風塵だより

 新聞をめくっていたら、こんな投書が目にとまった。
 東京新聞(3月2日)の梨田さんという方の文章だ。ほんとうに同感したので、引用させていただこう。

 見てはいけないものを見てしまった――。先日、「日教組、日教組」と国会でヤジを飛ばしている安倍首相をテレビで見たとき、私は、そう思った。
 子どもが相手をおとしめる時にする意地悪いレッテル貼りのような言い方で「日教組」「日教組どうするの」と繰り返していた。知性も品格も失い、発言者や委員長に制止されても続けた。首相という立場でそこまで感情的になるか。
 後日、謝罪したとはいえ、こういう人が「いじめはいけない」「美しい国へ」などと言っても素直に聞けるだろうか。ましてや私たち国民の命を左右する集団的自衛権や原発政策などを、こういう政治家に進められたらたまったものではない。安倍首相は退いてゆっくり静養してくださるよう切に望む。

 また、同じ日の「朝日川柳」に、飯塚さんという方のこんな句があった。

「言葉には気をつけた方がいい」だとさ

 安倍首相が2月27日の衆院予算委員会で、民主党の後藤祐一議員の、閣僚の金銭疑惑についての質問に、思わず怒りをあらわにして吐き捨てた言葉がこうだった。
 「後藤さん、少し言葉には気をつけた方がいいと思いますね」
 肝心の質問にはほとんど答えず、はぐらかしてばかりの安倍首相だが、痛いところを突かれると、突然、激昂し逆切れする。
 首相が首相なら、閣僚だって同じだ。“カネまみれ”疑惑を問いただされた下村博文文部科学相もまた「非常に失礼なことを言いましたね。訂正してください(2/26)」「後藤さん、やはり言葉には気をつけたほうがいいと思うんですよ(2/27)」と、首相と同じ逆切れぶり。
 これって、ヤクザが凄むときのセリフによく似ている。
 「てめえ、誰に向かってモノ言ってんだ、言葉には気をつけろよ!」…。
 この国の、最高の言論の場であるはずの「国会予算委員会」が、ほとんど口汚い脅し文句に占領されている。しかも、それを率先して行っているのが、安倍首相とそのお友だち大臣たち、という悲しい光景。それが1度だけではなく、何度も何度も繰り返される。
 先週のこのコラムで、最近の安倍内閣の“暴走”ぶりを列挙してみた。とても1回だけでは書ききれず、つい「続きは次週で…」と予告してしまった。けれど、あまりに多すぎて、しかも内容がひどすぎて、書いている本人が暗い気分に陥ってしまう。
 だから今回は、目についたことを箇条書きにするだけにしよう。ほとんど、ぼくがファイルしておいた事項ばかり…。

  • 「戦後レジームからの脱却」。最近は「戦後以来の大改革」という妙な言葉に言い換えている
  • 集団的自衛権行使容認を閣議決定(国会論戦を無視)
  • 福島事故原発(アンダーコントロールや完全ブロック発言)→同じ言葉を、東電の汚染水漏れの隠蔽がバレたこの3月になっても、菅官房長官が繰り返した。政府も東電も恥を忘れた?
  • 川内原発・高浜原発の再稼働への動き加速
  • 原子力規制委員会の骨抜きが目立つ
  • 経産省テント村排除への動き
  • 沖縄・辺野古への米軍新基地建設強行
  • 沖縄・高江でも、オスプレイ用ヘリパッドの工事を強行
  • 安倍官邸は、沖縄県知事との面会拒否を続ける
  • 中東での安倍発言と人質事件、安倍首相に反省の言葉なし。逆に、人質事件を「邦人救出」の法案に利用も
  • ODA(政府開発援助)の軍事色強まる(これを「開発協力大綱」と言い換え)。これで、他国軍への“非軍事分野”での支援も可能に
  • 安保法制の恒久法化、「防衛装備庁」を創設(“防衛装備”とは“武器”の言い換え。官民癒着の武器輸出へ)
  • 周辺事態法から「周辺」を削除(世界中で自衛隊が活動の可能性)
  • 他国(ジブチ)で、いつの間にか、自衛隊“基地”強化
  • 集団的自衛権行使の際のあいまいな言葉「存立事態」が、突如クローズアップ(武力行使の「新3要件」のうちの1つ、【我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係ある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること】による)
  • 他国軍への後方支援をめぐる恒久法→「非戦闘地域」に限っていたものを「現に戦闘の行われていない地域」に拡大
  • 武力攻撃に至らないグレーゾーン
  • 自衛隊の海外任務における武器使用基準の見直し
  • アメリカ艦船以外の他国軍の防衛も可能にするとともに、国連決議なしでも、自衛隊の海外活動を行えるような安保法案を
  • アベノミクス効果は大企業に限定的(第3の矢は不発)。日銀との二人三脚も結局は失敗か
  • TPPと農協法改定
  • 特定秘密保護法施行(早くも秘密指定始まる)
  • 残業代ゼロ法案(「高度プロフェッショナル制度」との言い換え)
  • 派遣労働法の改定(3年間勤務の派遣社員の正社員化の義務をなくす→労働者の小作人化)
  • 介護報酬引き下げ
  • 年金引き下げ(マクロ経済スライド方式)
  • 戦後70年談話へ向け、またも有識者懇談会(あくまで私的な会)を設置。→70年談話のための有識者懇談会(安倍首相寄りの“有識者”が多数)
  • 道徳教育の正式科目化
  • 沖縄・辺野古での反対運動リーダーら逮捕(米軍幹部の指示)
  • 沖縄・辺野古の海で、工事により許可区域以外でのサンゴ破壊が判明(翁長沖縄県知事は、岩礁破砕許可の取り消しにも言及)
  • 自衛隊における「文官統制」の改定(制服組・自衛官の権限強化)。しかも、中谷元・防衛相が「自衛隊における文官優位の在り方(文官統制)は、戦前の日本軍部が暴走したことへの反省から出たものとは思わない」と語る
  • 再生可能エネルギーの買い取り価格の値下げ(特に太陽光発電の普及の抑制を狙う、原発再稼働への足固め)
  • 東京電力福島第一原発2号機からの高濃度汚染水垂れ流し、1年以上も隠蔽
  • 西川公也農水相が、カネの問題で辞任
  • 衆院予算委員会で安倍首相が捏造ヤジ(日教組に関するヤジ)、後に事実でないことを認め、一応は陳謝
  • 西川農水相に続き、下村博文文科相、望月義夫環境相、上川陽子法相と、安倍内閣閣僚に次々にカネの疑惑発覚、ついには安倍首相本人にまで疑惑が及ぶ(なお、岡田民主党代表の疑惑も…)
  • 馬淵澄夫民主党議員は「1985年〜2015年までの30年間に、17人のカネがらみで辞任した閣僚のうち7人が安倍内閣」と指摘
  • 安倍首相「憲法改正の発議は、来年(16年)の参院選後がふさわしい」と、初めて改憲時期に言及
  • そしてむろん、最終的に狙うのは憲法改定……

 ざっと、目につく事例を挙げただけでもこれだけ。調べれば、もっと多くの危ない動きがあるだろう。
 むろん、これらすべてが安倍内閣によって始められたというつもりはない。しかし、安倍首相再登場以降、凄まじいスピードでこれらの政策が走り出していることは間違いないだろう。

 安倍首相のやることは何でもバンザイ、という方々はいざ知らず、上に挙げてみた事柄を、そのままそっくり受け入れられる人は、さて、どれくらいいるだろうか?
 ぼくは、残念ながら、ほとんど肯定することができない。
 あなたは、どれくらい支持できますか?

 

  

※コメントは承認制です。
20 あなたは、安倍政策をどれくらい支持できますか?」 に7件のコメント

  1. とろ より:

    経済はわかりませんけど,外交防衛は現状でいいのではないかと思います。
    いつまで続くか分かりませんけど,変わるなら受け皿をつくってからにして欲しい。
    ホントなら受け皿になるはずの野党がひどいのが原因ですかね。

  2. 小田原秀継 より:

    全て支持しません。それどころか、あの無教養で道理をわきまえない強弁は聞くに堪えません。あの人から、すこしでも肯定できるアベノミクスの説明を聞いたことがなく、道理が立たないので「美しい話」で決めつける、あのやり方は軽蔑します。問題は私達の過半数が、いまだにあの人の言動とネライに気が付かず、ふわっとした淡い期待をかけているらしいことです。

  3. 多賀恭一 より:

    民主主義国家では、立派な人間は権力を持てない。
    独裁者の国では立派な人間は殺され、普通の人間も権力を持てず、狂った愚かな人間だけが幅を利かす。
    民主主義の方がマシとはいえ、もっと優れた社会制度は無いものかと思う。

  4. 島 憲治 より:

    自分(安倍氏)が「憲法」に優先するといういう考え方を何の恥じらいもなく公の場で表現する厚顔無恥さ。このような人が『権力」を握ったら怖い。自分は正しいことをやっていると思っているからぶれないのだ。これは民主主義の弱点である。そして歴史の教訓でもある。このような人物を党総裁に選ぶ「自民党」の得体が分からない。戦後を否定、戦前回帰をを目指すコペルニクス的な転回について行ける国民にも驚いている。              「沈黙する善良な市民」が国を滅ぼす。これまた歴史の教訓である。「個」を鍛え「目くらまし」には騙されないようにしたい。

  5. countcrayon より:

    3/5の日刊ゲンダイ・高野孟さんの記事ですが、日刊ゲンダイですし(笑)希望的観測の疑いありとしても
    http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/157745
    自民党の幹部・長老さんがたまで例のヤジを機に「なんとか我慢して安倍政権を支えていこうという気持ちがすっかりなえた」「『保守政治を取り戻そう』という流れが出てきた。ひょっとすると『9月政変』」、だそうです。昨年の都知事選での小泉純一郎氏の行動も当然その先触れだったと思えますし。
    私ゃもう全力でそこに期待してます。党内抗争、擬似政権交代大いにけっこう!自民党の良識派がんばれ~。そうなったらもう人生で初めて自民党の人応援しちゃう。解散して割れたら投票でも何でもしちゃう。
    という話がバレてつぶされるといけないので、どうかAbe様が日刊ゲンダイを読んでませんように!

  6. 松蔵 より:

    「日教組」発言はあまりにも意味不明過ぎて、全国民を唖然とさせたのではないでしょうか?
    あの言葉一つで首相としてどころか、社会人としてのまっとうな判断が出来ない人間であることがよく解ると思います。解ってはいましたが「やっぱりか」とがっかりさせられます。これが日本の首相なんて。
    それでも支持を続ける人は何を考えているのでしょか?我々はそういう人々と、たとえ解り合えなくても、対話の機会を持つことが必用なのかもしれません。

  7. 仏の提言 より:

    始めまして。すずき こうさん。私も1945年生まれです、又8月15日の天皇の敗戦ラジオ放送の直後に生まれました。その事もあり、平和について誰よりもこだわりを持っています。私には戦争責任は有りません。だからこそその当時生きていた先輩に対して、叱責すると同時に今を生きている、われわれ同年輩の人に奮起を促すのです。

    なぜ今、立ち上がれないのか、立ち上がらないのかという事です。このまま手をこまねいていては、80年前の過ちを繰り返すことになります。反原発デモ、九条の会等でアピール、マスコミで現政権を批判するのも自由ですが、安保と同じ事になる気がします。ただ騒いだだけとなります。

    私は今、国民による、国民のためのリベラル新党を発足させるべきだと断言します。騒いでいる時間、エネルギーが有るのなら政権を奪取することを考えるべきです。過去の日本新党も、たった一人の細川さんが動いて一時政権をとりました。そのようにやればできると思います。

    では誰がするかという事ですが、それはわれわれ同年輩の者がするしかないと思います。若い人は家庭で、会社で大黒柱です。その若い日人に日本のためとはいえ、社会を敵に回すような活動をさせるわけにはまいりません。弾圧されれば職、お客を奪われて家族が路頭に迷います。

    ですから、一線を退いた我々がやるしかありません。まだ健康な人は大勢います。経験も豊かです。苦労もしています。実績もあります。知恵もあります。気力もあります。第一誠意が有ります。一人一人が少しづつ出し合い協力するのです。ある人は選挙の候補者に、ある人は演説に、ある人は知恵を、金を、アイデアを、事務を、仲間の紹介を、励ましを、パソコンシステムを、宣伝を、デザインを、事務を、運転を、掃除をと何でもよいと思います。

    選挙は0円で行います、市川房枝先生の「理想選挙」です。ポスター、街宣車は使いません。徒歩と自転車です。又SNSを駆使します。ブログ、ツイッター、スカイプを多用します。ネットで全国会議を行います。1か所に集まっての会議はしない。などなど考えています。

    私も高齢となり体調もあまり良くありませんが、自分でできるところで協力したいと思っています。市川房枝先生は「出たい人より出したい人」と言うキャッチフレーズも作られました。ですから、それ相応な人に指導者になってもらいたいと考えています。なにとぞご検討ください。

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「風塵だより」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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