風塵だより

庶民の味方というイメージ

 童顔で、時折かわいらしい笑顔を見せる。夫と仲良さそうに手をつなぎ、どこへでも出かける。突拍子もないことをすることもあるけれど、なんとなく憎めない。
 「いろんな人とお話ししたい」といって居酒屋を開く。反原発の飯田哲也さんに教えを請う。沖縄・高江の米軍ヘリパッド建設反対運動の現場を、ミュージシャンの三宅洋平さんに頼んで案内してもらう…。
 選挙区の地元にいて、夫の不在中は後援者たちの間を回って支持をお願いし、地域の祭りや催しにもこまめに顔を出す。決して出しゃばらず、夫を陰で支え続ける。そんな旧来の保守政治家の妻というイメージからはほど遠い、明るくて活発で、自分なりの意見をしっかりと持ち、なんにでも興味を持つ、溌溂とした新しいタイプの政治家の妻という印象。それが安倍昭恵さんである。
 この“庶民的”なイメージが、一般にかなり浸透していることは間違いない。それも、高止まりしていると言われる安倍内閣の支持率に、いい影響を与えているのだろう。最高権力者の夫にも、臆することなくずけずけとモノを言う“庶民の味方”というイメージ。
 しかし、どうもそのイメージは疑わしい。
 安倍昭恵さんは森永製菓社長の娘で、聖心女子専門学校卒のお嬢様。まあ、庶民の出、とはちょっとばかり育ちが違う。卒業後、いま問題の「電通」に勤務したが、1987年に安倍晋三氏と結婚。その後、2011年、社会人を受け入れる立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科を修士修了するなど、確かに旧来の「政治家の妻」像とはかけ離れている。
 お嬢様育ちの奔放さは持ち合わせているのかもしれない。前述したように、自民党の原発政策には疑問を持ったというし、沖縄問題にも関心を寄せたらしい。他にもTPPや消費増税などについても、夫の晋三氏とは違う意見で議論を交わしたこともあるという。
 それらのことをもって、自ら「家庭内野党」と称し、言いたいことを言い合える良き夫婦像を演じてきた。だが、実像がほんとうにそうだったのか。どうもそこがウサン臭いのだ。

化けの皮が剥がれた…?

 化けの皮が剝がれたのではないかと思う。例の「瑞穂の國記念小學院」(旧字体を使うところに意味があるらしい)の件がそれを示している。
 昭恵さんは、この学校の「名誉校長」に就任している。そのホームページには「ごあいさつ」として、昭恵さんの次のような言葉が掲載されている。

 籠池先生の教育に対する熱き想いに感銘を受け、このたび名誉校長に就任させていただきました。
 瑞穂の國記念小學院は、優れた道徳教育を基として、日本人としての誇りを持つ、芯の通った子どもを育てます。
 そこで備わった「やる気」や「達成感」、「プライド」や「勇気」が、子ども達の未来で大きく花開き、其々が日本のリーダーとして国際社会で活躍してくれることを期待しております。

 籠池先生とは、学校を経営する「森友学園」の籠池泰典理事長のことで、昭恵さんの文章は、この学校の教育理念への、まさに手放しの礼賛である。では、その教育理念とはどんなものか。それこそが、いま問題化している右翼教育なのだ。
 例えば、この森友学園が経営する「塚本幼稚園」では、園児に軍歌を歌わせ、教育勅語を暗唱させている。その映像は、ツイッター等でたくさん流出しているので、誰にでも確認することができるが、まるで軍国教育である。
 さらに、この幼稚園が保護者あてに配布した文書が「ヘイトそのもの」だとして問題になっている。なにしろ、文書の中に「よこしまな考えを持った在日韓国人や支那人」といった表記が出てくるのだから驚く。
 「ヘイトスピーチ規制法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)」が昨年の国会で成立している。その法律の趣旨は、要約すれば次のようなものだ。

 「ヘイトスピーチ規制法」とは、日本以外の国や地域の出身者への不当な差別的言動を解消するための基本理念を定めた法律。日本以外の国や地域の出身者とは、以下のふたつに該当するもの。
 ◎日本国外にある国、もしくは地域の出身者、またはその子孫
 ◎日本の国に適法に居住しているもの
 これらの定義に当てはまる人に対しての「差別的言動」とは、
 差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加える旨を告知するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身者であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動すること。
 などと定義されている。

 この法律の趣旨に照らせば、なんら証拠もなく「よこしまな考えを持った在日韓国人や支那人」などと言及して「本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動」する文章は、典型的なヘイトスピーチというしかない。それを公に配布するのだから、この学園の教育方針そのものに疑問符が付くのは当然だろう。さすがにこの文書は大阪府の私学課も問題視し、塚本幼稚園側に事情を訊いているという。
 その学園の理事長が籠池氏なのだが、前掲のように、安倍昭恵さんはその籠池氏の「教育に対する熱き思いに感銘を受け」たと、はっきりと書いているのだ。つまり、ヘイトスピーチまがいの文書を配布した学園の教育理念に、昭恵さんはもろ手を挙げて賛同しているわけだ。
 それは、昭恵さん自身が「ヘイトスピーチに加担」したことと同じではないか。
 昭恵さんは「家庭内野党」を標榜する。だが、それは世を欺く仮の姿、本音としては、晋三氏にベッタリの極右思想の持主でしかないのだろう。
 なんのかんのと少しは抵抗するそぶりを見せながら、結局最後には、安倍自民党の言いなりになってしまう公明党の役割と同じではないか。「家庭内野党」ではなく「家庭内公明党」と名を変えたほうがいいと思う。

公教育の否定…

 さらに昭恵さんには、驚くべき発言がある。
 テレビ東京「ゆうがたサテライト」(2月17日)が報じたのだが、昭恵さんはこの学校の保護者会において、名誉校長就任の挨拶として、次のように話している。

 普通の公立学校の教育を受けると、せっかくここで芯ができたものが(公立)学校へ入ったとたんに揺らいでしまう。日本の国を誇りに思えるような子どもたちがたくさん育ってほしい…。

 現首相の夫人が、ほとんど公教育を否定するかのような発言をしているのだ。一般の公立小学校へ入学すれば、せっかくの塚本幼稚園での“教育”が揺らいでしまう、という。よく考えると、これはそうとうに恐ろしい(というより、危険な)発言だと思う。
 この小学校は当初「安倍晋三記念小学校」と命名する予定だったという。そんな学校に、まるで現在の日本の公教育を否定するような“名誉校長”が誕生したのだ。夫・晋三氏の名を冠する予定だった小学校の名誉校長に、その妻が就任する。そして妻は、ヘイトスピーチ的な言動をする理事長の教育理念とやらを最大限の言葉で褒めたたえる。
 不穏を通り越して、危険だ。

結局は、同じ穴のムジナ夫婦

 この小学校の土地払い下げに関しては、すでに多くの疑惑が吹き出ている。これからどんどん疑惑の芽は膨らむに違いない。さすがにマスメディアも、恐る恐るではあるが、動き出している。なにしろ、時価9億円相当の土地に、現在まで森友学園が支払った額はたった200万円だというのだから、どう考えたって怪しい。
 安倍首相は「払い下げに関して、もし私や妻や事務所が関わっていたことが分かったら、私はすぐに総理も議員も辞職する」と、国会審議の場で大見得を切った。もしかしたら、言ってしまってから「まずいことを言ったな」と後悔しているかもしれないな、これは。
 この学校の設立資金を集めるのに「安倍晋三記念小学校」という名の「振込用紙」が使われていたことが判明している。関係ないはずがない。それでも首相は「私はこれまで知らなかった」とシラを切る。さらに「その振込用紙が本物かどうか、調べようがないじゃありませんか」とまで言いつのる。
 なんで調べようがないのか。調べる気になったら、籠池氏に1本電話すれば分かることじゃないのか。分かってしまったらヤバイことでもあるのかと、疑わざるを得ない。
 その上、この学校の設置許可にも疑念が持たれている。
 日本国の最高権力者の妻が名誉校長を務めるのだ。設置申請を受けた文科省や大阪府が、何らかの手心を加えたとしてもおかしくはない。いや、手心を加えないほうがおかしいというべきか。

 マスメディアも、安倍昭恵さんを持ち上げるのは、もう止めたほうがいい。
 この夫婦、結局は同じ穴のムジナだったということがバレてしまったのだから。

 

  

※コメントは承認制です。
108「安倍昭恵さん」という虚像」 に1件のコメント

  1. 鳴井 勝敏 より:

    >マスメディアも、安倍昭恵さんを持ち上げるのは、もう止めたほうがいい。
    私もかなり前からそう思っていた。なぜそう思ったか。
    「日本聴力障害新聞」(全日本ろうあ連盟発行)にあった。報道によれば、同連盟主催の大会に安倍夫人が来賓として登壇、挨拶をした。一言で言えば「声を挙げて下さい」であった。
    私は、安倍夫人が障害者問題で声を挙げたことを一度も聞いたことがなかった。 表情も軽いが、言葉の言い加減さに驚いたのだ。更に問題なのは、来賓として招待した主催者側が手放しで喜んでいる姿だ。恩恵的歴史からの脱却はほど遠いと感じた。

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「風塵だより」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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