風塵だより

 甘利明大臣の“涙ながらの”辞任会見。それを見ていたある自民党幹部は、こう言ったそうだ。
 「素晴らしい会見だった。秘書たちの監督不行き届きで自ら責任をとって辞任表明という潔さ。これで国民の同情は一気に甘利さんに集まった。とくに『本音を言えば(TPPの)署名式には出たかった…』とポツリと漏らした言葉は男の生きざまだったねえ。まあ、これで一件落着になるんじゃないの」
 これは、ある新聞記者から聞いた話だけれど、ほんとうにそう思っているとしたら“国民”も舐められたもんだ。しかも自民党幹部たちからは「甘利さんはハメられた」だの「告発者は工作員」だのという妙な言葉がひっきりなしに飛び出す。
 ハメられようが工作員だろうが、大臣室へそんな怪しげな人物を招き入れ、そこで現金をあっさりと受け取るということを、おかしいとも思わないのが逆におかしい。それが政治家、それも有力閣僚というものなのか。そして秘書に「これを適正に処理するように」とこともなげに告げる。つまり、こんなことをしょっちゅうやっていた、ということがバレバレだ。
 普通の感覚だったら「適正に処理するように」ではなく「こういうわけの分からないカネは、すぐに返しておくように」と秘書に指示するのが政治家としては当然だと思うのだが…。
 こんなことをしておきながら「私の政治家としての美学が許さない」などと言う。ふざけるのにも限度があるよ、まったく。うちのカミさんの一言を差し上げよう。
 「お金を平気で受け取るのは、美学が許すのかしら」
 
 しかし、甘利会見後の各マスメディアの世論調査では、安倍内閣支持率が少し上昇している、との結果が出たという。「泣き落とし記者会見」がまんまと功を奏してしまったというわけか。
 これが国民の反応だとするなら、この国はなんとも哀しい。
 
 むろん、お金を政治家へ渡す側が、なんの見返りも期待しない、なんてことはあるはずがない。今回の場合、当然のことながら都市再生機構(UR)という組織への「口利き」を、甘利大臣の力で何とかしてもらうためのカネやフィリピンパブでの接待だったことは間違いない。
 それにしても、カネとオンナとサケでズルズルと落とされる秘書なんて、いまどき三流ドラマにだって出て来やしない。そんな連中が地元事務所の所長だったというのだから「秘書の監督不行き届き」も何もあったもんじゃない。いや、当のご本人だって、菓子折りの入った袋の中の現金封筒を平気で受け取っているのだから、やはり「悪代官と越後屋」という三流時代劇の見本みたいなものだ。
 そういう人物が「秘書の監督不行き届きの責任」を取って辞めたからといって、なんで潔いなどと評価されるのか、なんで一件落着となるのか。ぼくには理解できない。
 こんなことを許しておいては、絶対にいけない。
 
 TBS「報道特集」(1月30日)で、かつてロッキード事件を担当した元検事の堀田力弁護士が、金平茂紀キャスターの質問に答えて「こんな典型的な『あっせん利得』にあたるケースはありませんよ。これを立件できなければ、検察としての立場はないということです」と、きっぱりと断言していた。
 この件に関しては「甘利氏は職務権限がない大臣だから、あっせん利得処罰法は適用できない」との意見もある。つまり、URは国土交通省の所管だから、甘利氏の権限はそこへは及ばない…というリクツだ。だが、甘利氏は経済財政政策担当大臣という、特別な権限を持った立場の閣僚なのだ。権限が及ばないはずはない。
 朝日新聞(2月1日)には、甘利大臣にカネを渡した一色氏という人物への取材記事が載っている。この証言が事実なら、甘利氏側はかなり黒に近い灰色だ。タイトルだけ拾っておこう。

 現金授受問題 建設会社担当者が証言
 甘利氏会見と食い違い
 「甘利氏、ポケットに」大臣室50万
 「秘書に昨年15万円53回」
 交渉を記録「万一に備えて」

 これほどの詳細な証言がありながら、あの“泣き落とし会見”で一件落着というのであれば、この国の政治も、そして司法も、もはや“死に体”と言われても仕方あるまい。
 そのあたりはこれから議論になるだろうが、このままで幕引きされてしまったら、この国の崩壊はもはや時間の問題だろう。
 
 甘利氏は記者会見で「小選挙区では、いい人とだけつきあっていては選挙に落ちる」とも言っていた。問題の根っこは「小選挙区制」という現行の選挙制度にある、という方向へ議論を逸らしたいのだろう。むろん、なんとかごまかしたいという甘利氏の詭弁だ。
 だが、このことは一面の真実を突いているともいえる。確かに、小選挙区制がもたらした弊害は、現在、ほぼ限界に達していると言っていい。ぼくは、何度もこのコラムや他の原稿で「選挙制度の改革」を主張してきた。
 
 1994年に成立した政治改革4法で小選挙区制が導入された。それは「政治腐敗を防ぎ、政権交代を可能にする」という目的だった。
 ロッキード事件に始まり、リクルート事件、佐川急便事件と、政治家と企業をめぐる巨大な疑惑事件が相次ぎ、賄賂や口利きなどの汚職が横行し、当時の国民の間に猛烈な政治不信の声が湧き上がった。自民党のほとんど一党支配だった戦後政治体制の歪みも指摘された。
 そこでようやく「政治腐敗防止と政権交代可能」のための政治改革4法が成立したのが1994年。それに伴い「政党交付金」が導入されたのもこのときである。
 現在、政党交付金は、一定の基準を満たした政党に公布される(注・共産党だけは受け取っていない)。その金額はなんと、毎年300億円を超える。これはむろん、我々の税金である。
 つまり、それだけのカネを国民の税金から受け取りながら、なおかつ企業からガッポリ(!)と政治献金をもらっているのが、今回の甘利大臣辞任騒動の背景なのだ。企業献金をなくして、公明正大なカネで政治を行おうという趣旨で生まれたはずの「政党交付金」は、いまやただの“おいしい貰いガネ”に堕している。
 どうしても現行の選挙制度を続けようというのなら、まず「企業からの政治献金」を全廃するのが先決だろう。完全に政党交付金のみで政治活動費を賄う。もしどうしても足りなければ、きちんと全議員の費用明細を公開して、その上で「交付金の増額」を国会で諮ればいい。
 逆にどうしても「企業政治献金」を貰いたければ「政党交付金」は受け取らない、というのが筋だろう。
 その程度のこともできず、政治献金(賄賂?)を平気で受け取るから今回のようなことが起こる。
 もう一度「企業献金と政党交付金の関係」を洗い直す必要がある。
 政党交付金は「企業献金を一切受け取らない」と宣言した政党にのみ支給する、という制度に改める。そうでなければ、財界(大企業)と癒着した政党だけが豊富な資金を手にすることができ、個人献金のみに頼る弱小政党とは圧倒的な差が生じることになる。
 そのくらいのドラスティックな改革を行わなければ、同じような政治資金絡みの事件はなくならないだろう。
 政治改革と選挙制度改革、そして政治資金の問題は、相互に絡み合っていて、とても一筋縄ではいかない。
 今回は、この論議はここまでにする。
 もう一度、仕切り直しをして、じっくりと論を練ってみたい。
 
 さて、これ以外にもどうしても触れておかなければならない大問題がある。原発再稼働だ! 高浜原発3号機が1月30日、ついに臨界に達した。川内原発1、2号機に続いて3基目の再稼働である。
 問題は、イヤになるほど指摘されている。
 高浜町は、福井県の13基の原発の中で、もっとも西側に位置する。高浜原発の30キロ圏内には3府県約18万人が暮らしている。だが、その多くは京都府と滋賀県の住民だ。つまり30キロ圏内には、再稼働に合意した福井県と高浜町以外の住民のほうが多いのだ。しかも、もし重大事故が起きた場合の避難計画ができているのは、当初の予定の4府県56市町村(福井、兵庫、京都、徳島)のうち、たった7市だけというありさま。
 さらに、50キロの距離には関西圏の水がめである琵琶湖が位置する。もし琵琶湖が汚染されたら、関西圏は壊滅も予想される。水がなければ住めないからだ。
 原発については、書かなければならないことは、もっとたくさんある。だが、あまりに長くなってしまう。今回はここまでにしよう。
 次回のコラムで、もう少し詳しく「原発再稼働」について取り上げたいと思う。

 

  

※コメントは承認制です。
62「涙の会見」で一件落着か!?」 に2件のコメント

  1. countcrayon より:

    「URは国土交通省の所管だから」は、あっせん利得罪よりも刑が重い「受託収賄罪」についての論点です(意図的にか混同してTVで喋っている専門家はいると聞きます)。仮に国交大臣がURに指示した場合は受託収賄罪も視野に入るのでしょう。
    あっせん利得処罰法は「国会議員(と議員秘書)」が対象で「閣僚」は対象でないので(民間人大臣は対象外の由)、「経済財政政策担当大臣だから権限が」というよりは「与党の有力な国会議員としての影響力」を仄めかしたかどうかが条件と理解しています。もちろん実際に金もらって引き換えに働きかけたか働きかけると約束した前提ですが。

    余談ですが、鈴木さんのいわゆる「一件落着」で既に片付けられつつあった2日時点の朝日新聞での早野透氏の記事のタイトル「甘利氏問題、風雲急を告げる」の周回遅れ感、今後は安倍氏の「目論見通りにはいきそうもない」という楽観的な内容にかなり絶望しています。などと書いて私の短慮を近い将来早野氏に詫びる事態になることを心から願っていますが。

  2. とろ より:

    >普通の感覚だったら「適正に処理するように」ではなく「こういうわけの分からないカネは、すぐに返しておくように」と秘書に指示するのが政治家としては当然だと思うのだが…。

    だから会見で言っていたじゃないですか。来るものは拒まずでいないと選挙通らないって。
    いい人や悪い人もよってくるんですから、多かれ少なかれこういった事例は他にもあるでしょう。
    脇が甘いのは間違いないでしょうから辞任はいたしかたないとしても、
    贈賄側がうさんくさいですからね。その分で相殺されたんじゃないですか。

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「風塵だより」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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