストや研究者からの聞き書きなどまでファイルしていく。それを基に、自分なりの考えをまとめる。現在までにもう31冊になった。
 そこから生まれた単行本が、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版、2000円+税)だった。
 でもそのうちに、原発・原子力問題は、政治の動きと密接に関連していることが分かり始めた。そこで「憲法・沖縄他」というファイルも作り始めた。初期のころは圧倒的に「原発」ファイルが多かった。「憲法・沖縄他」はまだ16冊目だが、実はこのところ、このファイルが急速に増えている。そう、安倍内閣の再登場あたりから、凄まじい勢いの増殖ぶり。
 それだけ、ぼくのアンテナはビリビリ震えているわけだ。
 もう、ひとつひとつの事象を取り上げているだけでは間に合わない。それだけ“安倍暴走車”が巻き起こす危険は多岐にわたる。もっとも、なんだかんだと暴れまわりながらの安倍暴走車の方向は、結局は「憲法改定」という一点へ収斂されていくのだが…。
 ごく最近の、目についた“安倍暴走内閣”の事例を挙げてみよう。

◎「政府開発援助(ODA)」の基本方針を変更し「開発協力大綱」として、これまで原則として禁じてきた他国軍への援助も“非軍事分野”に限って認めることとする(1月30日、自民党総務会)。なお、この大綱は2月10日に閣議決定された。
 他国軍への非軍事的援助? もはや言語矛盾の枠さえ越えている。

◎国会質疑で安倍首相は、人質事件を念頭に日本人救出について「現段階では、邦人の輸送はできるが救出はできない。救出も可能にする議論を行っていきたい」と述べ、中東訪問については「平和への歩みを世界に広げていくことを、世界に発信するのに中東地域こそ最適と考えた」(2月2日)。
 実力での邦人救出となれば、実際の戦闘行為になる。自衛隊幹部でさえ「それは不可能」と明言しているのに、安倍首相の頭の中の戦闘シーンは、ゲーム的増殖を見せているらしい。救出は、武力ではなく政治力だ。実際、後藤さんの件では、解放間近まで話し合いが進んでいた、という情報もあるではないか。

◎安倍首相、参院予算委で「自民党はすでに憲法九条の改正案を示している。なぜ改正するかといえば、国民の生命財産を守る任務を全うするため」と、改めて改憲に意欲を示した(4日)。
 悲惨な結末を迎えてしまった人質事件における政府の対応についてはまったく反省の意志を示さず、逆にそれを「改憲に利用する」という姿勢。東京新聞のデスクメモは「テロの脅威にかこつけ、今なら国民の反発は少ないと踏んだのだろうか。火事場泥棒のような言動だ」と厳しく批判。同感である。

◎その人質事件だが、政府は邦人2名の拘束の情報を昨年12月には把握していながら、殺害予告のあった1月20日までヨルダンの現地対策本部の置かれた日本大使館の人員をまったく増強していなかったことが判明した(東京新聞4日)。
 安倍首相の頭の中は、総選挙でいっぱい。人質事件などまるで考慮外だったようだ。

◎ソマリア沖アデン湾で海賊対処活動を行う多国籍軍の司令官に、海上自衛隊第4護衛隊司令の伊藤弘海将補を5月から派遣と、中谷元・防衛相は発表多国籍部隊の司令官を務めるのは初めて(3日)。
 国民の議論などないままに、いつの間にか自衛隊が多国籍軍の中核の位置を占めていく…。

◎自民党の高村正彦副総裁は「後藤さんが日本政府の警告を無視してテロリスト支配地域に入ったのは、どんな使命感があったとしても“蛮勇”だった」と記者団に語った(4日)。
 アメリカのパワー国連大使が「後藤さんの勇気と功績を称賛する」と国連で述べたのとはまるで対照的。どちらが日本の政治家か? 日本の政治家の程度の低さと冷血さを露呈した。

◎安倍首相、人質事件について「このような結果になったのは大変残念。責任はすべからく最高責任者の私にある」(4日、衆院予算委)。
 二言目には“最高責任者”と言うのだが、この人が、具体的に責任を取ったという話は聞いたことがない。口先ばかり。

◎文科省は小中学校に2018年度から、正式に導入する「特別教科・道徳」の学習指導要領改定案を公表。そこでは「物事を多角的・多面的に考える」「特定の見方や考え方に偏らない」などと明記(4日)。
 「憲法」とタイトルに含まれるだけで会場使用を許可しない、というような地方自治体が増えているのは「多面的な考え」を拒否し「偏った見方」ではないのか。こんな状況下で「道徳教育」などとは片腹痛い。

◎安倍首相がついに「改憲への国会発議と国民投票の時期」について「来年夏の参院選後が常識だろう」と発言(4日)。
いよいよ、改憲スケジュールを視野に入れ始めた。

◎アフリカ東部ジブチ共和国にある自衛隊の活動拠点での、他国軍との軍事交流が盛んになっている(朝日新聞6日)。
 いつの間にか、自衛隊が海外での“活動拠点”を持っていたという事実。ほとんどの国民が知らぬ間に…。しかも、ここでも“基地”と呼ばずに“活動拠点”とあいまいな名称を使う。安倍内閣の得意技「言葉を言い換えて実態をごまかす」という手法である。

◎NHK籾井勝人会長の放言が止まらない。慰安婦問題での番組作りは「正式に政府のスタンスが見えないので、慎重に考えなければならない」と定例記者会見で述べた(5日)。
 相変わらず、安倍首相の言うままのゴマすりぶり。とても、日本最大の報道機関のトップとは思えない。「NHK史上最悪の会長」と呼ばれるのも当然か。

◎沖縄県の翁長雄志知事が上京、安倍首相や菅官房長官に面会を求めたが、いずれも拒否された。これで知事就任以来6度目の上京だが、官邸サイドの拒否は変わらない(6日)。
 沖縄県民の圧倒的支持で当選し、重大な問題を抱える地方の知事との対話にも応じようとしない官邸。意見の違う者とは話もしない安倍政権の姿勢。

◎沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設工事へ向けた作業で、20トンもの重量のコンクリートブロックが大浦湾に沈められ、多くのサンゴを傷つけていることが明らかになった。2月1日、7日、8日の3回の「ヘリ基地反対協議会」の潜水調査で明らかになった。
 一度壊された自然は、回復するのに膨大な時間を要する。大浦湾は貴重な自然の残る海として有名な場所だが、そんなことはお構いなし。辺野古での反対運動は激しさを増しているが、海上保安庁職員が、映画監督の女性の首を足で締め付ける、という凄まじい写真が撮られている。それでも「女性の身の安全を守るための措置」などといって恥じない海保や国土交通相。そんな言い訳が通るのは、この国の政治家だけだろう。

◎自衛隊がアメリカ軍以外の他国軍への支援や防護ができるよう、政府は安保法制の方針を改めることを、与党へ伝えた。オーストラリア軍などが念頭にあるという(12日)。
 こうなれば、もはや歯止めは失われたも同然。どこまで行くのか…。

◎厚労省の労働政策審議会が、いわゆる「ホワイトカラー・エグゼンプション」法案を創設する報告書をまとめた。これは、長時間働いても残業代を支払わなくてもいいという、企業側に有利な制度。2016年の実施を目指すという(13日)。
 労働者側から見れば「残業代ゼロ法案」であり、かつて「過労死促進法」などと呼ばれて猛反発を受け、立ち消えになった制度。今度はそれを「高度プロフェッショナル制度」と名前を変えて再度提出へ。ここでも「言葉を言い変えて実態をごまかす」手法が使われている。

◎翁長沖縄県知事が「辺野古米軍新基地建設に伴う作業で、県の許可区域以外の海での大型コンクリートブロック投入がサンゴ礁を破壊した疑いが濃い」として、沖縄防衛局に対し「海底面の現状変更停止」などを指示した。これに応じない場合には「岩礁破砕の許可取り消しもあり得る」との強い姿勢を示した。
 だが、菅官房長官や中谷防衛相は「工事の手順に従って、粛々と実施していく」と、翁長知事の表明を無視する態度。(16日)
 聞きたくないことは聞かない、という安倍首相の姿勢をそのまま繰り返す政府高官たち。これがさらに、県民の反対運動の盛り上がりを呼ぶ結果になっている。

◎防衛庁の外局として「防衛装備庁」が創設されることが明らかになった。戦闘機や護衛艦などの研究開発や購入を一元化してコスト削減を目指す。さらに、他国との共同開発や輸出も行うという(17日)
 どんどんキナ臭い方向へ突出していく。“武器”を“防衛装備品”と呼び換えてごまかす手法が、官庁として具体的な姿を現した。

◎安倍内閣は安全保障関連法で、日本の周辺有事を想定したアメリカ軍への後方支援を定めた「周辺事態法」から「周辺」という言葉を削除して地理的な制約をなくす方針を公明党へ提示。アメリカ軍以外の軍隊への支援を、海外で自由に行えるようにするというもの(19日)。
 こうなれば、世界中のどこででも他国軍と共同行動がとれるようになる。まさに安倍首相の望む“世界に冠たる日本”が姿を現す。

 ここまで調べてきたが、とても1回では書ききれない。もっと多くの危ない政策が山積みなのだ。ほんの20日分ほどで、このありさまだ。
 沖縄のことも、原発に関しても、挙げておかなければならないことがまだたくさんある。あまり長いのも、読んでくださる方には負担だろうし、怖さは並みのホラー小説どころじゃない。ゾクゾクと背筋が冷たくなる。書くほうだって疲れます。
 ということで、今回は、ここまでにします。続きは来週。

 それにしても、こんな“暴走内閣”、やっぱり放ってはおけない。

 

  

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「風塵だより」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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