風塵だより

 台風が通過していく。風が急に涼しくなった。蝉の声が心なしか小さい。雲の流れが速い。稲穂が頭を垂れ始めた。ススキの穂が光る。秋が近い。
 でも、まだまだ暑い。とくに国会周辺は…。

 ぼくは、8月30日(日)、国会前へ行く。どうしても、この悪法は止めなきゃいけない。
 原発再稼働に待ったをかけたい。沖縄の米軍新基地建設は中止させよう。
 安倍内閣がこれらの推進役であることは間違いない。
 だから、安倍内閣を倒さなければならないと思う。
 それを訴えるために、国会前へ行く。膨大な人数のなかのひとりとして、参加する。

 いろいろな情報が飛び交っているが、30日、国会前は10万人を超える人で埋めつくされるだろう。怒りは充填されている。この日は、全国で100万人のデモが予定されているという。この連帯を、ぜひ安倍首相ののどもとに突きつけたい。安倍首相に、分かってほしいのだ。

 「デモで何が変わるか」とか「反原発デモも、どんどん参加者が減っているじゃないか」とか、さらには「いま『原発住民投票』の請求をしたって前ほどの数は集まらないよ」などと批判する人がいる。状況をよく見ていない人の言い草だと思う。
 首相官邸前での息長い「反原発デモ」が行われているからこそ、これまで原発再稼働をくい止めて来たではないか。もしあの運動がなかったら、もっと早く、もっと多くの原発が再稼働されていたに違いない。
 国会前へ多くの人たちが「反安保法制」「反安倍政治」を掲げて押し寄せている。多くは「反原発」の意志も共有している。そのうねりが、安倍をして史上最長95日間もの国会会期延長を余儀なくさせたのではなかったか。
 もしこの動きがなければこの「戦争法案」は、国会延長などしなくとも、自民公明の圧倒的多数の力によって、すんなりと成立していたはずだ。それをここまで追い込んでいるのは、国会議事堂前を始めとして、全国各地に燎原の火のごとく広がっている「デモの力」なのだ!
 デモで世の中が変わるか、などとさかしらなことを言う人たちは、こういう現状をどう説明するのか。

 名もない人たちの動きが活発化した。学生(SEALDs)が声を挙げ、高校生(T-ns SOWL)がその後に続き、ママたちが街へ出て、OLDsとかMIDDLEsを名乗る人たちも、それぞれの持ち場で活動開始。そんな動きが学者たちに火をつけ、知識人が立ち上がり、芸能人からも「反対」の意志表示をする人が現れ始めた。首相官邸は、こんな若者やママたちの動きに、とくに神経を尖らせているという。
 「チーム安倍」を自認する自民党若手議員の間から、しきりに暴言妄言が漏れてくるのも、実はこんな国会の外での状況に焦りを感じているからにほかならない。でなければ、あの武藤某議員のようなバカバカしいSEALDs批判が出てくるはずがない。
 それでも、デモなんて無駄だ、というか?

 マスメディアの姿勢がおかしい。
 NHKなどは、もはや安倍広報局のようなあんばい。安倍広報紙と化している全国紙もある。それでも、これほどの国民的なうねりとなったデモや集会を、やはり無視するわけにはいかないと考えて報じる新聞やテレビ番組もある。そう思わせているのも、やはり人々の力なのである。
 あなたは、そう思いませんか?

 こんな街頭での動きに比べ、国会でのやり取りは、聞いているのが辛い。あまりに適当な答弁が多すぎる。まるで「詭弁・こじつけ講座」を聞かされているような気分にさせられるのだ。
 それでも時折、ドキッとするような場面もある。東京新聞コラム「論説室から」(8月24日付)で、半田滋記者が指摘している。自衛隊員の人身に関わる恐ろしい話だ。少し長いが引用する。

 安全保障関連法案の国会審議で与党まで驚かせたのは「自衛隊は捕虜の扱いを受けられない」との岸田文雄外相の答弁だった。
 問題の答弁があったのは七月一日の衆院平和安全法制特別委員会。野党議員から自衛隊が物資輸送など他国軍への後方支援中に拘束された場合、「捕虜」になるのかと質問された岸田外相は「ジュネーブ諸条約上の捕虜とは、紛争当事国の軍隊の構成員等で敵の権力内に陥ったものとされる。自衛隊の後方支援は武力行使にあたらない範囲で行われるので想定されない」と答弁、珍しく与党席までざわついた。
 後方支援中の自衛隊は捕虜の人道的待遇を義務付けたジュネーブ条約の「捕虜」にならず、拘束した国の法律で裁かれる可能性があることになる。政府の命令通りに従って「有罪」ではたまったものではない。「拘束を認めず、ただちに解放を求める」(岸田外相)というが、思惑通りにいくかどうか。(略)

 こんなムチャクチャな話があるだろうか。政府の言う「後方支援」のデタラメさが浮き彫りになった答弁だ。
 さすがに「与党席までざわついた」と半田記者が書いている。そりゃあ、この答弁には驚くだろう。自衛隊員の身分が国際法上では保証されない、ということなのだから。しかも、そのことを与党議員たちが知らなかったから「ざわついた」のだ。
 こんな連中がこねくり回す法案で外地へ送られる自衛隊員は、まさにたまったもんじゃない。
 「物資輸送」の物資には、弾薬なども含まれると中谷防衛相は何度も答えている。とすれば、紛争相手国にとっては、敵国へ弾薬等を運んでいる自衛隊は「敵」である。「敵の兵士」を捕えた国が、岸田外相の言うように「拘束を認めず、ただちに解放を求め」たところで「はい、そうですか」と釈放してくれるはずがない。
 「紛争相手国の法律で裁かれる」ということは、こちら(つまり日本)の言い分がまったく通用しない法廷(それがあるとして)へ「捕まった自衛隊員」が引きずり出されるということだ。不幸にして拘束された自衛隊員は、国際法上の庇護を受けることができない。
 これが安倍首相や中谷防衛相が繰り返す「自衛隊員のリスクは、この安保法制によって軽減されます」というウソの中身なのだ。

 想定してみるがいい。
 例えば、アメリカが行う戦争に、後方支援としての「物資輸送」で自衛隊が参加する。戦闘中にアメリカ軍兵士が「捕虜」となる。その場合、アメリカ軍兵士はジュネーブ条約に従って「人道的待遇」を受ける権利がある。だが、後方支援にあたっていた自衛隊員が拘束された場合には、この自衛隊員は「捕虜としての人道的待遇」を受ける権利がない、というのだ。
 「自衛隊の後方支援は武力行使にあたらない範囲で行われるので想定されない」と岸田外相は言うが、現に戦争している相手国に、そんなリクツが通用すると思っているのか。
 米軍へ弾薬を運んであげている自衛隊という名の軍隊。弾薬輸送を「これは後方支援だから、あなたたちを拘束なんかしないよ」などと言うお人好しの戦争当時国があるものか。
 そして、もし捕まってしまえば、弁護人の指定も定かではない状況へ、自衛隊員を放り出すことになる。日本政府が、安全地帯からいくら喚こうが、それが通じるはずもない。どんな極刑を課されても、どうすることもできない。
 こんな質疑が平然と行われているのが、日本という国の国会なのだ。
 当の自衛隊員たちが、不安に駆られるのは当然だろう。とてもヒゲの隊長さんの言うように、イケイケドンドンになれるはずがない。まあそれだって、ヒゲの隊長さん、あかりちゃんにカンペキに論破されてグーの音も出ないありさまだけどね。

 自衛隊の定員は、これまで満たされたことがない。ことに、現場の曹・士クラスがいつも定員を下回っているのが現状だ。
 そして、安保法制の議論が進むにつれて、自衛隊員の中には不安が膨らみ、退官する者も出始めているという。強大な軍事大国を目指す安倍政策が崩れていく。人なくして、軍が成立するわけがない。これが安倍首相の訴え続けて来た「戦後レジームからの脱却」の行きつく先か。

 もうそろそろ、「アベ政治からの脱却」を実現しなければならない。

 

  

※コメントは承認制です。
42 自衛隊員の身柄保障は、国際法の枠外?」 に2件のコメント

  1. うまれつきおうな より:

    「後方支援」と聞くと10代から歴史小説を読んでいた私は「平家物語」を思い出してしまう。当時船を操る船頭は武器を持たないため殺してはいけない決まりになっていたのに、義経は「敵のために働く者は敵」と丸腰の船頭を射殺してしまった。で、昔の歴史本ではこの話が出ると必ず保守オヤジの作家や経済人が、律儀にルールを守る平家を「甘ちゃんのお公家戦法」と嘲笑し、横紙破りの義経を「賢い現実主義者」と持ち上げていた。確かに今保守オヤジは”国際情勢の変化”とやらの「現実」をたてに横紙破りをしようとしているが、もうひとつの”戦闘に加わらなくても敵とみなされれば殺される”という「現実」はどこにいってしまったのか。「どうせ死ぬのは貧乏人の子」とタカをくくっているのか。それとも「自分たちは必ず強い側、殺す側」と安心しているのか。だとすればそれこそ<おごる平家のお公家戦法>だと思う。

  2. とろ より:

    じゃあ自衛隊員のためにも,憲法変えて正式な軍隊にしないといけませんね。
    後方支援がどうこうより,やはりこちらが先決事項ですよ。
    政府もリスクがどうとか,危険がないとか適当なこと言わないで,
    リスクもあるし,危険もある,でもやらないといけないとでもいえば,
    国民も馬鹿じゃないから支持すると思うんだけどな。

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「風塵だより」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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