風塵だより

 安保法制の中身がおかしいとか、政府の答弁が矛盾しているとか、もうそんなことを言っている時期ではなくなった。安倍内閣は矛盾もデタラメも承知の上で、とにかくこの「戦争法案」を押し通す。中身がメチャクチャなのは、政府も自民党も官僚たちも、よ~く分かっているんだ。

 最近のどの世論調査結果を見ても、安保法制への反対・疑問のほうが、賛成意見よりも圧倒的に多い。それでも、安倍強権政治は止まらない。だがさすがに、安倍内閣支持率は、ここへきて急降下し始めた。

 安倍広報紙とも揶揄される産経新聞と系列のFNNが行った6月27、28日の世論調査でさえ、安倍内閣支持=46.1%(前回より7.6ポイント減)、不支持=42.4%(同7.9ポイント増)と、不支持の急増が目立っていた。この調査で自民党にとってさらに深刻だったのは、自民党自体の支持率が34.8%(前回より4.5ポイント減)と急落していることだった。
 前号の「風塵だより37」でも触れたが、毎日新聞が7月4、5日に実施した世論調査では、ついに安倍内閣支持率が逆転した。支持=42%、不支持43%という結果だった。

 その毎日調査で官邸が衝撃を受けたのは言うまでもないが、今度はもっと大きな打撃が安倍官邸を襲った。
 なんと、これも安倍支持の論調が強い読売新聞系の日本テレビ(NNN)が7月10、12日に行った世論調査でも、とうとう安倍内閣の不支持率が支持を逆転したのだ。内閣支持=39.7%、不支持=41.0%という結果だった。
 これは、衝撃度が毎日新聞とは違う。「毎日は政権に批判的。そこが行った調査だから、かなりバイアスがかかっているはず」と、なんとか動揺を隠そうとしていた官邸だが、政権に近いといわれているNNNの調査でも支持・不支持が逆転してしまったのだから、もうその言い訳も通らない。

 このNNN調査には、官邸はそうとう焦っているようだ。日テレのある幹部から連絡をもらった官邸幹部は「それは、ほんとうか…」と言って、あとは絶句したという。
 調査を行うメディアによって、結果にかなりの差が出てくることはすでに常識。安保法制についての質問などには、それが顕著に出ている。例えば、読売新聞などは露骨な誘導質問で回答を左右する。こんな具合だ。
 「安全保障関連法案は、日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために、自衛隊の活動を拡大するものです。こうした法律の整備に、賛成ですか反対ですか?」
 まるで政府の説明そのもの。あまりよく中身を理解していない人は、つい「平和のためというなら、賛成です」と答えてしまう。これでは、ほんとうの民意が分からないといわれても仕方ない。だが、そこまで小細工を弄しても、このところの調査では、反対が大幅に賛成を上回っているし、その差はどんどん広がっている。官邸が焦るのも無理はない。
 朝日新聞の調査(7月11、12日)でも、安倍内閣支持=39%(前回39%)、不支持=42%(前回37%)と支持・不支持が逆転。もうこの流れは変わりそうもない。

 動揺は自民党本体にも広がりつつある。
 来年は参院選。立候補予定の自民党参院議員にとっては、この内閣支持率と自民党支持率の低下は、まさに死活問題。このまま安倍内閣が安保法制で強行採決したら、さらに自民党支持率が急降下するのは目に見えている。そうすると、来年の選挙での自分の身分が危うくなる。
 もうこれ以上、安倍首相につきあって心中するのはゴメンだ、という雰囲気が党内に少しずつだが醸成されつつあるという。だから、官邸は今、必死になってタガを締めにかかっている。テレビ番組への出演禁止とか、新聞のインタビューにも慎重に、などというお触れが出ているのはそのため。
 あの“安倍親衛隊”のおバカトリオのような妄言が出たら、さらに支持率が下がってしまう。

 若者や女性たちの政治参加、デモや集会での参加者数の急増なども、官邸には頭の痛いこと。特に神経をとがらせているのは、若いグループ(SEALDs)が主催する国会議事堂前の集会への参加者が、回を追うにしたがって増え続け、7月10日にはついに1万5000人を超えたことだ。しかも、これが一過性の集会デモではなく、毎週続けられているという事実に、官邸はまさにピリピリ状態だ。
 さらに「安保関連法案に反対するママの会」とか「女性弁護士の会」とか「怒りの大女子会」など、女性たちの反安倍ムードはすさまじい勢いだ。
 これらの現象を裏付けるように、若者誌や女性誌に「安保法制特集」「安倍内閣の危険度」などという記事が頻出するようになっている。

 「若者や女性が街頭に出て来たということは、かなり切迫し始めた状況です。このまま増え続ければ、政権に大きな打撃になる」と、情勢への危機感を語る議員もいる。
 街頭への多くの人たちの進出は、なにも東京だけの現象ではない。10日~12日の週末には、全国で数えきれないほどのデモや集会が行われた。それも、1万人を超えるものから数千人規模まで、これまではあまり例のない地方での現象である。
 「安倍包囲網」と言っていいのかもしれない。
 国会の中では数を頼りに、威張り返って質問者を小馬鹿にしたような答弁を繰り返して悦に入っている安倍首相だが、そうやっていられるのも国会の中だけなのだ。
 憲法学者たちの反撃に慌てた菅官房長官の「数じゃないと思いますよ」発言が虚しい。数じゃないのなら、国会で多数で強行採決するのもおかしな話だ。そんな矛盾に気づかない。もう頭が回っていない。

 先日「デモクラTV」に出演の際、村上誠一郎自民党衆院議員は、次のように話してくれた。
 「今回の安保法制の進め方に異を唱えているのは党内では私ひとりというふうに見られていますが、実際は、私の事務所を訪れて激励してくれたり、電話をくれる議員もたくさんいるんです。ただ、それを表立って言えない雰囲気が今の自民党内では支配的だ、ということです」
 そう話している最中にも、携帯に電話。ほらね、と村上さんは片目をつぶって笑いながら言った。

 週刊誌や女性誌への要請(圧力まがいのものもあるという)にも、世耕弘成氏を筆頭とする官邸のメディア担当者たちが躍起となっているという。某週刊誌の編集長交代に、ある種の噂がささやかれていることにも、その焦りが表れている。

 安倍首相を取り囲む“親衛隊”の一群が、例の「勉強会」の大失態以降、目立つ動きが取れなくなっていることも、安倍には痛い。“若手”と称する連中にネット右翼まがいの放言妄言暴言をやらせて、自らの発言の棘を抜く、という作戦も取れなくなってしまった。
 安倍首相が審議途中で席を外す頻度が高まっているというのも、彼のストレス亢進度を示しているようだ。

 安保法案のドサクサ紛れに、川内原発への核燃料搬入は終わってしまった。火山対策も住民避難もまったく手つかずのまま。
 13日未明、九州大分県で震度5強の地震。揺れ続ける日本列島の自然の警告も無視したまま。列島各地で火山の蠢動もおさまらない。このままでは、いつかまた大災害大事故が…。
 それでも九州電力も原子力規制委員会も「川内原発の稼働中に大きな噴火が起きる可能性は極めて小さい」と、無責任な言辞を繰り返すだけ。「福島地方での原発事故の確率は極めて小さい」と言い続けた東電や旧原子力安全・保安院とどう違うというのか。

 新国立競技場は、国民の圧倒的反対(80%以上)にもかかわらず、安倍は「あれは民主党政権時代に決まったこと」と、得意の責任転嫁で逃げを打つし、下村博文文科相に至っては「検討委員会の責任者の安藤忠雄氏らから事情を聴く必要がある」と、これまた責任転嫁。まさに、自民党の得意技・お家芸というしかない。
 だが事実は、安倍首相が国際オリンピック委員会総会で「斬新なデザインの競技場を立てることをお約束する」と言ったことが発端なのだ。あのアメリカでの「安保法制は8月までに成立させる」と、国会にも諮らずに勝手にアメリカに約束してきたことと同じ構図だ。
 外国で、景気のいいことを言って、それを勝手に「国際公約」にして、強引に成立させようとする。「国会無視の独裁ではないか」との批判にどう答えられるのか。

 マイナンバー制度は、情報漏洩やなりすましの危険性がさんざん指摘されながら、いつの間にやら実施が決まった。

 博打場のアガリで財政を潤そうというのが、苦しまぎれのアベノミクス最終手段。例のカジノ法案だ。これも「バクチ」という実態を隠すべく「統合型リゾート(IR)推進法案」などと、適当な名称でごまかす。「国際戦争協力法」を「国際平和支援法」などと糊塗して国民を騙しにかかったのと同じ手法だ。これもまた、安倍自民党の“芸風”だ。ロクなもんじゃない。

 安保法制のドサクサの陰で、さまざまな異常事態が進行していく。

 これを書いているのは14日。これからぼくは、日比谷野音の集会に出て、それから国会前の抗議集会に参加する。
 だが、15日には安倍自民党は「安保法案強行採決」に持ち込もうとしている。冗談じゃない。
 これほどの反対と慎重審議を求める声、憲法学者のみならず、ノーベル賞受賞科学者の益川敏英さんたちまでが反対表明をし、宮崎駿監督など演劇映画関係者たちまでが反対の声を上げ始めた。
 ここまで各界各層の反対意見が表面化してきた事例は、ここ数十年の中では極めて稀だ。それだけ、この法案が怪しい代物だということ。

 我々の側に、理はある。

 

  

※コメントは承認制です。
38 それでも強行採決するのは独裁政治」 に2件のコメント

  1. 島 憲治 より:

     「法が沈黙するとき、独裁が始まる」という。中国、北朝鮮の脅威が現実化する前に立憲主義の崩壊が現実味を帯びてきた。憲法違反が明らかな安保法案を強行可決。立憲主義が崩壊し始めたからだ。 立憲主義の崩壊は国を滅ぼす。これは歴史の教訓だ。                                                独裁者が似合ってきたアベソーリ。安保法案は国民の生命財産を守るために必要だと強調する。しかし、立憲主義の崩壊は国民の生命財産を守らない。なぜなら、待ち構えているのは独裁政治、全体主義だからだ。
     血と汗の結晶から人類の英知が作り出した立憲主義。国民自らの手で破壊しようとするのは日本国ぐらいのものだろう。
     政治を動かす大きな力を潜めている「沈黙する善良な市民」。異論に耳を貸さぬ政権の体質に目を覚ます時だ。そして、立憲主義崩壊の危機は「思考停止状態」から脱却を図る絶好のチャンスだ。                活気ある社会を蘇させるには、国民一人一人の「思考停止状態」からの脱却は欠かせない。

  2. 立山たつあき より:

    安保関連法案の衆院可決がなされたときに、その真偽の混乱ぶりをTBSが一応アリバイ程度に放送していたが、その時、辻元氏が当該法案に反対すべく政府を追及していたことについて、時事通信の田崎氏が、「総理は辻元氏が苦手というよりは、あまり好きではない」との趣旨のコメントをした、はっきり言ってこんなことプロの政治記者に行ってもらわなくともわかる事だが、このコメントを見て安倍氏は、そして日本の政治家の行動原理は、相手が好きか嫌いかを基準によっている。安倍総理は辻元氏があまり好きではない、まるで小学校の教員が、学級の児童間の人間関係についての認識を語っているかのようなコメントだ。小学生と同等の行動原理で行動する政治家とそれをフォローしコメントして何らかの専門家らしい仕事をしたと思っていいる記者。今後も日本はAはBを嫌いとか好きとかいう事で営まれていくのだろう。そんなことはお偉いジャーナリストに解説してもらわなくてもわかる。

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「風塵だより」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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