風塵だより

 今日(11日)は、とても冷たい雨。
 『雨の日のネコはとことん眠い』……確か、こんなタイトルの本があったな。そういえば、我が家の半野良猫のドットとナゴも、猫小屋の中で寄り添って眠りこけている。
 桜は散って、道にピンクの模様。まるで草間彌生さんの絵のよう…。
 世の中が、世界が、壊れかけているというのに、ぼくも、なんだか眠い。いや、かなりウツなのだ。

 どうすればいいのだろう。
 それが分からない。

 シリアに空爆を仕掛けたトランプ米大統領が、今度は朝鮮半島に牙を剥きそうだ。2隻の原子力空母を朝鮮半島沖へ配備、日本海近辺には急速に緊張感が高まっている。
 「アンタがやらないのなら、オレが単独で北のボウズを処分しちまうぞ」とトランプ氏が中国の習近平国家主席にプレッシャー。習近平氏も、本音ではかなり腸が煮えくり返っているだろうと思う。
 北朝鮮のあの人もトランプ氏も、なんだか似ている。だけど、いちばん大きな違いは、持っている力の大きさ。ケンカしたって、所詮、勝負になんかなりゃしない。どちらが叩き潰されるか、誰にだって分かる。
 それでも吠え立てる仔犬。キャンキャンとうるさいからって、殺してしまおうというのか。

 アメリカが北朝鮮を叩くとすれば、それはもう日本や韓国が直接、戦禍に巻き込まれることにつながる。
 北朝鮮のミサイル技術の水準がどの程度のものかはよく分からないが、少なくとも、沖縄などの米軍基地が標的とされることくらいは考えておかなければならないはず。だが、安倍首相は相変わらずのアメリカご奉公。日本が戦火に晒される、という心配などしないのか?
 9日夜にはトランプ氏と電話会談。そこで「化学兵器の拡散と使用抑止のために責任を果たそうとする米国の決意を支持する」「同盟国や世界の平和と安全のために、米国が強く関与していることを、高く評価する」などと述べたという。
 支持したり評価したり。
 だけど、化学兵器に関して、かつて安倍内閣がこんな答弁書を出していたことを忘れてはならない。2016年4月26日、共同通信が配信した「政府、化学や生物兵器否定せず」という記事に、次のようにあった。

  政府は(注・2016年4月)26日の閣議で、毒ガスを含む化学兵器や生物兵器の一切の使用を憲法9条が禁止するものではないとする答弁書を決定した。日本は生物兵器禁止条約や化学兵器禁止条約を締結しているとして「それらを使用することはあり得ない」とも強調した。
 これまでに政府は9条が一切の核兵器保有と使用を禁じるものではないとの内容を決定。その論理を引用する形で「先の答弁書で答えたところと同様だ」とした。白真勲参院議員(民進党)の質問主意書に答えた。

 確かに「日本は化学兵器や生物兵器は使用しない」としているが、同時に「憲法はその使用を禁じていない」とも言っている。どうにも引っかかる答弁書である。もし、シリアが化学兵器をほんとうに使用していたとしても、「日本は使用しないけれど、憲法上はその使用は禁じていない」って? それじゃ、安倍氏がトランプ氏に言ったことが怪しげだ。
 また、自民党の右派連中はそれでも物足りないらしく、「敵基地攻撃論」を唱えて「やられる前にやっちまえ」だと。
 なんだかもう、世界中が壊れかけている。声のでかいヤツラだけがのさばっている。

 7日には「教育勅語を学校で教えても問題ない」と、教育勅語の真の意味も知らずに義家弘介文科副大臣とやらがアッケラカン。
 さらに、あの稲田朋美防衛相が、またも11日の記者会見で、教育勅語について「私自身としては、親孝行とか夫婦仲良くとか、友だちとの信頼関係とか、現代でも通用するような価値観というものはあると申し上げている」と懲りずに強調(11日、NHKニュース)。
 稲田氏も、教育勅語が結局は「皇室国家へ命を捧げることを強制する」ものであることに、知ってか知らずか、その点には触れない。
 国家が国民に強制する最悪の事態が「戦争」であることは間違いない。もしそうではないという人がいるなら、その人とぼくは、不倶戴天(ともに天を戴かない)。
 皇室国家を守るための戦争への無条件の強制こそが、教育勅語の真の目的であることを、彼らが知った上で言うのであれば“戦争屋”だし、知らずに言及しているのなら無知というしかない。

 アッキーさんに関する疑惑は、もう掃いて捨てるほど、出てくるわ出てくるわ。「アキエリークス」なんて謎のブログまで登場するありさまで、そこにはすごい量の「アキエ資料」が掲載されている。それを見ると「昭恵さんが私人で国有地払い下げに何の関係もない」などと言えないことがよく分かる。
 しかし、さすがにテレビのワイドショーも食傷気味で、話題を「浅田真央、突然の引退!」に移して大騒ぎ。
 だが、このアッキー騒動こそが「極右化する政権」と表裏一体の関係にあることを忘れてはならない。昭恵さんが、なぜあんなにも「教育勅語を暗唱する園児たち」に感激し、涙まで流したのか。そのことが、夫である安倍晋三氏とどうかかわるのか。
 実はこれが、日本という国の極右化する政治思想に強く影響する問題なのだ。

 もう一度、ここで確認しておこう。
 安倍晋三首相が、2月17日の国会審議の場で言ったことだ。

 私や妻が、この認可あるいは国有地払い下げに、もちろん事務所も含めて、一切かかわっていないということは、明確にさせていただきたいと思います。もし、かかわっていたんであればですね、これはもう、私は総理大臣を辞めるということでありますから、これははっきりと申し上げたいと、このように思うわけであります。

 安倍昭恵さん、思いっきりかかわっているじゃないか!

 

  

※コメントは承認制です。
114壊れかけている世界の片隅で…」 に1件のコメント

  1. なると より:

    質問主意書に関して。
     
    ネット上で質問主意書も答弁書も参照できるので、リンクを貼ります。
     
    http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/190/meisai/m190101.htm
     
    事実上、これは下記の核兵器に関する質問主意書の続きです。
     
    http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/190/meisai/m190097.htm
     
    さて、上記質問主意書の通り、ここでの焦点は「日本国憲法になんと書いてある(と現政権が解釈している)か」です。
     
    日本国憲法には御存知の通り兵器の種類について触れられている箇所はありませんので、「兵器を保有・使用できるなら核兵器も生物兵器も化学兵器も保有・使用できる」「一切の兵器を保有・使用できないなら、核兵器も生物兵器も化学兵器も保有・使用できない」のいずれかの解釈しかできないでしょう。
     
    政府は昔から自衛のため最低限のものであれば実力を保有・使用できるとしていますので、「憲法上は自衛のための必要最小限度の範囲にとどまるものであるなら、核兵器も生物兵器も化学兵器も保有・使用できる」という答弁になるのは、驚くに値しない話では。
     

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「風塵だより」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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