風塵だより

 このところ、ぼくはずいぶんたくさんのデモや集会に参加している。もう若くないぼくにとって、デモや集会が多く開かれる都心まで出かけるのは、けっこうシンドイことである。それに交通費だってバカにならないし…。
 しかし、それでも出かけて行く。ここで意志を表明しておかなければ、後で悔いることになる。そんなことになりたくない。

 それもこれも、安倍のせいだ。
 こう書くと「何でもかんでも安倍さんのせいにする。出かけるのはお前の勝手。バカじゃないの」と、いつも通りの罵声が飛んでくる。まあ、馴れちまったけれど。
 だけど、特定秘密保護法も原発再稼働も解釈改憲も集団的自衛権行使容認も辺野古米軍基地新設強行も武器輸出解禁もTPPも労働者派遣法も社会保障費削減も介護報酬改悪も軍事費増強も被災者救援策打ち切りもアレもコレも安倍内閣が強引に推し進めているものばかりじゃないか。反対表明しに出かけなければならない。だから「安倍のせい」なんだ。
 
 日曜日(14日)は、国会前へ行った。
「安保関連法案に反対する総がかり行動」というデモだった。2時からということで、2時少し前に地下鉄国会議事堂前駅に着いたのだが、駅改札口は人でいっぱい。なかなか前へ進めないほどの混雑ぶり。やっと地上へ出たら、誘導という腕章を巻いた方が「もうこちらへは進めません、反対側へお廻りくださーい!」と声をからしていた。
 人混みをかき分けかき分け、やっと国会正門前まで辿り着く。ここも身動きとれないほどの人々々々。佐高信さんの挨拶、続いて各政党幹部の挨拶、そして若い学生の切々たる訴え。
 名前は聞き洩らしたけれど、必死に「こんな大勢の前で話すのは初めてです、あがってます。でも、これは私たち若者のこと。黙っているわけにはいきません」と声を挙げる女子大生の訴えに、大きく同意の波が広がる。
 石坂啓さんや鳥越俊太郎さんも、はっきりと「安倍政権を倒さなければならない」と訴えていた。

 ぼくは友人とふたりで、国会の周りを一周してみた。ゆっくり歩く。というより、ゆっくりでなければ歩けない。それほどの人だ。
 ことに、国会正門前、国会図書館前、議員会館前、首相官邸前などは密集がすごく、なかなか前へ進めない。さらに、国会前からはずうーっと行列が途切れることなくお濠近くまで延びていたし、門が開いている憲政記念館の中庭で疲れを癒す人たちもたくさん見受けられた。
 主催者は「参加者数は約2万5千人」と発表していたが、国会を一周してみたぼくには、参加者数はもっと多いと思われた。それほど危機感を持つ人が増えているということだ。

 「国会周辺に数万もの人が集まったことなんて、ここ数年はなかった」とか「どうせ、主催者発表だから5倍10倍の水増し人数だ」とか、いつものように現場へ行きもしない人の罵声ツイートが飛んできたけれど、そういう方には「ぜひ一度、ここへきて自分の眼で確かめてごらんなさい。これからも、何度も行われますから」とだけ言っておこう。
 それにもうひとつ多いのが「そんなことをやって何になるのか。デモで世の中が変わるわけもない」という、知ったふうな物言いの批判。
 しかし考えてもみてほしい。日本の全原発が停止してからどのくらい経ったか。もし、今も続く金曜日の「官邸前反原発デモ」と、同じように全国で続けられている「反原発行動」がなければ、多くの原発が再稼働してしまっていたかもしれない。
 反対の声が無視できないからこそ、政府も電力会社もそれなりの配慮をせざるを得ないのだし、原子力規制委員会だって、なにがしかのチェック機能のポーズをとらざるを得ないのだ。
 声を挙げ続ければ、それに見合った効果は発揮される。
 
 先週のこの「風塵だより33」で「安倍政権、潮目が変わったか…」と書いたけれど、安倍政策への批判の声を挙げ続けることが、確かに人々の意識も変え始めたようだ。
 先週は「安倍政権寄りの読売新聞の世論調査」に触れたが、その「読売系列の日本テレビ(NNN)の世論調査」も面白い結果を出していた。

安倍内閣支持率
 今回(6月)  支持する41.1% 支持しない39.3% わからない19.6%
 前回(5月)  支持する43.5% 支持しない37.7% わからない18.8%
 前々回(4月) 支持する46.6% 支持しない35.4% わからない18.0%

支持する・ 最高65.7%(2013年4月) 最低41.1%(2015年6月)
支持しない・最高39.3%(2015年6月) 最低16.6%(2013年4月)

 たった2か月ほどの間に、10ポイント以上あった支持と不支持の差が、2ポイントまで縮まった。直近の調査では、支持・不支持がほぼ拮抗するところまできている。ここ最近の安倍内閣の閣僚たちの国会での答弁の怪しさに、ふだんはあまり政治なんかに関心を持たない人でも、さすがに危なさを感じ始めたのだろう。戦争の足音が聞こえる…と。
 しかも、支持すると答えた人に「支持する理由は?」と訊いたところ「他に代わる人がいないから」が33.8%で第1位。「総理の人柄が信頼できるから」は17.6%に過ぎない。つまり、安倍晋三支持というより「他に人材がいないから、まあ、仕方ないか」の消極的支持であることが分かる。ということは、他に代わり得る人が出てくれば、安倍内閣はあっという間に崩壊する。
 またこの調査は、読売新聞の設問と同じような露骨な誘導手法を採っているにもかかわらず、かなり面白い結果になっている。

「問7」法案のなかでは、外国の軍隊が、国際社会の平和と安全のために活動している場合、日本周辺地域以外でも、国会の承認を得た上で、自衛隊が、外国軍に対して、弾薬や食糧などを輸送するなどの、後方支援を行えるようにするとしています。あなたは、これを支持しますか、支持しませんか?
支持する41.2% 支持しない42.6% 分からない、答えない16.3%

 先週の読売新聞の調査設問でも指摘したけれど、まるで同じように政府見解そのままの設問設定である。にもかかわらず、「支持しない」が「支持する」を上回ってしまった。
 テレビがすっかり腰の引けた報道しかできなくなっているような現在、そのテレビ局自身が行った調査で、こんな結果が出ていることに、ぼくはいささか安堵する。
 安倍に屈したように見えるテレビ報道に接していても、安倍の危うさに人々が気づきはじめた。それはまさに、街頭に出て訴える人たちが増え始めていることと軌を一にしている。
 「デモなんかやっても何の意味もない」などという人に、こういう調査結果の意味を聞いてみたい。

 同調査では、衆院憲法調査会審議で参考人の憲法学者3人が全員、「集団的自衛権行使は憲法違反」と断じたことに触れ、安倍内閣の法案は違憲かどうかを聞いている。その質問の結果は以下であった。
 違憲だと思う51.7% 思わない16.8% 分からない、答えない31.6%

 訴え続けることの大事さが、ここに如実に表れているではないか。
 また、特筆すべきはテレビ朝日の「報道ステーション」である。15日、「憲法学者に聞いた~安保法制に関するアンケート調査の最終結果」を、番組内で報じた。

憲法判例百選の執筆者198人にアンケート調査を行い、151人の方々から返信をいただきました。(調査機関6月6日~12日 他界した人や辞退した人などを除き、アンケート票を送付)
Q1. 一般に集団的自衛権の行使は日本国憲法に違反すると考えますか?
 憲法に違反する    132人
 憲法違反の疑いがある 12人
 憲法違反の疑いはない  3人
Q2. 今回の安保法制は、憲法違反に当たると考えますか?
 憲法違反にあたる   127人
 憲法違反の疑いがある 19人
 憲法違反の疑いはない  3人  (以下略)

 これは、「報道ステーション」のHPで閲覧可能だから、ぜひすべてをご覧になっていただきたい。
 さまざまな形での安倍内閣批判はあるけれど、この「憲法学者アンケート」が、これまでで最も厳しい安倍内閣への打撃になったのではないだろうか。これでもなお「安保法制は合憲だ」と言い張るということは、ほとんど憲法学界そのものへケンカを売っているに等しい。
 きちんと「議論というケンカ」をしてもいいという覚悟が、安倍内閣にあるのだろうか。国会の委員会でアヤフヤな答弁で逃げ回る安倍以下の閣僚の姿を見ていると、とてもその覚悟があるとは思えない。公明党にしても同じだ!

 このように頑張って踏み止まろうとしているテレビ番組もあるけれど、おしなべてテレビ報道の劣化は激しい。その代表格がNHKニュースだ。
 最初に、ぼくは14日の国会包囲デモについて書いた。そのデモの後、渋谷での若者たち主体の「戦争立法に反対する渋谷デモ」にも出かけてみた。学生たちの「SEALDs」という団体が呼び掛けたもの。彼ら自身、2000人~3000人を目標としていたらしいが、なんと6000人もの参加者(主催者発表)があったという。主催者もビックリだ。
 リーダーが「“元青年”の方たちは、最後の梯団に参加してくださるようお願いします」と愉快に言っていたように、最後尾は確かに“元青年”たちが隊列を組んでいたが、あとはほとんど若者・学生たち。元気のいい連中が、サウンドカーを先頭に、小気味のいいリズムに合わせたラップ調のコールを挙げながら、渋谷センター街やハチ公前を通り抜ける。確かに、時代は変わりつつあるのかもしれない。
 このふたつの大きなデモは、これからの反安倍街頭行動を暗示するようなものに、ぼくには思えた。だが、その日の夜7時のNHKニュースによって冷水を浴びせられた…。
 ぼくは、思わずツイッターにこう綴った。

7時のNHKニュース、香港の「数千人」のデモを延々と伝えたが「数万人」の日本の国会包囲デモにはまったく触れず、「数千人」の渋谷の若者たちのデモなんか完全無視。NHK、恥を知らないらしい。でも、なんでこんなロコツなことが出来るのだろう。

 夕食がまずかった。それほど、頭に来ていたんだ。
 驚くほどの反応があった。
 「TBSではやっていましたよ」「NHKも夜8時45分からのニュースでは流していました」「BSでも、ちょっとだけど扱っていたよ」などの情報もあったし、例によって「香港のデモのほうが、国際的な重要度が高いから当たり前」「だいたい、そんなに集まってもいないんだから無視するのは当然」「60年安保の時、あれほどの運動にも岸さんはビクともしなかった。今度のようなチョロイデモごときで安倍さんが辞めるわけがない」なんてのもあった。
 まあ、人それぞれだから…。
 でも、圧倒的に同意のツイートが多く、リツイート数はいつの間にか1500を超えていた。何気なく書いたぼくもビックリ、なのだった。

 安保法制反対は憲法学者だけにとどまらない。
 「安全保障関連法案に反対する学者の会」が、ノーベル賞受賞者の益川敏英京大名誉教授らの呼びかけで声を挙げた。文系から理系まで専門分野を超えた賛同者が続々と集まり、たった1週間で2739人の学者・研究者が署名したという(6月15日現在)。
 また、32劇団、4団体が賛同する「安保体制打破 新劇人会議」も、同じような声明を発する記者会見を開いた。現在の会員数は約300人。記者会見をするのはほぼ50年ぶりだという。「非常に危機感が強い」と事務局は話している(東京新聞16日より)。

 演劇といえば、かつて「天井桟敷」という劇団を率いた寺山修司という早逝した天才がいた。彼の著書に『書を捨てよ、町へ出よう』がある。横尾忠則氏による、当時一世を風靡したサイケデリックな装画の、なんとも刺激的、挑発的な本だった。そのタイトルが、今、ぼくの脳裏に蘇る。
 書を捨てよ、町へ出よう…。
 考えるのもいい、読み漁るのもいい、議論を交わすのもけっこう。だが、今こそ、街へ出るべきではないか。街へ出て、声を挙げるべき時ではないか。

 フェイスブックで、ぼくの大好きな先輩がこう書いてきた。かつては下北沢あたりでよく飲んだ仲間だった。
 「60年安保のトラウマがあって、ずっとデモには行かなかったが、今度ばかりはそうも言っていられない。私もデモに誘ってください」
 一緒に行くつもりだ。
 老兵は死なず…、消えもしない。

 

  

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「風塵だより」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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