伊藤真のけんぽう手習い塾

 皆さん、ご自身の1票の価値を確認されましたか? さぞ、驚かれたことと思います。まだ、確認されていない人は http://www.ippyo.org/ で、今すぐチェックしてください。
 「清き1票」が実は真っ赤なうそだという現状が、いかに理不尽であるかが裁判官にもわかったようで、12月10日広島高裁、同月16日東京高裁、同日広島高裁 岡山支部と違憲状態判決が続きました。 もちろん、民主主義の実現は裁判官の判決によってなされるものではありませんが、1人1票の実現に向けての重要な1歩であることは確かです。今後もこの訴訟の判決を「自分の問題」として注目して下さい〔今週金曜日に仙台高裁で判決(24日、13:30)があります〕。

●参議院の独自性(特殊性)による
1票の格差は許されるのか?

 今回は11月17日の東京高裁の違憲判決翌日の新聞の記事について、少し触れたいと思います。違憲判決ということで、各紙1面で記事を掲載していましたが、いくつかの新聞で「参議院の独自性(特殊性)」ということが書かれていました。
 実は、1人1票を実現する訴訟は以前から行われており、最高裁の判決も昭和39年から存在します。そして、従来までの最高裁の判決から、衆議院選挙では3倍以上(選挙権の価値が0.33票)、参議院選挙では6倍以上(同、0.167票)の格差を生じると違憲であるといわれています。このように参議院の1票の格差が衆議院よりも緩和された基準を適用する理由に、この参議院の独自性があげられていました(ちなみに、最高裁は何倍以上なら違憲である、というような数値をあげてはいません。また、今回の違憲判決も投票価値の平等について、参議院は衆議院よりも後退して解釈できるとしています)。
 これは、憲法が国会を衆議院と参議院の二院で構成するとしており、解散総選挙のない参議院には衆議院とは異なる役割を持たせている(=独自性がある)という意味です。
 たしかに、参議院には任期中であっても国会議員の資格を喪失させる解散がなく、参議院議員は3年ごとの半数改選で任期6年と、衆議院議員の全数改選で任期4年(ただし解散あり)とは大きく異なります。また、衆議院には内閣総理大臣の指名、法律案・予算の議決、条約の承認など、参議院に対して優越した議決・権限事項がいくつかあります。
 以上のような違いから、憲法は参議院には衆議院とは異なる役割(例えば、時の民意の暴走を抑止する)を持たせているといえるでしょう。
 では、本当にこの「参議院の独自性」から、衆議院選挙より1票の格差を緩和して認めてよいのでしょうか? 過去の最高裁の判決では、この参議院の独自性から、都道府県を単位とする選挙区選出の参議院議員に事実上都道府県(地域)代表的な意義・機能をもたせるような選挙制度を採用したからといって、全国民の代表という国会議員の性格(憲法43条1項)と矛盾しないとして、1:5.26〔0.19票!〕という選挙結果を合憲としていました。
 たしかに、人や企業が都市部に集中している現在の日本においては、地方の声を国の政治に反映することは大切なことです。しかし、第74回のコラムにも書いたとおり、都市部の人の選挙権を0.2票にしなくても、地方の声を国の政治に反映することは十分に可能ですし、実際には人口密度最少の北海道の選挙権が鳥取県の1票に対して0.21票しかなく(東京都の0.23票より低い!)、鳥取県の隣でより過疎市町村数の多い島根県が0.82票と、地方の声を国の政治に反映することと現状の定数配分との間に何ら関連性はありません。
 また、都道府県という区割りは憲法の規定によるものではなく、憲法より下位の規範(ルール)である法律によるものです。したがって、都道府県を統廃合することも憲法の改正をすることなく可能なのです。
 いうまでもなく、憲法以外の法規範(法律、命令、条例、規則など)は憲法に反することはできず、反するものは裁判所の判断により無効とされます(違憲立法審査権・憲法81条)。
 とすれば、憲法が選挙権の価値について徹底的な平等を要請している以上(この点には争いがありません)、参議院に衆議院にはない役割があるとしても、それが憲法の明文規定で示されているものならともかく、憲法上の要請ではない都道府県という区割りにこだわることを「参議院の独自性」として、投票価値の不平等を認める理由にすることはできないのです。
 もっとも、このコラムを第1回から読んでくださった方の中には、このような格差の基準の議論に違和感を持たれた方もいることでしょう。
 なぜなら憲法が、日本は国民主権、民主主義の国家であって、衆参問わず国会議員を全国民の代表としている以上、1人1票は実現されていて当然であり、そもそもどの程度の格差なら許されるかという「程度問題」で議論されるべきものではないからです。
 つまり、選挙権の価値が平等でなければ議会制(代議制)民主主義が成り立たないのです。議会制民主主義においては、1人の代表者の背後に同数の主権者たる国民がいるからこそ議員の議会における1票が対等な価値を持つものとして扱われるのです。国民こそが主権者だからです。ここから議論をスタートしないといけません。

●定数削減、選挙制度改革と
1人1票の実現との関係

 次に、東京高裁の違憲判決を踏まえて、1人1票を実現するために定数削減を含めた選挙制度をいかにするのかということについての記事もありました。この○増□減というような定数削減についての記事は、1人1票に関する裁判がある度に新聞に掲載されますが、果たして1人1票の実現と定数削減の議論とはどのような関係にあるのでしょうか?
 ここで、勘違いしていただきたくないのは、1人1票を実現する運動は、あくまでも主権者である国民が文字通り「清き1票」を持てるようにとの運動であり、国会議員を削減するための運動ではありません。私は個人的には国会議員の数はむしろ増やしてもいいと思っていますが、それも1人1票とは無関係です。
 議員定数の増減とは別に、1人1票実現の要請があるのです。
 同様に、比例代表などの選挙制度についても特にこうしなければならないとの主張はしていません。たしかに、訴訟では1人1票を実現する選挙区割りは可能であるとの証拠を提出してはいますが(参議院で、1:0.99991が可能。この仮想選挙区割りについては、一人一票実現国民会議のHPでご覧になれます)、私たちは1人1票の実現が十分に可能ですよということを裁判所に示しただけであり、その通りの選挙区割りにしてくださいという主張はしていません。
 つまり、1人1票を実現することと、その上でいかなる選挙制度にすべきかは全くの別問題です。また、選挙制度改革について参議院議長のコメントなども掲載されていましたが、このような定数削減を伴う選挙制度改革は自らの利益に直結するため、当事者であり利害関係人である国会議員に早期の結論を求めるのは難しいでしょう(戦後60年以上の間、1人1票が実現できない理由のひとつがここにあります)。
 民主党は12月1日の参議院議員総会で抜本改革案を示しました。新聞などでご覧になられた方もいると思いますが、最大格差は1.19倍(つまり、0.84票)になるそうです。しかし、なぜ北海道の人が東北(青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島)の人の1票に対して0.84票と16%も低い価値の選挙権しか与えられないのか理解できませんし、合理的な理由も何ら示されていません。前述の通り、もっと1:1に近づけるはずです。
 だからこそ、主権者である我々が「自分事」の問題として、この問題を話題にしたり、ツイッターでつぶやいたり、0.6票君カードを配ったりしながら、1人1票を実現する活動をしていく必要があるのです。それにより多くの国民が理不尽に気づき、世論が作られ、常識としての1人1票であるべきだという声を無視する最高裁判事を国民審査で罷免して、最高裁が1人1票の判決を出すようになって、初めて国会が本気になって改正に動くようになるのです。国民1人1人の参政権(国民審査)によって1人1票を実現しなければなりません。

●主権者として、
今後の裁判の動向に注目して下さい!

 参議院選挙の1人1票実現訴訟の判決がこれからも続きます(今年は前述の通り24日の仙台高裁で判決があり、年明けも1月25日に仙台高裁 秋田支部、高松高裁、福岡高裁 那覇支部、1月26日に広島高裁、1月28日に大阪高裁、2月24日に札幌高裁、名古屋高裁、2月28日に名古屋高裁 金沢支部で判決があります)。判決自体は数分で終わる場合も多いですが、時間のある人は是非、傍聴に来て下さい。

「憲法は、選挙権の価値について徹底的な平等を要請しています。ここが担保されないと、議会制民主主義が成り立たないという、根本の議論からスタートさせないといけません」と塾長。シンプルなようでいて、難解なところもあるこの問題。「裁判傍聴」へ参加することで、理解と重要性が深まるかもしれません。

 

  

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伊藤真

伊藤真(いとう まこと): 伊藤塾塾長・法学館憲法研究所所長。1958年生まれ。81年東京大学在学中に司法試験合格。95年「伊藤真の司法試験塾」を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走している。著書に『高校生からわかる日本国憲法の論点』(トランスビュー)、『憲法の力』(集英社新書)、『なりたくない人のための裁判員入門』(幻冬舎新書)、『中高生のための憲法教室』(岩波ジュニア新書)など多数。近著に『憲法の知恵ブクロ』(新日本出版社)がある。

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