伊勢崎賢治の平和構築ゼミ

戦争とは? 紛争とは? 国際貢献とは? そして平和とは・・・?
世界各地で「武装解除」などの紛争処理に関わり、現場を誰よりも知る
伊勢崎賢治さんのわかりやすくてオモシロイ「平和学講座」です。

伊勢崎賢治 いせざき・けんじ●1957年東京生まれ。大学卒業後、インド留学中にスラム住民の居住権獲得運動に携わる。国際NGOスタッフとしてアフリカ各地で活動後、東ティモール、シェラレオネ、アフガニスタンで紛争処理を指揮。現在、東京外国語大学教授。紛争予防・平和構築講座を担当。著書に『東チモール県知事日記』(藤原書店)『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)などがある。
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オバマ政権誕生で、アフガニスタンの復興支援はどうなる?日本が今こそすべきことは?

編集部 オバマ氏が次期大統領となりましたが、氏が外交演説などで主張してきたイラク・アフガニスタン・パキスタン政策について、伊勢崎さんはどう考えますか? イラクから撤退させた米軍をアフガニスタンに転用する、といってますが、そうなんでしょうか?

(*)ワシントンで外交演説したオバマ氏は、「イラクは完璧に平和な場所にはならないし、米国にはそうする力もない」と指摘。大統領就任後、16か月で米軍戦闘部隊を撤退させる計画を改めて示した上で、「(国際テロ組織)アルカイダと(アフガンの旧支配勢力)タリバンとの戦いを最優先課題にすえる」と言明し、アフガンと、パキスタン国境地帯での戦闘に兵力を集中する意向を表明した。

伊勢崎 イラク現地では、政治的にも国軍の構成においてもパワーシェアリングが進んでいる状況。そのパワーシェアリングは、好転に向かいつつあるときいているが、これが裏目にでるか、どこまで進んでいくのかは、不透明です。ただ、現地の多国籍軍への国連安保理のマンデート(承認)が今年いっぱいで切れるので、米はイラク政府と新しい地位協定を結ぶ必要があり、その時、16ヶ月で米軍は撤退するということ盛り込むことになるでしょう。段階的な撤退とは思いますが、その16ヶ月という期間が長いのか、短いのかは、果たしてわかりません。

 イラクに駐留している米軍をそのままアフガンに転用するとは、わかりやすく言ったまでで、戦略的には考えにくい。通常、多国籍軍は6カ月ごとのローテーションが限界とされていますが、米軍の場合はかなり無理をしていて、中には一年以上駐留している部隊もいる。だから、母国に一旦返さずに、そのままアフガンに送るなんて考えられないですね。

編集部 アメリカは アフガニスタン軍事政策において、日本にはこれまで以上の「国際貢献」を求めてくるとも言われていますが、どうなんでしょうか? 今年の6月に日本政府はアフガン周辺国に調査団を派遣し、結局は新法成立ができずにアフガン本土への自衛隊派遣は見送られましたが、またそのような状況がくるのではと、懸念されますが。

伊勢崎 今のアメリカはお金が欲しいですから、まず資金面からの要求
をしてくるでしょう。何のためのお金かというと、アフガニスタンに、現在は7万人の国軍がいますが、それを約2倍の10万人以上の国軍にしようと考えています。アフガニスタンの現在の国軍というのは、かつて我々日本が軍閥らを武装解除して、その武器を国軍に与えたという作業を行ったので、まさに日本がその国軍の土台を作ったといえるわけですが。当初の兵力達成目標は7万人。7万人でもアフガニスタンの国力からしたら多すぎるぐらいに思われますが、米国はこれを2倍にするというのです。

編集部 それを裏付けるようなニュースがごく最近ありましたね。【アフガニスタンに戦闘部隊を派遣していない北大西洋条約機構(NATO)加盟国や日本に対し、米国がアフガン軍の増強目的に約170億ドル(約1兆7300億円)の拠出を求めていることが分かった。モレル国防総省報道官がロイター通信に明らかにした。】と。

伊勢崎 アメリカが国軍を増強しようとしているのは、これが出口政策だからなのですが、今NATO軍の結束が弱まりつつあります。駐アフガニスタン英軍司令官などが、「タリバンとの交渉の可能性を探るべきだ」と発言するなど、まずイギリスがゆらいでいます。私も昨年、アメリカ抜きのNATO諸国の会議に呼ばれましたがそう感じました。

 だから米国が日本に「国際貢献を」というのも、結束が弱まっているNATOへの当てつけでもある。非NATOの日本でも、こんなにアメリカに協力してくれているのだから・・・というところを見せたいがために、巨額の資金提供の要求だけでなく、場合によっては、自衛隊のアフガニスタン本土への派遣を要求してくるだろうと思われます。

編集部 何のためにそんなに早急にアフガニスタンの国軍を増やす必要
があるのでしょうか?

伊勢崎 どの兵力拠出国にとっても海外駐留はそれぞれの内政を揺るがしかねない出費を伴います。つまり、できるだけ早く戦局にけりをつけて出たい。そのけりとはつまり、地元政府の国軍が多国籍軍の任務を引き継げる状況をつくることです。

 しかし急激に国軍の数を増やすと問題があります。ブッシュ政権は、2004年の米の中間選挙の時に失敗をしています。この年、ブッシュ政権は自らの選挙を有利に展開するために、アフガン政策での成功を有権者に印象付けたかった。それは、アフガンで民主選挙を実現することです。選挙をやるためには、治安の回復が必要ですから。

 そのためには警察、特に地方警察を増強する必要があった。それで、数か月で5万人という警察部隊を急ごしらえしたのです。ところが、この部隊というのが、僕が武装解除し損ねた、元の軍閥たちの子飼いの部隊なのです。それらが、制服を着て警察の格好をしているが、元軍閥(今では民主選挙によって政治家になっている)の息が依然強くかかっていて、麻薬ビジネスをはじめとする不法行為の温床になっている。これは、タリバンと共に、NATO軍を悩ましているのです。

 今、米が推し進めようとしている国軍増強は急ぎ過ぎると、この警察の場合と同じ過ちを繰り返すことになります。

編集部 ここで今私たちが、考えておいた方がいいことはどんなことでしょうか?

伊勢崎 日本が考えておくことは、とにかくアメリカにはふりまわされないこと。アメリカは、他の国をふりまわす国ですから。

 オバマ氏の選挙キャンペーン中の発言は、対ブッシュという面を際だたせるために言ったこともあり、公約どおりに物事が行くとは、あまり考えない方がいいでしょう。米国も今、「和解」という言葉を口にし始めていますが、その一方で攻撃の手はゆるめておらず、この間もアルカイダを狙ったといいつつ誤爆をして、40人ほどの市民を殺しました。

 また10月末には、パキスタンへの越境攻撃にも出るなど、武力による軍事作戦はむしろ強化されています。

 軍事行動において、他のNATO諸国から「和解」ということばが出始めたことは、NATO内の不協和音であり、それはいわゆる敵を舌なめずりさせるようなことであり、敵はより強硬な態度に出ることが予想されます。一度はじめた戦争は、そんなに簡単に終結することはできないのです。アメリカの軍事戦略は、泥沼に入っていて、出口が見えず、それはオバマが大統領になったからといって、そう簡単に変わるものではない、と思います。

 だからこそ、ここで日本が考えなくてはならないことは、アメリカから何か言われたからやるのではなく、アフガンにとって何をするべきか、日本の国益にかなうことは何かを、しっかり考えて行動することなのです。

 余談ですが、今、イラクでおもしろい動きがあります。上述のように、来年から米はイラク政府と地位協定を締結しなければなりません。米は、その地位協定の内容を草稿し、イラク政府と交渉中ですが、イラクの国民は、その内容に強く反発しており、連日激しい民衆の抗議行動が報道されています。しかしその草稿の中身を見ると、米兵による「業務外」の犯罪に対してはイラクに司法権を認めており、これは、お気付きのように我々の日米地位協定よりも、ずっと”まし”なのです。米軍の駐留という点では、イラクと日本は同じ境遇なのですが、この違いを皆さんはどう考えます?

 

  

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伊勢崎賢治

いせざき けんじ: 1957年東京生まれ。大学卒業後、インド留学中にスラム住民の居住権獲得運動に携わる。国際NGOスタッフとしてアフリカ各地で活動後、東ティモール、シェラレオネ、 アフガニスタンで紛争処理を指揮。現在、東京外国語大学教授。紛争予防・平和構築講座を担当。著書に『東チモール県知事日記』(藤原書店)、『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)など。近著に『伊勢崎賢治の平和構築ゼミ』(大月書店)がある。

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