風塵だより

 ホント、冗談じゃないよ、と思う。
 このところの「安倍戦争内閣」の暴走ぶりだ(自民党が福島瑞穂氏の「戦争法案」という発言を取り消せ、というのなら、ぼくはむしろ積極的に「安倍戦争内閣」と呼ぶ)。
 日本国民は、昨年の選挙で安倍政権にすべてを託したわけじゃない。比較第一党の地位を与えただけだ。だが、安倍首相は「選挙で勝てば何をやっても許される、それが民意だ」と言わんばかりに暴走を始めた。そしてとうとう、安保関連法案をひとまとめにして(これも乱暴な話だが)提案することを決めちまった。
 ざっと、どんなものがあるかをおさらいしておこう。

◎武力攻撃事態法改正案
◎重要影響事態法案=周辺事態法改正案
◎国際平和支援法案
◎国連平和維持活動(PKO)協力法改正案
◎自衛隊法改正案
◎船舶検査活動法改正案
◎米軍行動円滑化法改正案
◎特定公共施設利用法改正案
◎外国軍用品海上輸送規制法改正案
◎捕虜取り扱い法改正案
◎国家安全保障会議(NSC)設置法改正案

 どうですか、これ。名称を全部覚えきれる人、います?
 こんな多岐にわたる関連法案を、もうぜ~んぶまとめて一気に通しちゃおうてんだから、国会審議も何もあったもんじゃない。
 公明党は例によって「我が党のおかげで立派な歯止めができた」とドヤ顔だが、これも冗談じゃない。
 戦争中の他国軍を支援する自衛隊の派遣についての「国際平和支援法案」では「例外なき国会承認を、我が党が自民党に飲ませた。これが大きな歯止めになる」と公明党が言うのだが、何のことはない。ほかの法案では「国会承認も事後でいい」ことになりかねない、抜け穴だらけ。
 それにしても「国際平和支援法」って、ものすごいネーミングだとは思いませんか? これ、どう考えても「国際戦争協力法」じゃないですか。「人間、なにか後ろめたいことをやる時には、事実と正反対の言葉を使ってしまう」と、誰かが書いていたが、まさにその通り。「戦争協力」はさすがに後ろめたいから「平和支援」なんだろう。

 さて、「国際平和支援法案」には、次のように書かれている。

第六条 一~三項 
 首相は対応措置の実施前に基本計画を添えて国会承認を得なければならない。首相から承認を求められた場合、国会の休会中を除き、七日以内に(衆参両院は)それぞれ議決するように努めなければならない。国会承認から二年を超える時は、継続の承認を求めなければならない。国会閉会中、衆院が解散されている場合は、最初に召集される国会で承認を求めなければならない。

 これが公明党の言う「例外なき国会承認」である。
 だが一方、「重要影響事態法案」というわけの分からない名称の法案では、国会承認の歯止めがすこぶるあいまいだ。
 実は、この法案名がわけの分からないものにされたのは、現行の「周辺事態法」をいじくりまわして安倍政権の使い勝手のいいものに変えようとしたためだ。「周辺事態法」では、この法律が適用されるのは「日本周辺」となっていたため、米軍支援で世界中に出かけたい安倍にとっては都合が悪い。そこで「周辺」を取っ払ってしまおうとしたが、それではあまりにロコツ。そこで名称を「重要影響事態法」と変えようと画策したわけだ。
 なんとも姑息、デタラメだ。

 この「重要影響事態法案」では他国軍に対し、以下のような支援が随時可能となる。
 補給、輸送、修理及び整備、医療、通信、空港及び港湾業務、基地業務、宿泊、保管、施設の利用、訓練業務…など。
 では、これらはいかなる場合に行われる「業務」なのか? 

第一条
 そのまま放置すればわが国への直接の武力攻撃に至る恐れのある事態わが国の平和と安全に重要な影響を与える事態(重要影響事態)の際、米軍への後方支援を行うことにより、日米安保条約の効果的な運用に寄与することを中核とする重要影響事態に対処する外国との連携を強化し、わが国の平和と安全の確保に資することを目的とする。

 まあ、わざと分かりにくくしたような文章だが、我慢して読めば、その危険性が、行間から浮かび上がってくる。ゴチックにした部分に注目してみれば、よく分かるはずだ。
 「恐れのある事態」の「等」とは何か? これは、時の内閣によってどうにでも解釈できる余地を残している。なにしろ、これだけ「等」があれば、どんな場合も「等」に含まれると強弁することが可能だ。
 一応は「米軍」と書いているが、ここにも「等」がくっついている。つまり、米軍以外の軍隊の支援をすることも可能というわけだ。世界中どこでも、米軍やそれ以外の軍隊とも一緒に戦争ができることになる。
 「わが国の平和と安全」のため、という体裁はとっているが、なにしろ世界中だ。遠い地球の裏側での紛争が、どう日本の平和と安全と関わって来るのか、それも政府の勝手な解釈次第でどうにでもなってしまう。
 ここでも言葉の魔術。「重要影響事態」ってなんだ?
 それは、政府がそう認定すればそれで済む。国民は蚊帳の外。いったい、こんなことを誰が許したというのか。

 さまざまな調査やアンケートをみても、集団的自衛権の行使には、常に50%以上の反対がある。
 最初に書いたけれど、国民はすべてのことについて、安倍政権に全権委任したわけじゃない。ひとつひとつの事柄には、賛成もあれば反対もある。それを「選挙で勝ったのだから、我々がやることは国民の意思だ」というのは、あまりにひどい。民主主義ってやつを一から勉強し直してこい、と言いたくなるのだ。

 そうこうしている間に、今度はアメリカとの防衛指針の18年ぶりの改定に合意してしまった。いわゆる「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」である。要するに、日米ガイドラインを改定するための下地作りが、先に上げた安保法制の真の狙いであったのだ。
 この改定は、もはや「日米安保条約」の枠を大きくはみ出している。戦争時の「機雷除去」までも明記してしまった。戦争中に、一方の国が敷設した機雷掃海を行うということは、明らかに「戦闘行為」であり、明確な戦争参加とみなされる。そうなれば、相手国にとっては日本が「敵国」であり、派遣された自衛隊が攻撃を受けるのは必至だ。
 安倍は「これらは、決して戦争に加担するものではない」と繰り返すが、日本がどう弁解しようが、相手国から見れば敵国。安倍の言い訳なんか通用するわけもない。
 はっきり言おう。日本はもう、戦争に片足を突っ込んでしまったのだ。

 国民は、少なくともぼくは、安倍にこんなことまで託した覚えはない。それによく考えてみれば、安倍が、勝手にこんなことをできるほどの信託を国民から受けているとは、数字的にも思えない。

 「また、負け犬の遠吠えか」などと揶揄されるのを承知で書いておく。
 昨年の衆院選で、自民党が獲得した票は、以下である。

◎小選挙区=25,461,427票=48.10%
◎比例区 =17,658,916票=33.11%

 これを見てもらえれば一目瞭然。自民党の獲得議席数が、得票率とは大きな差があることが分かる。もし、完全比例代表制という選挙制度であれば、様相は激変する。
 すなわち、自民党の議席数は、475議席×33%=147議席……。だが、自民党の当選数は290議席に達した。おかしくはないか?
 つまり、自民党の今の議席数は現行の選挙制度の産物なのだ。決して、国民の意思の正確な反映ではない。
 小選挙区制の獲得票で計算しても、475議席×48%=228議席 である。とても、閣議決定で集団的自衛権行使容認なんてことはできなかっただろうし、連立相手の公明党を足したとしても「暴走」するにはエネルギー不足だったはずだ。

 ぼくは、こんな選挙制度がおかしいと思う。
 完全比例代表制ではなくとも、少なくとも「比例が主、選挙区が従」の選挙制度にしなければ、いつまでたっても有権者の意思と実際の選挙結果が食い違うという状況を解消できないと思うのだ。
 伊藤塾の伊藤真さんたち弁護士のみなさんが「一人一票制」の回復を掲げて各地で裁判を行っているのは、立派なことだと思う。けれど、ぼくはそこで「選挙制度の抜本改革」を同時に行うべきだと考える。
 「一人一票」が正確に選挙結果に反映されるのは、実際には「完全比例代表制」しか考えられない。
 むろん「それでは疲弊する地方の意見が、政治に反映されなくなる」とか「個人の資質を見極めて投票するという、当然のことができなくなる」などの批判もあるだろう。だから「完全比例」にどのような改定を加えるかを議論し、有権者の1票が有効に機能するような選挙制度を作ることが、早急にやらなければならないことではないか。
 少なくとも、それが「少数・多数派」(すなわち少数の得票で圧倒的多数を占めた自民党政権)のような、いびつな政治状況を正すために必要なことではないか。
 そういうほんとうの改革の土台を作るのが、「真の有識者」(安倍周辺の御用有識者ではない方々)の役割だろう。

 

  

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「風塵だより」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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